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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第70話 偽の通行許可証!? 俺の街で勝手に商売すんな!

 神城皇牙が朝食の席で眺めていたのは、レオナルド・ダ・ヴィンチから渡された一枚の設計図だった。黒竜が翼を広げた巨大な柱。その足元には人が通れる門が描かれ、翼の内側には細かな補強材の配置まで書き込まれている。厨二心を刺激する見事な出来栄えに、皇牙は朝から顔が緩みっぱなしだった。


 西門の荷扱い場を整備して以来、商人たちの出入りは少しずつ増えている。せっかく立派な街になってきたのだから、入口にも見栄えのする飾りが欲しい。そんな皇牙の思いつきに、レオナルドとガルドたちは真面目に付き合ってくれていた。


「くぅーっ! やっぱ竜って最高だな! これが西門に立ったら、絶対格好いいぞ!」


「殿。朝食が冷めてしまいますよ」


 向かいに座る巴に指摘され、皇牙はようやく設計図から目を離した。皿には焼きたてのパンと肉料理が並んでいる。最近は厨房を手伝う人員も増え、食事の準備にも以前ほど時間がかからなくなった。


「分かってるって。でも、見てくれよ。この翼の形! 前よりずっと迫力あるだろ?」


 皇牙が設計図を差し出すと、巴は食事の手を止め、竜の姿をじっくりと眺めた。戦場では勇ましい女武者も、こうしたときには主君の趣味に付き合ってくれる。


「確かに立派ですね。ただ、これほど大きな翼ですと、風を受けた際に負担がかかりそうですが」


「そこはレオナルドが考えてくれてるんだよ! 今日は試作した部品を見せてもらう予定なんだ」


 皇牙は得意げに笑った。建物そのものなら《国家創造EX》で一瞬にして造れるが、今回の竜は職人たちが細部まで形を決め、加工の方法も試している。自分の能力だけで完成させるより、皆であれこれ考える時間が楽しかった。


 もっとも、その楽しみを邪魔するものが一つある。昨日捕らえた、黒い外套の男グレゴールの件だった。


 西の街道で武装した四人に商人を足止めさせ、アストレアへ向かう荷車の行き先まで調べさせていた男である。皇牙は昨日、北の古い製材小屋で本人を捕らえ、勘助たちに事情を調べてもらっていた。


「……そういや、勘助たちから報告があるんだっけ。ま、俺が出る幕なんてもうねえだろ」


「殿がお出になる必要がなければ、それが一番ですね」


「だろ? 俺の仕事はガチャと建築と昼寝なんだから!」


 巴が小さく笑う。皇牙も満足して食事を終えると、日課の無料ガチャを引くため広間へ向かった。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:183人】

【SR以上排出率:5%】


「さあ来い! 今日は俺の理想のスローライフを完成させてくれる大物を頼むぜ!」


 勢いよく引いた一回目は、N倉庫搬入補助のトビアス。二回目はN農具手入れ補助のネリー。そして最後に、R記録照合補助のユリアが召喚された。


 虹色の光が出なかったことに皇牙は一瞬肩を落としたが、ユリアの能力を聞くとすぐに機嫌を直した。別々の帳簿や記録を比較し、数字や記載内容の食い違いを見つけるのが得意だという。


「記録を見比べる仕事か。ちょうどクラリスたちも忙しそうだったし、いいじゃん!」


 三人を歓迎した皇牙は、担当者に住まいや仕事の説明を頼んだ。ユリアにはクラリスとセシリアのもとで記録の扱いを教わってもらうことにする。召喚されたばかりの人材を、いきなり重要な判断へ加えるつもりはなかった。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:186人】

【SR以上排出率:5%】


 百八十六人。まだ大国とは比べものにならない人数だが、最初の四人だけで暮らしていた頃を思えば、これでも随分と賑やかになった。


 皇牙が広間を出ようとしたところで、廊下の向こうからコルベールが現れた。手には薄い書類の束があり、その表情はいつもより少し厳しい。


「皇牙様。お楽しみのところ恐れ入りますが、お目にかけたいものがございます」


「……書類か?」


「はい。ただ、今回はご覧いただいた方が面白いかもしれません」


「面白い書類? そんなもん、この世に存在すんのかよ」


 半信半疑のまま会議室へ向かうと、山本勘助とイブン・バットゥータが待っていた。机の中央には、製材小屋で見つかった記録と、グレゴールから押収した指示書が並んでいる。


 勘助は皇牙が着席するのを待ち、記録の一か所を指した。


「殿。グレゴールが荷車につけさせていた特別な印について、用途が分かりました」


 斜めに交差する二本の線。グレゴールの配下が街道で確認していた、特定の荷車を通すための目印だ。


「おっ、やっとか。で、何だったんだ?」


「仲間の荷車を通すための合図でござる。ただし、積荷まで詳しく知らされていたわけではありませぬ。グレゴールは昨夜、印のついた荷車が今日アストレアへ向かう予定だと話しました」


