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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第62話 通行料の証拠を発見! それより俺は有料ガチャが引きたいんだが!?

 城館の執務室に入った神城皇牙は、机の上に置かれた一枚の紙を見て、思わず首を傾げた。


 異世界生活五十日目。窓の外には気持ちのよい青空が広がっており、本来なら中庭で日向ぼっこでもしたいところだった。ところが、旅の調査を担当するイブン・バットゥータから興味深い報告があると聞かされ、朝食を終えたばかりの皇牙はこうして執務室へ呼び出されていた。


「……これが昨日言ってた通行料の証拠か?」


「はい。正確には、通行料を支払ったという商人が、その際に受け取った紙でございます」


 バットゥータが示したのは、手のひらほどの大きさしかない紙片だった。端は何度も折り畳まれたように傷み、中央には赤い印が押されている。短い文章も書かれているようだが、文字の一部は擦れて読みにくくなっていた。


 昨日、西の定期市から訪れた行商人が、さらに北西へ続く街道で通行料を要求する者たちがいるという話を伝えてくれた。武装した男たちは近隣の領主に仕えていると名乗っていたらしいが、その時点では又聞きの情報にすぎず、本当に徴収が行われたのかさえ分からなかった。


 そこでバットゥータが旅人たちへ改めて話を聞いたところ、実際に金を支払ったと証言する商人が見つかったのである。


「へえ、もう本人が見つかったのか。仕事が早えな!」


「幸い、その方がアストレアの休憩施設に滞在しておられました。西の定期市で仕入れを済ませ、いくつかの村を回ってから、こちらへ来られたそうです」


 バットゥータによれば、その商人は紙片を簡単には手放したがらなかったという。もし再び徴収者に止められたとき、支払いを済ませた証として必要になるかもしれないからだ。


 そのため、バットゥータは持ち主の許可を得て紙面の文字と印を写し取り、現物を短時間だけ預かっていた。確認が終わり次第、本人へ返却する約束になっている。


「なるほどな。そりゃ、商人にとっちゃ大事な紙かもしれねえもんな」


 皇牙は納得し、紙を持ち上げる代わりに机へ顔を近づけた。赤い印には紋章のような模様が刻まれているが、それがどこの領主のものなのかは分からない。


「で、実際には何があったんだ?」


 バットゥータは手元の記録を開き、聞き取った内容を説明した。


 商人が西の定期市から北西へ向かっていたとき、古い石碑の立つ分かれ道で武装した男たちに呼び止められた。人数は四人。二人は槍を持ち、残る二人は剣を帯びていたという。服装は似通っていたものの、揃いの鎧を着ていたわけではなく、馬も見当たらなかったそうだ。


 男たちは領主の命令による街道の通行料だと説明し、荷車一台につき銀貨一枚を要求した。商人は領主の名前を尋ねたが、相手は詳しい説明をせず、支払わなければ先へ通さないと言ったらしい。


「……うわあ、面倒くせえ連中だな」


 皇牙は顔をしかめた。街道を管理するために正規の通行料を取ること自体は、この世界では珍しくないのかもしれない。しかし、誰の命令なのか説明できないとなれば、話は別である。


「それで、商人は払ったのか?」


「はい。荷物を積んだまま引き返すのも難しく、争いになることを避けたかったそうです。銀貨を渡すと、この紙を受け取りました。この先で同じ仲間に止められた場合は見せるよう告げられたとのことです」


「つまり、通行料を払った印ってわけか。でも、本当に領主の部下なのかは怪しいな」


「その点は、まだ判断できません。服装が揃っていなかったことだけで、偽物と決めつけることもできませんので」


 皇牙は少し考えてから、《万能鑑定EX》を使った。視界に現れた情報からは、紙の材質や赤い印の状態などが確認できたが、誰が発行を命じたのかという答えは出てこない。書かれている内容が正当な命令に基づくものかどうかまでは、紙そのものを調べても分からないようだった。


