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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第138話 鉄鉱石を見つけたら、天才たちが動き始めた件

 異世界生活百六十一日目。神城皇牙は朝食の席で、焼きたてのパンを片手に、テーブルの上に置かれた赤茶色の石を眺めていた。


 昨日、北方の森で発見した鉄鉱石である。表面はざらつき、ところどころ黒ずんでいる。宝石のような美しさはないが、皇牙には金貨の山にも負けないほど魅力的に見えた。


「鉄鉱石かあ……。いいよな、こういうの。いかにも建国ゲームって感じがする」


「殿。せめてお食事が終わってから、お手に取られてはいかがでしょうか」


 向かいに座る巴御前が、パンくずの落ちたテーブルと鉄鉱石を交互に見つめた。


「いや、こいつを見ながら飯を食うと、なんか夢が広がるんだよ。鉄が手に入れば農具も工具も作れるし、武器や防具だって自前で用意できるかもしれねえ」


「それは喜ばしいことでございますね」


「だろ? それに、鉄の巨大な門とか造ったら格好よくねえか?」


「……殿。最初に必要なのは農具ではございませんでしたか?」


「分かってるって。巨大な門は将来の楽しみだ」


 巴は小さく笑った。


 皇牙も自分の考えが少々飛躍していることは理解していた。鉄鉱石を見つけたからといって、すぐに鉄製品が作れるわけではない。鉱石を掘り出し、加工し、職人たちが製品に仕上げて、ようやく人々の生活に役立つのだ。


 それでも、新しい資源が見つかったという事実だけで、朝から気分がよかった。


「よし。今日もいいことがありそうだな。まずは無料ガチャといくか!」


 朝食を終えた皇牙は、《国家管理EX》で人口を確認した。


 現在の人口は七百三人。人口一万人にはまだ遠く、SR以上の排出率は五パーセントのままだ。


「そろそろ歴史上の偉人が来てもいい頃だろ。できれば俺の代わりに働いてくれる人材を頼む!」


「殿は毎朝、同じことを願っておられますね」


「願い続ければ、いつか叶うかもしれねえだろ?」


 皇牙は《英霊召喚ガチャEX》を起動した。


 一回目に現れたのは、Nの荷車整備補助を得意とする男性。二回目は、Nの木炭運搬補助を得意とする青年だった。


「おっ、どっちも今後役に立ちそうだな。さて、最後の一回!」


 三度目の光が収束すると、がっしりとした体格の中年男性が姿を現した。短く刈った髪には白いものが混じり、太い指には長年道具を扱ってきた者らしい硬さがあった。


『R 鍛冶工房管理者 グレン』


「……おおっ! 鍛冶工房管理者!?」


 皇牙は思わず立ち上がった。


「昨日鉄鉱石を見つけたばっかりなのに、今日は鍛冶関係の人材かよ! 最高じゃねえか!」


 《万能鑑定EX》によれば、グレンは鍛冶職人の作業管理、材料の配分、製品の品質確認に優れた人材だった。自身も鍛冶の経験を持つが、特に職人たちの技量を見極め、無理のない生産体制を整えることを得意としている。


「グレン、ちょうど相談したいことがある。鉄鉱石を見つけたんだが、うちの鍛冶工房で使えるようにしたいんだ」


「鉄鉱石でございますか。でしたら、まずは少量を試してみるのがよろしいでしょう。鉱石の性質も確かめず、大量に掘り出しては無駄が出ます」


「おお、頼もしいな!」


 皇牙は二人のN人材をそれぞれの担当部署へ引き継ぎ、グレンを連れて研究工房へ向かうことにした。


 人口は七百六人となった。


 レオナルド・ダ・ヴィンチの研究工房では、朝から金属を叩く音が響いていた。


 作業台には歯車や木製の模型が並び、壁には複雑な機械の設計図が貼られている。皇牙には何に使うのか分からないものも多かったが、その雑然とした光景を見るだけで胸が躍った。


