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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

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第2章 第48話 新しい家族がやってきた! 家なら俺に任せろ!

 西門の外に止まった荷車から、乾いた藁の匂いが漂っていた。


 荷台には使い込まれた木箱が三つ、布で包んだ寝具が四組、それに鍋や食器、農具を束ねた荷物が積まれている。馬の手綱を握る男は、門の向こうにそびえる城を見上げると、隣に立つ妻へ静かに頷いた。


「……やっぱり、夢じゃなかったな」


「ええ。あなたが帰ってきてから何度も話していたお城、本当に大きいのね」


 トーマスとマリアが初めてアストレアを訪れてから、一週間が過ぎていた。


 今日は二人だけではない。十七歳の息子エドガーと、十二歳の娘リリーも一緒だった。リリーは荷車の陰から顔を出し、城壁の上を歩く見張りを見つけて歓声を上げた。


「お父さん! あそこ、人が歩いてる! 本物のお城だ!」


「分かったから、荷車から落ちるなよ」


 エドガーが妹の服を引くと、リリーは頬を膨らませた。それでも目線は城壁から離れない。


 門にいたディランは来訪者の名前を確かめ、以前の記録と照らし合わせた。トーマスが家族で移住を希望していると伝えると、荷車を迎賓広場の停車場所へ誘導し、クラリスへ連絡を送った。


 しばらくすると、城館の方から勢いよく駆けてくる男がいた。


「おおっ! トーマスじゃねえか! 本当に家族を連れてきたんだな!」


 神城皇牙だった。


 その少し後ろを、巴が落ち着いた足取りでついてくる。


「皇牙様。先日はありがとうございました」


「おう! で、今日はもう引っ越すつもりなのか? 荷物、結構持ってきてるよな」


 トーマスは頷いたものの、すぐに妻と子どもたちを振り返った。


「はい。ただ、最後に家族全員で中を見せていただきたくて。皆が納得できれば、そのまま住み始めたいと思っています」


「なるほどな。だったら、とことん見てけよ!」


 皇牙が笑うと、リリーが勢いよく手を上げた。


「私、お城の中も見たい!」


「おっ、いい趣味してるじゃねえか! あの城、俺が造ったんだぜ!」


「ええっ!? お兄さんが!?」


「お兄さん……!」


 皇牙は思わず顔を輝かせた。


 巴が横で口元を押さえる。


「殿。随分と嬉しそうですね」


「そりゃ嬉しいだろ! まだ二十二歳だし、立派なお兄さんだっての!」


 そんなやり取りに、緊張していたマリアも小さく笑った。


 まず四人が案内されたのは、門の近くにある来客用休憩所だった。クラリスは以前の相談内容を確かめると、今日すぐに正式な移住を決める必要はないと伝えた。


「お住まいになる家は用意できますが、仕事や日用品はこれから整えていく部分もあります。実際に見ていただいてから、お決めください」


「はい。そのつもりで参りました」


 マリアが答えた。


 皇牙は荷車の荷物を思い出し、首を傾げた。


「でも、ずいぶん準備してきたんだな」


「戻ってくるつもりでしたから」


 トーマスが少し照れくさそうに笑う。


「ただ、気持ちだけで決めてしまわないように、妻と約束したんです。子どもたちにも、自分の目で見てから決めてもらおうと」


 エドガーは父親の隣で黙って頷いた。リリーはまだ城のことが気になっているようだったが、母親に手を握られると、おとなしく席へ座った。


 クラリスの説明を聞き終えたあと、一行は住宅地へ向かった。


 石畳の道の両側には家々が並び、軒先では洗濯物が風に揺れている。道具を抱えた職人が工房へ向かい、畑から戻ってきた住民が顔見知りと挨拶を交わしていた。


 マリアは、すれ違う人々の様子を注意深く見ていた。


 以前ここを訪れたとき、家を建ててもらえると聞いて驚いた。しかし、立派な家があるからといって、そこで安心して暮らせるとは限らない。夫が移住を希望したあとも、彼女の気持ちがすぐには決まらなかったのはそのためだった。


