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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第65話 EX偉人の初仕事! 天才の発想と俺の建国スキルが噛み合いすぎる件

 工房の奥から、ガタン、と派手な音が響いた。


「うおっ!? 何だ、今の!」


 神城皇牙が慌てて顔を覗かせると、床の上では浅型木箱が二つ重なったまま斜めに傾いていた。幸い中身は土を詰めた袋で、誰かが怪我をした様子もない。その隣ではガルドが腕を組み、エドガーが悔しそうに唇を噛んでいる。


 異世界生活五十三日目。朝食を済ませた皇牙は、昨日召喚したばかりのEX偉人、レオナルド・ダ・ヴィンチの様子を見に来ていた。


「おはよう、皇牙殿。ちょうどよいところへ来たね」


 レオナルドは楽しそうに笑い、倒れかけた箱を指さした。作業台には昨日描いた図面が広げられているが、そこへ新たな線や数字が書き足されていた。


「昨日は箱の形を眺めて考えた。今日は実際に荷物を入れて、どんな動きをするのか確かめていたところだよ」


「……なるほど。で、見事に失敗したってわけか」


「失敗かどうかは、何を知りたかったかによるね」


 レオナルドは平然と言い、エドガーにもう一度箱を並べてもらった。


 ガルドたちが改良しているのは、荷車へ重ねて積める浅型の木箱だった。箱がずれないよう角に小さな出っ張りを設け、縄を通す場所も工夫している。しかし、荷物を入れて横から力をかけると、上の箱がわずかに傾き、角の一部分へ負担が集中してしまったという。


「板をもっと厚くした方がいいんでしょうか」


 エドガーが尋ねると、レオナルドは首を横に振った。


「それも一つの方法だろう。ただ、厚くすれば重くなる。まずは、なぜこの角だけに力が集まるのかを考えたいね」


 彼は木箱を軽く押し、接している部分を示した。四隅で支えるつもりが、わずかな寸法の違いによって、一つの角に負担が偏っているらしい。


 ガルドが定規を当てると、確かに一か所だけ高さが揃っていなかった。木材の反りも影響しているようだ。


「……ああ、そういうことか。重ねたとき、全部の角がちゃんと当たってねえのか」


 皇牙が感心して声を上げると、ガルドも頷いた。


「なるほど。角の形を直す前に、寸法を揃える方が先かもしれませんな」


「そうだね。それから、別の木材でも同じことが起きるか確かめたい」


 レオナルドの提案で、ガルドたちは試作品ごとの寸法を記録することにした。改良そのものはまだこれからだが、昨日まで漠然と気にしていた問題に、具体的な原因の候補が見えてきたのである。


「……すげえな。EXって、こういうところが違うのか」


 皇牙は目を輝かせた。


「何か一発で完成させるんじゃなくて、調べる場所を見つけるのが上手いんだな!」


「君たちの職人が、すでに何度も試してくれていたから分かったことだよ」


 レオナルドはガルドとエドガーへ微笑んだ。二人は照れくさそうに顔を見合わせ、それから早速、別の箱を測り始めた。


 皇牙はその様子を眺めていたが、ふと大切な日課を思い出した。


「……そうだ! ガチャ!」


 隣で見守っていた巴が、小さく笑う。


「今日は私がお声をかける前に思い出されましたね」


「昨日EXを引いたんだぞ! 忘れるわけねえだろ!」


 もっとも、今の今まで忘れかけていたことは黙っておく。


 皇牙は工房の外へ出て、人のいない場所で《英霊召喚ガチャEX》を起動した。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:171人】

【SR以上排出率:5%】


「へへっ。昨日の虹色、もう一回見てえなあ……」


「殿。あれほど珍しい結果だったのでしょう?」


「だからこそ夢があるんだよ! さあ来い、二日連続EX!」


 勢いよく三回引いた結果、現れたのはN荷物仕分け補助のセルジュ、N水路清掃補助のベルト、R石材加工補助のイザベルだった。


「……うん。知ってた。そう簡単には来ねえよな!」


 皇牙は苦笑しながらも三人を歓迎した。特にイザベルは石材の加工に慣れているというので、建築や工房の仕事にも活躍の場がありそうだ。クラリスへ職場の案内を頼むことにして、三人にはまず休んでもらった。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:174人】

【SR以上排出率:5%】


「よし、人口百七十四人! 偉人が出なくても、人が増えるのは嬉しいもんだな」


 皇牙は画面を閉じ、満足そうに頷いた。


 工房へ戻ると、ガルドたちは箱の角を測り直していた。レオナルドはそれを見届けると、今度は皇牙に向き直った。


「ところで、今日は商人向けの施設も見せてもらえるのかな?」


「おう! そのために来たんだよ。コルベールも待ってるはずだ!」


 皇牙は嬉しそうに答え、巴とレオナルドを連れて西門へ向かった。


 街道沿いには朝から荷車が行き交い、休憩所の近くでは商人たちが馬に水を飲ませていた。昨日、皇牙が《国家創造EX》を実演して造った小さな石造りの東屋も、少し離れた未使用地にそのまま建っている。


