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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第二章

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第2章 第29話 初めての売上

「金貨百枚まで、あと何日かかるんだろうな……」


 異世界へ来て十五日目の朝。神城皇牙は城館の庭に置かれた長椅子で、青空を見上げながら呟いた。手元にはリーナが淹れてくれた温かい茶がある。城壁の向こうから吹く風も心地よく、何も考えずに昼寝をするには絶好の日和だった。


 もっとも、皇牙の頭の中は金貨でいっぱいだった。毎日三回の無料ガチャだけでも十分に楽しいが、百枚の金貨を払えば追加で一回引ける。有料十連なら千枚必要だが、SR以上が一人確定するという魅力的な特典まである。


「……くそっ。城ならいくらでも造れるのに、金だけは生み出せねえんだよな」


 《国家創造EX》で豪華な宝物庫を造ることはできても、中身の金貨までは用意できない。建物を売れば儲かるのではないかとも考えたが、建物そのものを持ち運んで商人へ渡すわけにもいかない。


 そんなことを考えていると、西門の方角から鐘が短く鳴った。警戒を知らせる慌ただしい音ではない。見張りのオスカーが、街道から来訪者を見つけたらしい。


 ほどなくして巴が庭へ現れた。


「殿。以前こちらへ立ち寄られた行商人が、再びお越しになりました。今は城門の外で、エドガー殿が対応しておられます」


「……行商人?」


 皇牙は茶の器を置いた。城門脇の小さな商店には、ガルドやフェルが作りためた商品が並んでいる。これまで何度も売り場を覗いては、早く客が来ないものかと思っていた。


「もしかして、うちの商品を買いに来たのか!?」


「その件も含めて、話をしたいとのことでございます」


「よっしゃ! 行くぞ、巴!」


 昼寝の予定は一瞬で消し飛んだ。皇牙は長椅子から飛び起き、城門へ向かって駆け出した。


 西門の外では、一台の幌付き馬車が停まっていた。馬は街道を歩いてきた疲れを見せ、御者の男が水を飲ませている。荷台には保存食や布、小さな日用品が積まれており、以前会ったときと同じように、行商人は丈夫そうな外套をまとっていた。


「おお、若い城主殿! しばらく見ない間に、ずいぶん立派な場所になりましたな」


 男は城壁と整えられた道を見比べ、感心したように声を上げた。皇牙は得意げに胸を張る。


「だろ? まだまだ大きくする予定だぜ。ところで、あんた名前は?」


「これは失礼。ベルンと申します。グランディア王国の町を回りながら商いをしております」


 ベルンは笑って帽子を取った。以前は互いに慌ただしく、名前を確かめるところまで話が進まなかったのだという。


 挨拶が済むと、エドガーはベルンを城門脇の商店へ案内した。店内にはフェルが編んだ縄が五本、ガルドが仕上げた小さな木箱が三つ並んでいる。ほかにも品物はあるが、売り物として品質を確かめたのは、ひとまずこの二種類だった。


 ベルンは縄を一本手に取り、撚りの具合を指先で確かめた。次に木箱の蓋を開け閉めし、角の仕上げを眺める。


「縄は丈夫そうですな。木箱も丁寧に作られている。ただ、蓋を留める金具があれば、馬車でも扱いやすいでしょう」


「貴重なご意見です。次に製作する分については、職人へ伝えておきましょう」


 エドガーの返事には迷いがなかった。


 そして商談が始まった。ベルンは縄三本と木箱二つを希望したが、最初に示した値段は、エドガーが考えていたものより低かった。


「縄は一本につき銀貨一枚と銅貨五十枚。木箱は一つ銀貨三枚でどうでしょう」


 皇牙は思わず口を開きかけた。しかし、エドガーが穏やかに片手を上げたため、黙って様子を見ることにする。


「ベルンさん、その値では少々厳しいです。縄は強く撚ってありますし、木箱も蓋の合わせ目まで仕上げております。旅先で長くお使いいただける品ですよ」


「品質は認めますが、私も別の町へ運んで売らねばなりません」


「承知しています。そこで、縄は一本銀貨二枚、木箱は一つ銀貨四枚でいかがでしょう。今回はお買い上げいただく五点を、この価格でお譲りします」


 ベルンは再び縄を引き、木箱の内側へ指を滑らせた。しばらく考えたあと、納得したように頷く。


「よろしい。それで買いましょう。次も同じ値で買えるとは限りませんが、今回はその条件で」


「ありがとうございます。次の価格は、そのときの品と仕入れ状況を見てご相談させてください」


 エドガーは笑顔で応じた。


 皇牙は横で聞いているだけだったが、胸の内では大騒ぎしていた。値段を決め、相手に納得してもらい、商品を売る。ゲームの商店ならボタン一つで終わることが、目の前では人同士の会話によって決まっていく。


