↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/140

第3章 第134話 俺の昼寝場所が商売の話になった件

 異世界生活百五十六日目。神城皇牙は、朝食の席で一枚の報告書を眺めながら、ひどく不満そうな顔をしていた。


 別に、何か問題が起きたわけではない。むしろ報告の内容は喜ばしいものだった。昨日完成したアストレア展望台について、住民たちから早く利用したいという声が相次いでいるらしい。


 皇牙は焼きたてのパンを口に運び、向かいに座る巴御前へ視線を向けた。


「なあ、巴。俺は確かに、みんなが使える展望台を造った。そこは間違いねえよな?」


「はい。殿が造られた立派な施設でございます」


「でもさ、まだ椅子も花壇も完成してねえんだぞ? なのに、もう見に行きたいって奴がこんなにいるのか?」


「昨日、建物が現れるところをご覧になった方も多かったようですから。街の皆様も楽しみになさっているのでしょう」


 巴は穏やかに答えたが、皇牙は報告書の端を指で叩いた。展望台を造った目的は、景色を眺めながらのんびり昼寝をすることだった。それが完成した途端、街の人気施設になりそうな勢いである。


「いや、喜んでくれるのはいいんだよ。ただ、俺が寝てる横で子供が走り回ったり、住民から挨拶されたりしたら、絶対に落ち着かねえだろ」


「それは、殿が皆様に慕われている証拠ではございませんか」


「昼寝してるときくらい、ただの皇牙さんでいたいんだけどなあ」


 巴は思わず笑みをこぼした。皇牙は不満そうに頬を膨らませたものの、本気で住民を遠ざけたいわけではない。昨日、展望台を見た子供たちが嬉しそうにしていたことは、皇牙自身も喜んでいた。


 結局、彼は報告書を脇へ置き、気持ちを切り替えるように両手を合わせた。


「まあ、いいや。とりあえずガチャだ! 面倒なことは大物を引いてから考えようぜ!」


 朝食を終えた皇牙は執務室へ移動し、《国家管理EX》を開いた。表示された人口は六百八十八人。昨日召喚した清掃補助や木材運搬補助ではなく、園芸師のリーナを含む三人も、すでに担当者のもとで仕事の準備を進めている。


「さて、今日こそ歴史上の偉人を頼むぞ。俺の代わりに仕事をしてくれる天才なら、なお歓迎だ!」


 皇牙が《英霊召喚ガチャEX》を起動すると、目の前に光の表示が浮かび上がった。無料召喚の残り回数は三回。人口が一万人に達するまでは排出率も変わらないが、それでも毎朝の期待が薄れることはない。


 一回目の光から現れたのは、Nの洗濯補助を得意とする若い女性だった。二回目はNの倉庫整理補助の男性。どちらも日々の暮らしを支える人材だが、皇牙が期待していた歴史上の偉人ではなかった。


「よし、最後だ! ここで金色の光とか出てくれたら最高なんだけどな!」


 三回目の召喚では、先ほどより少し強い光が広がった。皇牙は期待に身を乗り出したが、現れたのは落ち着いた雰囲気の中年男性だった。


 鑑定結果はRの庭園管理士。男性はエドガーと名乗り、庭木の手入れだけでなく、植栽の配置や庭園の維持管理にも経験があると説明した。


「庭園管理士か。悪くねえな! 昨日の園芸師と組めば、展望台の周りもいい感じにできそうじゃねえか」


「お役に立てるのでしたら幸いです。まずは現地を拝見し、どの程度の手入れが必要になるか確認したく存じます」


「おう。見栄えも大事だけど、毎日何人も付きっきりにならなきゃ維持できない庭は勘弁な。そこは上手く考えてくれ」


 エドガーは真面目な表情で頷いた。皇牙は三人を担当者へ引き継ぎ、人口が六百九十一人になったことを確認する。


「よし、これで朝の楽しみは終了。じゃあ巴、展望台を見に行こうぜ!」


「殿。本日はコルベール殿にもお話があるのではございませんか?」


「……ああ、そうだった」


 皇牙は昨日の夕方、自分が何を思いついたのか思い出した。展望台の近くに売店があれば、わざわざ城から食べ物を持っていかなくても済む。飲み物や軽食を買って、そのまま景色を楽しめるという素晴らしい計画だった。


