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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

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第2章 第54話 木箱二つが完売!? 初めての遠方取引に大興奮!

 神城皇牙がその日の無料ガチャを引こうと思ったのは、朝食の席で西の定期市の話が出たからだった。


「そういや、グレンってそろそろ帰ってくる頃だよな?」


 異世界生活四十二日目。城館の食堂には焼きたてのパンの香りが漂い、窓の向こうでは住民たちが仕事場へ向かっている。


 巴は茶の入った杯を置き、少し考えてから答えた。


「三日前に出発されましたから、早ければ今日あたりかと」


「木箱、売れてるといいなあ。二つとも売れてたら銀貨八枚だぜ!」


「ですが、運送のお代も必要なのでしょう?」


「……あっ」


 皇牙はパンを持ったまま固まった。


「そうだった。銀貨二枚払うんだったな。ってことは六枚か!」


「殿。木箱を作るためにも、いろいろ必要だったはずですよ」


「うぐっ……。分かった、分かった! 儲けの計算はセドリックに任せる!」


 朝から数字の話をするなど、皇牙にとっては拷問に近い。せっかくの美味い朝食が冷める前に、話題を変えることにした。


「よし! こういうときはガチャだ! 何が出るか分かんねえ方が、よっぽど楽しいぜ!」


 食事を終えると、皇牙は巴を連れて中庭へ向かった。


 目の前に《英霊召喚ガチャEX》の画面を開く。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:134人】

【SR以上排出率:5%】


「さあ来い! できれば渋沢栄一とか、商売に強い偉人を頼む!」


 期待を込めて一回目を引くと、現れたのはN庭園手入れ補助のロニーだった。


「……庭園か。まあ、城の庭も大事だしな!」


 二回目にはR荷車整備補助のユリウス、三回目にはN調理補助のマーサが召喚された。


「おおっ、荷車整備! こいつは当たりじゃねえか!」


 皇牙はユリウスの職種を見て喜んだ。


 グレンの荷車も、出発前にガルドが手入れしたばかりである。これから荷運びの仕事が増えれば、車輪や車軸を点検できる人材はきっと役に立つ。


「よし、三人ともよろしくな! ロニーは庭園の担当者、マーサはリーナのところへ案内してもらってくれ。ユリウスはガルドに紹介しよう!」


 皇牙はクラリスに連絡を頼み、三人をそれぞれの仕事場へ送り出した。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:137人】

