↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/50

第1章 第17話 金貨が欲しい

「……金貨百枚かあ」


 神城皇牙は城の中庭に置かれた長椅子へ寝転がり、雲の流れる空を見上げていた。昼食を終えてからというもの、頭の中を占めているのは金貨のことばかりだ。


 つい先ほどまで、行商人のベルントが見せてくれた商品や、この世界の町について興奮しながら話していた。しかし、思い出すのは結局、最後に聞いた金貨の価値だった。


「有料ガチャ一回で金貨百枚。十連なら千枚……。いくら何でも高すぎねえか?」


 皇牙は空中に《英霊召喚ガチャEX》の画面を呼び出した。


【有料単発召喚:金貨100枚】

【有料10連召喚:金貨1,000枚】

【10連特典:SR以上1人確定】


「くそっ、このSR確定がまた魅力的なんだよなあ……」


 初めての無料ガチャで巴御前を引き当てた興奮は、今でも鮮明に覚えている。あのときのように本物の偉人が現れるかもしれないと思うと、どうしても引きたくなってしまう。


「殿。先ほどから、ずいぶん難しいお顔をなさっておりますね」


 声のする方へ顔を向けると、巴が微笑みながら立っていた。見慣れた女武者の姿に、皇牙は少しだけ機嫌を直す。


「いやさ、どうすれば金貨を山ほど稼げるか考えてたんだよ」


「金貨を、でございますか?」


「おう。できれば千枚くらい欲しい」


「……千枚」


 巴は思わず言葉を止めた。


 その反応を見て、皇牙は苦笑した。ベルントの話を聞く限り、千枚という金額は、普通の行商人が気軽に扱えるものではないらしい。


「まあ、今すぐじゃなくてもいいんだけどな。とりあえず、稼ぐ方法を見つけてえんだよ」


「でしたら、エドガー殿にご相談なさるのがよろしいかと。商いは、あの方の得意分野でございますから」


「……それだ!」


 皇牙は勢いよく起き上がった。


「よし、早速呼んでこよう!」


 そう言いかけてから、ふと手を止める。


「……いや、俺が行く必要なくね?」


 皇牙は近くの回廊へ顔を向けた。ちょうど左腕に植物の紐を巻いた分身が、欠伸をしながら歩いている。


「おーい! エドガーを呼んできてくれ!」


「……お前、俺のこと見つけるとすぐ仕事頼むよな」


「短い伝言なら引き受けるって言っただろ。終わったら休んでていいからさ」


 分身は少し考えたあと、面倒そうに片手を上げた。


「……しょうがねえな。ガチャのためなら協力してやるよ」


 そんな返事まで自分らしくて、皇牙は思わず笑ってしまった。


 ほどなくしてエドガーが中庭へ現れた。皇牙から金貨を稼ぎたいと聞かされても、驚いた様子は見せない。むしろ、予想していたと言わんばかりに穏やかな笑みを浮かべた。


「商いを始めたいということでございますね」


「そうそう! できるだけ楽に、できるだけたくさん稼ぎたい!」


「でしたら、まずは城で必要な物と、外へ売れる物を分けて考えましょう」


「……ん?」


 エドガーは持ってきた木片を長椅子に置いた。そこには炭で簡単な文字が書かれている。


「ベルント殿の商品には、塩、保存食、布、針、金属製品がございました。私どもが購入したい物は多くありますが、現在は使える貨幣を持っておりません」


「そうなんだよな。何も買えねえのがつらい」


「一方で、食料や寝具に使う材料まで売ってしまえば、皆の生活が苦しくなります。ですので、まず余剰の材料から作れる品物を試してみたいのです」


 皇牙は真面目な顔で頷いた。


 自分が金貨を欲しがるせいで、仲間たちが食べるものに困るのは嫌だった。そもそも、そんな暮らしをするために城を建てたわけではない。


「よし。食料は売らねえ。生活に必要なものも残す。そのうえで作れる商品を考えようぜ」


「承知しました。では、ガルド殿たちに材料を確認していただきましょう」


 話はすぐにまとまった。


 エドガーがガルドとロイへ声をかけている間、皇牙は城の一角にある材料置き場へ向かった。そこには採集した枝や乾いた草が、用途ごとに分けて置かれている。


 ロイが集め、ドランが運び、ガルドが仕分けたものだ。以前より量は増えたが、これらは燃料や寝具にも使う大事な材料だった。


「……思ったより、いろいろ使ってるんだな」


「そうですね。乾いた枝は厨房でも使いますし、草は寝床を整えるのにも必要です」


 ロイは積まれた束を確認しながら答えた。


「ただ、こちらの長い草は、今すぐ使う予定がない分もあります。全部ではありませんが、試しに何か作るくらいなら大丈夫だと思います」


「なるほど。だったら、それを使おうぜ」


 皇牙が頷くと、ガルドが束を手に取って長さを確かめた。


「編んで敷物にするなら、これくらい揃ってりゃ十分だな。問題は、誰が作るかだが……」


「それでしたら、私が試してみます」


 声を上げたのはミアだった。


 普段は城内の家事を担当しているが、草を編んで寝具を整えた経験もあるらしい。


「おっ、頼めるか?」


「はい。ただ、日々のお仕事もありますので、まずは小さいものを一つ作るところからでもよろしいでしょうか」


「もちろん! それで十分だ!」


 皇牙は即答した。


 商品が売れるかどうかも分からない段階で、大量生産を始めるつもりはない。まずは試作品を作り、価値があるか確かめればよいのだ。


 それからミアは、長い草を選び、編みやすいように並べ始めた。


 皇牙は興味津々で隣にしゃがみ込んだ。細い草が指先で交差し、少しずつ形を作っていく。最初はただの束だったものが、手を動かすたびに平らな面へ変わっていく様子は、見ているだけでも面白かった。


