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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

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第2章 第36話 木材が足りない? 俺の城には森がない

「頼む、今度こそSR! できれば諸葛亮とか、俺の仕事を全部引き受けてくれそうな偉人で!」


 異世界へ来て二十二日目の朝。神城皇牙は朝食もそこそこに城館の中庭へ飛び出し、《英霊召喚ガチャEX》を開いていた。昨夜は家具職人のフリードが仲間になったばかりだが、ガチャ好きの皇牙にとって、新しい人材が増える楽しみと歴史上の偉人を引き当てたい気持ちは別物である。


 背後では巴が、朝の冷たい風に髪を揺らしながら呆れたように笑っていた。


「殿。そんなにお急ぎにならずとも、無料召喚は逃げませぬよ」


「早く引けば、その分だけ昼寝の時間が増えるだろ。これぞ合理的な時間管理ってやつだ!」


「朝餉を途中で切り上げられたことは、合理的なのでございましょうか」


「……あとで食うから大丈夫!」


 皇牙は聞こえなかったことにして、召喚画面へ指を伸ばした。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:70人】

【SR以上排出率:5%】


 一回目に現れたのは、N木材運搬補助のテオ。続く二回目は、N繕い手のマリだった。テオは工房や材木置き場での運搬を、マリは傷んだ衣服や布類の補修を手伝えるらしい。


「どっちもありがたいけど、今度こそ頼むぜ!」


 期待を込めて最後の召喚を行ったものの、現れたのはN木材乾燥補助のエルンストだった。髭のある中年男性で、挨拶を終えると早速、材木の保管場所がどこにあるのかを尋ねてきた。


「……Nが三人か。まあ、最近は木工の仕事が増えてるし、ちょうどいいのかもな」


 皇牙は一瞬だけ肩を落としたが、すぐに笑顔を取り戻した。三人とも必要な仕事を持っている。歴史上の偉人ではないからといって、歓迎しない理由にはならない。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:73人】


「よし、今日の楽しみは終了! あとはクラリスに紹介して、俺は二度寝だ!」


 ところが、三人を案内しようとしたところで、工房からやってきたガルドに呼び止められた。


「皇牙様。家具の製作について、少しご相談がございます」


「……なんだよ。昨日フリードが来たばっかりだろ?」


「ええ。だからこそ、使う木材を整理したいのです」


 どうやら昼寝への道は、今朝も遠いらしい。


 工房へ向かうと、ガルドとフリードが板材を並べていた。長い板、短い板、厚い板。見た目にはどれも同じような木材に見えるが、フリードによれば、それぞれ使い道が違うという。


「机の天板にはある程度の幅が必要ですし、椅子の脚には丈夫な木材を選びたいところです。短い板は小箱などに使えますが、大きな家具には向きません」


「ふーん。足りねえなら、森から伐ってくりゃいいんじゃねえの?」


 皇牙は軽い調子で言った。


 しかし、ガルドは苦笑いを浮かべた。


「この辺りは灰の荒野でございます。木がまったくないわけではありませんが、近くに大きな森があるわけではありません。点在する木を片っ端から伐っても、家具に適した材木を安定して得られるとは限らないのです」


 そう言われ、皇牙は城壁の外の景色を思い浮かべた。乾いた大地には草や低木が生え、ときおり大きめの木も見かける。しかし、前世で見たような、背の高い木々が延々と続く森は近くにない。


「……ああ、そういやそうだった。俺の城にはでっかい森が付いてねえんだよな」


「はい。今ある木材も、オルフたちが周辺から集めてきた貴重なものです。遠くへ採りに行けば運搬の手間も増えますし、魔物への警戒も必要になります」


 皇牙は作業台の板を眺め、少しだけ考え込んだ。


 城や道路なら、材料がなくても《国家創造EX》で造れる。だが、工房に置く板材そのものを好きなだけ生み出せるわけではない。立派な城館を造る能力があっても、そこに置く椅子一脚には別の苦労がいるのだ。