 そのとき、リリーが道端の小さな腰掛けに目を留めた。


「あっ、お母さん! あそこで休んでるおばあちゃん、手を振ってる!」


 年配の女性が、見慣れない一家へ穏やかに笑いかけていた。


「新しく来た人たちかい? 道に迷ったら、誰かに聞くといいよ」


「ありがとうございます」


 マリアが頭を下げると、女性はそのまま近くの家へ戻っていった。


 特別な出来事ではなかった。それでも、マリアは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。


 続いて向かった農地では、マルクと二宮尊徳が作業の様子を確認していた。


 トーマスが農業の経験を話すと、マルクは畑の土を指さした。


「この辺りは、以前住んでいた村とは土の具合が違うと思います。最初は俺たちと一緒に様子を見ながら働いてもらうのがいいでしょうね」


「それならありがたいです。俺も、知らない土地でいきなり一人で畑を任されるのは不安だったので」


 トーマスは正直に答えた。


 尊徳も穏やかに頷いた。


「新しく移り住まれる方には、これまでの経験を活かしていただきたいと考えております。ただ、こちらの作物や土地に慣れる時間も必要でしょう」


 その言葉を聞いていたエドガーが、少し迷いながら口を開いた。


「……俺、畑仕事しかやったことがないんです。でも、ここには工房もあるんですよね」


「おっ、何だ。職人にも興味があんのか?」


 皇牙が尋ねると、エドガーは頷いた。


「父さんの仕事も続けたいです。でも、道具を直せたら畑でも役に立つと思って」


 それを聞いた皇牙は、嬉しそうに口角を上げた。


「いいじゃねえか! 俺なんか、大学じゃ歴史ばっかり勉強してたぞ。興味あるならガルドにも聞いてみろよ」


「……大学?」


「あー、こっちの話! とにかく、最初から一つに決めなくてもいいってことだ!」


 エドガーは戸惑いながらも、少し笑った。


 その後、マリアの希望で共同厨房も見せてもらうことになった。


 リーナは仕込みの手を止め、四人を歓迎した。作業台には切り分けられた野菜が並び、大鍋からは温かな湯気が立ち上っている。


「ここでは、希望する方の食事をまとめて用意しています。ご家庭で料理をされる方もいますよ」


「私は保存食作りや裁縫ができます。何かお手伝いできればと思っているのですが……」


「それは助かります。どんなものを作っていらしたのか、今度詳しく教えていただけませんか?」


 リーナの声は明るかった。


 マリアが保存野菜の作り方を話し始めると、二人はすぐに顔を寄せ合った。話の途中で、リーナは棚から小さな壺を取り出し、今使っている保存食の香りを確かめてもらった。


「これはいい香りですね。でも、もう少し塩を控えても保存できる方法があるかもしれません」


「本当ですか? ぜひ聞かせてください!」


 マリアは驚いた。仕事を与えてほしいとお願いするつもりだったのに、今まで自分がしてきたことを、こんなに興味深そうに聞いてもらえるとは思っていなかった。


 厨房を出る頃には、彼女の表情から硬さが消えていた。


「……ねえ、あなた」


 マリアは夫へ小さく声をかけた。


「私、ここなら暮らしていける気がするわ」


 トーマスは妻を見つめた。


「いいのか?」


「ええ。知らない場所だから怖かったの。でも、困ったときに話せる人がいるなら、やっていけそう。何より、私たちにもできることがありそうだから」


 夫婦の会話を聞いた皇牙は、少し離れた場所で巴へ囁いた。


「……なあ。俺、家を見せればすぐ決まると思ってたんだけどさ」


「住む場所だけでなく、そこで誰と暮らすかも大切なのでしょう」


「なるほどなあ」


 皇牙は感心したように頷いた。


 昼過ぎ、一家は改めてクラリスのもとへ戻った。


 トーマスは妻と子どもたちの顔を確かめ、全員が移住を希望していると伝えた。リリーは大きく頷き、エドガーも自分で働き方を考えてみたいと話した。


 クラリスは四人の名前と家族構成、持参品、当面の生活について記録を整えた。住居の場所が決まり、実際に入居する段階で正式な住民として扱うことも説明した。


「それじゃあ、俺の出番だな!」


 皇牙は待ちきれない様子で立ち上がった。


 一家を案内したのは、共同厨房や農地へ通いやすい住宅地の一角だった。以前に造った見学用の家とは別の場所で、周囲にはすでに人が暮らしている。


「で、どんな家がいい?」


 皇牙の問いに、トーマスは困ったように笑った。


「四人で住めれば十分です。贅沢は言えません」


「遠慮すんなって! 壁と屋根だけじゃつまんねえだろ!」


 皇牙が得意げに言うと、マリアが控えめに希望を伝えた。


「台所から外へ出やすいと嬉しいです。水を汲んだり、野菜を洗ったりしますので」


「なるほど。じゃあ台所の横にも出入口を造るか。屋根付きの作業場所も付けようぜ!」


「そこまでしていただけるのですか?」


「建物のことならタダだからな! その代わり、鍋や食器は自分たちで頼むぜ」


 皇牙は笑って答えた。