「……ちぇっ。鑑定で全部分かりゃ楽なのになあ」


「殿。それでは、バットゥータ殿のお仕事がなくなってしまいますね」


 隣に控えていた巴が微笑むと、皇牙は肩をすくめた。


「そりゃ困る! せっかく優秀な偉人を呼んだんだから、ちゃんと活躍してもらわねえとな!」


 バットゥータは苦笑しつつ、昨日の聞き取り記録を広げた。古い石碑と分かれ道については、別の旅人からも以前に話を聞いていたという。ただし、その証言が同じ場所を指しているとは限らないため、現在は道順や周囲の地形を照らし合わせているところだった。


「少なくとも、今回の商人からは直接の体験を聞くことができました。次は石碑の位置と、赤い印が何を表すのかを確かめたいと考えております」


「おう、頼んだ! 俺が調べるより百倍早そうだしな!」


 皇牙が満足そうに頷くと、巴は少し呆れたように笑った。それでも、調査を得意な者へ任せる判断自体は間違っていない。皇牙が思いつきで動けば、かえって問題が大きくなる可能性もあるのだから。


 その後、山本勘助とコルベールが執務室へ加わった。二人はバットゥータの報告を聞き、机に広げられた街道の記録を確認した。


 勘助が最初に注目したのは、武装した男たちの人数と配置だった。四人という人数は、荷車を止めて金を要求するには十分だが、街道全体を警備するには少ない。もちろん、別の場所にも仲間がいる可能性はあるため、それだけで集団の規模を判断することはできなかった。


「殿。現時点では、どこの領主に属する者か断定できませぬ。問題の場所も、西の定期市よりさらに先にあると考えられます。我らが整備した街道や、リューデン谷へ通じる道で同様の徴収が行われたという報告はございません」


「じゃあ、いきなりこっちへ攻めてくるとか、そういう話じゃねえんだな?」


「少なくとも、そのような兆候は確認されておりません。ただ、商人の往来に影響するのであれば、警戒は必要でしょう」


 勘助は、門の見張りへ今回の情報を伝え、出入りする商人から不審な出来事について聞き取るよう提案した。普段の警備を続けながら情報を集めるだけなら、大きな負担にはならない。噂だけで兵を動かしたり、商人の往来を制限したりする必要もないという。


「よし、それで頼む。あんまり物々しくして、普通の商人まで怖がらせんなよ」


「承知いたしました」


 巴も、皇牙が外へ出る際には街道の情報に気を配ると申し出た。もっとも、皇牙自身は当面、城下町から遠くへ出かける予定などなかった。


「心配すんなって。俺はしばらく城でのんびりするつもりだからな!」


「殿。そのお言葉を聞いて、少し安心いたしました」


「……何だよ。俺がすぐ外へ遊びに行くと思ってたのか?」


「昨日までのお姿を拝見しておりますと、十分にあり得るかと」


 即答され、皇牙は何も言い返せなかった。


 一方、コルベールが関心を示したのは、銀貨一枚という徴収額だった。


「仮に荷車一台につき銀貨一枚を取るのであれば、少量の商品を運ぶ商人ほど負担が大きくなります。高価な商品を大量に積んでいる者と、日用品を少しだけ扱う行商人では、同じ銀貨一枚でも意味が違いますから」


「なるほどな。荷物が少なくても金額が同じなら、確かに損した気分になるよな」


「ええ。ただし、今回確認できたのは一人分の支払いです。ほかの商人にも同じ金額を求めているのかは、まだ分かりません」


 コルベールは説明を続けた。問題の場所がアストレアから離れていたとしても、そこを通る商人が余計な費用を負担するようになれば、運送費や商品の値段へ影響する可能性がある。特に、複数の市場を巡る商人が道を変えるようになれば、商品の流れそのものが変わるかもしれない。


 皇牙は腕を組み、昨日見た浅型木箱の試作品を思い浮かべた。ガルドとエドガーが工夫を重ね、ようやく形になってきた商品だ。今後、グレンに見本を見せて評判を聞こうとしているのに、道の問題で商売がやりにくくなるのは面白くない。


