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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

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第2章 第38話 街道の安全も俺の仕事なのか?

 異世界へ来て二十四日目の朝、神城皇牙は城館の食堂で、焼きたてのパンを頬張りながら昨日の出来事を思い返していた。


 商人ベルンが改良済みの木箱を購入し、商店の現金は銀貨十三枚になった。さらに、次に訪れるときには同じ箱を三つほど欲しいという。正式な注文ではないものの、以前買った商品を気に入ってくれたという事実が、皇牙には何より嬉しかった。


「くくく……。このまま商売が軌道に乗れば、金貨百枚の有料ガチャも夢じゃねえな!」


「殿。銀貨十三枚から金貨百枚までは、まだ随分と遠うございますよ」


 向かいに座っていた巴が微笑む。皇牙も金貨一枚が銀貨百枚に相当することくらいは理解していた。有料ガチャ一回には銀貨一万枚が必要になる計算だが、夢を見るだけなら無料である。


「細けえことはいいんだよ。最初は売る物すらなかったんだから、少しずつ前進してるだろ?」


「それは確かに。昨日はガルド殿たちもお喜びでしたね」


「だろ? 俺が店を造って、職人が商品を作って、エドガーが売る。完璧な仕組みじゃねえか。あとは俺が昼寝してても儲かるようになれば完成だな!」


 皇牙は上機嫌でパンを口へ運んだ。しかし、そんな平穏な朝食の時間は、食堂へ入ってきた伝令役のノアによって終わりを告げた。


 ノアは西門を担当するオスカーからの報告を預かっていた。城門と街道を結ぶ道の脇で、昨夜の見回りでは確認されていなかった大きな獣の足跡が見つかったという。


「……おいおい。せっかく商人が来るようになったってのに、今度は魔物か?」


「まだ魔物と決まったわけではないそうです。オスカーさんも、足跡だけでは判断できないと」


 皇牙は思わず天井を仰いだ。商店が繁盛すれば自分の自由時間も増えると思っていたのに、客が増えるほど気にしなければならないことまで増えていく。


「殿。まずは状況を確かめましょう。街道の近くなら、旅人が通る可能性もございます」


 巴の言葉に、皇牙は渋々椅子から立ち上がった。自分の昼寝が邪魔されるだけなら文句の一つも言って終わりにできるが、住民や旅人に危険が及ぶなら話は別だ。


「分かった。誰かが襲われてからじゃ遅えしな。さっさと確認して、昼飯までには帰るぞ!」


 西門の外には、すでにオスカーが待っていた。商店ではエドガーが商品の整理をしていたが、事情を聞いており、危険が確認されるまでは訪れた客を道の奥へ案内しないことになっている。幸い、今朝はまだ旅人の姿はなかった。


 足跡は、城門から街道へ向かう石畳の端に残っていた。乾いた地面の中で、そこだけ雨の名残を含んだ柔らかい土になっている。爪の先が深く食い込み、道の外側にある低木の茂みへ続いていた。


「……狼か? でも、随分でけえ足だな」


 皇牙はしゃがみ込んで跡を眺め、《万能鑑定EX》を試した。ところが分かったのは土の性質程度で、足跡の主が何者で、今どこにいるのかまでは表示されない。


「ちぇっ。こういうときこそ便利な情報が出てほしいんだけどな」


「殿。正体が分からぬからこそ、慎重に調べる必要がございます」


 巴は足跡の向きを確かめながら、皇牙の前へ出た。茂みの奥は見通しが悪く、獣が伏せていれば、近くまで行かなければ気づかないだろう。


 ほどなく山本勘助と測量士のリヒトも到着した。勘助は足跡を見てから周囲を眺め、オスカーへ夜間の見回りについて質問した。


「昨夜、鳴き声や物音はなかったか?」


「気づいたものはありません。ただ、この辺りは城門から見えにくく、暗くなれば茂みの奥までは分かりません」


「ふむ。足跡の数だけで獣の頭数は決められぬな。同じものが往復した可能性もある。それに、あの低地は身を隠すのに都合がよい」


 勘助は低木の先へ目を向けた。石畳から外れると地面は緩やかに下り、背の高い草と低木が入り交じっている。もし獣が潜んでいれば、こちらの姿だけが先に見えてしまう地形だった。


