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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第72話 子爵家の会計係が黒幕!? 偽の許可証で荒稼ぎするな!

 西門の前に広げられた黒竜の翼は、朝日を受けて長い影を石畳に落としていた。もっとも、本物の竜が現れたわけではない。ガルドたちが組み立てた実物大の木枠を、神城皇牙が満足そうに眺めているだけである。


 異世界生活五十九日目。街道で偽の通行許可証を売っていた男が北の宿場で身柄を引き止められている一方、アストレアでは今日も工房が動き、商人たちが荷物を運んでいた。


「くぅーっ! やっぱ実物大は迫力が違うな! この翼が黒い石で出来上がったら、絶対格好いいぞ!」


 皇牙が興奮して声を上げると、隣にいたレオナルド・ダ・ヴィンチが楽しそうに笑った。足元ではガルドが木枠の継ぎ目を確かめ、エドガーが図面へ細かな数字を書き込んでいる。


「皇牙殿。形については、これでほぼ決まりだね。ただ、大きな翼を支えるためには、柱の内部にも工夫が必要になる。そこは職人たちともう少し検討したい」


「おう! 設計が決まったら、俺が《国家創造EX》で柱を造るからな。必要な試作品は遠慮なく作ってくれ!」


 皇牙が言うと、ガルドは嬉しそうに頷いた。建物を一瞬で造れる主君が、こうして職人の仕事を楽しそうに眺めてくれる。そのことが、彼らにとっても励みになっていた。


 皇牙は木枠の周囲を一周し、翼の先端まで見上げた。最初に城を造ったときは、自分の好みだけで豪華なものを作れば満足だった。しかし、今は違う。誰かが設計を考え、別の誰かが加工方法を試し、それが一つの建物になっていく過程そのものが面白い。


「よし! 格好よさはこのままで、丈夫で長持ちする門にしようぜ!」


「殿。見栄えだけでなく、使う方々のことも考えておられるのですね」


 巴が微笑むと、皇牙は少し照れくさくなって鼻を鳴らした。


「当たり前だろ。せっかく造るんだから、何十年も使ってほしいじゃねえか」


 そんな穏やかな時間を過ごしていた皇牙だったが、今日はまだ楽しみが残っていた。毎朝の無料ガチャである。


 工房から戻った皇牙は広間で《英霊召喚ガチャEX》を開いた。昨日までの人口は百八十九人。三回引けば百九十二人になる計算だが、本人の興味は人数よりも、どんな人物が現れるかに向いている。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:189人】

【SR以上排出率:5%】


「さあ来い! 今度こそ政治も外交も全部任せられる偉人を頼むぜ!」


「殿。すでに勘助殿やコルベール殿が、随分とお仕事を引き受けてくださっていますよ」


「だからこそ、もっと人が増えれば俺の自由時間も増えるんだよ!」


 巴にそう答えながら、皇牙は勢いよく三回の無料召喚を行った。


 一回目はN街路清掃補助のヨナス。二回目はN食料仕分け補助のベアトリス。そして最後には、R商隊案内補助のルーカスが現れた。


「おっ、商隊案内! これ、今の街にちょうどよくね?」


 ルーカスは商隊の移動を助け、休憩場所や道順を考える仕事が得意だという。街道での騒動が続いている今なら、商人たちの助けになってくれるだろう。


 皇牙は三人を歓迎し、生活の案内を担当する者たちへ引き継いだ。ルーカスについても、まずはアストレア周辺の道を覚えてから仕事に加わってもらうことにした。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:192人】

【SR以上排出率:5%】


「百九十二人! あと八人で二百人か。いい感じじゃねえか!」


 皇牙は上機嫌で画面を閉じた。高レアリティが出なくても、新しい仲間が増えるのは楽しい。いつか千人、万人と増えたとき、この街がどんな姿になるのか想像するだけでわくわくしてくる。


