↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/140

第2章 第49話 荷車一台で大騒ぎ!? 俺の街に足りないもの

 トーマス一家がアストレアへ移り住んだ翌朝、十七歳のエドガーは新居の前で一本の鍬を握り、少しばかり悩んでいた。


 昨日、二宮尊徳とマルクから農地を見せてもらい、しばらくは父親と一緒に畑仕事を手伝うことになっている。けれど、彼にはもう一つ気になる場所があった。住宅地の向こうに見える工房である。


 故郷では、壊れた農具を直すにも苦労した。だから、道具を作る職人の仕事には以前から興味があった。ただ、自分にできることといえば、畑を耕し、荷車を動かし、収穫した作物を運ぶくらいだ。


「エドガー、そろそろ行くぞ」


 物置から出てきたトーマスが声をかけた。


「ああ。父さん、畑へ行く前に工房の前を通ってもいいかな」


「構わないが、マルクさんとの約束には遅れるなよ」


「分かってるって」


 エドガーは父親と並んで歩き出した。新しい道には朝から人が行き交い、職人らしい男たちが木材を抱えて工房へ向かっている。


 昨日は引っ越しのことで精いっぱいだったが、今日は少し周りを見る余裕があった。


 一方その頃、神城皇牙は城館の食堂で、焼きたてのパンを頬張っていた。


「くうっ……。やっぱり朝飯は最高だな。昨日は家も造ったし、今日は昼まで寝ても罰は当たらねえだろ」


 異世界生活三十七日目。昨夜の時点で、アストレアの人口は百十九人になっている。


 トーマス一家が無事に新生活を始めたおかげで、皇牙はすっかり上機嫌だった。もちろん、人口が増えたことも嬉しいが、家族四人が新しい家を喜んでくれたことも、思った以上に心に残っている。


「殿。トーマス殿とエドガー殿は、もう農地へ向かわれたそうですよ」


 向かいに座る巴が茶を飲みながら教えてくれた。


「おっ、働き者だな。引っ越したばっかりなんだし、もう少し休んでもいいだろうに」


「早く新しい暮らしに慣れたいのでしょう」


「俺だったら三日は休むぜ」


「殿は三日で足りますか?」


「……お前、最近ちょっと遠慮がなくなってねえか?」


 巴が口元を押さえる。皇牙は苦笑しながら残りのパンを口へ放り込んだ。


 ところが、食後に城館の外へ出ると、工房の方から怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい! そっちへ寄せたら道が塞がるだろ!」