 レオナルドは東屋を見つけると、改めて足を止めた。


「昨日は驚くばかりだったが、こうして見ても不思議な建物だね。石を運ぶ人も、積み上げる職人もいなかったというのに」


「だろ? 俺の自慢のスキルだからな!」


「ならば、その力をどんな設計と組み合わせるかが、ますます重要になるね」


 その言葉に、皇牙は思わず笑った。


 建物を一瞬で造れること自体は、自分にとって当たり前になりつつある。しかし、本物の天才がその可能性を真剣に考えてくれるとなれば、話は別だった。


 西門の予定地では、コルベールと測量担当のフェリクスが待っていた。すでに荷車の出入りを確認し、既存の道路を塞がない位置を調べてあるという。


「皇牙様。今日はこちらで、実際の使い勝手を確かめるための小さな荷扱い場を造っていただきたいのです」


「おっ、いよいよ建築の出番か!」


 皇牙が嬉しそうに声を上げると、コルベールは念を押した。


「まずは試験用の一棟だけです。完成したからといって、すぐ大勢の商人へ開放するわけではございません」


「分かってるって! 使いにくかったら困るもんな」


 レオナルドはフェリクスの測量記録を確認し、地面の傾きや荷車の動線を見ながら簡単な図を描いた。広場の端に屋根付きの建物を置き、荷車が停まる場所と人が荷物を運ぶ通路を分ける。入口付近には余計な柱を置かず、複数人が通れる幅を確保する案だった。


「荷車を停める場所と、人が歩く場所を分けておけば、荷物を運ぶ者も動きやすいだろうね」


「なるほど。じゃあ、この位置に屋根を造ればいいのか?」


「まずはその形で試してみよう。実際に人が動けば、図だけでは分からなかったことも見つかるはずだ」


 皇牙は頷き、周囲に人や荷車がいないことを確かめてから《国家創造EX》を起動した。


 地面へ淡い光が走り、石造りの柱と緩やかな傾斜の屋根が一瞬で現れた。三方は壁で囲まれ、正面は大きく開いている。雨が吹き込まないよう屋根は少し張り出しており、床には水が外へ流れるための傾斜もつけられていた。