 リリーは両親の顔を見比べ、小さく手を上げた。


「私、窓からお城が見える部屋がいい!」


「おっ、分かってるじゃねえか! 景色も大事だよな!」


 エドガーは少し悩んだ末、農具を置ける場所が欲しいと言った。家族で持ってきた道具を雨に濡らしたくないらしい。


「よし! だったら物置も付けよう!」


 皇牙は区画を見渡し、隣家との間隔と道の位置を確かめた。


「《国家創造EX》!」


 地面に石造りの土台が現れ、木の壁が立ち上がった。屋根が形を成し、窓と扉が備わっていく。台所の横には屋根付きの作業場所が設けられ、その奥に小さな物置ができた。


 わずかな時間で、一軒の家が完成した。


「……すごい」


 マリアが呟いた。


 リリーは大喜びで窓へ駆け寄り、城の方角を確かめた。


「見える! お城が見えるよ、お母さん!」


「本当ね」


 トーマスは新しい家を見上げ、しばらく言葉を失っていた。


 皇牙は腰に手を当て、満足げに頷いた。


「ふっふっふ……。家族の希望を取り入れた特別仕様だぜ!」


「殿。リリー殿の窓は、ずいぶんお気に入りのようですね」


 巴が笑う。


「当然だろ! 城は俺の最高傑作だからな!」


 家の中には固定されたかまどや棚があるものの、鍋や寝具、食器はまだ置かれていない。飲み水は近くの共同井戸から運ぶ必要があり、燃料も使う分を用意しなければならない。


 それでもトーマス一家は、持参した荷物で当面の生活を始められると確認できた。


 クラリスは住居の位置と入居開始を記録し、四人の住民登録を正式に完了させた。


 皇牙が《国家管理EX》を開くと、人口の数字が変わっていた。


【国家人口:116人】


「おおっ! 四人増えた!」


 昨夜の時点では百十二人だった。ガチャを引いていないのに人口が増えるのを見ると、今でも妙に嬉しくなる。


「ようこそ、アストレアへ! 今日からよろしくな!」


 皇牙が差し出した手を、トーマスはしっかりと握り返した。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 日が傾き始めると、一家は荷車から荷物を下ろし始めた。


 エドガーが寝具を運び、マリアが食器の入った箱を台所へ置く。トーマスは農具を物置へ収め、リリーは自分の布袋を抱えて部屋を行ったり来たりしていた。


 巴は荷物の運び込みを手伝いながら、リリーが窓辺へ置こうとしていた箱を受け取った。


「こちらでよろしいですか?」


「うん! ありがとう、巴さん!」


「ふふ。お城がよく見えますね」


 リリーは嬉しそうに頷いた。


 その頃、皇牙は城館へ戻り、いつもの無料ガチャを開いていた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:116人】

【SR以上排出率:5%】


「よし! 移住者も増えたし、今日は景気よく頼むぜ!」


 一回目に現れたのはN畑作業補助のルベン。二回目はR調理器具修理補助のマリオ。そして三回目には、N荷物整理補助のテレサが召喚された。


「おっ! マリオは鍋とかの修理が得意なのか! ちょうど新しい家族も来たし、いろいろ頼りになりそうじゃねえか!」


 皇牙は三人を歓迎し、それぞれの経験について担当者へ引き継いだ。仕事を勝手に決めず、必要な場所を確認してもらうつもりだった。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:119人】

【SR以上排出率:5%】


「百十九人か。次の百人まではまだあるけど、なかなかいい感じだな!」


 皇牙は満足して画面を閉じた。


 その夜、トーマス一家の新しい家には、初めて明かりがともっていた。


 台所では、持参した鍋に野菜と豆を入れた簡単な煮込みが温められている。荷物はまだ部屋の隅に積まれたままで、家具も十分ではない。それでも四人は、持ってきた小さな卓を囲み、夕食を取ることができた。


「……なんだか、不思議な感じだな」


 エドガーがぽつりと言った。


「朝はまだ、前の村にいたのにさ」


「そうね。私も、こんな立派な家で夕食を食べることになるなんて思わなかったわ」


 マリアは鍋を見つめながら笑った。


 リリーは窓の向こうに見える城の明かりへ目を向け、嬉しそうに頬を緩めた。


「ねえ、お父さん。明日、またお城を見に行ってもいい?」


「まずはクラリスさんに、どこまで入っていいか聞いてからだな」


「えー!」


 妹の不満そうな声に、エドガーが笑った。


 トーマスはその光景を眺めながら、静かに食事を口へ運んだ。


 知らない土地での暮らしには、まだ不安がある。畑仕事を覚え直す必要もあるし、家の中には揃えたいものがいくつも残っている。けれど、今日一日で家族の表情は随分と明るくなった。


「……ここから、また始めよう」


 トーマスが言うと、マリアはそっと頷いた。


 城の灯りが見える窓の下で、一家の新しい暮らしが始まった。

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