「仕方ねえ。先にコルベールのところへ寄るか。五分くらいで終わるだろ」


「五分で終わるお話なのでしょうか」


「俺が言いたいことを言って、あとは全部任せるだけだからな!」


 皇牙は自信満々に答えたが、その見通しは甘かった。


 執務棟にある財務担当の部屋を訪ねると、ジャン=バティスト・コルベールは机に向かって書類を確認していた。皇牙の姿を認めた彼は立ち上がり、丁寧に一礼する。


「陛下。本日はどのようなご用件でしょうか」


「昨日造った展望台なんだけどさ、近くに売店を置いたら便利だと思わねえか? 飲み物とか軽食を売るんだよ。景色を眺めながら食えるし、結構いい商売になる気がするんだけど」


 皇牙がそう言うと、コルベールはすぐに返事をせず、少し考えるように顎へ手を添えた。


「興味深いお考えです。施設の利用者が増えれば、飲食物への需要も生まれるでしょう。ただし、建物を用意するだけでは商売になりません」


「分かってるって。商品と店員が必要なんだろ?」


「それに加えて、仕入れ先、販売価格、営業時間、廃棄の管理も必要です。特に食べ物を扱うのであれば、売れ残りをどうするか考えなければなりません」


 皇牙は早くも面倒くさそうな顔になった。


「うわ、出たよ。商売の細かい話」


「細かいことの積み重ねが、利益を生むのでございます」


「そういうのを考えるために、お前がいるんだろ?」


「もちろんです。ですが、陛下に一つだけ決めていただきたいことがございます」


 コルベールは書類を脇へ寄せ、皇牙をまっすぐに見た。


「この売店は、国が直接運営する施設にされますか。それとも、街の商人に営業の機会を与えますか?」


 皇牙は思わず瞬きをした。店を一つ造るだけのつもりだったので、運営方法まで考えていなかったのだ。


「……どっちがいいんだ?」


「現時点では、既存の商人に任せる方が適切かと存じます。街にはパンや保存の利く菓子、飲み物を扱う者がおります。新たに国の職員を増やすより、希望者を募って営業させる方が、負担を抑えられます」


「おお、いいじゃねえか! 俺も店の経営なんかしたくねえしな!」


「ただし、希望者が複数現れた場合には、場所の割り当てや利用料について公平な取り決めが必要です。特定の商人だけが一方的に利益を得る形にはできません」


 皇牙は椅子の背にもたれ、天井を見上げた。売店を思いついたときは、建物を一つ造れば終わると思っていた。しかし、実際に商売を始めるとなれば、考えるべきことはいくらでもあるらしい。


「じゃあ、最初は小さく始めようぜ。いきなり立派な店を造るんじゃなくて、希望する商人に試しに売ってもらえばいいだろ。売れそうなら、ちゃんとした建物を考える」


「それがよろしいかと存じます。持ち運びのできる販売台を使えば、利用者の数に合わせて営業を調整できます」


「よし、決まり! その辺の手続きは任せた!」


 皇牙は勢いよく立ち上がったが、コルベールはまだ話を終えていなかった。


「もう一点、確認させてください。展望台の一般開放は、家具の設置と安全確認が終わってからと伺っております。売店の試験営業も、その日程に合わせて進めてよろしいでしょうか」


「おう、それでいい。まだ開いてもいねえのに店だけ先に出しても仕方ねえしな」


「承知いたしました。では、商人たちへの案内を準備いたします」


 コルベールが一礼すると、皇牙はようやく部屋を出た。廊下へ出た途端、大きく息を吐く。


「……五分で終わると思ったのに、結構話し込んじまったな」


「ですが、良いお話し合いだったと思います」


「まあな。俺が思いついたことを、ちゃんと商売になる形にしてくれるんだから、コルベールは本当にありがてえよ」


 皇牙は少しだけ満足そうに笑った。自分に商売の知識がなくても、専門家がいれば形にできる。それこそ、優秀な人材を集めて国を造った甲斐があるというものだった。


 北西の高台へ向かう道では、数人の職人が木材を運んでいた。昨日完成した展望台はまだ正式に開放されていないものの、街から見える白い柱と屋根はすでに話題になっているらしい。通りすがりの住民から、いつ利用できるのか尋ねられることもあった。


