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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第一章

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第1章 第25話 スローライフへの第一歩

「……なあ、巴。俺、今日こそ昼寝してもいいと思うんだよ」


 十一日目の朝。神城皇牙は食堂の椅子に深く腰掛け、焼いた肉を頬張りながら、向かいに座る巴御前へ訴えかけていた。


 城を建て、農地を整え、商売を始める準備までした。移住者も迎え入れ、つい先日は魔物の群れまで撃退している。それだけ働いたのだから、そろそろ悠々自適な生活を送る権利があってもいいはずだ。


 ところが、巴は困ったように微笑んだ。


「殿がお休みになることに異存はございませぬ。ただ、新しく召喚された方々の住まいについて、エドガー殿からご相談があるそうです」


「……また仕事かよ!」


 皇牙が天井を仰ぐと、隣で朝食を取っていた山本勘助が静かに口を開いた。


「殿。住まいの配置はリヒト殿に、必要な生活用品はガルド殿に考えていただけばよろしいかと。殿には最後に建物を造っていただくだけで済みましょう」


「……お前、天才か?」


「軍師としては、まだ何も難しいことを申しておりませぬが」


 真顔で返され、皇牙は笑ってしまった。


 そこへ食堂の入口からエドガーが現れた。手にはユリウスが整理した住民の希望が書かれた紙を持っている。新しく来た者のうち、井戸の仕事を担当するポールと、木工補助のフィンが城館の外にある共同住居を希望していた。ほかにも、工房へ通いやすい部屋を望む者がいるという。


「城館の部屋はまだ余っております。ですが、仕事場と寝る場所を近づければ、朝晩の移動も楽になります」


「なるほどな。じゃあ、場所はリヒトに決めてもらおう。家を造るなら俺も行くぜ!」


 先ほどまで仕事を嫌がっていた皇牙は、もう席を立っていた。


 朝食後、皇牙たちは城壁内の東側へ向かった。


 ダリオ一家の家が建つ一角には、まだ広い空き地が残っている。城館へ続く石畳には、昨日設けた避難方向を示す石柱が並んでいた。皇牙はその印を見ながら、魔物の襲撃で怯えていたルカが、今朝は元気に挨拶してくれたことを思い出した。


 リヒトは地面に立てた目印を示し、二棟の小さな共同住居を提案した。既存の家との間隔を空け、避難路を塞がず、将来さらに建物が増えても通路を確保できる配置だという。


「こちらの一棟は工房で働く者向け、もう一棟は井戸や倉庫の仕事をする者向けにしてはいかがでしょう。入居は本人たちの希望を聞いて決められます」


「おっ、いいねえ。じゃあ、屋根は尖らせて、入口に格好いい彫刻を付けようぜ!」


「殿。住まいですから、まずは使いやすさを優先なされては」


 巴がやんわりと止めると、皇牙は不満そうに唇を尖らせた。


「分かってるよ。ちょっとくらい俺の趣味を入れてもいいだろ?」


 結局、屋根の形だけ皇牙の希望が採用された。派手な彫刻は却下されたものの、二棟の外観にはささやかな統一感が生まれ、皇牙もそれなりに満足した。


 《国家創造EX》を発動すると、淡い金色の光が地面へ広がり、石造りの基礎と壁、木組みを模した屋根が一瞬で姿を現した。室内には固定式の炉と棚を備えたが、寝具や食器、作業道具まで生まれるわけではない。


「……よし、完成! 我ながらいい出来じゃねえか!」


 ガルドは二棟を見て回り、床や炉の位置を確かめた。


「これなら、城館で使っていた敷物と寝具を移せば、すぐに暮らせますな。新しい寝具を作る余裕はまだありませんが、希望する者が移るには十分でしょう」


 ポールとフィンも室内を見て、ここで暮らしたいと申し出た。フィンは工房で働くガルドたちと同じ棟に、ポールは井戸と倉庫へ通いやすい棟に入ることになった。ほかの入居者については、ミアとヘルダが希望を確認しながら決める。


 皇牙は二人が嬉しそうに部屋を見回す姿を眺め、少し得意になった。


 立派な城を造ったときも興奮したが、こうして誰かが実際に使う建物を造るのも悪くない。もっとも、荷物を運び込んだり寝具を整えたりする作業は、専門の者へ任せるつもりだった。


「……じゃあ、俺の仕事は終わりだな。あとは頼んだぜ!」


「皇牙様、もう一つだけよろしいでしょうか」


 背後から声をかけたのは、昨日召喚されたR衛生管理人のアニエスだった。


 皇牙は振り返り、嫌な予感に眉を寄せた。


「……一つだけ、だよな?」


「はい。新しい住居の生活排水についてです」


 アニエスは井戸管理係のポールとリヒトを伴い、住居区画の端へ歩いた。洗い物に使った水をそのまま道へ流せば、足元がぬかるみ、汚れも溜まる。井戸や水汲み場へ汚水が近づけば、生活用水にも悪い影響が出かねない。


