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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

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第2章 第45話 人口百人突破! 今日は宴会だ!

 異世界へ来て三十一日目の朝、神城皇牙はいつもより早く目を覚ました。


 理由は単純だ。昨日の無料ガチャを終えた時点で、アストレアの人口は九十七人。今日の三回で百人になる。最初は自分を含めて四人しかいなかった荒野に、ついに百人が暮らすようになるのだ。


「くくく……。百人か。これはもう、盛大に祝うしかねえだろ!」


 皇牙は寝台から飛び起き、さっそくガチャ画面を開こうとして手を止めた。


「……いや、待てよ」


 せっかくの百人目を、自分一人で召喚して終わりにするのはもったいない。どうせなら、最初から一緒にいた巴やマルク、ガルドにも見てもらいたかった。


「よし! 最後の一回は、みんなの前で引くか!」


 名案を思いついた皇牙は、上機嫌で寝室を飛び出した。


 廊下では、ちょうど巴が朝の見回りから戻ってきたところだった。


「おはようございます、殿。今日はずいぶんとお早いですね」


「おう! 今日は人口百人達成記念日になる予定だからな!」


「まだ九十七人でございますが」


「だから、今日はガチャを引くところも見てもらおうと思ってさ。特に最後の一回は、みんなの前で引きたいんだよ」


 巴は少し意外そうに目を瞬かせ、それから嬉しそうに微笑んだ。


「それはよいお考えですね。マルク殿もガルド殿も、きっとお喜びになるでしょう」


「だろ? ついでに宴会もやるぞ!」


 皇牙は勢いよく宣言した。


 朝食を済ませると、皇牙は真っ先に共同厨房へ向かった。焼きたてのパンの香りが漂う中、リーナたちが朝の片づけを進めている。


「リーナ! 今日、百人記念のお祝いをやりたいんだけどさ。何か特別な料理って作れるか?」


「お祝いですか? それは楽しそうですね」


 リーナは笑顔を見せたものの、すぐに少し考え込んだ。


「ただ、皆さんの普段のお食事もございますので、材料をたくさん使う料理は難しいかもしれません」


「そこは分かってる。いつもの飯を減らしてまで豪華にするつもりはねえよ。ちょっと味付けを変えるとか、そういうのでいいんだ」


 皇牙がそう答えると、リーナは安心したように頷いた。


「それでしたら、ヘルダさんと備蓄を確認してみます。豆の煮込みに香草を使って、いつもとは少し違う味にすることもできそうです」


「おおっ、いいじゃねえか! 肉料理も……」


「まずは確認してから、ですね」


「……はい」


 皇牙は名残惜しそうに頷いた。甘い菓子や山盛りの肉にも未練はあるが、百人になった初日から食料不足を起こすわけにはいかない。


 厨房を出た皇牙は、次にクラリスを訪ねた。


「今日、百人目を召喚したらお祝いしたいんだ。参加したい奴だけ集まって、みんなで飯を食う感じにできねえかな?」


「承知いたしました。ただ、警備や作業を続ける方もいらっしゃいますので、全員が同じ時刻に集まるのは難しいかと思います」


「それなら、来られない奴の分は取っておこうぜ。あとで食えるなら問題ねえだろ」


 クラリスは頷き、仕事場ごとに必要な食事の数を確認することになった。先日から使い始めた食事数の連絡方法を利用すれば、新しく面倒な書類を増やす必要もない。


 山本勘助にも話を通し、西門の警戒は普段どおり続けることにした。警備を担当する者には交代後に料理を渡し、勤務中の持ち場を空けさせない。新しく造った迎賓広場も、旅人が来たときに使えるようにしておく。


「よし。これで安心して宴会できるな!」


「殿。まだ百人目の召喚が済んでおりませぬぞ」


 勘助に指摘され、皇牙は笑った。


「分かってるって! そこが今日の一番のお楽しみなんだよ!」


 昼前、皇牙は城館近くの広場へ向かった。


 普段は住民たちが行き来する場所だが、料理を囲むには少し手狭だった。そこで通路を塞がない位置を選び、《国家創造EX》を発動する。


 灰色の地面が整い、広場の一角に大きな屋根付きの東屋が姿を現した。固定式の腰掛けと料理を置ける台を備え、周囲には人が行き来できる通路を残してある。机や食器、食材まで生み出せるわけではないが、集まる場所としては十分だった。


「ふっふっふ……。完成! アストレア建国百人記念、栄光の大祝宴殿堂!」


「殿。まだ建国の宣言もしておりませんし、こちらは東屋でございますよ」


 巴が困ったように微笑んだ。


「名前くらい好きに付けさせろよ! せっかく格好よく造ったんだからさ!」


 皇牙は胸を張ったが、巴は東屋の柱や通路を確かめながら、どこか嬉しそうだった。


「ですが、皆が集まりやすそうな場所ですね」


「だろ? 祝いが終わっても使えるしな。休憩所にしてもいいし、たまにはここで飯を食ったっていい」


 皇牙は満足そうに頷いた。


 午後になると、リーナから献立の返事が届いた。普段の食事用に確保している材料の範囲で、香草を使った豆の煮込みと、少量の肉を野菜と合わせた焼き料理を用意できるという。甘い菓子は見送ることになったが、住民たちの食事を減らさずに済むなら、それで十分だった。


