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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

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第2章 第43話 移住希望者がやって来た

 異世界へ来て二十九日目の朝、神城皇牙は城館の食堂で、焼きたてのパンを頬張りながら窓の外を眺めていた。


 灰色の荒野を横切る街道は、ここからでもよく見える。昨日、行商人のベルンから移住先を探している家族がいると聞いて以来、あの道を誰かがやって来るのではないかと、少しだけ期待していた。


「くくく……。そのうち俺の城が評判になって、見物人が押し寄せたりしてな。入場料だけで金貨が山ほど集まったら、毎日有料ガチャを引けるんじゃね?」


「殿。見物に来られる方が、本当にそれほどお金を払ってくださるのでしょうか?」


 向かいに座る巴が真面目な顔で問い返した。


「……夢のないこと言うなよ。想像するくらい自由だろ!」


 皇牙が不満そうにパンをちぎったところで、食堂の扉が開いた。入ってきたクラリスは、いつもより少し急いだ様子だった。


「皇牙様。西の門に、こちらへの移住について相談したいというご夫婦がいらっしゃっています」


「……へ?」


 皇牙はパンを持ったまま固まった。


「おいおい、マジかよ! 昨日聞いたばっかりだぞ!?」


「昨日の商人が話していた方々かどうかは、まだ分かりません。近くの村から来られたそうで、まずは暮らしの様子を見せてほしいとのことです」


 皇牙は嬉しそうに立ち上がった。ベルンの話と無関係だったとしても、わざわざ移住の相談に来てくれたことには変わりない。


「よし、会ってみようぜ! せっかく来てくれたんだから、歓迎しねえとな!」


 巴も立ち上がり、皇牙の後ろについた。


 城門へ向かう途中、クラリスから詳しい状況を聞いた。旅人は二人で、小さな荷車を連れているという。西側の見張りが用件を確認し、荷車は門の外側の停車場所へ案内した。夫婦には、城館とは別に設けた来客用の休憩所で待ってもらっているらしい。


 数日前には西の林から灰牙狼が現れた。山本勘助が整えた警戒体制が、こういう場面でも役立っているのだ。


「へえ。ちゃんと仕事が回ってるじゃねえか。勘助に任せて正解だったな」


「皆さん、それぞれの持ち場で動いてくださっています」


「最高だな。俺がいちいち門番までやってたら、昼寝する時間がなくなるところだったぜ」


 クラリスは苦笑したが、否定はしなかった。


 休憩所に入ると、質素な旅装の男女が並んで座っていた。男は四十歳ほどで、日に焼けた顔と節くれ立った手をしている。女も同じくらいの年齢だが、男よりずっと落ち着いた目で室内を見回していた。


 二人は皇牙の姿を見つけると、慌てて立ち上がった。


「初めまして。私はトーマスと申します。こちらは妻のマリアです」


「おう、よろしくな! 俺は神城皇牙。ここのまとめ役みたいなもんだ。堅苦しい挨拶はいらねえから、座ってくれよ」


 皇牙が笑いながら椅子を勧めると、夫婦は顔を見合わせて腰を下ろした。


「それで、移住を考えてるんだって?」


「はい。ただ、今日は下見です。家族にも相談しなければなりませんので」


 トーマスは両手を膝に置き、慎重に話し始めた。


 二人が暮らしているのは、街道から少し離れた農村だった。昔からある畑を家族ごとに分けて耕しているが、使える土地には限りがある。子どもたちが大きくなった今、この先も同じ土地だけで暮らせるか不安になってきたという。


「息子が十七歳、娘が十二歳になります。息子は働く気でおりますが、新しく任せられる畑があるわけでもなく……」


「なるほどな。じゃあ、四人で引っ越せる場所を探してるってことか」


「ええ。ですが、妻は少し心配しておりまして」


 トーマスが隣へ目を向けると、マリアは小さく息を吐いた。


「……正直に申しますと、私は今の村を離れるのが怖いのです」


 その言葉に、皇牙は少し驚いた。


 マリアは膝の上に置いた手を握りしめ、ゆっくりと話し始めた。今の村には親戚も知り合いもいる。食料が足りない日には助け合い、病人が出れば近所の者が様子を見に来てくれる。暮らしは楽ではないが、困ったときに頼れる人がいることは大きかった。