「水路なら一瞬で造れるけど、それじゃ駄目なのか?」


「水路の先が決まっていなければ、汚れを移すだけでございます」


 アニエスは率直に答えた。


 皇牙がリヒトへ目を向けると、測量士はすでに地面の傾斜を調べていた。水の入った器を使って流れる方向を確かめ、ポールとともに井戸から離れた区画を歩いている。


「水汲み場より低く、住居からも離れた場所がございます。まずは少量の洗い水だけを流す設備にして、汚れが溜まらないか様子を見るのがよいかと」


「便所の汚れた水は別にするんだな?」


「もちろんです。そちらは今ある便所の管理を続けます。洗い物の水と混ぜてはいけません」


 アニエスは頷いた。


 今回整えるのは、洗い物などで出る生活排水のための簡単な設備だった。屋外の排水溝から沈殿用の小さな枡へ水を導き、砂や汚れを取り除きながら、離れた浸透場所へ少しずつ流す。枡に溜まる汚泥は定期的に掻き出し、臭いや詰まりがないかをアニエスとポールが点検することになった。


 皇牙は説明を聞き終えると、大きく息を吐いた。


「……つまり、俺は言われた場所に水路と枡を造ればいいんだな?」


「はい。それで十分にございます」


「最初からそう言ってくれよ! だったら任せろ!」


 途端に元気を取り戻した皇牙は、リヒトの示した位置に排水溝と固定式の沈殿枡を造り上げた。水路は清掃しやすい単純な形にし、途中に余計な装飾も付けない。石造りの設備が一瞬で現れると、ポールは早速少量の水を流し、傾斜が予定どおりになっているか確かめた。


「……うん。ちゃんと流れてるな!」


「ええ。これなら、普段の管理もしやすいと思います」


 アニエスは満足そうに頷いた。


 皇牙はその様子を見ながら、ふと思った。


 以前なら、水路を造ると言われたら、見た目の格好よさばかり考えていただろう。だが、今は専門家の意見を聞いた方が、ずっと使いやすいものができると分かっている。


 それに、自分が細かい管理をしなくて済む。


 何より重要なのは、その一点だった。


 昼前になると、新しい共同住居への荷物の移動が始まった。ドランとダリオが城館から寝具や箱を運び、ミアとサラが部屋を整えていく。フィンは自分の荷物を運びながら、ガルドに工房で使う道具の置き場所を尋ねていた。


 その傍らでは、アニエスがティナへ排水枡の掃除方法を説明している。ポールは井戸の点検に戻り、マルクとハンスは農地でいつもの作業を続けていた。


 皇牙はその光景を眺めながら、ふと足を止めた。


「……あれ? 俺、もうやることなくね?」


 思わず口にすると、隣にいた巴が微笑んだ。


「はい。住居の割り当てはエドガー殿とユリウス殿が、生活用品はガルド殿たちが整えております。殿のお力が必要になれば、お声がけいたします」


「……じゃあ、今は?」


「ごゆっくりなされませ」


 皇牙はしばらく巴の顔を見つめた。


 それから、ゆっくりと口元を吊り上げる。


「……マジか。ついに来たか、俺の時代が!」


 皇牙は両手を上げた。


「くくく! これだよ、これ! 俺が求めてたのは!」


 巴が笑いをこらえる横で、皇牙は意気揚々と城館へ戻っていった。


 午後、皇牙は城館の庭に置いた長椅子へ身体を預けていた。


 頭上には穏やかな青空が広がり、城壁の向こうから乾いた風が吹いてくる。リーナが用意してくれた温かい飲み物を傍らに置き、皇牙は目を閉じた。


 どこか遠くで槌を打つ音が聞こえる。工房ではガルドたちが作業を続けているのだろう。石畳の上を歩く足音や、荷物を運ぶ者同士の話し声も届いてきた。


 以前なら、そのどれかが自分を呼びに来る前触れではないかと身構えていただろう。


 だが、今日は違った。


 相談事はエドガーがまとめ、建物の配置はリヒトが考え、住民の暮らしはそれぞれの担当者が支えている。見張りのオスカーも持ち場に就き、巴と勘助は警戒の手順を確認していた。


 皇牙が何もしなくても、街は動いている。


「……最高じゃねえか」


 思わず笑みがこぼれた。


 しばらくして足音が近づき、皇牙は薄く目を開けた。そこに立っていたのは巴だった。


「殿。こちらにいらしたのですね」


「おう。見てのとおり、絶賛スローライフ満喫中だ」


「ふふ。それは何よりにございます」


 巴は長椅子の近くへ立ち、庭を見渡した。木々の間を風が抜け、葉擦れの音が静かに響いている。


「……なあ、巴」


「はい」


「最初にお前を召喚したときさ、まさかこんなことになるとは思わなかったよ」


 皇牙は空を見上げた。


 あのときは、見知らぬ荒野で目を覚まし、何も分からないままガチャを引いた。マルクとガルドが現れ、最後に巴御前が召喚された。たった四人で、食べ物も道具もろくにない場所から始めたのだ。


