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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第一章

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第1章 第6話 城はあるけど何もない

「……とりあえず、今日の晩飯を何とかするか」

 

 神城皇牙は、出来上がったばかりの城の厨房を見渡しながら呟いた。

 

 黒い石壁に囲まれた広い厨房には、調理設備を置くための場所が十分に確保されている。食料を保管する部屋も隣接しており、将来的には何人もの料理人が働けそうな造りだった。

 

 ただし、現在の厨房には鍋も包丁も食器もない。

 

 先ほど玉座の間で味わった残念な気持ちが、再び皇牙の胸をよぎった。

 

「立派な城なのに、まともに飯も作れねえとはなあ……」

 

「いつまでも嘆いてたって仕方ねえだろ。食い物はあるんだから、まずは食えるようにしようぜ」

 

 ガルドが腕を組んで言った。

 

 まったくもって正論だった。皇牙は小さく頷くと、空間収納EXから荒野で見つけた芋を取り出し、厨房の石台へ並べた。

 

 乾いた土地に生えていた植物の地下から掘り出した、拳ほどの大きさの塊茎だ。見た目はジャガイモに似ているが、皮には赤紫色の筋が入っている。

 

 万能鑑定EXによれば、十分に加熱すれば食べられるらしい。

 

「これを焼けば、とりあえず晩飯にはなるだろ」

 

「皇牙様、少々お待ちください」

 

 マルクが声をかけた。

 

「ん? どうした?」

 

「できれば、状態のよいものをいくつか残していただきたいのです」

 

「ああ、栽培用か」

 

「はい。必ず育つとは限りませんが、試す価値はございます。見つけたものをすべて食べてしまっては、増やすこともできませんので」

 

 皇牙は素直に頷いた。

 

 目の前の芋は十数個しかない。全部食べたところで大した量にはならないし、将来の食料を増やせる可能性があるなら残しておいた方がいいだろう。

 

「じゃあ、どれを取っておくかはマルクに任せるわ」

 

「承知いたしました」

 

 マルクは一つずつ状態を確かめ、傷の少ない芋を選び分けていった。皇牙にはどれも同じに見えるが、マルクは表面や芽の位置まで注意深く確認している。

 

 やがて栽培用と食用に分け終えると、皇牙は使わない分を空間収納へしまった。

 

「しかし、畑を作るにしても道具が足りませんな。まずは土を調べ、小さな場所から試したいところです」

 

「必要な農地は俺が作るよ。どこに何を作るか決まったら教えてくれ」

 

「ありがとうございます。ただ、作物の世話は人の手が必要になります。最初は私が管理できる広さで十分でしょう」

 

「了解。いきなり大農場を作っても、マルク一人じゃ大変だもんな」

 

 皇牙はあっさり納得した。

 

 自分が楽をするために人材を召喚したとはいえ、一人に何十人分もの仕事を押しつけるつもりはない。人手が足りないなら、これから増やせばいいだけの話だ。

 

 そう考えると、毎日三回の無料ガチャがますますありがたく思えてくる。

 

「さて、芋の準備はできたな。次はどうやって焼くかだ」

 

 ガルドは厨房の壁際へ歩き、床や壁の造りを確かめ始めた。

 

「皇牙。この辺に炉を造れるか?」

 

「炉? まあ、固定式なら作れると思うぞ」

 

「だったら、火を使える場所を作ってくれ。煙が室内に溜まらないようにして、食材を載せる面も欲しい」

 

「おっ、そういうのは任せろ!」

 

 皇牙は嬉しそうに国家創造EXを開いた。

 

 建物の改築項目から、石造りの炉を設定する。ガルドの指示に従って、火を入れる空間と上部の焼き面を設け、煙が外へ抜ける煙道を壁に通した。

 

 設備の完成予想図を見せると、ガルドは顎に手を当てて少し考え込む。

 

「焼き面はもう少し低い方が使いやすいな。あと、火を入れる場所が狭すぎると、後で薪を使うときに困るぞ」

 

「なるほど。じゃあ、これくらいか?」

 

「おう。それなら悪くねえ」

 

 皇牙が建設を実行すると、黄金色の光が一瞬だけ走り、厨房の壁際に石造りの炉が出現した。

 

 ガルドは早速しゃがみ込み、焼き面の高さや煙道の口を確認する。その表情は先ほどまでの気安いものとは違い、真剣そのものだった。

 

