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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第57話 SRが出なくても大当たり!? 俺の街に初めての救護所ができた!

 異世界生活四十五日目の朝、神城皇牙は城館の中庭で、人生でも指折りの贅沢な悩みを抱えていた。


「なあ、巴。今日もSRが出たらどうしよう」


 噴水の縁に腰掛け、まだ開いてもいないガチャ画面を想像する。二日前にはフランスの財務総監ジャン=バティスト・コルベール、昨日は大旅行家イブン・バットゥータを召喚した。歴史好きの大学生だった皇牙にとって、二人が自分の国で働いている現状は、何度考えても夢のようだった。


「出てからお考えになればよろしいかと」


「いやいや、心の準備が必要なんだよ。本物の歴史上の人物が目の前に現れるんだぜ?」


「殿は、どなたが現れても同じくらいお喜びになるではありませんか」


「まあな! でも、そろそろ金色の演出に慣れてきた自分が怖い!」


 巴が呆れたように笑う。皇牙は満足そうに伸びをすると、《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:143人】

【SR以上排出率:5%】


「よし、今日も頼むぜ! 俺の悠々自適生活を支えてくれる人材、来い!」


 一回目に現れたのは、N洗濯補助のベティだった。栗色の髪をまとめた女性は、華やかな城館を見回して少し緊張していたが、皇牙が声をかけるとほっとしたように笑った。衣類や布製品を洗い、乾燥させる仕事に慣れているらしい。


「よろしくな、ベティ。ここの洗濯場は結構忙しいから、助かると思うぜ」


 二回目はR看護補助のソフィアだった。落ち着いた物腰の女性で、負傷者の手当てや体調の確認、患者の世話を得意としているという。


「へえ、看護補助か。そういや、うちにはちゃんとした救護所がねえんだよな」


「人も増えてまいりましたから、あれば安心でしょうね」


 巴の言葉に皇牙は頷いた。自分には治癒魔法があるが、一日中街にいるとは限らない。住民たちにも、怪我や病気のときに頼れる場所が必要だろう。


 三回目にはN物資運搬補助のオスカーが現れた。荷物の積み下ろしに慣れた、肩幅の広い青年だ。


「よし、三人とも歓迎するぜ! 今日は金色じゃなかったけど、いい仕事してくれそうだな!」


 皇牙は案内役を呼び、それぞれの担当者へ紹介してもらうよう頼んだ。ソフィアにはあとで街の医療事情について相談したいと伝える。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:146人】

【SR以上排出率:5%】


「人口百四十六人か。悪くねえな!」


 皇牙は画面を閉じ、朝の仕事を終えたとばかりに長椅子へ向かった。その背後で、巴が何か言いかけた瞬間、西門の方から慌ただしい足音が近づいてきた。


「皇牙様! 街道で荷車の事故がありました!」


 駆けてきたロイドの声に、皇牙はすぐに立ち上がった。


「怪我人は?」


「二人です。門番が対応していますが、一人は腕を動かせないそうで……」


「分かった。巴、行くぞ!」


 皇牙は返事を待たずに走り出した。


 西門の内側には荷物を積んだ荷車が止まり、ディランが通行人を迂回させていた。片側の車輪には泥がつき、荷台の袋がいくつか崩れている。街道の轍を外れたところで車輪が石に乗り上げ、荷が傾いたのだという。


 門番用の休憩室では、若い男が左腕を抱えて座っていた。付き添いの御者も額に擦り傷があり、右足をかばっている。


「おい、二人とも意識ははっきりしてるか?」


 皇牙が声をかけると、若者は痛みに顔をしかめながら頷いた。


「はい……でも、腕が……」


「分かった。無理に動かすなよ」


 皇牙は《万能鑑定EX》を発動した。若者は左腕の骨を損傷し、御者は足首を捻挫している。ほかに重大な異常がないことを確かめ、二人に治癒魔法を使うと説明して了承を得た。