「……すげえな。俺には絶対できねえわ」


「皇牙様なら、一瞬で立派な建物をお造りになれるではありませんか」


「いや、あれはスキルだからな。こういう細かい作業は普通に無理だぞ」


 皇牙が笑うと、ミアも楽しそうに微笑んだ。


 しばらくして、手のひらをいくつか並べた程度の大きさの敷物ができあがった。まだ端の形は不揃いだが、思ったよりもしっかりしている。


「おおっ! ちゃんと敷物になってるじゃねえか!」


 皇牙は受け取った試作品を眺め、何度か手で押してみた。編み目が崩れる様子はなく、乾いた草特有の柔らかな感触もある。


 しかし、エドガーは喜ぶより先に、端の部分へ目を向けた。


「丁寧なお仕事ですね。ただ、この部分は少し緩んでいるようです。何度も使うのであれば、補強した方がよいかもしれません」


「そうですね。もう少し端を強く編めば、形も整うと思います」


 ミアは自分の作ったものを確かめ、納得したように頷いた。


「……なあ、これって売れそうか?」


 皇牙が尋ねると、エドガーは首を横へ振った。


「まだ分かりません。ベルント殿が必要としているか、ほかの町でどの程度の価格が付くかを確かめる必要がございます。それに、作業にかかる時間も考えなければなりません」


「……なるほどな。作れたから売れるってわけじゃねえのか」


「はい。まずは見本として残しておきましょう」


 エドガーはそう言うと、試作品を傷めないよう、空いている棚へ置いた。


 皇牙は少し残念だったが、すぐに気を取り直した。少なくとも、城にある材料から商品になりそうなものを一つ作れたのだ。それだけでも前進だろう。


「……よし。次は砥石だな!」


 皇牙は勢いよく立ち上がった。


 昨日、北側の岩場で見つけた細粒砂岩。あれが本当に砥石として使えるなら、もう一つの商品候補になるはずだ。


 ただし、材料はまだ岩場にある。


「ガルド、あの石を少し持ってきたら試せるか?」


「ああ。現物があれば、ブラムと一緒に確かめられるぞ。ただ、使い物になるかは触ってみねえと分からん」


「分かった。じゃあ、ちょっくら取ってくる!」


 皇牙がそう言うと、巴がすぐに立ち上がった。


「殿。私もお供いたします」


「おう、頼む。昨日行った場所だから、道は分かるしな」


 カイルに目的の岩場と戻る予定を伝え、皇牙と巴は城門を出た。


 北側の岩場には獣道があり、魔物が近づく可能性もある。そのため、皇牙は巴と離れず、周囲を警戒しながら進んだ。


 幸い、道中で魔物に遭遇することはなかった。


 昨日見つけた大きな岩を目印に進むと、目的の石はすぐに見つかった。皇牙は《万能鑑定EX》で種類を確認し、地面に転がっていた小さな石をいくつか拾い上げた。


「……よし。これくらいあれば十分だろ」


「はい。試すだけでしたら、量も足りるかと存じます」


 皇牙は集めた石を《空間収納EX》へ収めた。


 持ち帰る量を欲張らず、必要な分だけにしたのは正解だった。まだ商品になるかどうかも分からないのに、大量に集めても置き場所に困るだけだからだ。


 帰り道では、巴が周囲の岩陰を確認しながら先導した。


「……なあ、巴。こんなことまで付き合わせて悪いな」


「お気になさらないでください。殿がお出かけになる以上、お守りするのが私の務めでございます」


「それはありがたいけどさ。毎回俺について回ってたら、お前も休めねえだろ?」


 皇牙は少し申し訳なさそうに頭をかいた。


 城には新しい仲間が増えているが、戦いを専門とする人間はまだ巴だけだ。外の探索も城の警戒も、すべて任せきりにはできない。


「……そのうち、護衛を任せられる奴もガチャで引きてえな」


「ふふ。殿のお気遣い、嬉しく存じます」


 巴は柔らかく微笑んだ。


 皇牙は照れくさくなり、少し早足で歩き始めた。


 城へ戻ると、ガルドとブラムが早速石を調べ始めた。


 二人は表面を触り、硬さを確かめ、石同士を軽く擦り合わせてみる。ブラムは手持ちの刃物を取り出し、慎重に刃の一部を研いだ。


「……ふむ。悪くねえな」


 ブラムは刃を光へかざし、角度を変えて眺めた。


「細かい研ぎには使えそうだ。ただ、石によって硬さが違うし、割れやすいものもある。全部が同じ品質ってわけじゃねえな」


「じゃあ、商品にはできそうか?」


「形を整えりゃ使えるとは思う。だが、売り物にするなら、もう少し試す必要があるな」