【SR以上排出率:5%】


「百三十七人か。よしよし、今日も順調だ!」


 皇牙は満足そうに画面を閉じた。


 これで本日の大切な仕事は終わった。あとは城館に戻って昼寝でもしようと考えたところで、巴が不意に空を見上げた。


「殿。西門から伝令が来るようです」


「ん?」


 振り返ると、石畳の道をロイドが小走りで近づいてきた。


「皇牙様! 荷運び人のグレンさんが戻られました。現在、カイルさんが荷受け場で対応しています!」


「……マジか!」


 皇牙の顔が一瞬で輝いた。


「よっしゃ! 結果発表だ! 行くぞ、巴!」


「お昼寝はよろしいのですか?」


「ガチャと商売の結果が出る日だぞ! 寝てる場合じゃねえ!」


 そう言って走り出した皇牙を、巴は笑いながら追いかけた。


 荷受け場では、一台の荷車が屋根の下に止まっていた。


 手綱を握っているのはグレンだ。外套には街道の土埃がつき、日に焼けた顔には少し疲れが見える。それでも皇牙の姿を見つけると、いつもの豪快な笑みを浮かべた。


「よう、皇牙様! 無事に戻ったぜ!」


「おう、お疲れさん! 馬も元気そうだな!」


「こいつは丈夫だからな。途中でゆっくり休ませたし、問題ねえよ」


 グレンは馬の首を軽く撫でた。


 皇牙は挨拶を済ませると、我慢できずに荷台を覗き込んだ。


 布の下には旅道具や空の袋があるだけで、出発時に積んでいた蓋付き木箱が見当たらない。


「……あれ? 木箱は?」


 皇牙が振り向くと、グレンはにやりと笑った。


「二つとも売れたぜ。定期市で、な」


「……本当か?」


「おう。しかも、値下げなしだ!」


「よっしゃあああ!」


 皇牙の歓声が広場いっぱいに響いた。


 近くで荷物を整理していたテレサたちまで振り返り、何事かと目を丸くする。


「すげえじゃねえか! 初めて外へ出した木箱が完売だぞ!」


「たった二つだけどな!」


「二つでも完売は完売だろ! 百パーセントだぜ!」


 皇牙が大げさに拳を突き上げると、グレンは腹を抱えて笑った。


 そこへカイルが記録帳を手に歩み寄った。


「グレンさん、お帰りなさい。お疲れでしょうが、荷物の確認をさせてください」


「おう。そのために戻ってきたんだからな」


 カイルは出発時の記録を開いた。


 預けた商品は蓋付き木箱二個。販売希望価格は一個銀貨四枚で、それより安く売る場合は持ち帰って相談する取り決めだった。


 グレンは腰の革袋を取り出し、銀貨八枚を数えて見せた。


「二個とも一個銀貨四枚で売れた。相手は定期市で小さな道具を扱ってる商人だ。前から何度か荷物を運んでやってる顔なじみでな」


 グレンは市場での出来事を話し始めた。


 最初、商人は見慣れない木箱にそれほど興味を示さなかったという。ところが、グレンが蓋を開け閉めして見せ、ガタつきの少なさを説明すると、手に取って細かい部分を確かめ始めたらしい。


「最後は二つ並べて、角までじっくり見てたぜ。安いだけの箱ならそこまで見ねえだろうが、作りが丁寧なのはちゃんと伝わったみてえだ」


「……へえ!」


 皇牙は嬉しくなった。


「それ、ガルドに聞かせてやりてえな!」


「もちろん聞かせるさ。作った本人が一番喜ぶだろ」


 グレンは笑い、続けて帰路の話もしてくれた。


 三十九日目の朝にアストレアを出発し、その日のうちに定期市の近くへ到着。翌四十日目に木箱を売り、ほかの荷運びの用事を済ませた。四十一日目には帰路へ入り、途中の宿場で一泊してから、今朝アストレアへ戻ってきたという。