 手のひらから柔らかな光が広がり、損傷した部分を包み込む。ほどなく鑑定の表示から怪我の情報が消え、二人の表情から苦痛の色も薄れていった。


「……痛くない!」


 若者は自分の腕を見下ろし、信じられないという顔をした。御者も足をそっと動かし、何度も皇牙へ礼を言った。


「こんなすげえ魔法が使える人がいるなんて……!」


「まあ、俺にかかればこれくらい余裕だぜ!」


 皇牙は得意げに笑ったが、すぐに周囲を見回して眉をひそめた。二人を休ませる椅子はあるものの、横になれる寝台はない。水と布も、その都度門番が別の建物から運んでいる。


 幸い今日は二人で済んだ。しかし、もっと大勢が怪我をしたら、ここでは対応しきれないだろう。


「……何だよ。城は立派なのに、怪我人を休ませる場所すらねえのか」


 思わず漏れた言葉に、巴が静かに頷いた。


「門番たちも、できることはしております。ただ、本来の警備を続けながらでは負担が大きいでしょう」


「だよな。治すのは俺がやるとしても、その前後の世話まで全部頼むわけにはいかねえか」


 そのとき、休憩室の入口にソフィアが現れた。怪我人が出たと聞き、案内役とともに西門へ来たらしい。


「皇牙様。私にもお手伝いできることはありませんか?」


「おお、ちょうどいい! 怪我はもう治したんだが、二人とも事故の直後でな」


 ソフィアは状況を聞くと、若者と御者のそばへしゃがんだ。痛みが残っていないか、頭を打っていないか、気分が悪くなっていないかを落ち着いた声で尋ねる。二人が答える間も急かさず、額の擦り傷や衣服の汚れを確かめていた。


「今はお二人とも落ち着いていらっしゃるようですね。ですが、慌てて出発する必要はありません。水を飲んで、少し休みましょう」


 御者は安堵したように肩の力を抜いた。若者もようやく笑顔を見せる。


 皇牙はそのやり取りを眺めながら、腕を組んだ。魔法で怪我を治すことはできても、不安な相手に話しかけ、休息を勧める仕事には別の技術がいる。ソフィアは自分の得意なことを、当たり前のようにこなしていた。


「……よし。決めた!」


 皇牙が声を上げると、巴とソフィアが振り向いた。


「救護所を造るぞ! 俺がいなくても、怪我人がちゃんと休める場所が必要だ!」


 ソフィアは驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いた。


「それはありがたいです。ただ、場所があっても、手当てに使う道具や清潔な布は必要になります」


「分かってるって! 建物は俺が造る。中身はみんなで揃えようぜ!」


 皇牙は早速、西門の周囲を見て歩いた。巴とディランに通行の妨げにならない場所を確かめてもらい、ソフィアには患者が出入りしやすい構造について意見を求める。


 選んだのは、西門から少し入った場所にある空き地だった。荷車も近づけるが、門前の混雑からは離れている。ソフィアは水を使える場所と、静かに休める部屋が欲しいと希望した。


「了解! そこは俺の得意分野だ!」


 皇牙は《国家創造EX》を発動した。


 足元から淡い光が広がり、空き地に石造りの平屋が出現する。明るい窓、幅の広い入口、手当てを行う部屋と休息室、物資を保管する小部屋。水を使う設備と排水路も建物に組み込み、雨の日でも入りやすいよう入口には屋根を付けた。


 皇牙は完成した建物を見上げ、満足そうに笑った。


「ふっふっふ……どうだ! 俺の救護所第一号!」


「立派な建物ですね、殿」


 巴が微笑むと、皇牙は一段と胸を張った。


「せっかくだから、屋根にでっけえ翼の飾りでも付けようかと思ったんだけどな!」


「患者さんが迷わず入れる方が、大切かと」


 ソフィアに穏やかに言われ、皇牙は少し残念そうに肩を落とした。


「……まあ、今回は実用性重視で我慢するか」


 だが、建物の中へ入ったソフィアは、すぐに必要な物を考え始めた。部屋は完成しているものの、寝台や毛布、包帯などは自動的に用意されない。


 皇牙がクラリスへ連絡すると、彼女はヘルダと一緒に倉庫の在庫を確認してくれた。空いている寝台を二台、毛布と水差しをいくつか回せるという。オスカーは荷運びを買って出て、ガルドたちとともに寝台を救護所へ運び込んだ。