 皇牙は大きく頷いた。


 万能鑑定EXで細粒砂岩だと分かっても、それだけで立派な砥石になるわけではない。実際に加工し、使いやすさを確かめる仕事は、職人であるガルドとブラムの役目だった。


「よし。じゃあ、それも無理のない範囲で頼む。今すぐ大量に作らなくていいからさ」


「任せとけ。まずは見本を一つ仕上げてみる」


 ブラムが力強く答えた。


 その日の夕方、皇牙は再びエドガーと顔を合わせた。


 中庭の棚には草の敷物が一枚置かれ、その隣ではガルドとブラムが砥石の形を整えている。まだどちらも売り物と呼べる段階ではないが、朝までなかった商品候補が、こうして目に見える形になり始めていた。


「……なんか、商売っぽくなってきたな!」


「はい。ただし、今は試作品ができた段階でございます。ベルント殿が再び訪れた際に、買い取りの見込みを確かめましょう」


「おう。売れるかどうかは、そのときのお楽しみってことか!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。


 エドガーはさらに、商人と取引する場所について話し始めた。


「今後、行商人が訪れるようになれば、城門の外に荷車を停められる場所があると便利です。城内へ入れずに品物を確認できますし、警備もしやすくなります」


「……おっ! じゃあ、市場を作るか!」


 皇牙の目が輝いた。


 しかし、エドガーはすぐに首を横へ振った。


「最初は小さな取引広場で十分かと。まだ売り手も買い手も少ないのですから」


「……ええっ、でっけえ市場の方が格好いいだろ!」


「殿。今のところ、商いをなさるのはエドガー殿と、時折訪れる行商人だけでございますよ」


 巴が穏やかに指摘した。


「……それもそうか」


 皇牙は少し残念そうに肩を落とした。


 だが、すぐに別の考えが浮かぶ。


「……じゃあ、最初は小さく作って、あとから超巨大市場に改築すればいいんじゃね?」


「それでしたら、必要になった際に改めてご相談いたしましょう」


「よし、決まりだ!」


 皇牙は満足そうに頷いた。


 まだ市場を造る必要はないが、最初の取引場所をどこに設けるかは考えておける。城門の外なら荷車も入りやすく、城の中を見せずに商売できるだろう。


 そのとき、皇牙はふと頭上へ視線を向けた。


「……あ、そういや今日の無料ガチャ、まだ引いてねえな」


 五日目の朝はベルントとの出会いに興奮し、その後は商売の相談をしていたため、すっかり後回しになっていた。


 皇牙は《英霊召喚ガチャEX》を開き、残り回数を確認した。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:13人】

【SR以上排出率:5%】


「……よし。夕飯の前に引くか!」


 その声を聞きつけたのか、城の回廊から分身が顔を出した。


「おい! ガチャ引くのか!? だったら俺も呼べよ!」


「分かってるって! お前、ほんとガチャの話になると元気だな!」


「俺はお前なんだから当然だろ!」


 二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。


 皇牙は再び棚の上に置かれた敷物と、ガルドたちが加工を進めている石へ目を向けた。


 金貨百枚には、まだ遠い。


 それでも、朝はただ欲しがっていただけの金貨に、ほんの少しだけ近づいた気がした。


「……くくく。待ってろよ、有料ガチャ!」


 皇牙は不敵な笑みを浮かべた。


 まずは商品を作り、買い手を見つけ、銅貨を稼ぐ。面倒な仕事は得意な仲間に任せ、自分は必要な建物を造る。


 そうして少しずつ金が増えていけば、いつかは金貨百枚にも届くかもしれない。


 もっとも、皇牙の頭の中では、すでにその先の十連ガチャが輝いていた。


「……よし! 絶対にSR確定十連までたどり着いてやるぜ!」


「いや、まずは単発一回分だろ!」


 分身の容赦ないツッコミに、皇牙は思わず顔をしかめた。


「夢くらい大きく持たせろよ!」


 夕暮れの城に、二人の笑い声が響き渡った。


 こうして、金貨が欲しいという皇牙の単純な願いから、アストレアの最初の商いに向けた準備が、確かに動き始めたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。