第2章 第46話 七つの村から移住の相談!? 俺の城、そんなに人気なのか?
人口百人を祝った翌朝、神城皇牙は城館の庭に新しく造った東屋を眺め、満足そうに頷いていた。
昨日は実にいい日だった。無料ガチャで百人目の仲間を迎え、マルクやガルドと開拓当初を振り返り、みんなで美味い飯を食った。自分が造った場所で住民たちが楽しそうに笑っている光景は、思いのほか気分がよかった。
「くくく……。やっぱり俺の建築センスは最高だな。百人記念の宴会場としても、普段の休憩場所としても使える。無駄のない完璧な設計だぜ!」
「殿。昨日は、あちらを『栄光の大祝宴殿堂』と呼んでおられましたが」
隣を歩く巴が、いたずらっぽく微笑んだ。
「あれは正式名称じゃねえよ! ……いや、正式名称にしてもいいけどな」
「皆様が覚えられる名前であれば、よろしいかと」
「くっ……。遠回しに長すぎるって言ってねえか?」
皇牙が口を尖らせたところへ、クラリスが足早にやって来た。
「皇牙様。西門に、近隣の村々から来たというお客様がいらっしゃっています」
「また移住希望者か?」
「それが、お二人で七つの村の事情について相談したいと仰っておりまして。村長たちから預かった書状もお持ちです」
皇牙は足を止めた。
「……七つ?」
昨日までの相談者は、一家族か、せいぜい数人の旅人だった。それが今度は七つの村だという。聞き間違いでなければ、ずいぶんと話の規模が大きくなっている。
「おいおい。百人になったばっかりなのに、もう七つの村から注目されてんのか? 俺の城、ついに伝説になり始めたんじゃねえか!」
「まだ、ご相談の内容は分かっておりませんよ」
巴にたしなめられ、皇牙は咳払いした。
来訪者の二人は、西門の外に造った迎賓広場へ案内されていた。勘助が整えた警備手順に従って用件を確認し、詳しい話をするため、門近くの来客用休憩所へ移ってもらうことになった。
皇牙が到着すると、初老の男と若い女性が席を立った。男は日に焼けた顔に深い皺があり、着古した上着を丁寧に繕っている。女性は大きな革袋を抱え、緊張した面持ちでこちらを見ていた。
「初めまして。私はハロルドと申します。南西のリューデン谷にございます、七つの村の話し合いで使者を任された者です」
「エリサと申します。村々の人口や耕作地の記録をまとめております」
「おう、よろしく。俺が神城皇牙だ。堅苦しい挨拶はいいから、座ってくれよ」
皇牙が椅子を勧めると、ハロルドは少し安心したように腰を下ろした。
まず差し出されたのは、七つの村の長がそれぞれ印を押した書状だった。ハロルドは谷で行われた話し合いの結果を伝える役目を任されているが、村の土地や住民の移住を勝手に決める権限はないという。
「今日は、受け入れの可能性をお尋ねするために参りました。実際に移り住むかどうかは、各村の話し合いと、希望する家族自身の判断が必要になります」
「なるほどな。話を聞いたからって、いきなり全員引っ越してくるわけじゃねえんだな」
「はい。そのつもりはございません」
ハロルドは胸を撫で下ろした。
エリサが革袋から取り出したのは、何枚もの紙を綴じた記録だった。七つの村の人口、畑の広さ、主要な作物、それから谷を流れる川と水路の簡単な図が描かれている。
「七村を合わせた人口は、最後に数えた時点で二千三百人ほどです。正確な人数は変わっていると思いますが、大きくは違わないはずです」
「二千三百!?」
皇牙は思わず椅子から身を乗り出した。
「おいおい、うちの二十倍以上じゃねえか!」
その勢いにエリサはびくりと肩を揺らしたが、すぐに首を横に振った。
「全員が移住したいわけではありません。特に困っているのは下流の三つの村です。上流の村には、まだ畑を続けられる場所も残っています」
谷では数年前から古い水路の傷みが進み、乾いた季節には下流へ届く水が減っていた。さらに、長く暮らしてきた村では畑に使える平地そのものが限られている。水路が直っても、子や孫の世代へ新しい土地を十分に分けられない家があるらしい。
「仕事を求めて町へ出る若者もおります。でも、町で暮らすには家賃がかかりますし、働き口が見つかる保証もありません」
エリサの声には、記録の数字を読み上げるだけではない切実さがあった。
皇牙は図面を覗き込み、川の横に何本も描かれた線を指さした。
「……なあ。これ、水路が壊れて困ってんだよな?」
「はい。修繕できる場所もありますが、村々の手だけでは手が回らず……」
「だったら俺が直せばよくね?」
あまりにあっさりした言葉に、二人は固まった。
「……え?」
「だって俺、道路も橋も水路も造れるぜ。壊れた場所が分かってるなら、現地に行って新しく造り直せばいいだろ」