「……うん。これなら使えるな」

 

「よし! じゃあ、早速焼くか!」

 

「待て。まずは火を入れて、ちゃんと熱が回るか確かめようぜ」

 

 ガルドに止められ、皇牙は差し出しかけた手を引っ込めた。

 

 なるほど、設備は作っただけで終わりではないらしい。使いやすさを確かめるところまでが職人の仕事なのだろう。

 

「じゃあ、火魔法でいいか? 薪なんて持ってないし」

 

「ああ。ただし、火は小さめに頼むぞ。いきなり強火にされても困るからな」

 

「任せとけって」

 

 皇牙は炉の奥へ手をかざし、小さな炎を生み出した。

 

 赤い火が石の内部で揺らめき、じわじわと焼き面を温めていく。皇牙が意識して炎を弱めると、火勢もそれに合わせて落ち着いた。

 

 無限魔力EXのおかげで魔力切れの心配はない。ただし、炎を維持するには皇牙自身が魔法を使い続ける必要があった。

 

「……なあ、これって俺がやめたら消えるんだよな?」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。魔法で作ってる火だからな」

 

「だったら今日はそれでいいが、明日からは燃料も探さねえとな。毎回お前に火を出してもらうわけにもいかねえだろ」

 

「それな! 俺も毎日厨房に立つつもりはねえし」

 

 皇牙は大きく頷いた。

 

 必要なときに魔法を使うのは嫌いではない。しかし、毎日の食事のたびに火を出す係になるのは御免だった。

 

 ガルドは焼き面が十分に温まったことを確かめると、荒野芋を並べ始めた。

 

「焦がすなよ、皇牙。弱めの火でゆっくり頼む」

 

「はいはい。料理長の指示に従いますよ」

 

「誰が料理長だ」

 

 ガルドが呆れたように笑った。

 

 皇牙も笑い返したが、炎を維持する手は止めなかった。火加減を調整するだけなら難しくないものの、こうして立ったまま待つのは少々退屈だった。

 

 それでも、しばらくすると厨房に香ばしい匂いが漂い始める。

 

「……おっ、いい匂い」

 

 皇牙は思わず鼻を鳴らした。

 

 ガルドは芋を転がして焼き具合を確かめ、表面が焦げすぎないように注意している。さらにいくつかを割って中の状態を確認すると、皇牙に鑑定を頼んだ。

 

 結果は、十分に加熱されており、食用に問題なし。

 

「よし。これなら食えそうだな」

 

 皇牙が炎を消すと、ガルドは芋を炉から下ろした。

 

 冷めるまで少し待ち、四人は厨房の石台を囲んだ。食器も椅子もないため立ったままだが、焼きたての匂いを前にすると、そんなことは大して気にならなかった。

 

「それじゃ、いただきます!」

 

 皇牙は熱さに気をつけながら皮を剥き、一口かじった。

 

 ほくほくとした食感が口いっぱいに広がる。ほんのりと甘く、ジャガイモと栗の中間のような味がした。

 

「……うまっ!」

 

 思わず声が出た。

 

 味付けなど何もしていない。ただ焼いただけの芋なのに、空腹だったこともあって驚くほど美味しく感じられた。

 

「これ、普通にうまいじゃねえか!」

 

「おう。悪くねえな」

 

 ガルドも満足そうに頷き、続けてもう一口食べた。

 

 マルクは芋の断面を眺めながら、食感や味を確かめている。どうやら、食事をしながらも栽培したときのことを考えているらしい。

 

「これなら、安定して育てられればよい食料になりそうですな」

 

「だろ? うまくいったら、もっとたくさん作ろうぜ」

 

「ぜひそうしたいところです」

 

 巴も静かに芋を口へ運び、やがて穏やかな笑みを浮かべた。

 

「素朴ではございますが、美味しゅうございますね」

 

「な? 初日の晩飯にしちゃ、結構いい方だと思わねえか?」

 

「はい。皆でいただく食事というのも、よいものでございます」

 

 その言葉に、皇牙は思わず巴の顔を見た。

 

 赤い鎧を身につけた女武者が、石台を囲んで焼き芋を食べている。歴史の教科書では絶対に見られない光景だった。

 

 しかも、目の前にいるのは自分が召喚した家臣たちだ。

 

 こんな状況になっていることが、今でも少し信じられなかった。

 

