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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

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第2章 第44話 無料で家が建つって、そういう意味じゃねえ!

 異世界へ来て三十日目の朝、神城皇牙は食堂の窓から城下を眺めながら、頭の中で盛大な宴会を開いていた。


 肉の丸焼きに山盛りのパン、香草の効いたスープ、それから甘い菓子。長い食卓を囲んで住民たちが笑い合う光景を想像するだけで、自然と頬が緩む。今のアストレアは九十四人。毎日三回の無料ガチャを引き続ければ、明日には百人に届くはずだった。


「くくく……。百人記念だぜ、百人記念! これはもう盛大に祝うしかねえだろ!」


「殿。献立は決まりましたか?」


 向かいに座る巴が尋ねた。皇牙は得意げに胸を張る。


「もちろん! 肉料理を中心に、パンとスープと甘いものだな。できれば果物も欲しい!」


「では、その食材がどれほど必要か、リーナ殿へご相談くださいませ」


「……おう。そうだったな」


 皇牙は少しだけ肩を落とした。建物なら《国家創造EX》で一瞬だが、料理の材料まで生み出せるわけではない。せっかくのお祝いで、住民たちの普段の食事を減らすような真似もしたくなかった。


「ま、リーナたちと相談すりゃ何とかなるだろ。無理なら小さなお祝いでもいいしな」


 そう言ってパンを頬張ったところで、食堂の入口にクラリスが姿を見せた。


「皇牙様。西門に七名の旅人がいらっしゃっています。移住について相談したいそうなのですが、少々困ったことになっておりまして」


「……魔物でも連れてきたのか?」


「いえ。こちらでは家だけでなく、食事も生活用品も無料で手に入ると聞いた、と仰っているのです」


 皇牙の手から、ちぎりかけたパンが皿へ落ちた。


「……はあ!? 誰だよ、そんな話広めた奴!」


 家を無料で造れるのは本当だ。しかし、食材も鍋も衣服も無制限に用意できるなど、一度も言った覚えはない。昨日訪れたトーマス夫妻にも、その違いをきちんと説明したばかりだった。


 皇牙は残りの朝食を急いで済ませると、巴を連れて西門へ向かった。


 門の手前では、アデルが旅人たちの用件を聞き取っていた。勘助の指示で警備担当者も配置されており、荷車と徒歩の旅人が通路を塞がないよう誘導している。


 訪問者は男女合わせて七人。服装も年齢もまちまちで、同じ村の者たちというわけではなさそうだった。


 そのうち、背の高い若い男が皇牙を見るなり声を上げた。


「あんたがここの領主か? 家も飯もただで手に入るって聞いたんだが、本当なのか?」


「家を造るのに金がかからねえのは本当だ。けど、飯まで勝手に湧いてくるって話なら間違いだぞ」


「……は? だって街道の宿じゃ、ここなら働かなくても食っていけるって話だったぞ!」


 男の声が大きくなり、ほかの旅人たちも落ち着かない様子で顔を見合わせた。


 皇牙は眉をひそめたが、言い返す前に一度だけ息を吐いた。相手が勝手に勘違いしたとはいえ、わざわざここまで来たのだ。門前で怒鳴り合ったところで、何も解決しない。


「まず聞くけどさ。お前、誰がそんなこと言ってたか覚えてるか?」


「宿の食堂にいた荷運びの連中だよ。城を造る魔法使いがいて、住みたい奴には何でもくれるって……」


「なるほどな。じゃあ、俺から直接説明するぜ」


 皇牙は道の向こうに広がる畑を指さした。


「あそこで働いてる奴らが作物を育ててる。厨房じゃリーナたちが料理してるし、職人は道具を作ってる。家は俺が造れても、中で使う物や食い物は誰かが用意しなきゃならねえんだよ」