「主人は新しい畑があれば何とかなると言います。でも、子どもたちが知らない場所で暮らせるのか、それが心配で……」


 トーマスは反論しかけたが、すぐに口を閉じた。


 皇牙は二人の顔を見比べた。どうやら、単純に土地が欲しいという話ではないらしい。


「……なあ、マリア。こっちに来るとしたら、何が一番心配なんだ?」


 思いがけない質問だったのか、マリアは顔を上げた。


「一番、ですか?」


「おう。家が狭いとか、飯がまずいとか、夜に魔物が出るとか。そういうのも含めてさ。俺、住む家なら造れるけど、それ以外はちゃんと聞かなきゃ分かんねえし」


 マリアは少し考え、それから静かに答えた。


「……娘が安心して暮らせるか、でしょうか。水を汲む場所が安全なのか、食べ物は足りるのか。もし病気になったら、助けていただける方はいるのか……」


「なるほどな」


 皇牙は腕を組んだ。


 魔物の心配なら巴や勘助たちが警戒している。水を使う場所も整えているが、住民が増えれば使い方を考える必要がある。食料については、尊徳が農業改革を始めたばかりだった。


 病気への対応は、皇牙も十分に詳しいわけではない。医療に関わる仕事をする人材はいるが、大きな町のような病院があるわけでもなかった。


「……よし。全部大丈夫だなんて適当なことは言わねえ。今あるものを見てもらって、それから決めてくれ」


 マリアは目を丸くした。


「よろしいのですか?」


「当たり前だろ。引っ越してから『聞いてた話と違う!』なんて言われたら、俺だって困るしな」


 皇牙が肩をすくめると、巴が小さく笑った。


「殿らしい言い方ですが、お二人にとっても、その方が安心でしょうね」


 クラリスも頷き、アストレアで暮らす場合の説明を始めた。住宅は皇牙の力で建てられるが、家具や日用品、食料まで無制限に用意できるわけではない。仕事は本人の経験や希望を聞いて相談し、移住を決めてから住居や生活に必要な物を調整するという。


 トーマスは真剣な表情で耳を傾けていたが、マリアは途中で手を上げた。


「私は畑仕事もできますが、村では保存食を作ったり、子どもたちの服を繕ったりしていました。そういう仕事でも、何かお役に立てるでしょうか」


「もちろん、今すぐ仕事を約束はできませんが、そういう経験も大切です」


 クラリスが答えると、マリアの表情が少し明るくなった。


 皇牙も感心した。トーマスが畑仕事をしてきたことばかり考えていたが、マリアにも暮らしを支えてきた経験がある。家族が移住するなら、働き方も一人ずつ違うのだ。


「……よし。じゃあ、畑を見に行こうぜ! ちょうど農業に詳しい奴がいるんだ!」


 皇牙は立ち上がり、二人を案内することにした。


 畑へ向かう途中、巴は前方の様子を確かめながら歩いた。皇牙のすぐ近くには見慣れた護衛の姿があり、道の脇では住民たちが荷物を運んでいる。トーマス夫妻は、巨大な城だけでなく、そこで働く人々の様子にも興味深そうに目を向けていた。


 畑の端では、二宮尊徳がマルクと話をしていた。皇牙が声をかけると、尊徳は穏やかに振り返った。


「殿。こちらが、移住をご検討なさっている方々でございますかな」


「おう。トーマスとマリアだ。畑仕事の経験があるんだってさ」


 尊徳は二人へ丁寧に挨拶し、これまで育ててきた作物や仕事について尋ねた。


 トーマスが耕作や収穫の経験を話すと、尊徳は現在のアストレアでは、畑の広さに対して農具や人手が足りていないことを説明した。ただし、新しい農民が来たからといって、すぐ独立した畑を任せられるわけではない。