 リヒトは以前調べた範囲を説明し、石畳から離れた先はまだ測量が終わっていないと付け加えた。勘助は頷いたものの、彼をそのまま茂みへ連れていこうとはしなかった。


「リヒト殿は、ここから地形を記録していただきたい。石畳を離れず、異変があれば西門まで戻ること。オスカー殿には門と商店の警戒を頼む」


「承知しました。こちらから見える範囲を確かめます」


 リヒトが安全な側へ下がると、勘助は巴と皇牙へ向き直った。茂みを調べるのは三人だけにし、見通しの利かない奥へは無理に踏み込まない。逃げる必要が生じた場合も、石畳へ戻る道をふさがれない位置を保つという。


「なるほどな。俺が魔法で茂みを全部吹っ飛ばすってのはどうだ?」


「殿。まだ何がいるかも分かりませぬ。周囲を荒らせば、足跡も逃げ道も見失いかねませんぞ」


「……はいはい。こういうときは軍師様の言うことを聞いときますよ」


 口では不満を言いながら、皇牙は素直に頷いた。自分なら魔法で地形を変えることも簡単だが、何も分からないまま周囲を破壊する必要はない。勘助が危険を見極め、巴が前方を警戒してくれるなら、その方が確実だった。


 三人は石畳へ戻れる距離を保ちながら、足跡の先を確かめた。茂みの根元には折れた枝があり、その先の柔らかい土にも似た爪痕が残っている。さらに少し進むと、低木の枝へ黒っぽい毛が絡みついていた。


 巴がそれを確かめようとした瞬間、勘助が片手を上げた。


「待たれよ。右手の草が、不自然に揺れておる」


 皇牙が視線を向けると、風とは違う動きが茂みの奥を走った。続いて低い唸り声が聞こえ、灰色の大きな獣が一匹、草を押し分けて姿を現す。その左右からも二匹が現れ、三人を囲むようにゆっくりと散らばった。


「……うわ、三匹もいるじゃねえか!」


 皇牙はすぐに《万能鑑定EX》を使った。


【名称:灰牙狼】

【分類:魔物】

【特徴:複数で獲物を追い込む肉食性の魔物】


 普通の狼より一回り大きく、肩から背中には硬そうな突起が並んでいる。鋭い牙を見せながら距離を詰める三匹を前に、巴は静かに刀を抜いた。


「殿。私が正面を引き受けます。勘助殿、どうか右手を」


「心得た。殿は石畳へ戻れる位置を保たれよ」


「おう。何かあったらすぐ魔法を使うから、無茶すんなよ!」


 皇牙の返事に巴が頷いた直後、正面の灰牙狼が飛びかかってきた。大きく開いた口には鋭い牙が並んでいるが、巴はその動きを見切り、半歩だけ横へ身をかわす。すれ違いざまに振るった刀が獣の肩を捉え、灰牙狼は悲鳴を上げて地面へ転がった。


 左右に散っていた二匹は、巴を挟み込むように動いた。しかし、彼女は一方へ無理に追いかけず、皇牙へ近づけない位置を守りながら足を運ぶ。右から飛びかかった一匹を刀で斬り払い、間髪入れずに反対側へ身体を向けた。


 皇牙から三十メートル以内で戦う巴には、固有スキル《忠義の武者》による身体能力の上昇が働いている。その踏み込みは鋭く、獣が方向を変えるより早く刃が届いていた。


「……やっぱ巴、めちゃくちゃ強えな」


 皇牙が感心した、そのときだった。


 最初に傷を負った灰牙狼が、茂みの方へ逃げると見せかけて向きを変えた。走り出した先には、石畳の脇で地形を確認していたリヒトの姿がある。魔物は巴たちの脇を大きく回り込み、開けた道へ飛び出そうとしていた。