「それじゃ、普通の村と変わらねえじゃねえか」


「家の建築費がかからねえだけでも、結構違うと思うけどな」


 男は反論しかけ、城の周囲に並ぶ住宅へ目を向けた。


 少し離れた場所では、住民たちが荷物を運び、工房からは木槌の音が聞こえてくる。誰も働かずに遊んでいる楽園には、どう見ても見えなかった。


「……ちぇっ。うまい話だと思ったのによ」


 男が気まずそうに頭をかくと、隣にいた年配の女性がそっと手を上げた。


「それでも、住む家を用意していただけるというのは、本当なのでしょうか?」


「おう。ただし、移住を決めた人と相談して、どこに住むか決めてからだな。空いてる土地に好き勝手建てていいってわけじゃねえ」


 皇牙の返答に、女性は安堵したように頷いた。


 どうやら七人の目的は同じではないらしい。噂を確かめに来ただけの者もいれば、真剣に仕事や住まいを探している者もいる。


「……よし。立ち話も何だし、中で話そうぜ。クラリス、案内を頼む」


 皇牙が声をかけると、クラリスは旅人たちを門の近くにある来客用休憩所へ導いた。荷車は指定された停車場所に残し、荷物については持ち主と警備担当者で確認する。


 休憩所へ入ると、旅人たちはようやく落ち着いた様子で椅子に腰を下ろした。


 クラリスが順に話を聞いたところ、七人は街道沿いの宿で知り合い、アストレアの噂を確かめようと一緒に来たのだという。若い男はグレンと名乗り、以前は荷運びの仕事をしていたが、最近は安定した働き口が見つからないと話した。


「荷車の扱いと荷物の積み下ろしなら慣れてる。家がもらえるってんなら、ここで仕事を探してもいいと思ったんだけどな」


「じゃあ、働く気がないわけじゃねえんだな」


「そりゃそうだろ。飯がただなら楽だと思っただけで、仕事が嫌いなわけじゃねえよ」


 その答えに、皇牙は思わず笑ってしまった。


「何だよ。だったら最初からそう言えって!」


「そっちこそ、家だけ無料だって分かりやすくしといてくれよ!」


「……それもそうだな」


 言い返そうとした皇牙だったが、途中で考え直した。自分たちには当たり前のことでも、遠くの人々には分からない。噂を聞いて来た相手だけを責めても、また同じことが起きるだろう。


 そこで皇牙はクラリスへ顔を向けた。


「なあ。これからもこんな奴らが来るなら、最初に説明することを決めといた方がよくね?」


「住居や仕事、食事について、ということでしょうか?」


「それだけじゃねえ。ここでできることと、できねえことを最初に伝えるんだ。毎回俺が出てきて説明するの、絶対面倒になるし」


 クラリスは少し考え、頷いた。


「それでしたら、来訪の目的を伺う際に、基本的な暮らしについてもお伝えできるようにいたします。詳しい相談が必要な方だけ、担当者へご案内する形はいかがでしょう」


「いいじゃねえか! それなら、わざわざ城の奥まで連れていく必要もねえな!」


 皇牙は満足そうに頷いた。


 そこへ、事情を聞いた二宮尊徳が顔を見せた。


「殿。お話は伺いました。住む場所を求める方々には、まずどのような暮らしを望んでおられるか尋ねるのがよろしいでしょう」


「おう。ちょうど今、それを聞いてたところだ」


 尊徳はグレンへ目を向けた。


「荷運びのご経験がおありなら、今までの仕事でどのような品を扱ってこられましたかな」


「木材とか食料とか、いろいろだよ。荷車の手入れも少しならできる」


「なるほど。それでしたら、こちらでも役立つ場面があるやもしれませぬ。ただ、今すぐ仕事をお約束できるわけではございません。担当の者と相談する必要がございますな」


 グレンは少し考え込み、それから真剣な顔で頷いた。


「……分かった。じゃあ、仕事があるかどうか、ちゃんと聞いてみたい」


 皇牙はその様子を見て、にやりと笑った。


「よし。クラリス、グレンの話は続けて聞いてやってくれ。住むかどうかは、仕事のことが分かってから決めればいい」


「承知いたしました」


 グレンは一度村へ戻り、荷物を整理してから改めて相談に来たいと申し出た。移住の申請を進める約束ではなく、仕事の可能性について連絡を取るための約束だ。クラリスは本人が再訪するときのため、名前と得意な仕事だけを記録した。