 代金が差し出されると、エドガーはその場で確認した。


 縄三本が銀貨六枚。木箱二つが銀貨八枚。合計は銀貨十四枚だった。


「……十四枚!」


 皇牙は硬貨を見つめ、拳を握った。金貨ではない。それでも、自分たちが作った商品に値段が付き、実際に代金が支払われたのだ。


「おめでとうございます、皇牙様。これが私たちの最初の売上です」


「……おう! すげえな、エドガー!」


 皇牙は思わず笑った。


 ガルドとフェルが作った商品が、ここから離れた町で誰かの役に立つかもしれない。そう考えると、銀貨十四枚が妙に輝いて見えた。


 だが、エドガーは浮かれる皇牙へ、もう一つ説明を始めた。


「この地方では、金貨一枚は銀貨百枚、銀貨一枚は銅貨百枚として数えます。ですので、今回の売上は金貨に換算すると、まだ一枚に届きません」


「……えっ」


 皇牙の笑顔が固まった。


「じゃあ、有料ガチャ一回分の金貨百枚って……」


「銀貨に換算すれば、一万枚でございます」


「い、一万!?」


 思わず裏返った声に、ベルンが目を丸くした。


 皇牙は指を折って計算しかけたが、すぐに諦めた。十四枚ずつ稼いでも、先は途方もなく長い。しかも今回の十四枚が、そのまま自由に使えるわけではないのだろう。


「……くそっ。現実の商売、難易度高すぎだろ」


 肩を落とす皇牙を見て、巴が小さく笑った。


 そのときベルンが、馬車に積んだ保存食を勧めてきた。乾燥豆の袋や塩漬けにした魚で、旅の途中でも比較的長く保存できるものだという。


 エドガーは値段と状態を確かめ、乾燥豆を二袋、塩漬け魚を一包み買うことにした。乾燥豆は一袋銀貨二枚、塩漬け魚は銀貨三枚。合計銀貨七枚となる。


「残りは銀貨七枚か……」


 皇牙はベルンから受け取った品を見ながら呟いた。


 銀貨十四枚の売上から、食料の購入に七枚を使う。手元に残る現金は七枚だが、それが利益というわけではない。縄や木箱を作るのに使った材料を補う必要があり、道具の維持にも金がかかるかもしれない。


 何より、今は食料や生活用品の支給を中心に暮らしている仲間たちのためにも、得たものを役立てたい。


「……なあ、エドガー。残った七枚、ガチャ資金にしていいか?」


 エドガーは少し考え、申し訳なさそうに首を横へ振った。


「今は、次の仕入れに備えて残しておきたいです。商品を作る材料が不足したとき、買えるようにしておく必要がありますから」


「……だよなあ」


 皇牙は深いため息をついたが、それ以上は食い下がらなかった。


 自分は城を無料で造れる。しかし、縄を編むフェルの時間も、木箱を仕上げるガルドの手間も、無料でいくらでも湧いてくるわけではない。二人が働き続けられるようにすることが、次の売上につながるのだ。


「分かった。金は預ける。商売を続けるのに必要なことは、お前が決めてくれ。ただ、みんなが作った物が売れたってことは、ちゃんと本人たちにも伝えようぜ」


「もちろんです。今後の品作りについても、お二人と相談いたします」


 エドガーの返事を聞き、皇牙は満足そうに頷いた。


 取引を終えたベルンは、縄三本と木箱二つを馬車へ積み込んだ。店には縄二本、木箱一つが残る。次の商人がいつ来るかは分からないが、無理に数を増やすのではなく、作れる範囲で準備していくことになった。


