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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第135話 俺が食べたいだけなのに、名物料理が生まれそうな件

 異世界生活百五十七日目。神城皇牙は朝食を終えると、椅子の背にもたれながら満足そうに腹をさすった。


 昨日は北西の高台に造ったアストレア展望台の準備状況を確認し、コルベールには売店の試験営業を任せた。あとは家具と庭園が完成するのを待つだけである。一般開放の日には、巴と一緒に景色を眺めながら美味いものを食べる。そんな未来を想像するだけで、自然と頬が緩んだ。


「なあ、巴。展望台の売店って、どんな飯を売るんだろうな」


 向かいの席で茶を飲んでいた巴御前は、少し考えてから答えた。


「昨日、コルベール殿が商人の方々へ案内を出されたと伺っております。まだ商品までは決まっていないのではございませんか?」


「だよなあ。せっかくなら、あそこでしか食えない名物が欲しいよな。片手で食えて、腹も満たせて、できれば安いやつ」


「それほど条件がございますと、商人の方々も大変そうでございますね」


「そこは商売の腕の見せどころだろ。俺は客として美味しくいただく係だからな!」


 胸を張る皇牙に、巴は呆れたような笑みを浮かべた。


 もっとも、売店のことばかり考えているわけにもいかない。皇牙には毎朝欠かさず行っている、何より大切な日課があった。


 執務室へ移動した皇牙は《国家管理EX》を開き、現在の人口を確認する。表示された数字は六百九十一人。昨日召喚した洗濯補助、倉庫整理補助、庭園管理士のエドガーも、それぞれの担当者のもとで働き始めていた。


「よし、今日も無料ガチャ三回! そろそろ歴史上の偉人が来てもいい頃だろ!」


「殿。昨日も同じことをおっしゃっておられましたよ」


「毎日言い続けてりゃ、そのうち当たるんだよ!」


 皇牙は《英霊召喚ガチャEX》を起動した。人口が一万人に達していないため、SR以上の排出率は初期設定の五パーセント。それでも三回引けるのだから、期待する価値は十分にある。


 一回目の召喚で現れたのは、食器の洗浄や厨房の片づけを得意とするNの女性だった。二回目は、荷物の仕分けや運搬準備に慣れたNの男性。どちらも生活を支える大切な人材だが、皇牙が期待していた歴史上の偉人ではない。


「うーん、今日も堅実だな。いや、いいことなんだけどさ。もうちょっとこう、派手な演出が欲しいんだよ!」


 最後の一回に望みを託すと、淡い光の中から、きちんとした身なりの若い男性が姿を現した。


 鑑定結果はR。名前はフィン。店舗運営補助を得意とし、商品の陳列、在庫管理、接客の段取りに優れているらしい。


「おっ、店の仕事が得意なのか! ちょうど売店の話を進めてるところなんだよ」


「売店、でございますか?」


「ああ。展望台の近くで飲み物や軽食を売る予定なんだ。まだ準備中だけどな」


 皇牙が簡単に説明すると、フィンは興味深そうに頷いた。


「でしたら、商品の運び込み方や販売場所を確認したく存じます。扱う品によっては、準備の仕方も変わりますので」


「いいねえ。そういう細かいことを考えられる奴は大歓迎だ。コルベールに紹介するから、相談してくれ」


 皇牙は三人を担当者へ引き継ぎ、人口が六百九十四人になったことを確認した。無料ガチャはこれで終了。残念ながら歴史上の偉人は現れなかったが、今の街に必要な人材が増えたのだから悪くない結果だった。


 朝の仕事を終えた皇牙は、巴とフィンを連れて商業担当の執務室へ向かった。


 扉を開けると、コルベールが数枚の書類を確認していた。机の上には商人たちから提出された申込書が並び、その横には展望台周辺の簡単な見取り図が置かれている。


「おっ、もう応募が来てるのか?」


「陛下。ちょうどご報告するところでございました」


 コルベールは立ち上がって一礼すると、昨日からの進捗を説明した。


 展望台での試験営業について商人たちへ案内したところ、パン屋、菓子店、食堂などから早速問い合わせがあったという。まだ正式な募集期間も終わっていないため、参加者を決定する段階ではないが、予想以上に関心が高いらしい。