ハロルドは目を見開いたまま、しばらく言葉を発しなかった。
「そ、そのようなことが、本当に……?」
「できるぜ。ただ、俺が建物を造ったって、川の水そのものが増えるわけじゃねえけどな」
皇牙はそこまで言って、少し考え込んだ。
水路が傷んでいるだけなら、直せばいい。しかし、そもそも川の水量が足りないのであれば、立派な水路を造っても意味はない。以前、農地についてマルクや尊徳から教わったことを思い出したのだ。
「……これ、実際に見ないと分かんねえな」
皇牙はクラリスへ顔を向けた。
「金次郎と勘助を呼んでくれ。農地と道の話なら、二人に聞いた方が早い!」
やがて二宮尊徳と山本勘助が休憩所へ姿を現した。
事情を聞いた尊徳は、まずエリサの記録を丁寧に読み込んだ。上流と下流の村の違い、畑の広さ、いつ頃から水不足が目立つようになったのか。質問は細かかったが、一つずつ理由があった。
「こちらの記録では、雨の少ない時期にも、川の上流にはある程度の水が残っておりますな」
「はい。ただ、古い水路から漏れてしまい、下流の畑へ届く頃には随分と減っているようです」
「では、水路の修繕で改善する可能性はございます。しかし、上流から取りすぎれば別の村が困りましょう。実際の水量を確かめ、村々で分け方を相談する必要がございますな」
ハロルドは真剣に頷いた。
「……水路を直せるなら、村に残りたい者たちも助かります」
「うむ。ただ、それで耕せる土地まで増えるとは限りませぬ」
尊徳は地図の下流側を指さした。
「ここには畑を広げられる平地が少ないとあります。水の問題と、土地の問題は分けて考えた方がよいでしょう。故郷に残る方には水路の修繕を、ほかの土地で働きたい方には移住の道を探す。両方を進めることもできます」
「……なるほど」
皇牙は感心したように息を吐いた。
自分なら壊れた水路を直して終わりにしていただろう。しかし尊徳は、そこに住む人々がこれからどう暮らすかまで考えている。
「金次郎、やっぱすげえな。俺、水路直せば全部解決だと思ってたわ」
「殿のお力は、暮らしを整える大きな助けになります。ただし、どこへ水を流し、誰が使うのかを決めるのは人の仕事にございます」
「そっか。じゃあ、その面倒なところは任せた!」
皇牙が即答すると、尊徳は穏やかに微笑んだ。
勘助は別の問題に注目していた。谷からアストレアまでの道である。
「ハロルド殿。こちらの古い橋は、荷車が通れますかな」
「一台ずつなら通れます。ただ、傷んでいるところもあり、大勢で荷物を運ぶには心配でして」
「移住を進めるなら、道と橋の確認が先ですな。魔物が出る場所も、案内していただきたい」
勘助は地図をなぞりながら、危険になりそうな箇所を確かめていく。街道へ出るまでの村道は狭く、荷車がすれ違えない場所もあるらしい。
「橋なら俺が造り直せるぞ?」
「ありがたきことにございます。ただ、現地を見ずに場所を決めるのは危険です。既存の通行を妨げず、村人の了承を得られる位置を選ぶ必要がありましょう」
「了解。だったら一度見に行くか!」
皇牙は嬉しそうに立ち上がった。
城や住宅を造るのも楽しいが、村々をつなぐ道路や橋を整えるのも悪くない。実際に役立つ建物なら、趣味と仕事を兼ねられる。
ただし、その場で視察の日程までは決めなかった。ハロルドたちが村へ戻り、各村の長へ相談する必要がある。勘助も、今の警備を崩さず調査へ出る方法を考えたいという。
話が一段落したところで、エリサが静かに口を開いた。
「……皇牙様。ひとつ、お願いしてもよろしいでしょうか」
「ん? 何だ?」
「私どもの村には、故郷を離れたくない方も大勢います。もし水路を直していただけるなら、移住を望む人だけを受け入れていただけませんか」
皇牙はきょとんとした。
「……当たり前じゃねえの?」
エリサが目を瞬かせる。
「来たくねえ奴まで連れてきて、どうすんだよ。俺は住みたい奴が来てくれれば嬉しいけど、無理やり引っ越させたって仕方ねえだろ」
皇牙は肩をすくめた。
「それに、今のうちは百人ちょっとだぞ。いきなり何百人も来られたら、食べ物も仕事も準備できねえって」
その言葉に、ハロルドは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。そこまで考えていただけるとは思っておりませんでした」
「いや、そんな大したこと言ってねえけどな」
皇牙は少し照れくさそうに頭をかいた。
エリサは持参した記録の中から、別の紙を取り出した。そこには、各村で新しい土地へ移ることを検討している世帯の数が書かれている。ただし、話し合いは途中で、人数が確定しているわけではない。