「……ったく。せっかく木箱が売れるかもしれねえってときに、余計な問題が増えやがって」


「ですから、まずは事実を確かめることが大切でございます。正式な徴収なのか、勝手に領主の名前を使っている者たちなのかによって、対応も変わります」


「分かったよ。調査は任せる。相手の正体が分かるまでは、こっちから喧嘩を売る必要もねえしな」


 皇牙がそう告げると、勘助とバットゥータは静かに頷いた。自分が動くべき場面では圧倒的な力を使えるが、今はその必要がない。面倒くさがりな性格が、結果として慎重な判断につながっているのだから、何とも皇牙らしい話だった。


 そこで一段落ついたところで、コルベールが机の上の帳簿を開いた。


「それでは、街道の件とは別に、商業収支についても少しご報告を――」


「……ん? そういや、コルベール。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」


 帳簿に並ぶ金貨と銀貨の数字を見た瞬間、皇牙の頭に別のことが浮かんでいた。


 毎朝楽しみにしている無料ガチャは、一日に三回しか引けない。しかし、有料ガチャなら金貨を使って追加の召喚ができる。しかも十連ならSR以上が一人確定するのだ。


 歴史好きであり、筋金入りのガチャ好きでもある皇牙にとって、それはいつか必ず試してみたい夢のような仕組みだった。


「……そろそろ有料ガチャって、引けたりしねえ?」


 コルベールの手が止まった。


「有料召喚、でございますか?」


「そうそう! 単発なら金貨百枚、十連なら千枚だろ? せっかくなら十連を回してえけど、まずは単発一回でもいいんだよ!」


 皇牙は身を乗り出した。頭の中では、金色の召喚陣から歴史上の偉人が現れ、政治も軍事も全部引き受けてくれる未来が広がっている。もし諸葛亮や黒田官兵衛のような天才が来れば、自分の仕事をもっと減らせるかもしれない。


 何より、本物の偉人に会えるというだけで胸が躍る。


「……皇牙様。金貨百枚という金額を、どのようにお考えでしょうか」


 コルベールの静かな問いに、皇牙は一瞬だけ言葉に詰まった。


「えーっと……結構な大金?」


「そのとおりです」


 コルベールは呆れることなく、帳簿を閉じた。


「現在の国庫にどれほど余裕があるかという問題だけではありません。今は生活物資の購入、道具や材料の仕入れ、働く者たちへの報酬など、優先すべき支出がございます。金貨百枚を召喚に充てることが、現時点で最善とは申し上げられません」


「……やっぱ駄目かあ」


「有料召喚そのものを否定するつもりはございません。優秀な人材を得られれば、将来的に大きな利益をもたらす可能性もあります。しかし、召喚結果は確実ではありませんし、十連の確定枠を利用するには金貨千枚が必要です」


 その言葉に、皇牙は思わず天井を見上げた。


 金貨千枚。改めて考えると、とんでもない金額である。


 先日、グレンが西の定期市で売ってきた蓋付き木箱二個の売上は、合計で銀貨八枚。そのうち銀貨二枚は運送の費用として支払っており、残りも材料や人件費を差し引く前の金額だった。


 もちろん、アストレアの収入が木箱だけというわけではない。しかし、商売を始めたばかりの段階で、好きなだけ金貨を使えるほど豊かな国になったわけでもなかった。


「……分かったよ。俺がガチャを引きたいからって、みんなの生活に必要な金まで使うのは違うもんな」


 皇牙は渋々頷いた。ガチャを回せないのは残念だが、自分の楽しみのために家臣や住民へ無理をさせるつもりはない。


 コルベールも、その答えに満足したようだった。


「商業収入が増え、必要な支出を確保したうえで余裕が生まれれば、改めて検討いたしましょう」


「……マジで?」


「はい。将来の有益な投資になり得るのであれば、検討する価値はございます」


 その瞬間、皇牙の目が輝いた。


「よっしゃ! じゃあ、絶対に商売を成功させてやる! 目指せ有料十連だ!」


「そのためにも、今は商品開発と交易の安定が重要でございますね」


「……結局、仕事の話に戻るのかよ!」


 思わず頭を抱えた皇牙を見て、巴が笑いを堪えきれずに肩を揺らした。


 しかし、皇牙自身も分かっていた。欲しいものがあるなら、それを手に入れるための準備が必要だ。無料ガチャと違って、有料ガチャには資金がいる。そして、その資金を作るには、アストレアの商売をもっと発展させなければならない。


