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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第一章

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第1章 第19話 移住者たち

「頼むぞ……今度こそ俺を仕事から解放してくれる偉人、来い!」


 六日目の夕暮れ。神城皇牙は城の中庭で《英霊召喚ガチャEX》を開き、祈るように両手を合わせていた。西の空は茜色に染まり、昼間に完成させた取引広場の屋根が、城壁の向こうに小さく見えている。


 初めての商売は、まだ一枚の銅貨も稼げていない。それでも、通りかかった旅人が商品に興味を示してくれたのだから、悪い一日ではなかった。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:16人】

【SR以上排出率:5%】


「おい、皇牙。どうせなら金貨を稼げる偉人を引こうぜ。そしたら有料ガチャも引き放題だ!」


 隣で騒ぐのは、左手首に植物の紐を結んだ分身だ。皇牙はその顔を見て、思わず鼻で笑った。


「そりゃ俺だって欲しいわ! でも、今は面倒な書類仕事を全部押しつけられる奴も捨てがたいんだよな」


「……お前、結局働きたくねえだけだろ」


「お前にだけは言われたくねえ!」


 巴が呆れたように笑う中、皇牙は最初の召喚を実行した。


 一回目に現れたのは、畑仕事に慣れた青年、N農作業員のハンス。二回目には、読み書きと記録整理を得意とするR事務員のユリウスが召喚された。


「おおっ、事務員! ついに俺の書類仕事を任せられる奴が来た!」


「殿。まだ、それほど多くの書類はございませぬが……」


「今後増えるだろ? 今のうちから備えるのが賢い王様ってもんだ!」


 皇牙が胸を張ると、ユリウスは困ったように笑いながらも、できる限り手伝うと答えた。


 最後の召喚で現れたのは、N調理補助のエマだった。リーナの厨房を手伝える人材と聞き、皇牙は素直に喜んだ。人数が増えている以上、食事を作る負担も軽くはないはずだ。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:19人】


「……歴史上の偉人は出なかったか。でも、今回は結構いい引きだったな!」


 ハンスはマルクの農作業を、エマはリーナの厨房を手伝うことになり、ユリウスにはエドガーのもとで物資や仕事の記録を整理してもらうことにした。


 皇牙は新しい仲間たちを見送りながら、いつか彼ら全員の仕事を任せられるほど優秀な偉人を引こうと、密かに決意するのだった。


 翌朝、七日目。


 皇牙は食堂の窓から城門の外を眺めていた。


 石畳を敷いた小さな取引広場には、まだ商品を買う客の姿はない。昨日、旅人が敷物と砥石に興味を示してくれたものの、商売として成り立つかどうかはこれからだ。


「……あそこにでっけえ商店街ができたら、結構格好いいよな」


「殿。今はまだ、商いをなさる方が少のうございますから」


 向かいに座る巴が、湯気の立つ器を置きながら微笑む。


「分かってるって。想像するくらい、いいだろ?」


 皇牙が笑った、そのときだった。


 城門の方から警戒を知らせる鐘が響いた。二人が席を立つのとほぼ同時に、カイルが報告へ駆け込んでくる。


「皇牙様。西の道から三人が近づいています。大人の男女と、子供が一人です」


「……三人? 商人じゃなさそうだな」


「荷車はありません。大きな荷物を背負っており、かなり疲れているようです」


 皇牙は巴とエドガーを伴い、城門の上へ向かった。


 荒野を歩いてくる三人の姿は、すぐに見つかった。先頭を歩く男は肩に大きな荷物を担ぎ、その後ろでは女が小さな少女の手を引いている。三人とも衣服は砂埃に汚れ、足取りも重かった。