「へえ、結構人気なんだな。まだ開いてもいねえのに」


「新しい施設に人が集まれば、商売の機会も生まれます。ただし、希望する者が増えれば、販売場所の割り当てについて公平な取り決めが必要になります」


「そうだな。早く申し込んだ奴だけが得するのも変だし、俺の好みだけで店を決めるのも違うよな」


 皇牙は書類を覗き込みながら頷いた。美味しいものが食べられれば満足ではあるが、そのために商人同士が揉めるのは面倒である。


「だったら、最初は何軒かに交代で出してもらえばいいんじゃねえか? 実際に売ってみないと、何が人気か分かんねえだろ」


「私も同様に考えております。応募者の条件を確認したうえで、一定期間ごとに販売の機会を設ける予定です」


「よし、それで頼む。あと、今朝のガチャでフィンっていう店舗運営補助の人材が来たんだ。使えそうなら手伝わせてくれ」


 紹介されたフィンは丁寧に頭を下げ、コルベールから試験営業の計画を聞いた。しばらく説明を受けた後、彼は見取り図へ視線を落とした。


「一つ、確認してもよろしいでしょうか。販売台は、どちらに設置するご予定でしょうか」


「展望台の広場付近を検討しておりますが、警備担当者との調整はこれからです」


「でしたら、商品の搬入場所とお客様が並ぶ場所を分けた方がよろしいかと存じます。販売台の前に人が集まりますと、荷車の通行を妨げる可能性がございます」


 コルベールは興味深そうに頷いた。


「なるほど。販売の効率だけでなく、通行の安全にも関わる問題ですね」


「はい。また、商品ごとの販売数を記録しておけば、次に必要な仕入れ量も判断しやすくなります。最初から大量に用意するより、少量ずつ試す方が損失を抑えられるかと存じます」


 皇牙は二人のやり取りを聞きながら、感心したように腕を組んだ。


「いいじゃねえか。フィン、早速仕事が見つかったな!」


「ありがとうございます。少しでもお役に立てれば幸いです」


「じゃあ、その辺は二人に任せる。俺は昼から展望台の様子を見に行くつもりだから、何か決まったら教えてくれ」


 そう言って部屋を出ようとした皇牙を、巴が呼び止めた。


「殿。販売場所については、勘助殿にも確認していただいた方がよろしいかと存じます」


「ん? ああ、確かに。人が集まるなら警備のことも考えねえとな」


「展望台へ向かう道は広く整備されておりますが、荷車と歩行者が重なる場所には注意が必要でございます。私からも警備担当者へ確認してまいります」


「おう、頼んだ。巴が見てくれるなら安心だな」


 皇牙が笑うと、巴は力強く頷いた。普段は穏やかに接してくれる彼女だが、警備の話になると表情が引き締まる。皇牙はそんな巴の姿を見るたび、やはり頼りになる女武者だと感じていた。


 昼過ぎ、皇牙は巴とともに北西の高台へ向かった。


 アストレア展望台では、一般開放に向けた準備が着々と進んでいた。白い石造りの休憩所にはセシルが設計した長椅子が運び込まれ、職人たちが最後の調整を行っている。庭園側ではリーナとエドガーが植栽の配置を確認し、景色を遮らないよう背の低い花木を中心に整備を進めていた。