 皇牙は厨房から漂う香りに何度も足を止め、そのたびにリーナから夕方まで待つよう言われた。


 そして日が傾き始めた頃、東屋の周囲に住民たちが集まってきた。


 もちろん、百人全員がいるわけではない。警備や仕事を続けている者もおり、参加は自由だ。それでも、普段とは違う賑やかさに、皇牙の気分は否応なく高まっていった。


「おーし! じゃあ、いよいよ百人目を召喚するぞ!」


 皇牙の声に、近くの住民たちが顔を向けた。


 傍らには巴と、最初の無料ガチャで召喚された農民のマルク、職人のガルドも立っている。


「まさか、こんな日が来るとはなあ」


 マルクが感慨深そうに呟いた。


「最初は畑も道具も足りなくて、どうやって食べていくかばかり考えてましたよ」


「俺なんか、工房だけ立派で、中に置く道具をどうするんだって頭抱えたからな」


 ガルドが笑う。


「皇牙様が何でも建てられるのはすげえけど、家具も農具も勝手に出来上がるわけじゃねえ。あの頃は、それを説明するのに苦労したぜ」


「おいおい、今さら俺の悪口大会かよ!」


 皇牙が抗議すると、二人は声を上げて笑った。


 その隣で巴も、懐かしそうに目を細めていた。


「城が完成した日のことを、今でもよく覚えております。あれほど立派な建物なのに、暮らしているのは四人だけでしたから」


「あー……そうだったな。城は最高なのに、飯と生活用品が全然足りなかったんだよな」


 皇牙は苦笑した。


 あの頃は、何でもできると思っていた。実際、城や道路を造ることなら簡単だったが、暮らしを成り立たせるには人の手が必要だった。


「ま、今じゃその道の専門家がいるからな。俺はもう、面倒なことに手を出さなくて済むってわけだ!」


「……そう言いながら、今日は朝から走り回っておられましたね」


 巴が笑うと、皇牙はそっぽを向いた。


「今日は特別なんだよ、今日は!」


 周囲から笑い声が上がった。


 皇牙は照れ隠しに咳払いすると、ガチャ画面を開いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:97人】

【SR以上排出率:5%】


「まずは一人目だ!」


 淡い光が広がり、N倉庫整理補助のルイスが現れた。続く二回目では、R調理補助のナディアが召喚される。二人を歓迎し、落ち着ける場所へ案内してもらったところで、皇牙は最後の一回へ視線を戻した。


【無料召喚:1/3回】

【国家人口:99人】


「……ついに、あと一人か」


 先ほどまで騒いでいた皇牙が静かになり、巴たちも画面へ目を向けた。


 最初の三人が現れてから、まだ一か月ほどしか経っていない。それなのに、今では畑が広がり、工房からは作業の音が響き、城の周囲には住宅が並んでいる。


 皇牙は最後の召喚に指を伸ばした。


「よし。記念すべき百人目、頼むぜ!」


 光が集まり、一人の若い男が中庭に姿を現した。


【N:道路補修補助 マルセル】


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:100人】

【SR以上排出率:5%】


「……っしゃあああああ!」


 皇牙は両手を突き上げた。


「百人! ついに百人だぜ!」


 周囲から歓声と拍手が上がり、突然の騒ぎにマルセルが目を丸くする。


「あ、あの……私は何か、とんでもないことをしたのでしょうか?」


「したぞ! お前が来て、ちょうど百人になったんだ!」


「ひゃ、百人……?」


「そうだ! 記念すべき百人目だぜ。ようこそ、アストレアへ!」


 皇牙が満面の笑みで手を差し出すと、戸惑っていたマルセルもようやく状況を理解したらしく、恐縮しながらその手を握り返した。


 特別なレアリティでも、歴史に名を残した偉人でもない。けれど、道路を整える仕事も、この集落には欠かせないものだ。


 皇牙は改めて三人を歓迎し、今夜の食事会にも誘った。


「細かい仕事の話は明日でいい! 今日は百人になったお祝いだ。まずは美味い飯を食ってくれ!」


 こうして、アストレア初めての人口百人記念の食事会が始まった。


 東屋には温かな料理の香りが広がり、住民たちが思い思いの場所で食事を楽しんでいる。大きな宴会場を埋め尽くすような豪華な催しではない。それでも、笑い声と楽しげな話し声が絶えない光景は、皇牙が想像していた以上に賑やかだった。