 やがて一行は取引広場の前で立ち止まり、巨大な城を見上げた。


「……あんな小さい子まで歩いてきたのか」


 皇牙が呟くと、巴は三人を注意深く観察した。


「武器を隠し持っている様子は見えませぬ。ただ、事情を伺うまでは城門を開けず、取引所でお話しするのがよろしいでしょう」


「おう。水くらいは出してやりたいな」


 エドガーが準備を整え、皇牙たちは門の外へ出た。


 三人のうち、男が真っ先に頭を下げる。


「あ、あの! 突然すみません。こちらで人を雇っていただけると聞いて来たんですが……!」


「……人を雇う?」


 皇牙は首を傾げた。


「俺たちはダリオと申します。こちらは妻のエルザと、娘のルカです。西のラーデンで暮らしていたんですが、仕事がなくなってしまいまして……」


 ダリオの声には疲労が滲んでいた。エルザは娘を自分の後ろへ寄せながら、申し訳なさそうに頭を下げる。


「昨日、街道の休憩場所で、荒野に新しい城と取引所ができたという話を聞いたんです。もしかしたら、働き口があるんじゃないかと思って……」


 皇牙は昨日、取引所に立ち寄った男女の旅人を思い出した。城のことを知った彼らが、道中で誰かに話したのだろう。


「なるほどな。それで、何ができるんだ?」


「俺は荷車の扱いと、荷物の運搬をしていました。妻は籠や敷物を編む仕事をしていましたが、娘はまだ小さいので……」


「子供は遊んでりゃいいだろ。そこは気にすんな」


 皇牙があっさり答えると、エルザが驚いたように顔を上げた。


 エドガーは二人の仕事についてさらに詳しく尋ねた。ダリオは荷車への積み込みや荷崩れを防ぐ方法を説明し、エルザは取引所に置かれた草の敷物を見て、端の編み方について具体的な意見を述べた。


「この草なら、もう少し強く撚ってから編むと丈夫になります。以前、似た材料を使ったことがあるんです」


「……へえ。じゃあ、うちのミアと相談したら、もっといいものが作れるかもな」


 皇牙が興味を示すと、エルザは少しだけ表情を明るくした。


 しかし、その隣でルカがふらりとよろめいた。慌てて母親が支えると、少女は小さな声で喉が渇いたと訴えた。


「……おい、大丈夫か?」


「す、すみません。もう少しで着くと思って、水を節約していたものですから」


 皇牙はすぐにエドガーへ目を向けた。


「悪い、水を持ってきてくれ。あと、何か食わせてやれねえかな」


「承知しました。リーナ殿に確認いたします」


 しばらくして運ばれてきた水を、ルカは両手で器を持って飲んだ。急いで飲みすぎないようエルザが声をかけると、少女は小さく頷く。


 皇牙はその様子を見守りながら、心の中で考えた。


 建物ならいくらでも作れる。だが、住む人間が増えれば、その分の食べ物や日用品が必要になる。いくら仕事ができる相手でも、何も考えずに迎え入れるわけにはいかなかった。


「……ちょっと相談してくる。ここで休んでてくれ」


 三人を屋根の下へ案内し、皇牙はエドガーと巴を連れて城へ戻った。


 集められたのは、食料を管理するリーナ、農業を担当するマルク、採集を担うロイ、狩人のカイル、それに物資の記録を始めたヘルダとユリウスだった。


「……正直なところ、あと三人増えても大丈夫そうか?」


 皇牙が尋ねると、リーナはすぐには答えず、ヘルダが持ってきた記録へ目を通した。


「保存している食材だけなら、余裕があるとは言えません。ただ、今日明日の食事に困る状況でもありません。これからも狩猟と採集を続けられれば、当面は対応できると思います」