「おお、昨日よりだいぶ完成に近づいてるじゃねえか!」


「はい。家具も順調に揃っておりますし、庭園の整備も進んでおります」


 巴が答えたところへ、山本勘助が警備担当者を連れてやってきた。


「殿。展望台の警備について、巴殿よりお話を伺いました」


「おう。売店を出す予定だから、荷車と見物客がぶつからねえようにしたいんだよ」


「承知しております。現地を確認したところ、休憩所の入口付近は避け、広場から少し離れた場所に販売台を置くのがよろしいかと存じます」


 勘助は見取り図を広げ、候補となる場所を指し示した。そこは展望台の主要な通路から外れているものの、休憩所から遠すぎるわけではない。荷物を運ぶ際にも、別の道を使えば見物客の邪魔にならずに済むという。


「いいねえ。じゃあ、そこを候補にしようぜ。必要なら俺が道を整えるからさ」


「ありがとうございます。ただし、販売台の数によって必要な広さも変わりますので、コルベール殿と調整してから最終決定いたします」


「おう、それでいい。安全第一で頼むぞ」


 皇牙が頷くと、勘助は一礼して担当者のもとへ戻っていった。


 その後、皇牙は休憩所へ向かい、完成したばかりの長椅子に腰を下ろした。背もたれの角度はちょうどよく、座面も丁寧に磨かれている。景色を眺めながらゆっくり過ごすには申し分ない出来栄えだった。


「……最高じゃねえか。これなら何時間でも座ってられるぞ」


「殿。まだ作業中でございますから、お休みになるのはもう少しお待ちくださいませ」


「分かってるって。今日は座り心地を確認してるだけだよ」


 皇牙はそう言いながら、名残惜しそうに立ち上がった。周囲では職人たちが忙しく働いている。自分だけが昼寝を始めれば、さすがに邪魔になるだろう。


 展望台の準備を確認した後、二人は城へ戻った。午後には、コルベールが試験営業を希望する商人たちを集め、商品の確認を行う予定になっていたからだ。


 皇牙が部屋へ入ると、机の上には小ぶりなパンや焼き菓子、果物を使った軽食などが並んでいた。どれも持ち運びやすさを意識して作られており、展望台で販売する商品として考えられているらしい。


「おおっ、すげえ! 思ったより色々あるじゃねえか!」


 皇牙が目を輝かせると、商人たちは緊張した面持ちで頭を下げた。


「陛下、本日はお時間をいただき、ありがとうございます」


「そんな堅くならなくていいって。今日はみんなが考えた料理を食わせてもらいに来ただけだからさ!」


 皇牙の気さくな言葉に、商人たちの表情が少し和らいだ。


 最初に出されたのは、香草を混ぜ込んだ小さな丸パンだった。外側は香ばしく、中は柔らかい。皇牙は一口食べると、素直に感心した。


「おっ、これ美味いな。歩きながらでも食えそうだ」


 続いて、果物を煮詰めた甘い菓子や、塩味の焼き菓子が出された。どれも悪くないが、皇牙が特に興味を示したのは、最後に運ばれてきた料理だった。


 それは、薄く伸ばした生地で肉と刻んだ野菜を包み、表面をこんがりと焼いたものだった。片手で持てるほどの大きさで、焼き目から香ばしい匂いが漂っている。


「……おい、これ何だ?」


「肉と野菜を包んで焼いた料理でございます。街の食堂でも似たものを出しておりますが、今回は持ち歩きやすいよう小さく仕上げました」


 説明したのは、街で食堂を営む中年の男性だった。


 皇牙は早速一つ手に取り、慎重にかじりついた。薄い生地の中から肉の旨味と野菜の甘みが広がり、香ばしい焼き目が食欲をそそる。


「……うっま!」


 思わず大きな声が出た。皇牙はもう一口食べ、さらにもう一口と口へ運ぶ。気づけば、あっという間に一つ食べ終えていた。


「これ、いいじゃねえか! めちゃくちゃ美味いぞ!」


 食堂の主人は驚いたように目を見開き、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。まだ試作の段階でございますが、お気に召していただけたのでしたら何よりです」