「うおっ、うめえ! リーナ、これ最高じゃねえか!」


「ありがとうございます。いつもの豆でも、香草を変えると随分と印象が違うでしょう?」


「違う違う! 毎日これでもいいくらいだ!」


 皇牙が大げさに頷くと、リーナは楽しそうに笑った。


 近くでは、ガルドが焼き料理を頬張りながら、マルクと何やら話している。マルクは新しく試している農地について説明しているらしく、ガルドも興味深そうに耳を傾けていた。


 その様子を見ていた皇牙は、ふと二人のところへ歩み寄った。


「なあ、マルク、ガルド。お前ら、今の暮らしはどうだ?」


 二人は一瞬顔を見合わせた。


「そりゃあ、忙しいですよ。でも、悪くありません」


 マルクはそう答え、広場を見渡した。


「最初は自分たちが食べるものを確保するだけで精いっぱいでした。今は畑を手伝ってくれる仲間もいますし、尊徳様と新しいことも試せますから」


「俺も同じだな。まだ作りたいものはいくらでもあるけど、手伝ってくれる職人が増えたおかげで、ようやく先の仕事まで考えられるようになった」


 ガルドは少し照れくさそうに笑った。


「皇牙様が家や工房を造ってくれるから、俺たちは中身を良くすることに集中できる。ありがたい話だよ」


「……へへっ。そりゃよかった」


 皇牙は鼻の下をこすった。


 面と向かって礼を言われるのには、どうにも慣れない。適当に照れ隠しの冗談でも言おうとしたが、ガルドは続けた。


「俺たちの話を聞いてくれるのも、ありがたいぜ。最初に『道具がない』って言ったときも、怒らずに必要なものを考えてくれたからな」


「いや、あれは俺が何も分かってなかっただけだろ!」


「それでもですよ」


 マルクが穏やかに言った。


「ここに来てよかったと思っています」


 皇牙は言葉に詰まった。


 ガチャで召喚した仲間たちに、仕事を任せて楽をしたい。それが最初の考えだった。今だって、その気持ちが消えたわけではない。


 けれど、自分が呼んだ仲間からそんなことを言われると、不思議と胸の奥が温かくなる。


「……そっか。なら、これからも頼むぜ」


 皇牙はそれだけ言うと、慌てて料理の方へ向き直った。


「よし! せっかくのお祝いだし、もう一皿食ってくる!」


 その背中を見て、マルクとガルドが笑った。


 少し離れたところでは、尊徳が住民たちと穏やかに話をしていた。勘助は交代で休憩に入った警備担当者へ声をかけ、料理が行き渡っているか確かめている。


 クラリスの手配で、広場に来られない者の食事も取り置かれていた。祝いの席へ集まる人数は時間とともに変わっていったが、仕事のために参加できない者が損をすることはなかった。


 皇牙は二皿目の料理を手に、巴の隣へ戻った。


「……なあ、巴」


「はい、殿」


「百人って、数字で見るとそんなでもねえけどさ。こうやって集まると結構すげえな」


 巴は広場を見渡した。


「はい。私も、最初に召喚された日のことを思い出しておりました」


「俺もだよ。あのときは、まさかこんなに人が増えるなんて思ってなかったしな」


 皇牙は笑った。


 最初は自分が快適に暮らすための城だった。そこへ人が集まり、働き、笑い合っている。


 特別なことをしたつもりはない。それでも、今日ここにいる人々の暮らしが、自分の造った場所から始まったのだと思うと、少しだけ誇らしかった。


「殿」


 巴が静かに呼びかける。


「皆が楽しそうにしているのを見ると、私も嬉しくなります」


「……おう。俺もだ」


 皇牙は短く答えた。


 それから少し照れくさくなり、わざと大きな声を出した。


「よーし! 次は千人記念だな! そのときはもっと豪華にやるぞ!」


 近くにいた住民たちから、また笑い声が上がった。


 もちろん、千人になれば食料も仕事も、今よりずっと多く必要になるだろう。そこまで考えると少し面倒だったが、それでも悪い想像ではなかった。


 宴が終わり、住民たちが家路につき始めた頃、皇牙は巴と並んで城館へ戻った。


 途中、西門の方へ視線を向けると、昨日造った迎賓広場が夜の静けさの中に佇んでいた。トーマス一家の移住はまだ決まっていない。荷運びの仕事を探すグレンも、再訪すると言ったきりだ。


 それでも、外からこの土地へ興味を持つ人間は少しずつ増えている。


「……なあ、巴。一万人になったら、SR以上の確率が二倍になるんだよな」


「はい。ですが、まだ随分と先のお話でございますね」


「分かってるって。でも、百人になったんだから、次は千人、その次は一万人って考えてもいいだろ?」


 皇牙は夜空を見上げ、楽しそうに笑った。


「くくく……。歴史の偉人をもっと召喚して、もっとすげえ街を造って、俺はもっと楽をする! 完璧な計画じゃねえか!」


「ふふ。楽しみですね、殿」


 巴の声も、どこか弾んでいた。


 こうして、灰の荒野に築かれたアストレアは、ついに人口百人を迎えた。


 小さな開拓集落は、まだまだ発展の途中にある。それでも、今夜の広場に響いた笑い声は、皇牙にとって何より嬉しい建国の成果だった。

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