「じゃあ、どこで荷物を降ろせばいいんだよ!」


「……何だ?」


 皇牙が巴と顔を見合わせて歩いていくと、倉庫の前に大きな荷車が止まっていた。荷台には工房で使う木材が積まれ、周囲では数人の職人が困り果てている。


 その中心にいたのは、初めての無料ガチャで召喚した職人のガルドだった。


「おい、ガルド。朝っぱらから何やってんだ?」


「ああ、皇牙様! ちょうどよかった!」


 ガルドは助かったとばかりに近づいてきた。


「工房の仕事が増えたんで、別の保管場所にあった木材をまとめて運ぶことにしたんだ。今までは人が少しずつ抱えてきたんだが、荷車を使ったら入口の前が詰まっちまってな」


 皇牙は倉庫と荷車を見比べた。倉庫の入口は十分な大きさがあるが、その前を通る道は住宅地へも続いている。荷車を横づけすると、人がすれ違う余裕すらなくなってしまう。


「……なるほど。建物は立派なのに、荷物を降ろす場所がねえんだな」


「そういうことだ。しかも、今後はもっと木材を運ぶ予定なんだよ」


 そのとき、通路の端から控えめな声がした。


「あの……荷車を後ろ向きにつけられたら、もう少し楽だと思うんですけど」


 見ると、エドガーがトーマスと一緒に立っていた。


「おっ、昨日の兄ちゃんじゃねえか!」


「おはようございます。畑へ行く途中だったんですけど……」


「それで、荷車を後ろ向きにするって?」


 エドガーは頷いた。


「故郷では、収穫した麦を倉庫へ運ぶとき、荷車の後ろから荷物を降ろしてたんです。でも、ここだと向きを変える場所がありませんよね」


 ガルドが腕を組んで考え込んだ。


「確かに、その方が木材をまっすぐ運べるな。ただ、今の道じゃ馬を回せねえ」


「だったら、回れる場所を造りゃいいだろ!」


 皇牙はあっさり言った。


 しかし、すぐに造り始めようとしたところで、巴が前へ出た。


「殿。荷車の通る場所と、人が歩く場所も分けた方がよいのでは?」


「ん?」


「今も住民が通れずに困っております。荷車が増えれば、通りがかった子どもが巻き込まれることも考えられます」


 皇牙は振り返った。確かに、少し離れた場所では住民たちが荷車を避け、狭い道の端を通っている。


「……そりゃ危ねえな。よし、歩く道は別にしよう!」


「それなら、荷車を入れる場所は倉庫の裏手がよいかもしれませぬ」


 ちょうど様子を見に来た山本勘助が、空き地の方を指さした。


 裏手にはまだ建物がなく、道も十分に広げられる。勘助は荷車の向きを変える場所を確保し、歩行者の道とは交わらないようにする案を示した。


「おお、いいじゃねえか! やっぱりこういうのは専門家に聞くに限るな!」


 皇牙は嬉しそうに頷いた。


 そこへ、倉庫からテレサが顔を出した。昨日召喚されたばかりの荷物整理補助の女性で、今朝も倉庫担当者と一緒に作業していたらしい。


「皇牙様。荷物の置き場所についても相談してよろしいでしょうか」


「おう、何だ?」


「木材と布、それから修理待ちの道具が同じ入口から入ってくるんです。受け取ってから仕分けるので、荷物が多い日は中が混雑してしまって……」


 テレサは少し申し訳なさそうに続けた。


「木材だけでも、工房の近くへ直接運べれば助かります」


 皇牙はガルドへ目を向けた。


「どうだ?」


「それなら俺たちも助かるぜ。木材をいったん倉庫の奥へ入れて、必要なときにまた運び出すのは面倒だったからな」


「よし、決まりだ!」


 皇牙は地面にしゃがみ、拾った小枝で簡単な図を描いた。


「ここを荷車の出入口にして、奥でぐるっと回れるようにする。木材は工房側で降ろして、ほかの荷物は今の倉庫へ運ぶ。人が歩く道はこっちな!」


 ガルドが図を覗き込み、荷車を停める位置を少し直した。エドガーも、馬が無理なく向きを変えられるよう、曲がる部分に余裕を持たせるよう提案した。


 皇牙は二人の意見を聞き、満足そうに頷いた。


「よっしゃ! じゃあ、造るぞ!」


 新しい施設を造る場所が決まると、皇牙は《国家創造EX》を発動した。


 地面が静かに整い、広々とした石畳の荷受け広場が現れる。荷車が方向転換できるよう、中央には余裕を持たせた。工房側には固定式の屋根付き荷下ろし場を設け、その奥に木材を一時保管できる建物を新設する。