「じゃあ、木材をいっぱい置ける倉庫を造ればいいんじゃね?」


「保管場所は助かりますが、倉庫を増やしても木材の数は増えませんよ」


 ガルドの返答があまりに早く、皇牙は思わず顔をしかめた。


「分かってるって! ちょっと言ってみただけだよ!」


 フリードが小さく笑い、乾燥中の板を一本手に取った。


「それに、伐ったばかりの木はすぐ家具へ使えないこともあります。水分が多いまま組めば、あとで反ったり、接合部分が緩んだりしかねません」


 横で話を聞いていたエルンストが、板の木口を確かめながら頷く。


「風が通るように積み、雨を避けて乾かす必要がございます。地面へ直接置けば湿気を拾いやすいので、下に間を空けるのがよろしいかと」


「なるほどな。だったら、その場所を整えるのは俺にもできそうだ」


 皇牙が乗り気になると、ガルドは既存の材木置き場へ案内した。屋根付きの場所はあるが、長い板と短い板、乾燥中の木材が近くに積まれており、扱いに注意が必要だという。


 エルンストは板の乾き具合を見ながら、すぐ使えるものと乾燥を続けるものを分けて保管する案を出した。ヴァルターも呼ばれ、荷運びの邪魔にならない配置を確認する。皇牙はリヒトに場所を確かめてもらい、既存の置き場に接する空き地へ、屋根と柱だけの固定式の保管場所を増設した。


 日差しと雨を遮りながら、横から風が通る造りだ。床を地面より高くし、板を置くための固定式の受け台も設けている。


「どうだ! これぞ材木を守る聖なる保管殿堂!」


「殿。どうして材木置き場まで殿堂になるのでございましょう」


 巴が肩を震わせる。


「俺が造った建物だからだ! 格好いい名前の方が楽しいだろ?」


 皇牙は満足げだったが、エルンストから乾燥には時間がかかると念を押され、すぐに使える木材が増えたわけではないことも了承した。


 その日の昼前、工房には資材管理のグレゴールと運搬管理のヴァルターが集まった。フリードが家具を作りたがっている一方、ガルドには修理の依頼があり、エドガーも商店の商品を補充したいと考えている。


 ただし、木材は限られている。


「……面倒くせえ。どうして皆が欲しい物、同時に増えるんだよ」


 皇牙がぼやくと、グレゴールが木板に書き留めた在庫の区分を見せた。


 扉や農具の修理に備える材料は残す必要がある。商店には縄一本と、木製の留め具を付けた蓋付き木箱が一つ残っているため、すぐに同じ商品を大量に追加する必要はない。一方、住宅では収納用の小箱や簡単な台を欲しがる声が出ていた。


「必要な修理を先にやってくれ。その次は住民が使う家具だな。店の商品は、材料に余裕ができてから増やそうぜ」


 皇牙の返事に、ガルドとフリードが頷いた。


 エドガーも商店の現状を説明し、今ある在庫が売れるまでは無理に追加生産しなくてよいと答えた。皇牙としては銀貨が増える方が嬉しいが、住民が困るのを放っておいてまで商品を並べる気にはなれなかった。


「それで、家具は何から作るんだ?」


「大きな机よりも、まずは蓋のない小さな収納箱を考えています」


 フリードは作業台に並べた短い板を示した。長い板をほとんど使わずに作れ、衣服や道具を整理するのに役立つという。昨日ヨハン一家へ渡した籠とは別に、形が崩れにくい入れ物があれば便利だろう。


「いいじゃねえか。試しに一つ作って、使ってもらえばいい」


 グレゴールが修理用の材料を確保したうえで、試作に使える短い板を選んだ。運搬はヴァルターの指示を受けたテオが手伝う。ガルドは工房全体の作業を管理し、フリードは家具の寸法と組み方を考える役に回った。


 その様子を見て、皇牙は満足そうに頷いた。


 新しいR職人が来ても、最初から働いているガルドが不要になるわけではない。むしろ、それぞれの得意な仕事を分けることで、工房全体の負担が減っている。


「……いいねえ。俺が何も考えなくても、ちゃんと仕事が進んでる」


「殿。方針はお決めになったではありませんか」


「それくらいならいいんだよ。細かいことまで俺にやらせないのが重要なんだ!」


 巴に笑われながら、皇牙はようやく遅めの朝食を取りに戻った。


 午後、昼寝を始めようとしたところで、今度はフリードが報告に来た。試作品が形になりそうなので、見に来てほしいという。


「……俺、今日こそ昼寝したかったんだけどな」


 そう言いながらも、皇牙はあっさり立ち上がった。新しい物が出来上がるところを見るのは、嫌いではないのだ。


 工房では、短い板を組み合わせた小型の収納箱が作業台に置かれていた。商店に並ぶ蓋付き木箱より小さく、留め具もない。衣服や小道具を整理するための、持ち運べる普通の木箱である。