 面倒なことは大嫌いだが、ガチャのためなら少しくらい頑張ってもいい。


「……よし、決めた! 街道の調査はちゃんと進めてくれ。商売もこれまでどおり頼む! 俺は、必要なときにはちゃんと協力するからな!」


 皇牙が珍しく真面目な顔で宣言すると、コルベールは静かに頭を下げた。


「承知いたしました。では、必要な判断をお願いする際には、お声をかけさせていただきます」


「おう! それくらいなら任せとけ!」


 頼もしく胸を張る皇牙を見て、巴は小さく微笑んだ。自分の楽しみのためとはいえ、必要な責任から逃げないところは、彼女が仕える主君の好ましい一面でもあった。


 話し合いを終えた皇牙は、ようやく執務室から解放された。巴とともに城館の中庭へ出ると、午後の柔らかな日差しが石畳を照らし、遠くから工房の木槌の音が響いてきた。


 街の通りでは荷車を押す人々が行き交い、農地から戻ってきた住民たちが笑顔で言葉を交わしている。少し前までは何もなかった荒野に、今では百六十人を超える人々が暮らしているのだ。


 皇牙はそんな光景を眺めながら、満足そうに息を吐いた。


「……なあ、巴。俺ってさ、最初は楽するために国を造ったんだよな」


「はい。今も、そのお考えは変わっておられないようですが」


「まあな! でも、こうして街が賑やかになってくると、何だかんだで嬉しいもんだな」


 ガルドたちが作る木箱も、尊徳が整えている農地も、コルベールが管理する商売の仕組みも、自分一人ではできなかったことばかりだ。優秀な人材を召喚して仕事を任せるという考えは、確かに自分が楽をするためのものだったが、同時に街を発展させる力にもなっている。


「……ま、商人が来なくなったら困るしな。美味いもんも珍しい物も手に入らなくなるし!」


「ふふっ。殿らしい理由でございますね」


「それに、商売が大きくなれば有料ガチャも引けるようになるだろ? そう考えりゃ、国造りも結構楽しいじゃねえか!」


 皇牙は得意げに笑った。


 そんな主君の横顔を見つめながら、巴も柔らかく微笑む。口では自分の楽しみばかりを語っているが、街の人々の暮らしを大切に思っていることは、彼女にも十分伝わっていた。


「では、殿。これからは商業の発展にも、今まで以上に力を入れられるのですね」


「おう! もちろんだ!」


「それは心強いことでございます。コルベール殿もお喜びになるでしょう」


「……あ、いや、待て。俺が毎日書類仕事するって意味じゃねえぞ?」


「ふふっ。分かっております」


 巴が楽しそうに笑うと、皇牙もつられて笑った。


 アストレアの人口は百六十五人。


 西の街道で通行料を要求する者たちの正体は、まだ分かっていない。しかし、実際に支払った商人の証言と紙片が見つかったことで、調査は確かな一歩を踏み出していた。


 そして皇牙には、もう一つ大きな目標ができていた。いつか金貨千枚を用意し、SR以上確定の有料十連ガチャを引くことである。


「よーし! 絶対に金貨を稼いでやる! ……まあ、実際に稼ぐのはみんなに任せるけどな!」


「殿。それでは、先ほどと何も変わっておりませんよ?」


「うるせえ! 俺は適材適所って言葉が大好きなんだよ!」


 夕暮れの城館に、皇牙と巴の楽しそうな笑い声が響いた。

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