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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

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第2章 第39話 見張り台はできたけど、人手が足りない!

 異世界へ来て二十五日目の朝、神城皇牙は城館の露台に運び込んでもらった長椅子へ寝転がり、満足そうに青空を眺めていた。


 眼下には城門へ続く石畳が延び、その両側には新しい住宅が並んでいる。遠くの工房からは槌の音が響き、農地へ向かう住民たちの姿も見えた。最初は自分と三人の仲間しかいなかった荒野に、今では七十九人が暮らしている。しかも、彼らは皇牙が何も言わなくても、それぞれの仕事を進めていた。


「……最高だな。これだよ、俺が求めてた生活は」


 昨日は西門の外に灰牙狼が現れ、巴とともに魔物を倒したうえ、街道から城門へ続く道と見張り台まで整備した。だから今日は何もしない。ガチャは夕方に引けばいいし、面倒な相談は全部ほかの者に任せておけばいい。そう決めて目を閉じたところで、露台へ続く扉が開いた。


「殿。勘助殿とオスカー殿がお見えです。昨日の見張り台について、ご相談があるそうでございます」


 皇牙は薄目を開け、巴の顔を見た。いつもと変わらない穏やかな表情だが、彼女が告げた内容は、まったく穏やかではない。


「……待て。見張り台は昨日造っただろ? もう完成してるぞ?」


「はい。ですから、どなたがどのように使うかを決めたいそうです」


「建物を造ったら終わりじゃねえのかよ!」


 皇牙は両手で顔を覆った。


 立派な城を造れば家具が足りないと言われ、商店を造れば商品が足りないと言われ、見張り台を造れば今度は人手が足りない。どうやらこの世界では、建物を増やすほど仕事も増えるらしい。魔法で書類や会議まで消し飛ばせたらどれほど楽だろうかと、皇牙は本気で考え始めていた。


「殿。昨日は旅人のためにも安全を確かめたいと仰っておられましたね」


 巴にそう言われ、皇牙は反論を飲み込んだ。確かに自分で言ったことだ。灰牙狼が三匹いただけでなく、リヒトまで襲われかけた以上、見張り台だけ造って放置するわけにはいかない。


「……分かったよ。ただし、軍議なら勘助が仕切れよ。俺は聞いて決めるだけだからな」


 渋々立ち上がった皇牙を見て、巴は小さく笑った。


 西門へ向かうと、山本勘助とオスカー、それに昨日召喚されたR警備補助のディランが待っていた。見張り台は門の外側に建ち、商店の前から道の曲がり角までを見渡せる位置にある。道沿いの低木から少し距離を取るよう石畳も整えたが、茂みの裏側までは見えない。


 勘助はリヒトが描いた周辺図を石の長椅子に広げ、皇牙を迎えた。


「殿。まずは、この見張り台へ常に人を置くことは考えておりませぬ」


「おっ、いいじゃねえか。俺も人手が足りねえって言われるのは嫌なんだよ」


「左様です。ただ、使わぬ設備にするつもりもございません」


 勘助は図の西門を指し、それから商店と休憩所、街道への接続路を順番になぞった。今の人数で重点的に警戒するのは西門と、その外側にある商店、休憩所、そして城門へ続く短い道まで。街道の遠くまで定期巡回することはせず、昨日灰牙狼が現れた低木の奥にも、不用意に踏み込まないという。


「まず人が暮らし、働いている場所を守る。異変を見つけた者は追いかけず、戻って知らせる。それを徹底したいのです」


「なるほどな。昨日みたいに、足跡を見つけるたびに全員で茂みへ突っ込むわけじゃねえんだな」


「無論です。調査が必要なら、人を選び、備えてから向かえばよいでしょう」


 皇牙は素直に頷いた。見張りと戦闘を分けて考えるという勘助の方針は、昨日の経験からも理解できる。魔物と戦う力があるからといって、全員が危険な場所へ出向く必要はないのだ。


 オスカーはこれまでの見回りで気づいたことを説明した。西門の周辺なら普段から確認しているが、見張り台へ上れば地上より遠くを見渡せる反面、その間は門の近くを直接歩いて確かめることができない。片方へ人を増やすのではなく、状況に合わせて使い分けたいという。


 ディランも周辺図へ目を向けた。


「私は警備の仕事を経験しておりますが、ここへ来たのは昨日です。まずオスカー殿に同行し、見回る場所と報告の仕方を覚えたいと思います」


「おう、それで頼む。Rだからって、知らねえ土地でいきなり一人にするつもりはねえよ」


 皇牙が答えると、ディランは安心した様子で一礼した。


 そこで勘助は、当面の運用をまとめた。オスカーとディランは日中の西門周辺で、持ち場を空けない範囲の短い見回りを行う。見張り台は旅人の往来が増える時間や、道の先に異変が見えたときに使用する。夜間は門の施錠と既存の警戒を優先し、二人だけで新しい長時間勤務を増やさない。危険を見つけた場合は無理に追跡せず、まず知らせる。