 しかし、その楽しい想像は長く続かなかった。


 広間の入口にクラリスが現れ、皇牙へ一通の知らせを差し出したのである。


「皇牙様。西門から連絡がございます。ヴァルデン子爵家の使者がお見えになりました」


「……えっ? もう来たのか?」


 皇牙は思わず目を丸くした。


 子爵家へ返書を届けてから数日。領有権の根拠を確かめたいという要求に対し、ようやく先方が動いたらしい。


「昨日の偽の許可証の件もあるし、ちょうどいいじゃねえか。勘助たちにも来てもらおうぜ」


 皇牙が立ち上がると、巴も静かに頷いた。


 会談は城館の応接室で行われた。訪れたのは、以前もアストレアへ来た家令補佐のオスカー・ベルナーだった。今日は従者を一人伴っていたが、武装した護衛を大勢引き連れているわけではない。皇牙が席に着くと、オスカーは丁寧に一礼した。


「神城殿。先日はお返事をいただき、ありがとうございました。本日は子爵家からの回答をお持ちしました」


「おう。わざわざご苦労さん。で、土地の話はどうなった?」


 皇牙が率直に尋ねると、隣のコルベールが小さく咳払いをした。皇牙は気にせず椅子へ座り直したが、巴の口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。


 オスカーは封書を取り出し、コルベールへ渡した。そこには、子爵家として領有権の主張を維持する一方、古い境界記録を確認したうえで協議したいという回答が記されていた。


 少なくとも、ただちにアストレアへ服従を命じる内容ではない。


「なるほど。じゃあ、向こうもちゃんと話し合うつもりはあるんだな?」


「はい。双方の認識に違いがある以上、記録を確かめる必要があると考えております」


 オスカーは落ち着いて答えた。


 コルベールは書状を確認し、勘助と短く言葉を交わした。領有権の主張は依然として残っているものの、境界記録を示して協議するという回答は、一歩前進と言ってよいだろう。


 皇牙もそれを聞いて安心した。面倒な貴族との戦争など、できれば避けたいに決まっている。


「じゃあ、その件はコルベールたちと相談してくれ。俺は詳しい境界の話なんか分かんねえし」


 皇牙がそう言うと、勘助は小さく頷いた。


「承知いたしました。ただ、その前にもう一件、確認させていただきたいことがございます」


 勘助が机の上へ置いたのは、偽の通行許可証の写しだった。


 オスカーの表情がわずかに変わる。三つの山と一本の線を組み合わせた印を見れば、子爵家に関係するものだと気づいたのだろう。


「……これは、どちらで?」


「西の街道と北の宿場で、商人たちへ売られていたものでござる。発行者は子爵家の代理を名乗っておりました」


 勘助は、通行料を取っていた四人組を拘束したこと、指示者のグレゴールを捕らえたこと、さらに北の宿場ではフェルナーという販売者から売上記録が見つかったことを、必要な範囲で説明した。


 オスカーは途中で口を挟まず、最後まで聞いていた。


「……そのような許可証について、私は承知しておりません。少なくとも、私が取り扱った正式な書状とは書式が異なります」


「じゃあ、勝手に子爵家の名前を使ってた奴がいるってことか?」


「その可能性はございます。ただし、私が知らないというだけで、すべてを断定することはできません」


 皇牙は頷いた。オスカーの答えは慎重だったが、無理にごまかそうとしているようには見えなかった。


 そこでコルベールが、もう一枚の記録を差し出した。


「では、こちらの人物についてお尋ねします。ベルクという方をご存じでしょうか。宿場で販売された許可証の売上金について、この名前が記されておりました」


 その瞬間、オスカーの表情が明らかに変わった。


「……ベルク、ですか?」


 彼は記録を受け取り、書かれている肩書を確かめた。


「確かに、当家にはベルクという名の会計係補佐がおります。若い者ですが、出納記録の整理や小口の支払い確認を担当している人物です」


 皇牙は思わず身を乗り出した。


「おっ! じゃあ、本当に子爵家の人間だったのか!」


「はい。少なくとも、同じ名前と役職の者は実在いたします」


 オスカーは慎重に答えた。ただ、ベルクが今回の許可証販売に関与していたのかについては、現時点で分からないという。


 勘助はさらに質問を続けた。


「ベルク殿には、街道の通行料を徴収する権限があるのでござるか?」


「いいえ。彼は会計部門の補助職です。街道の通行を管理する立場ではありません」


「では、許可証を発行する権限も?」


「私の知る限り、ございません」


 皇牙は腕を組んだ。


 ベルクという人物は、確かに子爵家で働いている。しかし、通行料を取る権限も、許可証を売る権限もないらしい。だとすれば、本人が勝手にやっていたのか、それとも誰かに命じられていたのか。