「あと何日かで開ける予定だから、もうちょっと待っててくれよ!」


 皇牙がそう答えると、住民たちは嬉しそうに頭を下げた。中には家族で訪れたいと話す者もおり、期待の大きさが伝わってくる。


 高台へ到着すると、レオナルド・ダ・ヴィンチと木工設計士セシルが休憩所の前で作業を確認していた。白い石造りの建物は昨日と変わらぬ美しさを保っているが、屋根の下にはまだ長椅子が並んでいない。職人たちが家具の部材を運び込み、寸法を確かめているところだった。


「おっ、順調そうじゃねえか!」


「やあ、皇牙。ちょうどいいところに来たね。家具の配置を確認していたところだよ」


 ダ・ヴィンチは楽しそうに手を振り、セシルが広げた図面を示した。休憩所の内側には長椅子を数台置き、通路を塞がないよう間隔を空ける予定だという。景色を眺めやすい位置には背もたれ付きの椅子を設け、年配の住民でも無理なく座れる高さに調整していた。


「いいねえ。こういうのが欲しかったんだよ。特に、この背もたれが大事だな。昼寝するなら絶対必要だろ!」


「陛下が長時間お休みになることも考え、座面の角度を調整しております。ただ、公共の施設ですので、寝台のように場所を取る造りにはしておりません」


「分かってるって。みんなが使えるようにするのが先だろ」


 皇牙が素直に頷くと、セシルは少し安心したようだった。以前、皇牙が大きな寝台を置きたがっていたことを覚えているのかもしれない。


 ダ・ヴィンチは建物の外へ目を向け、続けて説明した。


「日差しと風の通り方も確認したよ。午後は屋根の下に影ができるし、風が強い日には柱の内側へ移動できる。ただし、雨が横から吹き込むことはあるから、悪天候の日まで無理に利用させない方がいいね」


「その辺は利用の決まりを作ってもらおうぜ。雨の日くらい、みんな家でゆっくりすりゃいいんだよ」


「君らしい考えだね」


 ダ・ヴィンチが笑ったところへ、庭園の担当者に案内された二人の男女がやってきた。昨日召喚された園芸師のリーナと、今朝召喚された庭園管理士のエドガーだった。


 二人は展望台の周囲を調べ、植栽について相談したいことがあるという。


「陛下。こちらは風が通りやすく、日当たりも良好です。ただ、背の高い木を多く植えますと、せっかくの眺めを遮ってしまいます」


 リーナが地面に描いた簡単な配置図を示すと、エドガーも頷いた。


「そこで、通路沿いには背の低い花木を中心に植え、休憩所から少し離れた場所に木陰を作ることを提案いたします。水やりや剪定の手間も考慮し、無理なく管理できる種類を選ぶつもりです」


「いいじゃねえか! 景色も楽しめて、花も綺麗で、しかも手入れが楽。最高だな!」


「ただし、植えたばかりの植物がすぐに大きく育つわけではございません。季節ごとに少しずつ景観を整えてまいります」


「それでいいよ。庭なんて、育っていくのを見るのも楽しみの一つだろ」


 皇牙がそう答えると、リーナとエドガーは嬉しそうに顔を見合わせた。建物を一瞬で造れる皇牙でも、植物の成長まで急がせるつもりはないらしい。


 その後、山本勘助も高台へ姿を見せた。警備担当者とともに周囲を確認していた彼は、通路の安全性と巡回経路について報告した。


「展望台の周辺に異常はございませぬ。北の丘の警戒も継続しておりますが、こちらへ魔物が近づいた痕跡は確認されておりませぬ」


「そうか。なら、ひとまず安心だな」


「ただし、一般開放後は多くの民が訪れることも考えられます。警備担当者には、混雑時の対応についても申し伝えておきます」


「頼んだ。子供が手すりに登ったりしねえように、注意書きも置いておいてくれよ」


 勘助は静かに頷いた。皇牙は戦いになれば圧倒的な力を発揮できるが、普段の安全管理まで一人で行う必要はない。軍事や警備を任せられる人材がいることは、彼にとって何より心強かった。