「木箱が売れたなら、すぐ帰ってくりゃよかったのに」


「俺にもほかの客がいるんだよ。片道だけ荷車を空にして走ったら、飯が食えねえからな」


「……なるほど。荷運び屋も大変なんだな」


 皇牙は感心したように頷いた。


 商売にはいろいろな仕事がある。だが、グレンが普段どうやって稼いでいるのかまで考えたことはなかった。


 カイルが確認を終えると、一行はセドリックのいる帳簿室へ向かった。


「では、販売代金の精算をお願いします」


 カイルが記録帳を差し出すと、セドリックは売上銀貨八枚を受け取り、枚数を確かめた。


 続いて、取り決めどおり往復運賃として銀貨二枚をグレンへ支払う。グレンも受け取った額を確認し、これで今回の運送契約は無事に完了となった。


「売上が銀貨八枚、運送費が銀貨二枚。差し引き六枚が手元に残ります。ただし、ここから木材や製作にかかった費用も考えなければなりません」


 セドリックが説明すると、皇牙はすかさず手を上げた。


「はい! 細かい計算は任せます!」


「……まだ何もお願いしておりませんが」


「そうなる前に言っとこうと思ってな!」


 皇牙が胸を張ると、セドリックは呆れたように笑った。


 だが、帳簿の記録には一切手を抜かない。ガルドの工房で使った材料の分も確認し、今回の取引を別の仕事と混同しないよう整理していった。


 皇牙はその几帳面な手つきを眺め、少しだけ満足した。


 自分には絶対に向いていない仕事だ。だからこそ、こうして得意な人間が担当してくれているのはありがたい。


「よし! じゃあ、ガルドのところへ行こうぜ!」


 皇牙はグレンを連れ、工房へ向かった。


 工房では木材を削る音が響き、作業台の上には製作途中の道具が並んでいた。


 ガルドはエドガーに木材の扱いを教えているところだったが、皇牙たちの姿を見つけると手を止めた。


「おう、皇牙様。どうしたんだ?」


「いい知らせだぜ、ガルド!」


 皇牙はわざと間を置き、にやりと笑った。


「お前の木箱、二つとも売れた!」


 ガルドは一瞬、何を言われたのか分からないような顔をした。


「……二つとも?」


「おう! 一個銀貨四枚、値下げもなしだ!」


「……そうか」


 ガルドは作業台に置いていた道具をゆっくり下ろした。


 その顔に、じわじわと笑みが広がっていく。


「……そいつは嬉しいな」


 いつもの豪快な声ではなかった。


 最初に皇牙のもとへ召喚された頃、ガルドの仕事といえば壊れた道具の修理や、日々の暮らしに必要な物を作ることだった。


 立派な城が一瞬で完成するのを目の当たりにして、自分の仕事など必要なくなるのではないかと思ったこともある。


 だが、皇牙が造った城には家具も道具も足りず、工房には次々と仕事が持ち込まれた。そして今、自分が作った木箱が、遠くの市場で金を払って買われたのである。


「俺の作った物を、会ったこともねえ奴が気に入ってくれたのか……」


 ガルドは少し照れたように頭をかいた。


 グレンが市場での話を聞かせると、その顔はさらに明るくなった。


「蓋の合わせ目まで見てくれたのか。そこ、結構気を遣ったんだよ」


「だから言ったろ。仕事が丁寧なのは伝わるって」


 グレンが笑う。


 皇牙はガルドの肩を軽く叩いた。


「やったな! 次も売れたら、もっとすげえことになるぞ!」


「ははっ。そううまくいくかは分からねえけどな。でも、やってみる価値はありそうだ!」


 その言葉には、職人らしい自信があった。


 工房の仲間たちも作業の手を止め、ガルドを囲んで喜んだ。


 エドガーはその様子を眺めながら、作業台に置かれた木箱へ目を向けた。


「……こういう物が、外の市場でも売れるんですね」


「おう。だから作るときは手を抜けねえんだ」


 ガルドは笑って答えた。


 その後、グレンは定期市の商人が別の大きさの木箱にも関心を示していたことを伝えた。


 ただし、追加注文が入ったわけではない。実物を見てから考えたいという程度の話だった。


「だったら、見本を作ってみるか」


 ガルドは少し考え、今の木箱より浅い形を試作してみたいと言った。


 重ねて運びやすく、小さな道具を並べて入れられる形だという。


 エドガーも興味深そうに耳を傾けている。


「荷車に積むなら、箱が動かないような形も考えた方がいいかもしれませんね」


「おっ、いいところに気づいたな。じゃあ、一緒に考えてみるか」


「はい!」


 エドガーは嬉しそうに頷いた。


 皇牙は二人のやり取りを見て、満足げに笑った。


 自分が工房を造り、ガルドが商品を作り、グレンが運び、カイルとセドリックが仕事と金を管理する。


 誰か一人ですべてをやっているわけではない。


「……いいじゃねえか。これぞ俺が目指してた国って感じだな」


 皇牙が呟くと、巴が隣で微笑んだ。


「皆様の力が、少しずつつながっておりますね」


「そうそう! 俺は何もしなくても……」


 そこまで言って、皇牙は少し考え直した。


「……いや、何もしなくてもってのは違うか。俺は俺で、格好いい建物を造ってるしな!」


「はい。それも立派なお仕事でございます」


 巴が真面目な顔で頷いたので、皇牙は満足そうに胸を張った。


 午後、グレンは荷受け場で馬を休ませながら、カイルと次に通る街道について話していた。


 定期市には木箱以外にも、乾物や布、農具などさまざまな品物が並んでいたらしい。今後、アストレアで不足している物を買い付ける仕事も頼めるかもしれない。


 ただし、次の契約はまだ結ばないことになった。


 ガルドの試作品が完成してから、運ぶ品物と数量を決めるためだ。


「またこの辺りを通るときに寄るぜ。今度は何を運ぶことになるか、楽しみにしてるよ」


 グレンはそう言って笑った。


 皇牙も満足そうに頷いた。


「おう! 次は木箱十個くらい売れたら最高だな!」


「その前に、十個作れるか確認しろよ!」


 グレンの返しに、周囲から笑い声が上がった。


 夕方、皇牙は城館へ戻った。


 中庭では朝に召喚したロニーが庭木の状態を確認し、厨房からはマーサたちが準備する夕食の香りが漂ってきている。


 工房ではユリウスがガルドから荷車の構造を教わり、これからの整備作業について話し合っている頃だろう。


 皇牙は庭の長椅子へ腰を下ろし、ようやく一息ついた。


「……ふう。今日はいい日だったな」


 木箱二つが売れただけだ。


 国が突然豊かになったわけでもなければ、金貨百枚が手に入ったわけでもない。有料ガチャ一回分には、まだ遠い。


 それでも、ガルドがあんなに嬉しそうな顔をしていた。


 最初は四人しかいなかったアストレアで、仲間が作った品物が外の世界に認められたのだ。


「……へへっ。こういうの、悪くねえな」


 皇牙は目を閉じ、気持ちよさそうに伸びをした。


 少し離れた場所で、巴が静かに庭の様子を眺めている。


「殿。今日はよい知らせがありましたね」


「おう! ガルドには今度、美味いもんでも食わせてやりてえな」


「きっと喜ばれますよ」


「グレンにも、ちゃんと休んでもらわねえとな。次も元気に運んでもらわなきゃ困るし!」


 皇牙は笑いながら答えた。


 仕事をするのは相変わらず面倒くさい。けれど、頑張った仲間たちが喜んでいる姿を見るのは好きだった。


 だったら、自分の役目は決まっている。


「よし! もっと仕事がしやすい街にして、みんなに稼いでもらうぞ!」


 皇牙はそう宣言すると、長椅子に深く身体を沈めた。


「……で、俺はその間に昼寝する!」


 巴の笑い声が、夕暮れの庭に響いた。


 アストレアの初めての遠方取引は、木箱二つの完売という小さな成功を収めた。


 まだ百三十七人の開拓集落。


 それでも、この場所で生まれた品物と、そこで働く人々の名前は、確かに外の世界へ届き始めていた。

お読みいただきありがとうございます。

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