 まだそこまでは分からなかった。


 オスカーはしばらく考え込んでから、口を開いた。


「実は、ベルクはここ数日、私の目の届くところへ姿を見せておりません。担当者からは、外での支払い確認に出ていると聞いておりましたが……」


 コルベールの目が鋭くなった。


「その外出は、正式に命じられたものなのでしょうか?」


「戻り次第、確認する必要がございます。私からも担当の者へ問い合わせましょう」


 勘助は静かに頷いた。ベルクがいないことと、偽の許可証が売られていたこと。二つを結びつけるには、まだ証拠が足りない。ただ、調べるべき人物は明確になった。


「助かるぜ、オスカー。こっちも商人たちから集めた記録は残してある。必要なら写しを渡すから、ちゃんと調べてくれよ」


「承知しました。子爵家の名を不正に使った者がいるのであれば、こちらとしても看過できません」


 オスカーは深く頭を下げた。


 話し合いが終わると、皇牙はようやく肩の力を抜いた。土地の問題はまだ残っているが、少なくともベルクが実在することと、正式な通行管理の担当者ではないことが分かった。


 調査を進めるだけなら、これで十分な成果だろう。


「……よし! じゃあ、あとは勘助とコルベールに任せた! 俺は工房へ戻る!」


「殿。まだもう少しだけ、お話がございます」


 巴に呼び止められ、皇牙は振り返った。


「……何だよ、まだあんのか?」


「オスカー殿がお帰りになる前に、街のご案内をしてはいかがでしょう。遠くからお越しくださったのですから」


 皇牙は少し考えたあと、頷いた。


「おっ、それいいな! せっかくだし、新しく造った掲示板も見てもらおうぜ!」


 オスカーは驚いたようだったが、申し出を受け入れた。


 西門へ向かう途中、皇牙は住宅や工房、倉庫について簡単に説明した。建物の多くは《国家創造EX》によって造ったものだが、実際にそこで働き、街を動かしているのは住民たちである。


 オスカーは道を行き交う商人や、荷物を運ぶ人々を興味深そうに眺めていた。荒野の中に造られた街が、これほど賑わっているとは思っていなかったのだろう。


「……実際に拝見すると、想像以上の発展ですね」


「だろ? 俺もここまで賑やかになるとは思ってなかったけどな!」


 皇牙は得意げに笑った。


 西門では、昨日設置した掲示板の前に何人かの商人が集まっていた。そこには、アストレアへの通行に特別な許可証は必要ないことが、はっきりと書かれている。


 オスカーはその内容を読み、静かに頷いた。


「事情を知らずに許可証を購入した商人もいたのでしょう。適切な周知だと思います」


「おう。うちへ来るのに変な金を取られたら、商売する気もなくなるだろ?」


 皇牙は商人たちへ視線を向けた。


「せっかく街ができたんだから、安心して来てもらわねえとな」


 オスカーはしばらく何も言わず、賑わう門前を眺めていた。


 その日の夕方、子爵家の使者を見送ったあと、コルベールは会談の記録を整理していた。そこへバットゥータが、北の宿場から届いた新しい報告を持って現れる。


「フェルナーの帳簿について、もう少し詳しいことが分かりました」


 バットゥータは紙を広げ、銀貨の枚数が書かれた部分を指した。許可証の販売枚数と受領した金額は一致している。しかし、そのうち一部の銀貨だけは、ほかとは別の受け渡し先が指定されていたという。


 記録には、子爵家の城館ではなく、北の宿場からさらに先にある小さな倉庫の場所が書かれていた。


「……妙ですな」


 コルベールが呟いた。


「正式な会計業務なら、少なくとも受け渡しの理由を記録するはずです。ところが、ここには金額と場所しかございません」


 勘助も地図を覗き込み、しばらく考えた。


「ベルクという人物が、本当にこの金を受け取っていたのか。それとも、名を使われていただけなのか。次はそこを確かめねばなりませぬな」


 窓の外では、夕暮れの光がアストレアの城壁を赤く染めていた。


 一方、皇牙は何も知らず、工房で黒竜の翼を眺めながら、明日こそ昼寝を満喫しようと考えていた。


 だが、偽の許可証を巡る事件は、ようやく子爵家の内部へとつながる手掛かりを見せ始めていた。

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