 ひととおりの確認が終わると、皇牙は展望広場の先端へ向かった。白い石の手すり越しに、アストレアの街並みが広がっている。住宅や商店が並ぶ通りを荷車が行き交い、その向こうには農地が続いていた。


 昨日も同じ景色を眺めたはずなのに、今日は少し違って見えた。建物が完成したことで、ここからの景色を自分だけでなく多くの住民が楽しめるようになる。そのことを思うと、なんだか不思議な気分だった。


「……なあ、巴」


「はい、殿」


「俺、最初はここで昼寝することしか考えてなかったんだよな」


「存じております」


「でも、今はちょっと楽しみなんだ。みんながここへ来て、景色を見て喜ぶところも見てみてえなってさ」


 巴は皇牙の隣に立ち、同じように街を見下ろした。


「きっと、皆様もお喜びになるでしょう。殿が造られたこの場所は、アストレアの新たな憩いの場になると思います」


「そうなったら嬉しいな。……まあ、俺の昼寝場所がなくなるのは困るけど」


 皇牙が付け加えると、巴は小さく笑った。


「それでしたら、城の庭園にも静かな場所がございます。殿が本当にお休みになりたいときは、そちらをご利用になればよろしいのでは?」


「……あっ」


 皇牙は思わず声を漏らした。考えてみれば、城の庭園には木陰も椅子もある。静かに昼寝をしたいだけなら、わざわざ新しい建物を造る必要はなかった。


「そういや、そうだったな。俺、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ?」


「展望台を造ることが、あまりにも楽しそうでございましたから」


「くそっ、完全に建築が目的になってたじゃねえか!」


 皇牙は頭を抱えたが、すぐに笑い出した。好きなことに夢中になると、肝心の目的を忘れてしまう。どうやら自分の性格は、異世界へ来ても少しも変わっていないらしい。


 それでも、造った展望台が無駄になったとは思わなかった。むしろ、思いつきで始めたことが街の役に立つのなら、それはそれで悪くない。


「よし、決めた! ここはみんなに思いっきり楽しんでもらおうぜ。俺は気が向いたときに遊びに来る。昼寝したい日は城の庭で寝る!」


「それがよろしいかと存じます」


「ただし、売店ができたら最初の客は俺だからな! そこだけは譲らねえ!」


 皇牙が胸を張ると、巴は声を上げて笑った。


 昼過ぎ、城へ戻った皇牙は、庭園の木陰に置かれた椅子へ身体を預けた。展望台では家具の製作や植栽の準備が進み、コルベールは売店の試験営業に向けて商人たちへの案内を始めている。正式開放までにはまだ少し時間が必要だが、必要な仕事はそれぞれの担当者が進めてくれる。


「いやあ、今日は結構働いたな。売店の相談に、家具の確認に、庭の話までしたんだぞ。俺にしては十分すぎるだろ」


「殿が楽しそうにしておられたので、あまりお仕事には見えませんでしたが」


「好きなことをやってるだけだからな。でも、こういうのなら悪くねえよ」


 皇牙は目を閉じ、心地よい風を感じながら大きく息を吐いた。街の運営を任せられる仲間がいて、困ったときには相談できる専門家がいる。自分は好きなことを考え、必要なときだけ力を貸せばいい。そんな暮らしに、少しずつ近づいている気がした。


「巴。展望台が開いたら、今度こそ一緒に売店の飯を食おうぜ。俺が奢ってやるからさ」


「ありがとうございます。楽しみにしております」


「おう。……その前に、今日は昼寝だ」


 皇牙が満足そうに目を閉じると、巴はそっと近くの椅子へ腰を下ろした。木々の葉が揺れる音を聞きながら、彼女も静かに庭園の景色を眺める。


 しばらくして皇牙の寝息が聞こえ始めた頃、遠くの執務棟から人の声が響いてきた。どうやらコルベールが、売店の営業を希望する商人たちと話を始めたらしい。


 皇牙の思いつきから生まれた展望台は、まだ一般開放もされていないうちに、新しい仕事と商売を生み出し始めていた。


 もっとも、そのきっかけを作った本人は、そんなことを知る由もない。


 今の皇牙にとって何より大切なのは、誰にも邪魔されず、気持ちよく昼寝をすることだった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。