「……よし。次は肉が食いたいな。できればステーキ」

 

「だったら、まず肉を手に入れねえとな」

 

 ガルドの返事に、皇牙は苦笑した。

 

「分かってるよ。早く商人とか料理人とか召喚したいところだな」

 

 そう言いながらも、皇牙は残りの芋を美味しそうに頬張った。

 

 豪華な城での最初の夕食は、味付けのない焼き芋だった。それでも、四人で笑いながら食べる時間は、思っていた以上に心地よかった。

 

 食事を終える頃には、窓の外が赤く染まり始めていた。

 

 二つの太陽が地平線へ近づき、荒野には長い影が伸びている。

 

「……さて、次は寝床だな」

 

 皇牙は大きく伸びをした。

 

 厨房の問題はひとまず解決した。次に必要なのは、今夜眠るための場所だった。

 

 城には寝室がいくつもあるが、ベッドも布団も用意されていない。皇牙は試しに国家創造EXで床と一体になった石造りの寝台を作ってみたが、横になった瞬間に顔をしかめた。

 

「……硬っ!」

 

「そりゃ石だからな」

 

 ガルドがあっさり答えた。

 

「いや、分かってるけどさ。もうちょっと何とかならねえのか?」

 

「だったら、木材を集めて寝台を作るか、草を乾かして敷物にするかだな。どっちにしても今すぐは無理だぞ」

 

 マルクも頷き、昼間に見つけた低地なら敷物に使える草を集められるかもしれないと説明した。

 

「じゃあ、ちょっと取りに行くか」

 

 皇牙がそう言って立ち上がると、巴がすぐに前へ出た。

 

「殿、なりませぬ」

 

「えっ?」

 

「もう日が暮れます。周囲の様子も十分には分かっておりません。今から外へ出るのは危険にございます」

 

 巴の声は、先ほどまでよりもはっきりと強かった。

 

 皇牙は窓の外へ目を向けた。確かに、夕暮れの荒野は急速に暗くなり始めている。

 

 いくら自分に強力な魔法があっても、何が潜んでいるか分からない場所を暗闇の中で歩く必要はない。

 

「……そうだな。今夜は我慢するか」

 

「はい。明るくなってから、私もお供いたします」

 

「頼むわ。さすがに石の上で毎日寝るのは勘弁したいし」

 

 皇牙は苦笑しながら寝台を眺めた。

 

 どうやら、最初の夜はあまり快適とはいかなさそうだった。

 

 しかし、寝床より先に考えなければならないことがあった。

 

「そういや、夜の警備はどうするんだ?」

 

 皇牙が尋ねると、巴は少し考えてから答えた。

 

「私が見回りをいたします。城門を閉じておけば、すぐに侵入されることはないでしょうが、周囲に魔物がいる可能性もございますので」

 

「……でも、それじゃ巴が寝られねえだろ」

 

「私は武人にございます。多少の夜番であれば――」

 

「いや、駄目だって」

 

 皇牙は巴の言葉を遮った。

 

「今日だってずっと歩き回ってたじゃねえか。今夜ずっと起きてたら、明日きついだろ」

 

「ですが、殿の安全を守ることも私の務めにございます」

 

「だからって、巴一人に全部任せるつもりはねえよ」

 

 皇牙は腕を組んで考え込んだ。

 

 城壁と城門はある。今のところ周囲に敵の姿もない。それでも、夜中に誰かが侵入してきた場合、眠っていたら気づけないかもしれない。

 

 そこで、ふと思いついた。

 

「……あ、そうだ。城門に警報を付けりゃいいんじゃね?」

 

「警報、でございますか?」

 

「ああ。門が開いたら大きな音が鳴る仕組みだよ。鐘とか鳴れば、寝てても気づくだろ」

 

 皇牙は国家創造EXを開き、城門の構造を確認した。

 

 建物の一部として簡単な機械式の仕組みを組み込めるらしい。そこで、門扉が一定以上開くと、連動した金属部品が鐘を打つ仕組みを追加することにした。

 

 ガルドに構造を確認してもらい、動く部分が引っかからないよう調整してから建設を実行する。

 

「よし。これでどうだ?」

 

 四人は城門へ向かい、実際に試してみた。

 

 皇牙が門を開くと、頭上から甲高い鐘の音が響き渡った。

 

 カァン! カァン! カァン!