 巨大な城を造ったときは、それだけで何もかも解決した気になっていた。ところが、実際には寝具も食料も足りず、暮らしを整えるだけで大騒ぎだった。


「……あの頃は城さえあれば、俺は毎日昼寝できると思ってたんだよな」


「覚えております。殿は立派なお城を造られたあと、食事のことをすっかりお忘れでございました」


「……うっ。そこは忘れてくれ」


 皇牙が顔をしかめると、巴は楽しそうに笑った。


 それでも、彼女の表情には懐かしさがあった。


「ですが、殿。あのときから、殿のお考えは変わっておられませぬ」


「……そうか?」


「はい。ご自分が楽をなさりたいとおっしゃりながら、皆が困れば必ず手を差し伸べてくださる。今も、そうでございましょう?」


 皇牙は少し考え、それから肩をすくめた。


「……まあ、みんなが安心して暮らせなきゃ、俺ものんびりできねえからな」


「ふふ。殿らしいお答えにございます」


 巴の声は穏やかだった。


 皇牙は再び目を閉じた。


 最初は四人しかいなかった拠点が、今では三十四人の暮らす場所になった。家が増え、道ができ、農地や工房では人が働いている。まだ街と呼ぶには小さいが、それでも確かに、ここには人々の暮らしがあった。


「……なあ、巴。これからもっと人が増えるんだろうな」


「はい。きっと、今よりも賑やかになることでしょう」


「だったら、もっと優秀な奴らを召喚しなきゃな。政治も軍事も経済も、全部任せられるくらいに」


「殿は、どこまでもご自分の時間を大切になさるのですね」


「当たり前だろ。俺の最終目標は、毎日好きなことだけして暮らすことなんだから!」


 皇牙は得意げに笑った。


 巴もその言葉を否定しなかった。むしろ、どこか安心したように頷いている。


「その日が来るまで、私もお支えいたします」


「おう。頼りにしてるぜ、巴」


 庭には再び静けさが戻った。


 皇牙は長椅子へ深く身体を沈め、心地よい風に身を任せた。誰かに呼び出される気配はなく、仕事を急かす声もない。


 久しぶりに、何も考えずに昼寝ができそうだった。


 やがて皇牙の呼吸が穏やかになり、巴は小さく微笑んだ。彼が眠ったのを確かめると、音を立てないよう庭を離れ、自分の仕事へ戻っていく。


 皇牙が目を覚ましたのは、陽が少し傾いた頃だった。


「……んあ? もうこんな時間か」


 大きく伸びをすると、身体が驚くほど軽い。途中で起こされることもなく、気持ちよく眠れたのだ。


「……くくく。これだよ。俺が欲しかった生活って、こういうことだろ!」


 皇牙は上機嫌で城館へ戻った。


 夕方、中庭には新しい共同住居へ移る者たちが集まっていた。部屋の準備はおおむね終わり、今夜から寝泊まりできるらしい。エドガーから報告を受けた皇牙は、満足そうに頷いた。


 そのとき、ふと大切なことを思い出した。


「……あっ! 今日のガチャ、まだ引いてねえ!」


 皇牙は慌てて《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:34人】

【SR以上排出率:5%】


「くくく! 昼寝もできたし、今日は運がよさそうだな!」


 召喚陣が輝き、一人目にN農作業補助のネルが現れた。二人目はN調理補助のルイス。三人目には、R建材管理人のグレゴールが召喚された。


 歴史上の偉人こそ現れなかったものの、農業と料理を支える人材が増え、ガルドたちが使う木材や石材の管理を任せられる者まで加わった。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:37人】


「……よし! これでまた三人増えたな!」


 皇牙は新しい仲間たちを歓迎し、エドガーへ生活場所の案内を任せた。ネルとルイスはそれぞれマルクとリーナのもとで仕事を教わり、グレゴールは明日からガルドやヘルダと材料の管理方法を相談することになる。


 その様子を見届けると、皇牙は城館の大きな扉を見上げた。


 立派な城を造り、食料と道具を集め、仲間を増やしてきた。何もなかった荒野に、少しずつ人の暮らしが広がっている。


 しかも今日は、仕事を仲間へ任せて、誰にも邪魔されずに昼寝までできた。


 完璧なスローライフにはまだ遠い。だが、そこへ向かう道がようやく見えてきた気がした。


「……くくく。いいぞ、俺の国。もっとでっかくなれよ」


 皇牙は満足そうに笑った。


 その願いが、いずれ世界最大の帝国へつながることなど、このときの皇牙はまだ知らない。


 今はただ、明日も無料ガチャを引き、美味いものを食べ、できるだけ働かずに過ごせれば、それで十分だった。


 灰の荒野に生まれた小さな開拓拠点で、皇牙の理想の暮らしは、ようやくその第一歩を踏み出したのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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