 ほかの六人にも、それぞれの事情があった。住み替えを考えている者、家族へ話を持ち帰りたい者、単に城を見てみたかった者。全員がその日のうちに移住を決めることはなかったが、少なくとも誤解したまま帰る者はいなくなった。


 相談が一段落したところで、山本勘助が皇牙のもとへやって来た。


「殿。少々よろしいでしょうか」


「ん? どうした?」


「来訪者が増えるのであれば、門の外に待機できる場所を設けておくとよろしいかと。今の休憩所は話を伺うには便利ですが、荷車が重なると道を塞いでしまいます」


 皇牙は窓の外を見た。確かに、七人が来ただけでも門の周辺は少し慌ただしかった。そこへ別の商人の荷車まで来れば、通行の邪魔になりそうだ。


「じゃあ、でっけえ宿でも造るか?」


「いえ。宿を営む人手も、今はございませぬ。まずは屋根のある待合所と荷車置き場があれば十分でしょう」


「なるほどな。じゃあ、それを造ろうぜ!」


 皇牙は嬉しそうに立ち上がった。細かな相談は苦手だが、建物を造る話ならいくらでも乗り気になれる。


 勘助と巴を伴って城門の外へ出ると、皇牙は周囲の地形を確かめた。勘助が選んだのは、街道から集落へ続く道の脇にある空き地だった。見張り台から見通しがよく、荷車を止めても通行の妨げにならない位置である。


「ここなら、門の前が混み合うのを避けられます。旅人にはまずこちらで待っていただき、用件を確認してから必要な場所へ案内すればよいでしょう」


「了解! じゃあ、ちょっと格好よく造ってやるか!」


 皇牙が《国家創造EX》を発動すると、灰色の地面が静かに形を変えた。


 整えられた石畳の広場が広がり、その一角に屋根付きの待合所が姿を現す。荷車を並べて止められる区画には、車輪が通る場所を分かりやすく設けた。人が歩く通路も別に整え、雨の日でも門の前に人が集中しないようにする。


 もちろん、机や椅子などの持ち運べる家具は生まれない。待合所の中には固定された腰掛けだけを設け、必要な備品は後から担当者に考えてもらうことにした。


「ふっふっふ……。完成だ! 名付けて、アストレア迎賓広場!」


「殿。旅人の待合所にしては、随分と立派な名前でございますな」


 勘助が口元を緩めた。


「いいんだよ! 将来ここが大きな街になったら、玄関口になるかもしれねえだろ!」


 皇牙は得意げに胸を張った。


 巴は広場の端へ歩き、城門と街道の両方を見渡した。


「勘助殿。こちらからなら、荷車の陰に隠れた方まで確認しやすそうですね。ただ、日が暮れてからの案内はどうなさいますか?」


「夜間はこれまでどおり、門で用件を確かめます。広場を造ったからといって、警備の人数を増やせるわけではありませぬからな」


 巴は頷いた。便利な建物が増えても、それを使う人間の仕事まで消えるわけではない。勘助は既存の見張りの担当範囲を確かめ、無理な常駐人員を増やさず運用することにした。


 皇牙はそんな二人を眺め、満足そうに腕を組んだ。


「いいねえ。やっぱ軍師と護衛がいると安心だわ」


 広場が完成したあと、クラリスも現地を確認した。


 今後、訪問者にはまず迎賓広場で待ってもらい、案内役が用件を尋ねる。移住や仕事について詳しく相談したい場合は、門の近くにある従来の来客用休憩所へ案内することになった。両方を同じ用途にするのではなく、待機する場所と相談する場所を分けるのである。