「おお、ちゃんと箱になってるじゃねえか!」


「形にはなりましたが、まだ仕上げが必要です」


 フリードは縁へ指を滑らせ、一か所で手を止めた。そこには細いささくれが残っている。布を入れると引っかかりそうだと説明され、皇牙も試しに触れてみた。


「いてっ。確かに、これじゃ使いにくいな」


「はい。木の表面を整え、底板が外れないかも確かめます」


 フリードはささくれを削り、布の端切れを入れて持ち上げた。底は動かず、箱全体が大きく歪むこともない。ガルドも継ぎ目を確かめ、軽い日用品を入れる用途なら問題なさそうだと頷いた。


「じゃあ、これをヨハンたちに渡そうぜ。あの家、まだ道具を入れる場所が足りねえんだろ?」


「よろしいと思います。ただ、ほかに急ぎで必要な場所がないか、ヘルダとクラリスにも確かめておきます」


「頼んだ。使い心地も聞いてくれよ!」


 皇牙は職人たちに任せ、工房をあとにした。


 夕方になると、フリードたちは試作品をヨハン一家へ届けた。皇牙も巴と一緒に立ち寄り、どんな反応を見せるのか眺めていた。


 アリナは箱を受け取ると、造り付けの棚の下へ置き、畳んだ衣服を入れてみた。昨日、ルッツと一緒に作った小さな籠には針仕事の道具が収まっている。用途が違う二つの入れ物を並べると、床に置いていた荷物が随分片付いた。


「これなら衣服を汚さずにしまっておけます。ありがとうございます」


「使いにくいところがあれば、教えてください」


 フリードが尋ねると、アリナは箱を少し動かしてみた。


「持ち上げるとき、指をかける場所があるともっと便利かもしれません。でも、今のままでも十分助かります」


「なるほど。次に作るときの参考にさせていただきます」


 フリードは感想を聞き、静かに頷いた。


 その傍らでは、トビアスが箱を興味津々で覗き込んでいた。中に衣服が収まっているのを見ると、少し残念そうな顔になる。


「……僕の宝物は?」


「そっちは、あの籠に入れてもいいんじゃねえか?」


 皇牙が提案すると、アリナは首を振った。


「針仕事の道具が入っていますから、一緒にすると危ないんです」


「……そりゃそうか。じゃあ、宝物専用の箱も、そのうち頼めばいい」


「本当!?」


 目を輝かせるトビアスに、皇牙は笑った。


「すぐとは言ってねえぞ。材料が余ったらな!」


 するとルカが横から顔を出し、自分の宝物も入れていいかと尋ねた。皇牙が返事に困っていると、巴が楽しそうに笑い始める。


「殿。二人分となれば、なかなか立派な宝箱が必要になりそうですな」


「……待て待て! 俺が造るとは言ってねえからな!」


 皇牙の慌てた声に、ヨハン夫妻まで笑った。


 小さな収納箱一つで、家の中は少しだけ片付いた。街全体の家具不足が解決したわけではないし、商品として売り出せるほど材料が揃ったわけでもない。それでも、住民の声を聞き、職人が形にし、使った人が感想を返す。そんな流れが生まれ始めていることを、皇牙は嬉しく感じていた。


 城館へ戻る道すがら、巴が横から声をかけた。


「殿。今日はお昼寝ができませんでしたね」


「まったくだ。朝からガチャ引いて、材木置き場造って、工房まで何回も往復して……俺、働きすぎじゃね?」


「ですが、皆は喜んでおりましたよ」


 皇牙は住宅の窓を振り返った。新しい家の中では、トビアスとルカがまだ楽しそうに話している。


「……まあ、それなら悪くねえか」


 軽く肩をすくめたあと、皇牙はすぐにいつもの調子へ戻った。


「でも明日こそ昼寝するからな! もう誰にも邪魔させねえ!」


「明日も何かご相談があるかもしれませぬよ」


「そのときは優秀な家臣に丸投げだ!」


 巴の笑い声が夕暮れの石畳に響いた。


 商店の売上は今日も増えず、現金は銀貨九枚のまま。売り物も縄一本と、改良済みの蓋付き木箱一つだけだ。フリードの小箱は住民用の試作品で、商品ではない。


 それでも、城の中には昨日までなかった収納箱が一つ増えた。屋根付きの材木置き場では、エルンストが明日から乾燥中の木材を整理していくことになっている。


 皇牙が魔法で造った巨大な城には、まだ家具も道具も足りない。


 けれど、そこで暮らす人々の手によって、一つずつ中身が満たされていく。その光景を眺めるのも、悪くない楽しみだった。


「よし、帰って飯だ! 今日こそ腹いっぱい食って、ぐっすり寝るぞ!」


 皇牙は上機嫌で歩き出し、巴も微笑みながらその隣へ並んだ。

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