「畑の作物も、まだ収穫には時間が必要ですな」


 マルクが続けた。


「ハンスが加わって作業は進めやすくなりましたが、人数が増えたからといって、すぐ食料が増えるわけではございません」


「ですよね……」


 皇牙は腕を組んだ。


 カイルもロイも、毎日必ず同じ量の食料を持ち帰れるわけではない。採集や狩猟に頼りきりでは、住民が増えるほど不安定になるだろう。


「それでしたら、まずは少しの間、様子を見ながら受け入れる形はいかがでしょうか」


 エドガーが提案した。


「ダリオ殿には運搬、エルザ殿には編み物の経験がございます。仕事は相談できますし、食料が足りなくなりそうなら、早めに調達方法を考えられます」


「……なるほど。最初から何もかも決めなくてもいいわけか」


「はい。ただし、暮らしの見通しについては、お二人へ正直に説明した方がよろしいでしょう」


 皇牙は頷いた。


 住む場所を用意できるからといって、食料も仕事も一生保証できるとは限らない。そこを隠して迎え入れるのは違う気がした。


「よし。じゃあ、ちゃんと話してみようぜ」


 取引所へ戻ると、ダリオ一家は静かに待っていた。


「相談した結果なんだけどさ、よかったらここで暮らしてみねえか?」


「……えっ、本当ですか?」


 ダリオが目を見開いた。


「ただし、正直に言うと、うちもまだ開拓を始めたばっかりなんだ。家は用意できるけど、食料も道具も十分じゃねえ。最初は不便もあると思う」


 皇牙が説明すると、エルザは夫の顔を見た。


「お仕事は、どんなことをすれば……?」


「ダリオには荷物の運搬を、エルザには編み物を手伝ってもらえたら助かる。でも、住む場所を整えるまでは無理しなくていい。子供の世話もあるだろうしな」


 ダリオはしばらく黙っていた。


 やがて妻と少し離れ、声を落として相談し始めた。エルザも真剣な表情で何度か頷き、ルカの頭を撫でながら何かを話している。


 皇牙は急かさずに待った。


 知らない土地へ家族で移り住むのだから、迷うのは当然だ。自分たちにとっては小さな一歩でも、彼らにとっては大きな決断なのだろう。


 やがてダリオが戻ってきた。


「……もし本当に住む場所をいただけるのであれば、ぜひお願いしたいです。仕事もできる限り頑張ります」


「私も、編み物ならお役に立てると思います」


 エルザも頭を下げた。


「おう! じゃあ、よろしくな!」


 皇牙は嬉しそうに笑い、早速家を建てようとした。


 しかし、その瞬間、巴が一歩前へ出た。


「殿。住居の場所について、一つご相談がございます」


「ん? どうした?」


「この荒野には魔物が出ます。城壁の外へ家を建てますと、夜間に襲われる危険がございます。今の警備人数では、離れた住居まで常に守ることは難しゅうございます」


「……あ」


 皇牙は思わず口を開けた。


 確かに、そのとおりだった。


 城壁の外には取引所があるが、あれは商人が来たときだけ使う場所だ。人が夜を過ごす住宅とは事情が違う。


「……じゃあ、城壁の内側に建てればよくね?」


「はい。それでしたら、城の警備設備も利用できますし、夜間の安全を確保しやすくなります」


「よし、決まり! 最初の家は城の中に作ろうぜ!」


 皇牙は即決した。


 城壁の内側には、まだ使っていない広い土地がある。巨大な城を建てたときは持て余していた空間だが、今になって役に立つとは思わなかった。


 ダリオ一家を案内したのは、城の東側にある空き地だった。城壁と見張り設備の内側にあり、住居を建てても城門の通行を妨げない場所である。


「……ここなら安全だろ?」


 皇牙が尋ねると、巴は周囲を確認して頷いた。


「はい。城門からも見通しが利きますし、外の荒野へ直接出る必要もございません」


 皇牙は満足そうに笑い、《国家創造EX》を開いた。


 造るのは、三人家族が暮らせる小さな家だ。居間と寝室、それから簡単な厨房を設け、雨風を防げる丈夫な石壁と屋根を備える。窓には閉められる木戸を付け、玄関には小さな庇を設けた。