「レオナルド! 面白いものを持ってきたぞ!」


「おや、陛下。今度は何を見つけられたのですかな?」


「これだ!」


 皇牙が《空間収納EX》から鉄鉱石を取り出すと、レオナルドはすぐに手を伸ばした。


 石の表面を眺め、欠けた部分を指でなぞり、近くの明かりにかざす。その表情は、子供が新しい玩具を手にしたときのように生き生きとしていた。


「ほう……。これは実に興味深い」


「《万能鑑定EX》では鉄鉱石って出た。昨日、北方の森で見つけたんだ」


「なるほど。では、鉄を取り出せるか試してみましょう」


 レオナルドは早速、紙を引き寄せて図面を描き始めた。炉の断面らしい形を描いたかと思えば、そこへ管をつなぎ、さらに歯車と羽根のような部品を書き加えていく。


「既存の炉を使うにしても、空気の送り方を工夫すれば、より高い温度を安定して保てるかもしれませんな」


「おお! いきなり新しい機械の設計か!」


「まだ構想の段階です。実際に作れるかどうかは、職人たちの技術を確かめねばなりません」


 その言葉を聞いたグレンが、図面を覗き込んだ。


「……なるほど。送風を強める仕組みでございますか。しかし、この歯車を今の工房で正確に作るのは難しいでしょう」


「ふむ。どの部分が問題ですかな?」


「こちらの噛み合わせです。少しでも形がずれれば、回転が滑らかに伝わりません。今ある工具では、職人によって仕上がりに差が出ます」


 レオナルドは目を細め、図面を見直した。


「では、最初の試験では複雑な機構を使わず、既存のふいごを利用しましょう。改良型は別に試作すればよい」


「それならば可能です。炉の状態を確認し、作業に慣れた職人を選びます」


「素晴らしい。現場の事情をよくご存じですな」


 レオナルドが楽しそうに笑うと、グレンもわずかに表情を緩めた。


 皇牙は二人のやり取りを聞きながら、満足そうに頷いていた。


「いいねえ。天才の発想を、現場のプロが形にする。こういうのが見たかったんだよ!」


「陛下もご一緒に試験をなさいますかな?」


「俺は見学担当だ!」


 即答すると、グレンが思わず吹き出した。


「陛下は随分と正直でいらっしゃいますな」


「専門家の仕事を邪魔しないのも、立派な国王の務めだろ?」


「……その考え方は、少々都合がよすぎる気もいたしますが」


 巴が呆れたように笑った。


 その日の昼前、研究工房の一角にある既存の炉で、小規模な試験が行われることになった。


 レオナルドが手順を確認し、グレンが職人たちに作業を割り振る。炉の周囲には必要な者だけが残り、皇牙と巴は邪魔にならない位置から見守った。


「陛下。最初から良質な鉄が得られるとは限りませんぞ」


「分かってる。まずは試してみることが大事なんだろ?」


「そのとおりです」


 砕いた鉱石と燃料が炉に入れられ、職人たちがふいごを動かし始めた。炎が勢いを増すと、工房の中に熱気が広がる。


 皇牙は思わず顔をしかめた。


「うわ、暑っ! こんなところで毎日仕事してるのかよ」


「鍛冶場とは、そういう場所でございます」


 グレンは平然と答えた。


「だからこそ、休憩と水分の確保が欠かせません。無理をさせれば、良い仕事どころか事故につながります」


「……なるほどな」


 皇牙は真剣に頷いた。


 自分なら魔法で熱を防ぐこともできる。だが、職人たちはそうではない。建物を一瞬で造れるからといって、その中で働く人間の苦労まで消せるわけではなかった。


 試験は時間をかけて慎重に進められた。炉の状態を見ながら燃料と送風を調整し、グレンが職人たちの動きを確認する。


 やがて作業が一区切りつき、炉から取り出されたものが冷却された。


「……どうだ?」


 皇牙が身を乗り出すと、グレンは黒ずんだ塊を道具で持ち上げた。


「まだ不純物が多く、すぐに製品へ使える状態ではございません。しかし……」


 グレンは塊の一部を示した。


「鉄を含む部分が得られております。今後、処理を重ねれば、利用できる可能性は十分にございます」


「おおっ!」


 皇牙は拳を握った。


「つまり、あの石から本当に鉄を取り出せるってことだな!」


「はい。ただし、今回の結果だけで大量生産が可能とは申し上げられません。鉱石の品質や燃料の消費量も調べる必要があります」


 レオナルドも頷いた。


「それでも、最初の試験としては上々でしょう。次は炉の構造と送風方法を改良し、効率を比べてみたいところですな」


「よし! じゃあ、その研究は二人に任せた!」


「承知いたしました」


 グレンが頭を下げ、レオナルドは早くも新しい図面へ目を向けていた。


 皇牙は黒ずんだ塊を眺めながら、口元を緩めた。


 昨日までは、ただの石だった。それが今、職人たちの手によって、未来の道具へつながる第一歩を踏み出したのである。


 午後には、コルベールと山本勘助を交え、今後の調査について話し合うことになった。


「陛下。試験の成果は喜ばしいことですが、採掘を始めるには人員と輸送手段が必要です」


 コルベールは帳簿を開き、現在の職人と運搬担当者の配置を確認した。