「今日!? じゃあ、もう来てるかもしれねえじゃん!」


「その可能性がございます。西門には、すでに注意を伝えてあります」


 皇牙は勘助の顔を見た。軍師は慌てる様子もなく、地図へ指を置いている。門番には荷車を見つけても騒がず、通常の荷扱い場へ案内するよう指示していた。相手の行き先を確かめるためであり、危険があればすぐに対応できるよう、巴にも現場の配置を相談したいという。


「なるほどな。見つけた瞬間に捕まえちまったら、届け先が分かんねえか」


「左様でござる。もちろん、商人に危険が及ぶようなら調査より安全を優先いたします」


 皇牙は頷いた。こういうところが、勘助を呼び出せてよかったと思う理由だった。自分なら怪しい荷車を見つけた時点で、中身を全部調べたくなるに違いない。


 会議が終わると、皇牙は巴を連れて工房へ向かった。すでに勘助が準備を進めている以上、自分が横から口を出す必要はない。それより、約束していた黒竜の試作品を見せてもらう方が重要だった。


 工房では、レオナルドがガルドとエドガーを相手に小さな模型を動かしていた。黒竜の翼を支える骨組みを木で再現したもので、風を受けた際に力がどこへかかるのか確認できるという。


「皇牙殿、ちょうどよいところに来たね。昨日までの形だと翼の付け根へ負担が集中することが分かった。そこで支えの位置を変えてみたんだ」


 ガルドが模型の下へ手を入れ、ゆっくりと翼を押した。以前は根元が大きくしなった部分も、新しい形ではほとんど動かない。


「おおっ! これなら、あの馬鹿でかい翼も造れるってことか!」


「まだ大きな石で試す必要はあるけれど、方向はよさそうだよ」


 レオナルドの言葉に、皇牙は思わず拳を握った。ガルドたちの顔にも笑みが浮かぶ。小さな模型一つでも、自分の思いつきが形になるのを見るのは楽しい。


 そのとき、工房の入口にディランの部下が姿を現した。息を切らしてはいないが、声には緊張が滲んでいる。


「皇牙様。西門に、例の印をつけた荷車が到着しました。勘助様からお呼びです」


 皇牙は模型へ名残惜しそうな視線を向けたあと、ため息をついた。


「……絶対、誰か俺の予定を見て邪魔してるだろ」


「殿。お戻りになれば、また続きをご覧になれますよ」


「そうだな。よし、面倒なのはさっさと片づけようぜ!」


 西門の荷扱い場には、布をかけた木箱を積んだ荷車が一台停まっていた。御者は三十代ほどの男で、勘助から荷物の届け先について尋ねられている。門番たちは普段と同じように持ち場へ立っていたが、いつもより周囲へ注意を向けていた。


 皇牙が近づくと、勘助は声を落として説明した。


「荷台の後ろに、例の印がございました。御者は市場のマティアスという商人へ届けると申しておりますが、荷受けの約束を確認できておりませぬ」


「マティアスって、実在するのか?」


「はい。しかし本人に確かめたところ、今日届く荷物の心当たりはないそうです」


 そこへバットゥータが戻ってきた。市場でマティアスと話していたらしく、事情を聞くと困惑していたという。ただ、最近見知らぬ男から、子爵家の通行許可証を扱えば儲かるという話を持ちかけられたことはあったらしい。


「……通行許可証?」


 皇牙は顔をしかめた。ここ数日、街道の男たちが商人へ要求していたものと同じ名前だった。


 勘助は御者へ事情を説明し、積荷を確かめたいと伝えた。御者は少し迷ったものの、届け先で受け取りを断られたこともあり、立ち会いのうえで箱を開けることに同意した。


 一つ目と二つ目の箱には、確かに布が詰められていた。三つ目にも同じような布が重ねられていたが、その下から薄い木箱が現れた。ガルドなら簡単に作れそうな、何の変哲もない箱である。


 しかし、蓋を開けた瞬間、皇牙は思わず目を丸くした。


「……おい。何だよ、これ」


 中には、同じ書式で作られた紙が何十枚も並んでいた。上部には三つの山と一本の線を組み合わせた印が押され、本文には灰の荒野へ向かう商人の通行を認めると記されている。さらに、発行料として銀貨一枚を納めた者に限り有効だという文言まであった。


 皇牙は一枚を取り上げ、最初から最後まで読み直した。


「……はあ!? 俺の街へ来るのに、金を払って許可証を買えってことかよ!」


 皇牙の声に御者がびくりと肩を震わせた。巴はすぐに男の前へ立ち、落ち着いた声で説明する。


「あなたを責めているわけではありません。誰から頼まれた荷物なのか、分かる範囲で教えてください」


 御者は何度も頷きながら、黒い外套を着た男から運搬を依頼されたと話した。箱の中身は布製品だと聞かされ、届け先の名前も紙に書かれていたものを覚えただけだという。


「開けて確かめなかったのは、俺が悪かったかもしれません。ですが、こんなものが入っているなんて、本当に知らなかったんです」


「分かった。話してくれてありがとうな」


 皇牙は御者を安心させてから、勘助へ紙を渡した。


 印はヴァルデン子爵家の紋章によく似ている。しかし、それだけで本物とは言えない。皇牙の《万能鑑定EX》で紙や印の状態を確かめても、正式な権限を持つ者が発行したかどうかまで分かるわけではなかった。