「まずは希望する家族がどれほどいるのか、もう一度数え直します。働ける人数や、得意な仕事も分かるようにした方がよいでしょうか」
「そうしていただけると助かります」
クラリスが答えた。
「こちらでも、住居や仕事、食料について、受け入れられる人数を確認いたします。正式な移住は、双方で無理のない時期を相談してからにいたしましょう」
皇牙は頷いた。
自分が家を造れるからといって、今日から何百人も引っ越してこられては困る。それでも、時間をかけて準備するなら話は別だ。
相談を終えた皇牙は、二人を西門の外へ案内した。
「そうだ。せっかく来たんだから、俺の能力をちょっと見せてやるよ!」
迎賓広場の先には、まだ何も建っていない広い土地が続いている。皇牙は勘助に確認したうえで、既存の道を塞がない一角へ手を向けた。
「《国家創造EX》!」
地面が静かに形を変えた。
まず短い石畳の道が延び、その先に二軒の住宅が並ぶ。道の脇には排水用の溝が設けられ、雨水が建物の周囲へ溜まりにくい造りになっていた。大きな街区と呼ぶには小さいが、家だけでなく暮らす場所の形まで整った光景に、ハロルドとエリサは息を呑んだ。
「……これは……!」
「すごい……本当に、一瞬で……」
エリサは目を輝かせ、石畳へそっと足を踏み出した。
「どうだ! 家も道も、こうして造れるんだぜ!」
皇牙は得意げに胸を張った。
ただし、住宅はあくまで見本として造ったものだ。まだ住む人は決まっていないし、家具や生活用品もない。新しい住民を迎える際には、家の配置や必要な設備を改めて相談することになる。
「……これなら、住む場所がないという理由で困る人は、減らせるかもしれませんね」
エリサが小さく呟いた。
皇牙はその言葉を聞き、少しだけ笑った。
「家のことは任せとけ。でも、そこでどう暮らすかは、みんなで考えようぜ」
その日のうちに、ハロルドとエリサは谷へ戻ることになった。七村の長たちへ今日の話を伝え、現地調査の受け入れと移住希望者の確認について相談するという。
「正式な返事を持って、改めて参ります」
「おう。待ってるぜ!」
皇牙は笑顔で二人を見送った。
荷車が街道の向こうへ消えると、巴が静かに口を開いた。
「殿。今日は、随分と大きなお話になりましたね」
「だよな。昨日まで百人になったって喜んでたのに、今度は七つの村だもんな」
皇牙は遠くの荒野を眺めた。
全部がうまく進むとは限らない。現地の水路を直しても、土地が足りない村は残るかもしれない。移住したい人がいても、受け入れる準備が整わなければ待ってもらう必要がある。
それでも、誰かが安心して暮らせる場所を増やせるなら、悪い話ではなかった。
「……ま、俺は必要な建物を造るだけだ。あとの難しいことは金次郎たちに頼む!」
巴は呆れたように笑ったが、その表情はどこか嬉しそうだった。
夕方、皇牙は中庭でいつもの無料ガチャを開いた。
【無料召喚:3/3回】
【国家人口:100人】
【SR以上排出率:5%】
「さてと! 今日は一気に二千人とかいう話を聞いたし、ガチャも景気よくいってほしいぜ!」
三回の召喚で現れたのは、N畑作業補助のダリオ、R荷車管理補助のレオン、N倉庫清掃補助のエマだった。皇牙は三人を歓迎し、それぞれの仕事については担当者へ相談してもらうことにした。
【無料召喚:0/3回】
【国家人口:103人】
【SR以上排出率:5%】
「百三人か……。まあ、こうやって少しずつ増えてくのも悪くねえな」
皇牙は画面を閉じ、城下を見渡した。
昨日までは人口百人のお祝いが一番の話題だった。それが今日は、遠くの谷に暮らす人々の未来について話し合っている。アストレアが大きくなれば、こうした相談も増えていくのだろう。
「……なあ、巴。一万人になったら、SR以上の確率が二倍になるんだよな?」
「はい。ですが、まずは今いる皆様の暮らしを整えることが先でございますね」
「分かってるって! だからこそ、もっと優秀な偉人を召喚して、俺はもっと楽をするんだよ!」
皇牙はにやりと笑った。
巴もつられて微笑む。
その頃、城館の一室では、尊徳と勘助がリューデン谷の記録を見直していた。水路の修繕で故郷に残れる人々と、新しい土地を求める人々。その両方を助けるためには、まず現地を知る必要がある。
七つの村から持ち込まれた相談は、まだ始まったばかりだった。
けれど、灰の荒野に造られた小さな集落は、少しずつ周辺の村々とも未来を考える場所になり始めていた。
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