「……くくく。せっかくだし、ちょっと格好よくしてやるか」


 屋根の形を整え、入口の石柱に控えめな模様を加える。豪華な城ほど大げさではないが、家族が安心して暮らせる温かい雰囲気にしたかった。


「よし、完成!」


 建設を実行すると、地面から黄金色の光が広がった。


 平らだった地面に石造りの土台が現れ、壁が立ち上がる。続いて屋根が形を作り、窓と扉が取り付けられると、あっという間に一軒の家が完成した。


「……えっ?」


 ダリオが口を開けたまま固まった。


 エルザも目を見開き、ルカは母親の手を握ったまま、目の前の家を見上げている。


「……すごい! お家が出てきた!」


 少女が弾んだ声を上げた。


「くくく! どうだ、俺の魔法はすげえだろ!」


 皇牙が胸を張ると、巴が笑いながら声をかけた。


「殿。まずは中をご案内して差し上げては?」


「……ああ、そうだった!」


 皇牙は玄関の扉を開き、三人を招いた。


 室内には居間と寝室があり、窓から柔らかな日差しが差し込んでいた。壁に固定されたかまどもあるが、鍋や食器、寝具などはまだない。


「……家具までは作れねえんだ。そこは悪いけど、少しずつ揃えていこうぜ」


「いえ、とんでもありません! こんな立派な家に住めるだけで十分です!」


 ダリオは慌てて首を振った。


 エルザも感激した様子だったが、やがて少し困ったように背負い袋へ目を向けた。


「持ってきた毛布は二枚あります。ただ、敷くものが足りなくて……」


「それなら、今ある材料で簡単な寝床を作れると思うぞ」


 皇牙はガルドへ相談することにした。


 ちょうど城には、ロイが集めた乾いた草がある。生活用として確保している分を確認し、余裕があれば少し分けてもらえばよい。


 ガルドとヘルダが材料を調べると、三人が今夜休むための簡単な寝床なら用意できそうだった。


「よし、それでいこう。足りないものは明日から少しずつ揃えればいいだろ」


「ありがとうございます……!」


 エルザは深く頭を下げた。


 夕食についても、リーナが三人分を用意してくれることになった。新しく来た人間だからといって、食事を別にする必要はない。


 ただし、今後も住民が増えるなら、食料の確保はもっと重要になるだろう。


 皇牙はそのことを頭の隅に置きながら、最後にエドガーとユリウスへ声をかけた。


「……じゃあ、住民の登録も頼むわ!」


「承知しました」


 ユリウスは三人の名前と家族構成、仕事の経験、住居の場所を木片へ記録した。エドガーは当面の仕事について説明し、生活が落ち着いてから改めて相談することにする。


 こうしてダリオ、エルザ、ルカの三人は、正式にこの土地で暮らす住民となった。


 皇牙が《国家管理EX》を開くと、人口の数字が変わっていた。


【国家人口:22人】


「……おおっ! 増えてる!」


 皇牙は思わず声を上げた。


 六日目の無料ガチャで十六人から十九人へ。そして今日、三人の移住者を迎え入れたことで二十二人になったのだ。


「……くくく。ついにガチャ以外でも人が増えたな!」


「殿のお国が、少しずつ賑やかになってまいりましたね」


 巴が微笑む。


「おう! これからもっと人が増えたら、家も道路もどんどん造らねえとな!」


 皇牙は楽しそうに笑った。


 ただし、今後も城壁の内側だけに住宅を建て続けられるわけではない。人が増えれば、やがて外にも家を建てる必要が出てくるだろう。


 そのときは住宅地をまとめて囲う防壁や、新しい道路も必要になる。


「……まあ、その辺は人が増えてから考えるか」


 皇牙は小さく呟いた。


 今のところは、目の前の家族が安心して暮らせれば十分だ。


 夕方になり、皇牙が城の方へ戻ろうとすると、新しい家の玄関からルカが顔を出した。


「お城のお兄ちゃん!」


「……ん?」


「お家、ありがとう!」


 少女は満面の笑みで手を振った。


 皇牙は一瞬きょとんとしたが、すぐににやりと笑って手を振り返した。


「おう! 大事に使ってくれよ!」


 ルカは嬉しそうに頷き、母親のもとへ駆け戻っていった。


 その様子を見ていた巴は、どこか優しげに目を細めている。


「殿。よろしい一日になりましたね」


「……ああ、そうだな」


 皇牙は新しく建った家を振り返った。


 窓から漏れる柔らかな灯りが、石畳の上に淡く広がっている。これまでは大きな城ばかりが目立っていた場所に、初めて城の外からやってきた家族の暮らしが生まれた。


 自分が楽をするために始めた国づくりだったが、こうして誰かが喜んでくれるのも悪くない。


「……くくく。これなら、本当に街が作れそうじゃねえか」


 皇牙は満足そうに呟いた。


 家が増えれば道路が必要になる。人が集まれば仕事が生まれ、商売も少しずつ盛んになるだろう。そうなれば、優秀な家臣へ任せられる仕事も増えて、自分の自由時間も増えるはずだ。


 そして何より、国が豊かになれば、有料ガチャを引くための金貨も稼げるかもしれない。


「……よし! 俺が何もしなくても回る街を作ってやるぜ!」


「殿。そのためには、まだいろいろとお考えいただくことがございますよ」


「……そこはエドガーとユリウスに任せる!」


 皇牙が即答すると、巴は楽しそうに笑った。


 こうして灰の荒野には、巨大な城と小さな取引所に続き、初めての移住者の家が建てられた。


 まだ小さな一軒家にすぎない。しかし、そこには確かに人の暮らしがあり、家族の笑い声があった。


 皇牙が望む悠々自適な生活はまだ遠い。それでも、そのための小さな街は、少しずつ形になり始めていた。

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