「既存の産業から人手を移しすぎれば、そちらの生産に影響が出ます。まずは少人数での試験採掘にとどめるべきでしょう」


「分かってる。最初から巨大鉱山都市を造るつもりはねえよ」


「……本当でございますか?」


「何でそんな疑うんだよ!」


 コルベールは答えず、皇牙の顔を見つめた。


「……まあ、ちょっとは考えたけど」


「やはり」


 巴が小さく笑い、勘助も口元を緩めた。


 勘助は北方の森の地図を広げた。


「殿。ノルドとロイスには、すでに谷の周辺を調べさせております。現時点では、森の入口から谷へ荷車を通せる道がありません」


「じゃあ、道路を造ればいいだろ?」


「いずれは必要となりましょう。ただし、斜面の状態を確認せずに造れば、崩落の危険がございます。調査結果を待ってから経路を決めるべきです」


「なるほど。じゃあ、今日は道じゃなくて、調査する連中の拠点を造るか」


 皇牙が地図の森の入口を指すと、勘助は頷いた。


「それならば、警備もしやすく、調査隊の集合場所として使えましょう」


「殿。私からも一つお願いがございます」


 巴が静かに口を開いた。


「森には角狼が生息しております。調査員や職人が出入りするのであれば、護衛兵が待機できる場所も必要です」


「了解。じゃあ、休憩室と倉庫、それに警備用の詰所も造ろう」


「ありがとうございます」


 コルベールは少し考えたあと、頷いた。


「建物を陛下のお力で用意できるのであれば、必要な備品と管理人員を手配いたします。ただし、今後の運営費は別途確認させていただきます」


「おう。そこは任せた!」


 皇牙は嬉しそうに立ち上がった。


 会議が終わる頃、ノルドとロイスが調査途中の報告を持って現れた。


 ノルドは森の入口付近の地面について説明し、ロイスは簡単な測量図を机に広げた。


「こちらの場所であれば、比較的平坦で水が溜まりにくく、建物を置くのに適しております」


「ただし、森の奥へ向かう道はまだ調査中です。今の段階では、入口の拠点だけを整えるのがよいでしょう」


「よし、決まりだな!」


 皇牙は二人の報告に満足そうに頷いた。


 夕方、皇牙たちは北方の森の入口へ向かった。


 木々の間を抜ける風は涼しく、昼間の研究工房の熱気が嘘のようだった。遠くでは鳥の鳴き声が響き、森の奥にはまだ人の手が入っていない土地が広がっている。


 勘助とロイスが建設位置を確認し、ノルドが周辺の地面の状態を確かめた。巴は護衛兵たちとともに周囲を警戒している。


「殿。こちらであれば問題ございませぬ」


「了解。じゃあ、造るぞ!」


 皇牙は地面へ手を向け、《国家創造EX》を発動した。


 次の瞬間、森の入口に石造りの建物が現れた。


 中央には調査隊が休憩できる部屋を備え、隣には道具を保管する倉庫が並ぶ。さらに、護衛兵が待機するための小さな詰所も設けられていた。建物の前には荷車を止められる広場があり、雨水が溜まりにくいよう地面も整えられている。


「よし! 完成!」


 皇牙は満足そうに胸を張った。


 ロイスが建物の配置を確認し、ノルドは周辺の排水状況を見て頷いた。


「これなら、調査の拠点として十分に使えそうです」


「家具や道具は、後ほど職人たちに運び込んでもらう必要がありますな」


 勘助が言うと、皇牙は当然のように頷いた。


「そこは任せた。俺は建物を造る係だからな!」


「殿は本当に、役割分担がお好きでございますね」


 巴が笑うと、皇牙も得意げに笑った。


「当たり前だろ。俺が全部やってたら、昼寝する時間がなくなるじゃねえか」


 その言葉に、周囲から笑いが起こった。


 皇牙は新しく建てた調査拠点を眺めながら、満足そうに息をついた。


 鉄鉱石の発見から、わずか一日。まだ採掘は始まっていないし、製錬技術も試験段階だ。それでも、職人たちは鉄を取り出す可能性を示し、調査員たちは安全な開発の準備を進めている。


 自分が造った建物の中で、優秀な人材たちがそれぞれの仕事をする。


 皇牙が理想としていた国の姿が、少しずつ形になってきていた。


「……よし。これで将来の鉱山開発も楽しみになってきたな」


「殿。まずは調査の結果を待ちましょう」


「分かってるって。あ、そうだ。ここに俺専用の休憩所も造っておこうかな」


 皇牙が何気なく呟くと、背後からコルベールの声が飛んできた。


「陛下。調査拠点に、陛下専用の休憩所は必要ございません」


「……まだ何も造ってねえだろ!」


「お考えになる前に申し上げておきます」


「先回りするなよ!」


 皇牙が抗議すると、巴はとうとう声を上げて笑った。


 森の入口には、新しい調査拠点が夕日に照らされていた。


 まだ小さな一歩にすぎない。しかし、北方の森で見つかった鉄鉱石は、確かにアストレアの未来を変え始めていた。


 皇牙はその光景を眺めながら、満足そうに笑った。


「……やっぱり、建国って面白えな」


 もっとも、その直後には、城へ戻って夕食を食べ、ゆっくり風呂に入ることを考えていたのだった。

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