 

「うおっ!? 結構うるせえな!」

 

 皇牙は思わず耳を塞いだ。

 

 広い城門の内部に響く音は想像以上に大きく、少し離れた中庭まで届いていた。

 

「これなら、誰かが門を開けたときには気づけそうだな」

 

「おう。ただ、外壁を乗り越えられたら分からねえぞ」

 

 ガルドの指摘に、皇牙は頷いた。

 

 確かに、門の警報だけで城全体を守れるわけではない。それでも、何もないよりは遥かにましだった。

 

 巴も鐘の音を聞き、感心したように頷いた。

 

「これほどの音であれば、門に異変があった際には気づきやすくなりましょう」

 

「だろ? 今夜は全員で少しずつ様子を見ることにしようぜ。巴だけ徹夜ってのはなしな」

 

「……承知いたしました」

 

 巴は一瞬だけ意外そうな表情を浮かべたが、やがて穏やかに微笑んだ。

 

 皇牙はその反応を見て、少し安心した。

 

 巴は頼れる武将だが、だからといって何もかも背負わせてよいわけではない。今は人数が少ないのだから、できる範囲で協力するしかなかった。

 

 その後、四人は休む部屋を決め、夜の間に一度ずつ短い見回りをすることにした。巴は周囲の安全を確かめる方法を三人へ簡単に説明し、異変があれば無理に対処せず、まず皇牙と巴を起こすよう伝えた。

 

 皇牙も素直に頷いた。

 

 自分には全属性魔法EXがある。何かが起きたときに巴だけを危険な目に遭わせるつもりはなかった。

 

 城門を閉じ、最後に中庭を確認してから、四人はそれぞれの部屋へ向かった。

 

 皇牙は石造りの寝台へ腰を下ろし、窓の外を眺めた。

 

 二つの太陽はすでに沈み、荒野には静かな夜が訪れている。

 

「……しかし、すげえ一日だったな」

 

 思わず、そんな言葉が漏れた。

 

 見知らぬ荒野で目を覚まし、規格外のスキルを手に入れ、ガチャから三人の仲間を召喚した。

 

 そのうえ、何もなかった高台に自分だけの城を建ててしまったのだ。

 

 普通の大学生だった頃には、想像することすらできなかった出来事ばかりだった。

 

 それでも、不思議と不安より楽しさの方が大きい。

 

 皇牙はゆっくりと寝台へ横になった。

 

「……硬えな、やっぱり」

 

 石の感触に顔をしかめたが、今日はさすがに疲れていた。多少寝心地が悪くても、眠れないほどではなさそうだった。

 

 もっとも、明日は何としても寝具を用意したい。

 

 そして、もう一つ。

 

「……明日の無料ガチャ、何が出るかな」

 

 皇牙は思わず笑みを浮かべた。

 

 今日は農民のマルク、職人のガルド、そしてSRの巴御前を引き当てた。

 

 初回のSR以上確定枠はもう使ってしまったが、明日からも毎日三回ずつ無料でガチャを引ける。

 

 運がよければ、また歴史上の偉人が現れるかもしれない。

 

「料理人でも商人でもいいけど……やっぱり、偉人が欲しいよな」

 

 皇牙は天井を見上げながら呟いた。

 

 豪華な城は完成したものの、まだ足りないものだらけだ。それでも、三人がいてくれれば、少しずつ生活を整えていけるだろう。

 

 農業はマルク、道具や家具はガルド、周囲の警戒は巴。

 

 それぞれが得意なことを担当し、自分は必要な建物を作る。

 

 そんな形で国を発展させていけば、いつか本当に働かずに暮らせる日が来るかもしれない。

 

「……くくく。最高じゃねえか」

 

 皇牙は満足そうに笑った。

 

 窓の外には、自分が作った黒い城壁が夜の闇の中にそびえている。

 

 今日はまだ、何もない荒野に城が一つできただけだ。

 

 しかし、皇牙にとっては十分すぎるほど大きな一歩だった。

 

「……明日も神引きしてえな」

 

 そんなことを考えながら、皇牙はゆっくりと目を閉じた。

 

 やがて、城の中には静かな寝息が響き始めた。

 

 異世界で迎える最初の夜。

 

 硬い寝台も、空っぽの部屋も、今の皇牙には大した問題ではなかった。

 

 何しろ、明日になればまたガチャが引けるのだから。

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