「……いいじゃねえか。俺が考えるより、ずっとまともな仕組みになったな!」


「殿も昨日、無理のない範囲でと仰っておられましたからな」


 勘助はそう言って笑った。


 皇牙は満足そうに頷いたが、ふと巴の方へ目を向けた。彼女はこれまで皇牙の護衛だけでなく、周辺の探索や魔物への対応まで担ってきた。見張り役が増えるとはいえ、戦える人間が急に増えたわけではない。


「なあ、巴。これで少しは楽になるか?」


「はい。異変を早く知らせていただければ、私も備えて動けます。ただ、殿のお側を離れられぬときもございますので、すべてを引き受けられるわけではありませぬ」


「そりゃそうだよな。じゃあ、何でも巴に押しつけるのはなしだ」


 皇牙があっさり言うと、巴は少し驚いたように目を見開いた。


「殿……」


「何だよ。お前に倒れられたら、俺が一番困るんだからな!」


 照れ隠しのように言い放つ皇牙に、巴は柔らかく微笑んだ。


「ありがとうございます。そのお言葉だけで、十分励みになります」


 打ち合わせを終えたあと、オスカーはディランを連れて西門周辺を歩き始めた。皇牙と巴も、勘助とともに少し離れた場所から様子を見ることにする。


 ディランは道の端に残った古い車輪の跡や、昨日整えた石畳の位置を確かめながら、オスカーへ質問していた。どこまでが日常の見回りの範囲なのか、商店の客が道に迷った場合は誰へ伝えるのか。細かな確認が続くが、オスカーは面倒がらずに答えている。


 しばらく歩いたところで、ディランが急に足を止めた。


「オスカー殿。あの辺り、草が動いておりませんか?」


 彼が指さした先は、昨日灰牙狼が現れた茂みとは別の、道の反対側だった。皇牙も目を凝らすと、低い草がわずかに揺れている。


「……また魔物か?」


 思わず身構えた皇牙を、勘助が片手で制した。


「まだ分かりませぬ。まずは様子を見ましょう」


 オスカーとディランは近づかず、道の安全な側へ下がった。ディランは見た場所を正確に伝え、オスカーが周囲を確認する。やがて草の間から小さな野兎が飛び出し、道を横切って反対側へ駆けていった。


「……なんだ、兎かよ!」


 皇牙が肩の力を抜くと、オスカーも苦笑した。


「今のように、見えたものを確かめてから判断すればいいんです。危険かもしれないと感じても、すぐ追いかける必要はありませんから」


「はい。まず位置と様子を伝えるのですね」


 ディランは真剣に頷いた。


 何でもない出来事だったが、皇牙は少し感心していた。昨日の自分なら、草が動いただけで魔法を構えていたかもしれない。だが、今は警備の担当者が状況を見て、必要な相手へ知らせる仕組みを覚え始めている。


「……いいねえ。こういうのを積み重ねれば、俺が毎回飛んでこなくて済むってわけか」


「殿。異変を見つける力と、正しく知らせる力があれば、大きな助けになります」


 勘助の言葉に、皇牙は満足そうに頷いた。


 昼前には、もう一つの仕事が待っていた。西門から街道へ向かう道には見通しの悪い場所が残っており、旅人が誤って低木の奥へ入らないよう案内を整えたいという。皇牙は最初、立派な警告の塔でも造ろうかと考えたが、勘助と巴に止められた。


「巨大な狼の頭蓋骨を飾って、『ここより先、死を覚悟せよ』って書けば格好よくね?」


「殿。それでは商店へ来るお客様まで逃げてしまいます」


「……確かに。せっかく客が来るようになったのに、それは困るな」


 皇牙は渋々案を引っ込めた。


 商店へ行ってエドガーに相談すると、旅人にとっては恐ろしい警告より、どちらの道を進めばよいか分かる案内の方がありがたいだろうという返事だった。危険があることは隠さず、道から外れないよう知らせる。必要なら店でも口頭で説明すればよい。


 皇牙はエドガーが確認した文言をもとに、《国家創造EX》で固定式の石柱を設けた。街道から西門へ向かう方向を示す案内板と、低木の奥へ不用意に入らないよう注意する小さな警告板だ。どちらも地面に固定された設備で、持ち運ぶための道具や商品ではない。