「……よっしゃ! 完成!」


 皇牙が胸を張ると、レオナルドは嬉しそうに建物へ近づいた。柱の位置や屋根の形を確かめ、内部を歩いて広さを確認する。


「素晴らしい。では、実際に荷物を運んでみようか」


 コルベールが用意していたのは、空の木箱と布袋を積んだ荷車だった。近くにいた荷役の経験者二人にも協力してもらい、荷車から荷物を降ろして建物へ運び込む。


 最初は順調だった。


 しかし、二人がそれぞれ荷物を抱えて出入りしようとしたとき、入口の片側で身体を避ける必要が生じた。


「……あ、ちょっと狭いな」


 皇牙が呟くと、荷役の一人も苦笑した。


「一人ずつなら問題ありませんが、忙しいときはぶつかりそうですね」


 レオナルドはすぐに紙へ印をつけた。入口の幅そのものより、荷物を置く位置と人の通り道が重なっていることが問題らしい。


「建物を広げる前に、荷物を置く場所をずらしてみよう。通路を空ければ、今の広さでも使いやすくなるかもしれない」


 その提案で、荷物の置き場所を変えてもう一度試すと、今度は二人が無理なくすれ違えた。


「……おお! 全然違うじゃねえか!」


 皇牙は目を丸くした。


「建物を造り直さなくても、置き方一つで変わるんだな!」


「そういうこともあるね。だから、まずは実際に使ってみるのが大切なんだ」


 レオナルドは楽しそうに笑った。


 続いて、巴が荷車の側面へ回り、門へ続く道との距離を確かめた。荷役の二人が作業している間、通りかかった人がどこを歩くかを見ていたのだ。


「殿。こちらへ歩く人が入ってくると、荷物を運ぶ方とぶつかるかもしれません」


 巴は通路の脇を示した。


「荷車を動かす際にも、人が不用意に近づかないようにした方がよさそうです」


 皇牙は頷き、コルベールへ視線を向けた。


「なるほどな。じゃあ、作業する場所と通り道を分けようぜ。柵とか目印とか、必要なものは相談して決めてくれ!」


「承知いたしました。まずは今ある物で試し、必要な設備を確認いたします」


 コルベールはそう答えた。


 建物だけなら皇牙が一瞬で造れる。しかし、そこで使う道具や人の配置まで、勝手に整うわけではない。だからこそ、実際の利用者に試してもらうことに意味があるのだ。


 何度か荷物を運ぶ試験を繰り返した結果、入口付近の荷物の置き方と、人の通り道を分ける必要があると分かった。一方、屋根の下で荷物を扱えること自体は好評だった。


「雨の日なら助かりますよ。今までは荷物が濡れないよう、慌てて積み下ろししてましたから」


 荷役の一人がそう言うと、皇牙は嬉しそうに笑った。


「だろ!? しかも、これからもっと使いやすくなる予定だぜ!」


 まだ一般の商人へ開放する段階ではない。それでも、今日の試験で何を改善すればよいかが見えたことは、大きな前進だった。


 そこへ、レオナルドが新しい図を広げた。


「ところで皇牙殿。昨日から気になっていた、竜の装飾についても考えてみたんだ」


「……おっ! マジか!」


 図には、入口の左右へ置く石柱と、そこへ翼を広げた竜の彫刻が描かれていた。荷車の通行を妨げず、街道からも見つけやすい位置に配置されている。


「建物の目印として使えば、遠くからでも入口が分かりやすくなるかもしれないね。もちろん、実際の高さや形はもう少し確かめる必要があるけれど」


「……すげえ! 格好いいだけじゃなくて、ちゃんと役に立つのか!」


 皇牙は興奮して図へ顔を近づけた。


 黒竜の彫像を置きたいという自分の趣味が、商人にとっても分かりやすい目印になる。そう考えると、ますます造りたくなってきた。


「よし! これは絶対に採用したい! イザベルにも相談してみようぜ。今日ちょうど石材加工が得意な人が来たんだ!」


「それはよいね。実際に彫刻を扱う人の意見も聞いてみたい」


 レオナルドは微笑んだ。


 皇牙は満足そうに頷き、完成したばかりの荷扱い場を振り返った。まだ小さな一棟しかないが、これから少しずつ便利な場所になっていくのだろう。


 そのとき、西門の方からバットゥータが姿を現した。


「皇牙殿。お取り込み中のところ失礼いたします。街道の件で、少し進展がございました」


「……おっ、例の通行料か。何か分かったのか?」


 皇牙は顔を上げた。


 バットゥータは、以前写し取った赤い印を広げた。山のような三つの突起と、その下を横切る一本の線。武装した四人組が商人へ渡した紙片に押されていた模様である。


「西の定期市を利用する別の商人から、これに似た紋章について話を聞けました。北西の地方に領地を持つ、ヴァルデン子爵家の紋章に似ているそうです」


「……ヴァルデン子爵家?」


 皇牙は初めて聞く名前を口の中で繰り返した。


「ただし、その商人も紋章を詳しく覚えているわけではありません。印が似ているというだけで、あの四人が子爵家に仕えているとは断定できません」


「なるほどな。じゃあ、勝手に名前を使ってる可能性もあるわけか」


「はい。まずは紋章の形と、子爵家がどの地域を治めているのかを確かめたいと考えております」


 バットゥータは地図の北西側を示した。今まで名前のなかった相手に、ようやく調査先の候補が一つ生まれたのである。


 皇牙はしばらく考えたあと、頷いた。


「分かった。そこは引き続き頼む。もし本当に貴族が絡んでるなら、こっちも準備しとかなきゃならねえしな」


「承知いたしました」


 バットゥータは一礼し、再び調査へ戻っていった。


 皇牙は街道の先を眺め、小さく息を吐いた。


「……ったく。俺はただ、商人が安心して来られる街にしたいだけなんだけどな」


「殿。そのためにも、今は相手の正体を確かめることが大切なのでしょう」


 巴の言葉に、皇牙は頷いた。


「だな。誰が何を考えてるのか分からねえうちから、こっちが騒ぐ必要はねえ」


 そのとき、荷扱い場の方からレオナルドの声が聞こえてきた。


「皇牙殿。こちらを見てくれないかな。さっきの通路を、もう少し分かりやすくできそうなんだ」


「おっ、何だ何だ?」


 皇牙はすぐに顔を輝かせ、レオナルドのもとへ駆け寄った。


 先ほどまで貴族の話をしていたとは思えない切り替えの早さに、巴は思わず笑ってしまった。


 アストレアの人口は百七十四人。


 EXレオナルド・ダ・ヴィンチの協力により、商人向け施設は初めて実際の荷物を使った試験を終えた。木箱の改良にも新たな手掛かりが見つかり、職人たちは次の試験へ向けて動き始めている。


 一方、西の街道で通行料を要求する者たちについては、ヴァルデン子爵家という名前が浮かび上がった。ただし、その関与はまだ確認されていない。


 夕方、皇牙は新しい荷扱い場の前で、レオナルドが描いた竜の図を眺めていた。


「……なあ、レオナルド。この竜、もうちょっと翼を大きくしたらどうだ?」


「面白いね。ただし、石柱との釣り合いも考えたい」


「よし! じゃあ、そこは任せた!」


 皇牙は満足そうに笑った。


 どうやら、最高レアリティの偉人が加わったことで、アストレアの建築はますます賑やかになりそうだった。

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