 既存の倉庫には手を加えていない。中には荷物があり、作業している者もいるため、隣に必要な施設を増やす方が簡単だった。


 さらに巴と勘助の提案を取り入れ、荷車の通路とは別に歩行者用の道を整える。


「ふっふっふ……。完成! アストレア第一物流拠点!」


 皇牙は両手を広げた。


「どうだ! 完璧だろ!」


「いやあ、こりゃすげえ!」


 ガルドは感心しながら新しい荷下ろし場を歩いた。


「これなら木材を運びやすいな。皇牙様、助かったぜ!」


「へへっ、もっと褒めてくれていいんだぞ?」


 皇牙は得意げだったが、エドガーは新しい広場を見渡し、少し考えていた。


「あの、荷車を動かしてみてもいいですか?」


「おう! 頼むぜ!」


 エドガーはトーマスと一緒に馬を引き、荷車を広場へ入れた。十分な余裕を持って方向を変え、木材の荷下ろし場へ後ろを向ける。


 今度は問題なく止められた。


「おおっ! いい感じじゃねえか!」


 皇牙が声を上げると、ガルドも嬉しそうに頷いた。


 ところが、実際に木材を運び始めたところで、別の問題が起きた。


「……あれ? この木材、どこへ置けばいいんだ?」


 職人の一人が首を傾げた。


 新しい荷受け場はできたものの、運び込む順番も、木材を種類ごとに置く場所も決まっていない。長い木材と短い木材が入り交じり、あっという間に作業場所が散らかり始めた。


「……あー、なるほど」


 皇牙は頭をかいた。


「場所ができても、使い方を決めなきゃ駄目なのか」


「そういうことだな」


 ガルドも苦笑した。


 そこでテレサが、倉庫担当者に確認したうえで提案した。


「長い木材は奥へ、短い木材は手前へ置くのはどうでしょう? 工房で今日使う分だけ、こちらの作業場所へ運んでおけば、通路も塞がらないと思います」


 ガルドが頷く。


「それならいいな。どれを先に使うかは、俺たちが決めりゃいい」


 エドガーも荷車から降ろす木材の順番を考え、長いものから先に運ぶと作業しやすいと伝えた。


 皇牙は三人のやり取りを眺め、感心したように腕を組んだ。


「……なるほどな。俺が建物を造っても、中の仕事までは勝手に決まらねえってことか」


「そういうことですね」


 巴が穏やかに答えた。


「でも、皆で考えれば、ちゃんと使いやすくなるんだな」


 皇牙は満足そうに笑った。


 作業の順番が決まると、木材は次々と所定の場所へ運ばれていった。今度は荷車が道を塞ぐこともなく、職人たちも必要な木材を迷わず取り出せる。


 ガルドは一段落したところで、エドガーの肩を軽く叩いた。


「お前、荷車の扱いに慣れてるんだな。助かったぜ」


「……昔から父さんと一緒に運んでたんで」


「それも立派な経験だ。道具を作るだけが職人の仕事じゃねえし、運ぶ道具を使いやすくするのも大事だからな」


 エドガーは少し驚いた顔をした。


「……荷車の修理とかも、ここで教えてもらえるんですか?」


「興味あるなら、仕事の邪魔にならねえときに見に来いよ。まずはマルクとの約束を守ってからだけどな」


 ガルドが笑うと、エドガーも嬉しそうに頷いた。


 父親のトーマスはその様子を静かに見守っていた。


 息子には自分と同じ農民になってほしいと思っていたわけではない。ただ、ほかに何ができるのか分からなかっただけだ。今日の出来事を見て、その考えが少し変わった。


「エドガー。畑仕事を覚えるのも大事だが、興味があることはやってみるといい」


「……うん。ありがとう、父さん」


 皇牙は二人の会話を聞き、満足そうに頷いた。


「いいじゃねえか! 得意な仕事が見つかるなら、それが一番だろ!」


「殿も、ご自身の得意なことには熱心ですものね」


 巴が笑顔で言った。


「そうそう! 俺は建築とガチャの専門家だからな!」


「昼寝もお得意ですよね」


「……おい、そこまで言うか?」


 周囲から笑い声が上がった。


 昼過ぎ、皇牙はクラリスへ新しい荷受け場の完成を報告した。倉庫担当者とガルドが荷物の受け取り方を決め、テレサはその補助をすることになっている。


 クラリスは説明を聞き、早速記録を整え始めた。


「これなら、今後荷物が増えても対応しやすくなりそうですね」


「だろ? 俺の建築センスがまた輝いちまったぜ!」


「ただ、施設が増えた分、管理する人手についても考える必要があります」


「……そこは任せる!」


 皇牙が即答すると、クラリスは苦笑した。


 夕方になると、荷受け場には今日運び込んだ木材が整然と並んでいた。荷車も邪魔にならない場所へ移され、歩行者用の道では住民たちが普段どおり行き交っている。


 皇牙はその光景を眺め、満足そうに頷いた。


 立派な施設を造るのは楽しい。だが、実際に使う者たちが工夫することで、初めて便利な場所になるのだと、今日は改めて感じた。


「……さてと。俺の仕事も終わったし、次はお楽しみの時間だな!」


 皇牙は中庭へ戻り、《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


【無料召喚:3/3回】


【国家人口:119人】


【SR以上排出率:5%】


「さあて! 今日こそ歴史の偉人、来い!」


 皇牙は勢いよく一回目を引いた。


 現れたのはN荷物運搬補助のベルト。続いて二回目はR物流管理補助のカイル、三回目はN道具整理補助のフィナだった。


「……おおっ!? 今日のガチャ、倉庫関係ばっかりじゃねえか!」


 皇牙は思わず笑った。


 特にカイルは物流管理を得意とするR人材だという。今日造った荷受け場の運用についても、頼りになりそうだった。


「くくく……。これはもう、アストレアを大陸一の物流都市にしろってことだな!」


「殿。まだ荷受け場が一つできたばかりですよ」


 巴が呆れたように言った。


「夢はでっかく持つもんだろ!」


 皇牙は三人を歓迎し、仕事の配置についてはクラリスたちへ相談してもらうことにした。


【無料召喚:0/3回】


【国家人口:122人】


【SR以上排出率:5%】


「百二十二人か。よしよし、順調だな!」


 皇牙は上機嫌で画面を閉じた。


 その夜、トーマス一家の新居では、温かな夕食の香りが漂っていた。


 マリアは持参した鍋で豆と野菜の煮込みを作り、リリーは昼間に近所の住民から聞いた話を楽しそうに披露している。


「お母さん、今度リーナさんのところへ行くんでしょ? 私もついていっていい?」


「ええ。でも、お仕事の邪魔にならないようにね」


「分かってる!」


 エドガーは食卓につくと、今日の荷受け場での出来事を話し始めた。ガルドに荷車の扱いを褒められたこと。工房では、荷車の修理についても学べるかもしれないこと。


 マリアは嬉しそうに話を聞き、トーマスは静かに頷いた。


「……お前、今日はずいぶん楽しそうだな」


「うん。畑仕事も続けるけど、ほかにも覚えられることがありそうだからさ」


 エドガーは少し照れくさそうに笑った。


「ここへ来て、よかったのかもしれない」


 その言葉に、マリアは夫と顔を見合わせた。


 まだ必要な家具も揃っておらず、知らないことも多い。それでも、この土地で自分たちの役割を見つけ始めている。


「そうね。私も、そう思うわ」


 マリアは穏やかに微笑んだ。


 窓の外には、皇牙が造った石畳の道が続いている。夕暮れの中、仕事を終えた住民たちがそれぞれの家へ帰っていく姿が見えた。


 アストレアへ移り住んで二日目。


 トーマス一家は、新しい土地で少しずつ、自分たちの居場所を見つけ始めていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。