「……地味だな。せめて黒い翼くらい付けたかったぜ」


「十分立派でございますよ、殿」


 巴に笑われ、皇牙は肩をすくめた。


 午後になると、街道を歩いてきた二人連れの旅人が西門へ立ち寄った。二人は大きな荷物を背負い、少し疲れた様子だったが、道の分岐で迷うことなく商店の前へ到着した。


 エドガーが水の場所を案内すると、年配の男性が石柱を振り返った。


「途中に案内があって助かりましたよ。初めて通る道だったもので、どちらへ行けばよいのか迷うところでした」


「それはよかったです。こちらの休憩所は昼間でしたらお使いいただけますので、どうぞお休みください」


 旅人たちは礼を言い、屋根の下へ腰を下ろした。


 皇牙は少し離れたところでその様子を眺め、思わずにやりと笑った。大きな城門を造ったときほど派手な成果ではないが、自分が造った案内板がさっそく役に立ったらしい。


「……いいじゃねえか。俺の石柱、ちゃんと仕事してるぞ!」


「はい。旅人の方もお喜びでしたね」


 巴が頷くと、皇牙は胸を張った。


「ふっふっふ。これが天才建築家、神城皇牙の実力だ!」


「殿。案内の内容を考えたのは、エドガー殿でございますよ」


「分かってるって! だから皆で作った成果ってことだろ?」


 皇牙は笑いながら答えた。


 夕方、城館へ戻った皇牙は中庭で無料ガチャを開いた。昼寝の時間は少ししか取れなかったが、警備の仕事が自分の手を離れて進み始めたことは嬉しかった。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:79人】

【SR以上排出率:5%】


「よーし! 今日こそSRを頼むぜ! そろそろ新しい歴史の偉人に会いてえんだよ!」


 一回目に現れたのは、N倉庫整理補助のロアンだった。物資の分類や整理を手伝える人材で、ヘルダやローディンたちの仕事に加われるという。


 二回目には、N調理補助のベラが召喚された。厨房での下ごしらえや配膳を手伝えるため、リーナやエマたちの負担を減らせそうだった。


「おっ、厨房の人手が増えるのはいいな! これで飯がもっと豪華になるかもしれねえ!」


 皇牙は嬉しそうに笑い、最後の一回を引いた。


 召喚陣が青い光を放ち、一人の青年が姿を現す。


【R:地域案内係 アデル】


「おおっ、Rだ! 地域案内係か!」


 《万能鑑定EX》で確かめると、アデルは訪問者への道案内や、土地の情報を整理して伝える仕事に向いていた。旅の経験はあるものの、アストレア周辺についてはまだ何も知らない。皇牙は早速、既存の旅行案内役フィオナと仕事を分けることを考えた。


 フィオナにはこれまでどおり街道の調査や移動経路の助言を頼み、アデルには拠点を訪れる旅人への案内や、道に関する情報の整理を担当してもらう。実際に案内できるようになるまでは、フィオナやエドガーから周辺のことを教わればよい。


「よし! ちょうど案内板もできたところだし、アデルにも仕事はありそうだな!」


 皇牙は三人を歓迎し、住まいと仕事の案内をクラリスへ任せた。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:82人】


「八十二人! 百人まであと十八人か!」


 人口表示を見ながら笑う皇牙の隣で、巴も満足そうに頷いた。


 夕食の前、皇牙はもう一度西門へ足を運んだ。夕日に照らされた見張り台には誰も立っていなかったが、オスカーとディランは今日の確認を終え、城門へ戻ってきたところだった。二人が短い報告を交わす様子を見て、皇牙は少しだけ感心する。


 新しい設備ができたからといって、危険が消えるわけではない。それでも、見張る者と知らせる者が役割を確かめ、少しずつ仕事を覚えていくことで、守れる範囲は確かに広がっていくのだろう。


「……なあ、巴。俺、最初は城さえ造れば全部終わりだと思ってたんだよ」


「今は、そうではないとお考えですか?」


「そりゃそうだろ。城を造ったら住む奴が必要で、人が増えたら道が必要で、道ができたら今度は守る奴が必要になる。面倒なことばっか増えてんじゃねえか」


 皇牙は苦笑した。


 それでも、嫌だと思うだけではなかった。最初は自分と三人の仲間しかいなかった荒野に、今では八十二人が暮らしている。街道には案内板が立ち、商店には旅人が立ち寄り、警備の仕事を分担する者まで現れた。


「……まあ、皆が安心して暮らせるなら、悪くねえか」


 皇牙がぽつりと呟くと、巴は嬉しそうに微笑んだ。


「殿がそうお考えなら、皆も安心して励めることでしょう」


 皇牙は少し照れくさそうに鼻を鳴らし、見張り台を見上げた。


 商店の現金は銀貨十三枚のままで、売り物も縄一本しか残っていない。ベルンが欲しがっていた木箱の追加生産も、まだ始まっていなかった。


 しかし、昨日造った見張り台は、今日からようやく人の仕事と結びつき始めた。案内板も、初めて訪れた旅人の役に立っている。


 建物を造ることだけが国造りではない。そこに暮らす人間が、それぞれの仕事を覚え、協力することで初めて、街は少しずつ形になっていく。


「……よし。俺はやっぱり、優秀な奴を増やして楽をする方向でいこう!」


 皇牙は満足そうに笑い、夕食の待つ城館へ歩き出した。


 その背後では、オスカーがディランへ明日の確認範囲を説明している。皇牙が何も言わなくても、少しずつ仕事が進んでいく。その光景こそ、彼が思い描いていた理想の国家に近いものだった。

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