「まずはマルク殿たちと一緒に、この土地の作物や水の扱いを知っていただくのがよろしいでしょう。慣れてから、どのような仕事をお任せできるか考えればよいかと」


「それなら、私にもできそうです」


 トーマスはほっとしたように頷いた。


 一方、マリアは畑の隅にある作業用の水場を見つめていた。


「……あちらの水は、飲むためのものではないのですね?」


「農作業に使う水だよ。飲み水は別の場所で管理してる」


 皇牙が答えると、マリアは安心したように息をついた。


 その様子を見た尊徳は、移住希望者に説明する内容をクラリスへ伝えた。住宅や仕事だけでなく、飲み水、共同食堂、病気になったときの相談先も案内しておく方がよいという。


 クラリスは頷き、今後の来訪者にも同じように説明できるよう、簡単にまとめておくことにした。


 皇牙は二人のやり取りを聞きながら、少しだけ感心した。


 尊徳は農業のことを考え、クラリスは移住者の受け入れを整える。自分が細かく指示しなくても、それぞれが必要なことを考えてくれているのだ。


「……やっぱ、優秀な奴がいると助かるな」


 皇牙が呟くと、巴は穏やかに微笑んだ。


「ですが殿。先ほど、お二人の心配を尋ねられたのは、殿ご自身でございますよ」


「……まあ、せっかく来たんだし、困ってることくらい聞くだろ」


 少し照れくさくなった皇牙は、わざと興味なさそうに答えた。


 見学の最後に、尊徳は昨日造った試験農地も見せた。同じ豆の水の与え方を比較する区画と、ベルンから購入した別の豆がこの土地で育つかを確かめる区画では、目的が異なる。まだ準備の段階なので成果は出ていないが、二人は興味深そうに話を聞いていた。


「新しい作物まで試しているんですね」


 トーマスが感心したように言うと、尊徳は静かに頷いた。


「まだ始めたばかりにございます。うまくいくかどうかは、これから確かめねばなりませぬ」


「……それでも、何もせずに待っているより、ずっといいと思います」


 その言葉には、長年畑で働いてきた者らしい実感がこもっていた。


 やがて見学を終えると、夫婦は村へ戻ることになった。子どもたちは親戚に預けてきており、日が暮れる前に帰りたいという。


「今日はありがとうございました。家族と相談してから、改めてお返事をしたいと思います」


「おう! 急がなくていいぜ。子どもたちにも、ちゃんと話してやってくれよ」


 皇牙が笑うと、マリアは深く頭を下げた。


「……来る前は、正直とても怖かったんです。でも、話を聞いていただけて、少し安心しました」


「そりゃよかった。まあ、ここもまだまだ足りねえもんだらけだけどな」


 皇牙が肩をすくめると、マリアは初めて声を立てて笑った。


 夫婦を乗せた荷車が街道へ向かっていく。皇牙はその後ろ姿を見送りながら、しばらく考え込んでいた。


「……なあ、巴。あの二人、来てくれると思うか?」


「それは分かりません。ですが、よいお顔でお帰りになられましたね」


「……そっか。それなら、まあいいか」


 皇牙は小さく笑った。


 自分なら家をいくらでも造れる。けれど、そこに住むかどうかを決めるのは、相手自身なのだ。大きな城を見せるだけでは分からないことも、今日少しだけ知った気がした。


 夕方になると、皇牙は中庭でいつもの無料ガチャを引いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:91人】

【SR以上排出率:5%】


 この日の召喚結果は、N井戸清掃補助のラルフ、N木材仕分け補助のエルダ、R建築測量補助のフェリクスだった。皇牙は三人を歓迎し、それぞれの仕事については担当者に相談してもらうことにした。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:94人】

【SR以上排出率:5%】


「九十四人か。あと六人で百人じゃねえか!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。


 最初は自分を含めて四人しかいなかった場所に、今では九十四人が暮らしている。城の周囲には家々が並び、畑では作物が育ち、毎日の仕事を支える人々がいる。


 そして今日、まだ移住を決めていない家族が、その暮らしを確かめに訪れた。


「……なあ、巴。百人になったら何かお祝いしてえな」


「ふふ。皆で集まるのも楽しそうですね」


「だろ? でも、食材はちゃんと確保しねえとな。リーナたちが困ったら、お祝いどころじゃねえし」


 巴は少し驚いたように皇牙を見た。


「殿。今日は、ご自分からそう仰るのですね」


「……何だよ。俺だって少しは考えるっての!」


 皇牙は照れ隠しに顔をそむけた。


 その日の夜、クラリスは移住希望者から聞いた内容を簡単な記録にまとめた。トーマス夫妻は下見に訪れただけで、正式な移住の申し出はまだない。家族は四人だが、アストレアの人口には加算されない。


 ただ、最近は街道を通る人々から、集落の場所や暮らしについて尋ねられることが増えていた。まだ小さな変化にすぎないが、クラリスは来訪者へ説明する内容を整理し、次の相談に備えることにした。


 一方、その頃の皇牙は、そんな動きなど知らずに夕食を楽しんでいた。


「くくく……。百人になったら、どんな料理を出してもらおうかなあ!」


 頭の中は、すでにお祝いの献立でいっぱいだった。


 アストレアへ移り住むかどうか、トーマス一家がどんな答えを出すのかはまだ分からない。それでも、灰の荒野に築かれた集落が、外の世界から新しい暮らしの場所として見られ始めていることは確かだった。

お読みいただきありがとうございます。

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