「リヒト殿、下がれ!」


 勘助の声に、リヒトはすぐさま西門の方へ走った。だが、急いで後退した拍子に石畳の端へ足を取られ、身体が傾く。灰牙狼はその隙を逃さず、牙をむき出しにして跳躍した。


「……俺の仲間に手ぇ出してんじゃねえぞ!」


 皇牙が片手を振り上げた瞬間、リヒトと灰牙狼の間に土属性魔法で石の障壁がせり上がった。獣は突然現れた壁へ激突し、勢いを失って地面へ転がる。


 皇牙はすぐにリヒトの姿を確認した。転倒したものの、大きな怪我はなさそうだ。巴はその間に残る一匹を仕留め、続けて倒れた灰牙狼へ駆け寄った。立ち上がろうとした獣は、彼女の一太刀によって動かなくなった。


 最後の一匹が倒れても、巴はすぐに刀を納めなかった。周囲へ目を配り、新たな唸り声や草の揺れがないかを確かめる。勘助も退路の安全を確認し、これ以上茂みの奥へ踏み込まないよう告げた。


「殿。この場に留まりすぎるのは得策ではありませぬ。いったん戻りましょう」


「そうだな。リヒト、大丈夫か?」


 皇牙が駆け寄ると、リヒトは尻もちをついた姿勢から立ち上がった。手を少し擦りむいていたが、幸い大きな怪我はない。


「申し訳ありません。足元をよく見ておらず……」


「謝るなって。魔物が突っ込んできたんだから、転ぶことだってあるだろ。怪我がなくてよかったよ」


 皇牙はそう言い、ほっと息をついた。


 勘助の判断で死骸の位置を記録し、あとから処理できるようにしたうえで、四人は西門へ戻った。三匹を倒したからといって、周辺にほかの灰牙狼がいないとは限らない。足跡のあった茂みへ不用意に近づかないよう、オスカーとエドガーにも伝えておく必要があった。


「……なあ、勘助。あいつら、商店の近くまで来てたってことだよな?」


「左様です。今後も同じ場所を通る可能性がありましょう。まずは人が通る道から、身を隠しやすい場所を遠ざけるべきですな」


 勘助は西門へ続く石畳と、その脇に広がる低木を見比べた。リヒトも調査した地形をもとに、道の一部を茂みから離れた位置へ移せば、見通しを改善できると説明する。ただし、街道そのものを変えるのではなく、城門へ続く拠点側の道を整えるだけで十分だという。


「なるほどな。それなら俺の得意分野じゃねえか!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。


 その日の午後、勘助とリヒトの確認を受け、皇牙は《国家創造EX》で石畳の一部を整えた。低木をすべて取り除くのではなく、人が歩く道を少しずらして見通しを確保する。これなら周辺の地形を無理に変えずに済み、城門へ向かう旅人も道を見失いにくい。


「よし! ついでに、巨大な黒い見張り塔でも建てるか!」


「殿。見張り台は見張るためのものにございますよ」


 巴が笑いをこらえながら言った。


「分かってるって! でも、格好いい方が士気も上がるだろ?」


 結局、皇牙が造ったのは、西門の外側から道を見渡せる小さな石造りの見張り台だった。上り下りしやすい固定階段を設け、周囲を見渡す場所には十分な広さを確保している。外壁には皇牙の趣味で鳥の意匠が刻まれたが、見張りの邪魔になるような大きな飾りは付けなかった。


 オスカーが実際に上って確かめると、商店の前から道の曲がり角までは、以前よりもよく見渡せた。ただし、茂みの裏側まで見えるわけではない。あくまで異変を発見しやすくする設備であり、これ一つで街道の安全が保証されるものではなかった。