 コルベールも呼ばれ、紙面を確認した。しばらく目を通したあと、その眉が険しくなる。


「発行者はヴァルデン子爵家の代理を名乗っていますが、代理人の氏名がありません。しかも、どの道を通る場合に必要なのか、範囲も曖昧です」


「じゃあ、偽物なのか?」


「少なくとも、正式な根拠を示せない許可証です。これを子爵家の正規の文書として認めるわけにはまいりません」


 勘助は御者が運んできた紙を一枚ずつ確認し、何枚かに商人の名前を書き込める空欄があることを見つけた。現場で名前を書き入れれば、その場で許可証として売れるように作られているらしい。


「なるほどな。最初は道で金を取って、次は紙を売りつけようってわけか」


「その可能性は高いでしょう。ただし、誰が売るつもりだったのかは、まだ確かめねばなりませぬ」


 バットゥータが静かに口を開いた。


「マティアス殿へ話を持ちかけた人物がいます。その者が仲介役だったのか、別の売り手を探していたのか、改めて調べる必要がありますね」


 皇牙は紙の束を見下ろした。たった一枚の許可証を売るために、商人を脅し、街道を塞ぎ、子爵家の名前まで利用していたとしたら、随分と悪質な商売だ。


 なにより、そんなものをアストレアの商人に売りつけようとしていたことが気に食わなかった。


「よし。勘助、これ以上変な許可証が出回らねえようにしてくれ。もし持ってる商人がいても、いきなり悪者扱いするなよ。騙されて買っただけかもしれねえし」


「承知いたしました。西門と市場へ知らせ、同じ書式の紙を見つけたら、まず事情を聞くようにいたしましょう」


「それと、街道の通行料もだ。誰が正式に徴収していいって決めたのか、証拠もねえんだろ?」


 コルベールが頷いた。


「はい。子爵家には、すでにその件の確認を求めております。先方の返答を待ちながら、こちらでも記録を集めます」


 そう言ったところで、コルベールの部下が一通の報告を持って駆け込んできた。子爵家へ返書を届けた使者からの知らせだった。昨日の夜、城館で書状を受け取ってもらい、受領者の名前と日時も記録できたという。


「おっ、ちゃんと届いたのか!」


 皇牙はほっと胸を撫で下ろした。これで三日以内に返事をするという約束は守れた。子爵家がどのような答えを返すのかは分からないが、少なくともこちらから交渉を壊したわけではない。


 コルベールは報告を確認すると、御者から聞いた依頼内容と押収した許可証について、別に記録を作るよう指示した。使者の返書到着と、今回の発見を混同しないためだった。


「……あー、もう! 何で俺の街へ来るだけで、こんな面倒な話になってんだよ!」


 皇牙は頭をかきながら、机の上の許可証を睨んだ。巴はその隣で、静かに主君の様子を見守っている。


「殿。ですが、これで商人の方々に何が起きていたのか、少しずつ分かってきましたね」


「そうだな。誰が悪さしてんのかは、まだ全部分かってねえけどさ」


 皇牙は大きく息を吐き、勘助たちへ顔を向けた。


「頼むぜ。もう二度と、うちへ来る商人が変な紙一枚で脅されないようにしてくれ。必要なら俺も手伝うからよ」


「お任せくだされ。まずは、この許可証を売りさばく役目だった者を探しましょう」


 勘助が頷いたところで、バットゥータが一枚の紙を手に取った。ほかのものと同じ書式に見えたが、その裏側だけに、薄く数字が書き込まれている。


「……これは?」


 皇牙が覗き込むと、数字の横には短い地名が記されていた。アストレアの市場でも、ヴァルデン子爵家の城館でもない。西の街道をさらに北へ進んだ先にある、小さな宿場の名前だった。


「へえ。そんなところにも運ぶ予定だったのか?」


「その可能性があります。しかし、ここだけ枚数が記されているのが気になります」


 バットゥータは紙を勘助へ渡した。


 勘助はしばらく考え込み、やがてゆっくりと顔を上げた。


「……殿。どうやら、この許可証はアストレアだけで売るつもりではなかったようですな」


 皇牙は天井を仰いだ。


「……勘弁してくれよ。俺の昼寝、いつになったらできんだ?」


 巴の小さな笑い声が響くなか、勘助とバットゥータはすでに宿場へつながる道を地図で確かめ始めていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も10話投稿します。

よろしくお願いいたします。

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