 帰り際、ベルンはもう一度城壁を見上げた。


「ここは街道からも立ち寄りやすい場所になりましたな。品物が増えれば、また覗かせていただきますよ」


「おう! 次に来たら、もっと面白いもんがあるかもしれねえぜ!」


 皇牙が笑うと、ベルンは帽子を振り、馬車を走らせていった。


 午後、城館の厨房では、リーナが購入した乾燥豆を確かめていた。袋を開けると、よく乾いた豆が詰まっている。すぐに今夜の食事へ使うわけではないが、保存食が少し増えたことは心強かった。


「これなら、食料の種類も少し増やせるわね」


「おう。みんなが食うもんだし、上手く使ってくれよ」


 皇牙は嬉しそうに答えた。


 そこで、リーナがふと首を傾げる。


「ところで、商売のお金で買ったのよね? 皇牙様はガチャに使いたかったんじゃないの?」


「……言うな。今ちょうど傷が癒えかけてたところなんだから」


 皇牙が胸を押さえると、厨房に笑い声が広がった。


 その後、フェルとガルドにも売上の報告が届いた。フェルは縄が三本売れたと聞いて喜び、ガルドは木箱の改良点を聞いて、早速ブラムと相談し始めた。


 ただし、皇牙は二人へ無理に増産する必要はないと伝えた。売れた商品を補充することも大事だが、工房では住民の道具の修理も続いている。商売を始めたからといって、生活に必要な仕事を後回しにはできない。


 夕方、仮の事務室ではエドガー、ユリウス、クラリスが初めての取引を記録していた。


 売上は銀貨十四枚。保存食の購入が七枚。残金は七枚。商品の製作に使った材料の分まで含めた利益は、まだ計算途中だった。


 クラリスは書き終えた紙を見つめ、静かに口を開いた。


「今後、売買が増えれば、商品の在庫だけでなく、お金の出入りも記録しておく必要がございますね」


「ええ。今日のような小さな取引なら覚えていられますが、毎日続くようになれば難しくなります」


 ユリウスはそう答え、記録を棚へしまった。


 一方、皇牙は城壁の上で巴と並び、遠ざかる街道を眺めていた。


「……初めて金を稼いだってのに、金貨一枚にも届かねえんだな」


「ですが、殿。皆が作った品が売れ、食料も手に入りました。よき一日だったと思います」


「……まあな」


 皇牙は苦笑した。


 今日は自分たちの作った物が、初めて商品として売れた。まだ小さな商売だが、街の外とつながる道が一つ増えた気がする。


「よし。今日のガチャは、商売がうまくいった記念に気合い入れて引くか!」


 皇牙は気分を切り替え、城館の中庭へ向かった。巴は楽しそうに微笑みながら、そのあとをついていく。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:46人】

【SR以上排出率:5%】


「……頼むぜ! せめて無料分くらいは豪華に頼む!」


 一回目の召喚陣から現れたのは、N荷物運搬補助のタリオだった。ドランやボルクたちを手伝い、荷物の運搬を支えられる人材だという。


 二回目には、N厨房補助のメイラが姿を現した。リーナたちの調理仕事を手伝えると分かり、皇牙は満足そうに頷いた。


 最後の召喚では淡い青色の光が広がり、一人の男性が現れた。


【R:商品鑑定人 レオン】


「おおっ! 商品鑑定人!」


 皇牙は思わず身を乗り出した。


 レオンは品物の品質や傷み、売り物としての価値を確かめるのが得意な一般人材だった。今日、ベルンが縄の撚り方や木箱の作りを確かめていたことを思い出し、皇牙は嬉しそうに笑った。


「いいねえ! うちの商品をもっと良くできそうじゃねえか!」


 レオンは丁寧に頭を下げ、まずは今ある商品や製作の様子を見せてほしいと申し出た。


「おう! エドガーとガルドに話を聞いてくれ。商売のことは、詳しい奴らに任せるのが一番だからな!」


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:49人】


 皇牙は四十九人になった人口表示を眺め、満足そうに頷いた。


 金貨百枚への道のりは、想像以上に遠い。それでも、今日は一つの成果があった。自分の力で城を造り、仲間たちが商品を作り、それを欲しいと言ってくれる客が現れた。


 売上は小さいが、そこには確かな価値があった。


「……くくく。俺の国も、ようやく商売を始められたってわけだな!」


 皇牙は夕焼け空を見上げ、楽しそうに笑った。

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