「これなら、初めて来られる方にも分かりやすいと思います」


「だろ? しかも、俺が毎回説明しなくても済む!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。


 尊徳は新しい広場を眺め、静かに頷いた。


「住まいを求める方が増えるなら、迎える側にも備えが必要でございますな。ただ、人が集まることだけを喜ぶのではなく、そこで暮らせるかどうかを確かめながら進めるのがよろしいでしょう」


「分かってるって。家はすぐ造れるけど、飯はそうはいかねえもんな」


 皇牙は少しだけ真面目な顔になった。


 自分には城を造る力がある。けれど、そこへ集まる人々を支えるのは、農民や職人、商人、そして行政を担当する者たちだ。どれか一つだけあっても、暮らしは成り立たない。


 そんなことを考えていたところへ、グレンが近づいてきた。


「皇牙さん。さっきは悪かったな。噂を信じて、勝手に期待しちまって」


「別にいいって。俺だって、話を聞くだけならただだしな」


 皇牙が笑うと、グレンも少し照れくさそうに笑い返した。


「仕事の話、もう少し考えてみるよ。荷運びなら自信があるし、ここで役に立てるなら悪くねえ」


「おう。次に来たときは、クラリスに声をかけてくれ。ちゃんと話を聞いてもらえるようにしとくからさ」


「助かる。じゃあ、またな!」


 グレンは仲間たちへ声をかけ、街道へ向かって歩き出した。


 皇牙はその背中を見送りながら、ふと気づいた。


 今日訪れた七人は、誰一人として移住を決めていない。それでも、朝と今とでは少し違う。少なくとも一人は、アストレアで働くことを具体的に考え始めているのだ。


「……へへっ。悪くねえな、こういうのも」


 小さく呟いた皇牙に、巴が微笑みかけた。


「殿。嬉しそうですね」


「そりゃそうだろ。俺の造った場所に住みたいって奴が増えるのは、やっぱ気分がいいからな」


 皇牙は照れ隠しに鼻を鳴らした。


 夕方になると、皇牙は中庭へ向かい、いつもの無料ガチャを引いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:94人】

【SR以上排出率:5%】


「さてと! 今日は何が出るかな。そろそろまた歴史の偉人を頼むぜ!」


 三回の召喚で現れたのは、N農具修理補助のノル、R水路管理補助のセリオ、N布製品仕分け補助のミーナだった。皇牙は三人を歓迎し、それぞれの仕事については担当者へ相談してもらうことにした。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:97人】

【SR以上排出率:5%】


「九十七人! あと三人で百人じゃねえか!」


 皇牙は思わず拳を握りしめた。明日も三回の無料ガチャを引けば、ほかに人口の変動がない限り百人になるはずだ。


「よし! 百人記念の宴会、やっぱりやろうぜ!」


「殿。まずは食材について、リーナ殿とご相談を」


「分かってるって! 今日はちゃんと確認するから!」


 皇牙は笑いながら答えた。


 城館へ戻る途中、ふと西門の方へ目を向ける。朝にはなかった迎賓広場が、夕日に照らされて静かに佇んでいた。


 あの広場は、まだ大勢の旅人で賑わっているわけではない。今日訪れた七人も、全員が帰っていった。


 それでも、いつかあそこに荷車が並び、仕事や暮らしを求める人々が行き交う日が来るかもしれない。


「……なあ、巴。あそこ、いつか旅人でいっぱいになったりするのかな」


「そのような日が来るかもしれませんね」


 巴は少し先を歩き、振り返って笑った。


「ですが殿。そのときには、また新しい建物が必要になるでしょうね」


「ははっ! 建物ならいくらでも造ってやるよ!」


 皇牙は大きく笑い、城館へ向かって歩き出した。


 その日の夜、クラリスの机には七人の来訪記録が置かれていた。正式な移住者はまだいない。しかし、荷運びの仕事を探すグレンの名前には、再訪時に相談を続けるための印がついている。


 アストレアの人口は九十七人。


 まだ小さな開拓集落だが、外の世界から新しい暮らしを求める人々が、その門を叩き始めていた。

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