「だったら、ここに誰か置いとけばいいんじゃね?」


「殿。常に人を置くには、交代する者も休む者も必要ですぞ」


 勘助の返答に、皇牙は思わず口を閉じた。


 警備を担当できる人材は限られている。オスカー一人に昼夜の見張りを任せれば、いずれ無理が生じるだろう。そこで勘助は、しばらくの間は既存の巡回に見張り台の確認を組み込み、危険が見つかった時間帯や状況に合わせて使うことを提案した。


「……よし、それでいこう。皆が倒れるまで働いたら、俺が何のために設備を造ったのか分かんなくなるしな」


 皇牙は素直に頷いた。


 夕方、城館へ戻った皇牙は中庭に立ち、今日の無料ガチャを開いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:76人】

【SR以上排出率:5%】


「よーし! 今日は魔物まで出てきたし、そろそろSRが来てもいいんじゃねえか?」


 一回目に現れたのは、N農作業補助のオリバーだった。畑の手入れや収穫作業を手伝える人材で、マルクたちの仕事に加われるという。


 二回目にはR警備補助のディランが召喚された。周辺の見回りや見張りの交代を支えることに向いていると分かり、皇牙は思わず顔を輝かせた。


「おおっ、警備向きの奴じゃねえか! 今日ちょうど人手が欲しいって話してたんだよ!」


 ただし、召喚されたばかりのディランは、この土地の地形も危険な場所も知らない。皇牙はすぐに単独で巡回へ出すのではなく、まずオスカーや勘助から周辺の状況を教えてもらうことにした。


 三回目に現れたのは、N倉庫運搬補助のミゲルだった。荷物の運搬や荷下ろしを手伝える人材で、ヴァルターたちの仕事にも役立ちそうだ。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:79人】


「七十九人か! 百人まであと二十一人だな!」


 皇牙は満足そうに笑い、三人を歓迎した。SR以上の排出率はまだ五パーセントだが、毎日無料で三人ずつ仲間が増えるだけでもありがたい。今日のように、必要としていた分野の人材が加わることもあるのだ。


 クラリスへ三人の案内を任せたあと、皇牙は巴とともに西門へ向かった。


 夕日に照らされた見張り台の上では、オスカーが道の様子を確かめていた。少し離れた商店ではエドガーが片付けを進め、城門の内側からは夕食の準備をする住民たちの声が聞こえてくる。


「……なあ、巴。俺、今日は商売のこと考えながら昼寝する予定だったんだけどな」


「殿。今日は皆の安全を守るために働かれました」


「まあな。せっかく店を造っても、客が魔物に襲われたら台無しだし」


 皇牙は小さく息を吐き、街道の先へ目を向けた。新しい見張り台と整えた道があっても、荒野から危険が消えたわけではない。それでも、昨日より少しは安心して歩ける道になったはずだ。


「……城を造ったときは、こんなことまで考えてなかったんだけどな」


「人が集まる場所を造られたのです。守るべきものも、少しずつ増えてまいります」


 巴の言葉に、皇牙は黙って頷いた。


 自分が望んでいるのは、世界征服でも立派な王様になることでもない。好きなときにガチャを引き、美味しい飯を食べ、気の向くままに昼寝することだ。そのために造った城だったが、今ではそこに七十九人もの人間が暮らしている。


 彼らが安心して暮らせなければ、自分だって落ち着いて眠れない。


「……よし。だったら、もっと優秀な奴を集めて、俺が心配しなくても済むようにしてやる!」


 皇牙が得意げに笑うと、巴も微笑んだ。


「ふふ。それでこそ殿にございますね」


 夕暮れの西門に、穏やかな風が吹き抜けた。


 商店の現金は銀貨十三枚のままで、売り物も縄一本しか残っていない。ベルンが希望した木箱の追加生産も、まだ始まっていなかった。


 それでも、街道を利用する人々のために、新しい見張り台ができた。


 皇牙が望む悠々自適な暮らしには、まだ少しばかり仕事が必要らしい。もっとも、その大半を優秀な仲間たちへ任せるつもりでいることだけは、これからも変わらなかった。

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