「いや、これ絶対売れるって! 景色を見ながら食ったら最高だろ!」


 皇牙は興奮した様子で巴にも勧めた。巴は一つ受け取ると、丁寧に口へ運ぶ。


「……確かに、美味しゅうございます。生地が薄いので食べやすく、具もこぼれにくいですね」


「だろ? これ、もう一個食いたくなるよな!」


 皇牙が勢いよく言うと、コルベールが静かに口を開いた。


「陛下。お気に召したようですが、販売するにはいくつか確認が必要です」


「分かってるって。材料とか値段とかだろ?」


「それもございますが、調理してから時間が経った場合の品質も重要です。展望台で販売するのであれば、運搬中に冷めることも考えられます」


 皇牙は少し考えた。確かに、今食べた料理は焼きたてだから美味しいのかもしれない。冷めても同じように楽しめるかは分からなかった。


「じゃあ、冷めたやつも食ってみりゃいいんじゃねえか?」


「その確認も予定しております」


 コルベールが頷くと、フィンが一歩前へ出た。


「陛下。もしこちらを販売するのでしたら、最初は数量を絞って試すのがよろしいかと存じます。売れ行きを記録すれば、どの程度の仕込みが必要か判断できます」


「おお、いいねえ。売れ残って捨てるのはもったいねえしな」


「はい。また、焼きたてを運ぶ時間と販売開始の時間を合わせれば、できるだけ良い状態でお客様にお渡しできると思います」


 皇牙は感心したように頷いた。フィンはまだ召喚されたばかりだが、早くも自分の得意分野で役に立っている。


「よし、じゃあ試してみようぜ! ただし、他の店の料理もちゃんと売ってくれよ。俺が気に入ったからって、一つの店だけ特別扱いするのは違うだろ」


 その言葉に、商人たちは少し驚いた様子を見せた。皇牙は特に深く考えていなかったが、商売の機会が公平であることは大切だと思っていた。


 コルベールは静かに頷き、販売台の配置や試験営業の順番について、改めて商人たちと相談することにした。


 試食会が終わる頃には、展望台の売店で扱う商品について、おおよその方向性が見えてきていた。正式な販売品目は試験営業を通じて決めるものの、皇牙が気に入った包み焼きは有力な候補となった。


 城の廊下を歩きながら、皇牙は満足そうに腹をさすった。


「いやあ、今日はいい日だったな。ガチャで店の仕事が得意な奴も来たし、美味い料理も見つかったし。最高じゃねえか!」


「殿は、本当に美味しいものがお好きでございますね」


「当たり前だろ。せっかく異世界に来たんだから、美味い飯くらい楽しみたいじゃねえか」


 皇牙はそう答えると、ふと思い出したように巴へ顔を向けた。


「なあ、巴。展望台が開いたら、あの包み焼きを買って一緒に食おうぜ。景色のいいところで食ったら、絶対もっと美味いと思うんだよ」


「はい。ぜひ、ご一緒させてくださいませ」


 巴は穏やかに微笑んだ。その表情を見て、皇牙も嬉しそうに笑う。


 自分が昼寝をしたいという理由で造った展望台が、今では街の人々の楽しみになり、新しい商売まで生み出そうとしている。思いがけない展開ではあったが、悪い気分ではなかった。


 もっとも、皇牙の頭の中では、すでに別のことが気になり始めていた。


「……そういや、あの包み焼きって、城でも作ってもらえるのかな」


「殿。先ほど召し上がったばかりではございませんか」


「いや、夕飯にも食いたくなってきたんだよ。あれ、絶対何回食っても飽きねえぞ!」


 巴は思わず笑ってしまった。皇牙はそんな彼女を見ながら、自分もつられて笑い出す。


 アストレア展望台の一般開放に向けた準備は、着実に進んでいた。職人たちは家具を仕上げ、庭園担当者たちは植栽を整え、商人たちは新しい商売の機会を待っている。


 そして皇牙は、展望台で食べる最初の一品を、誰よりも楽しみにしていた。

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