 一方、ベティは洗濯場で使える布を選び、洗浄して乾かす作業を手伝った。すぐ使える清潔な布は先に届け、追加分は乾いてから持ってくることになった。


「ソフィアさん、こちらの布でよろしいでしょうか?」


「ありがとうございます。手当て用と寝具用を分けて置きましょう。汚れたものを入れる容器も必要ですね」


 ヘルダがそれを聞き、倉庫にある容器を確認すると申し出た。リーナも、体調の悪い人が来たときには厨房から湯や消化のよい食事を用意できると教えてくれた。


 皇牙は入口の脇に立ち、次々と運び込まれる物資を眺めていた。


 特別な偉人が指揮しているわけではない。ソフィアが必要なことを考え、ベティが布を準備し、オスカーが荷物を運ぶ。ヘルダとクラリスはそれぞれの仕事を活かし、足りない部分を補っている。


「……へえ。こういうの、案外うまく回るもんだな」


「皆さん、得意なお仕事がございますから」


 巴の言葉に、皇牙はゆっくり頷いた。


 夕方になる頃には、救護所に二台の寝台と最低限の布、水を使う道具が揃った。ソフィアはクラリスと相談し、怪我人が来た際には状態と対応した内容を簡単に記録することにした。ただし、医師がいないため、重い病気や原因の分からない症状まで診断できるわけではない。


「当面は、軽い怪我の手当てと休息のための場所ですね。難しい状態の方が来たら、皇牙様にご相談する必要があります」


 ソフィアが説明すると、皇牙は迷わず頷いた。


「おう、呼んでくれ。すぐ来られるなら来るし、必要なら魔法で治す! でも、俺がいないときにもできることは、少しずつ増やしていこうぜ」


「はい。そうしていただけると、心強いです」


 ソフィアは嬉しそうに微笑んだ。


 午前中に怪我をした旅人たちも、出発前に救護所へ立ち寄った。痛みは完全に消えていたが、まだ長旅の疲れが残っている。ソフィアは二人へ水を勧め、落ち着いて休める場所を案内した。


「助かったよ。怪我を治してくれただけでもありがたいのに、休ませてまでもらえるなんて」


 御者が深々と頭を下げる。


「気にすんなって。どうせ造るつもりだったんだし、最初の利用者になってもらえてちょうどよかったぜ!」


 皇牙が笑うと、若者もほっとした表情になった。


 その様子を見ていたソフィアは、皇牙へ静かに頭を下げた。


「皇牙様。ここを任せていただけるなら、できることから整えていきたいと思います」


「もちろん! ただ、一人で全部抱え込むなよ。ベティたちにも頼って、足りないものはクラリスに相談してくれ」


「はい。ありがとうございます」


 皇牙は満足そうに頷いた。何しろ、自分だって一人で仕事を抱え込むのは大嫌いなのだ。せっかく人材を召喚したのに、誰か一人へ無理をさせては意味がない。


 日が傾く頃、西門の近くには新しい建物の窓から温かな光が漏れていた。立派な病院と呼べるほどの設備はないが、困った人がひとまず助けを求められる場所ができた。


「……へへっ。いいじゃねえか」


 皇牙は建物を振り返り、嬉しそうに笑った。


 城館への帰り道、巴が隣を歩きながら口を開いた。


「殿。今日はずいぶん働かれましたね」


「おう! 怪我人を治して、救護所まで造ったからな。明日は一日寝ててもいいだろ!」


「明日も無料ガチャがございますよ」


「……それは絶対に起きる!」


 皇牙が即答すると、巴は声を立てて笑った。


 皇牙もつられて笑いながら、夕暮れの街並みを眺めた。農地にはマルクたちがいて、工房ではガルドが働いている。コルベールは財務を整え、バットゥータは街道の先を調べている。そして今日、ソフィアたちの仕事によって、新しい救護所が動き始めた。


「なあ、巴。今日ってSRは出なかったけど、結構な当たり日だったよな」


「はい。皆様が、それぞれの力で街を支えておられます」


「だよな! 偉人が来なくても、こうやって国は育つんだな!」


 皇牙は満足そうに笑った。


 アストレアの人口は百四十六人。


 世界を変えるような天才が現れたわけではない。それでも、新しい仲間と住民たちの協力によって、小さな開拓集落には初めての救護所が誕生した。


 皇牙が目指す悠々自適な暮らしは、こうした小さな安心の積み重ねの上に、少しずつ形を成していた。

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