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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第131話 俺の絶景スポットが立入禁止!? ならば新しく造ればいい!

 異世界生活百五十三日目の朝、神城皇牙は朝食の席で、昨日訪れた北の丘について考えていた。


 あの場所から眺めたアストレアの街並みは、思い出すだけでも気分がよくなるほど見事だった。城館を中心に広がる住宅や工房、その外側に続く農地と街道。自分が《国家創造EX》で造った建物が、住民たちの暮らしによって一つの街になっている光景は、城の窓から眺める景色とは違った感動があった。


 昨日は角狼の出現によって小旅行を切り上げることになったが、皇牙はすでに次の計画を立てていた。今度は昼食だけでなく、背もたれ付きの椅子と柔らかい敷物も持っていくつもりだ。《空間収納EX》があるのだから、荷物の多さを気にする必要もない。


「よし、決めた! 今日はあの丘で昼寝するぞ! 昨日の分まで、思いっきりのんびりしてやる!」


 向かいに座っていた巴御前は、皇牙の宣言を聞くと、少し困ったような表情を浮かべた。普段なら主君の気まぐれな計画に付き合ってくれる彼女だが、今日は事情が違うらしい。


「殿、そのことでございますが、昨日の林と周辺の道は、安全確認が終わるまで立ち入りを控えるよう、警備担当者から連絡がございました」


「……は? ちょっと待て。俺の昼寝スポット、もう立入禁止なのかよ!」


 皇牙が思わず声を上げると、巴は静かに頷いた。昨日倒した角狼は三頭だったが、それ以外にも魔物が潜んでいる可能性があるため、山本勘助が周辺の調査を進めているという。


 皇牙は椅子の背にもたれ、深いため息をついた。せっかく見つけたお気に入りの場所が、たった一日で使えなくなるとは思わなかった。しかし、普通の住民にとって角狼は十分に危険な魔物だ。自分と巴が簡単に倒せるからといって、安全を確認せずに立ち入りを認めるわけにはいかない。


「くそっ……。魔物の野郎、俺の休日を邪魔するだけじゃ飽き足らず、昼寝スポットまで奪いやがった」


「ふふ。安全が確認されれば、また訪れることもできましょう。それまでは、別の場所でお休みになられてはいかがでしょうか」


「いや、あの景色を一度見ちまったら、普通の庭じゃ満足できねえんだよなあ。……まあいいか。まずは勘助に話を聞いてみるか」


 皇牙は残っていた朝食を平らげると、執務室へ向かった。もっとも、勘助のところへ行く前に、毎朝欠かせない楽しみがある。皇牙は机の前に立ち、《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


 現在の人口は六百七十九人。まだ一万人には遠いため、SR以上の排出率は五パーセントのままだった。それでも、毎日三回無料で召喚できるというだけで、皇牙にとっては十分に魅力的な能力である。


「さあ、今日こそ大当たりを頼むぜ! できれば俺の仕事を全部引き受けてくれるような、超優秀な偉人がいい!」


「殿。そのような方が現れても、すべてのお仕事をお任せするわけにはまいりませんよ」


「分かってるって。全部ってのは言葉のあやだよ。九割くらいで我慢するからさ!」


 巴が呆れたように笑う中、皇牙は一回目の無料召喚を実行した。現れたのはNの果樹栽培補助エマ。二回目には荷車修理補助のNディルが召喚され、最後の三回目では、青い光とともにRの木工設計士セシルが姿を現した。


 セシルは三十歳前後の落ち着いた男性で、木材を使った家具や階段、手すりなどの設計を得意としていた。皇牙が城の内装にも興味があると話すと、彼は嬉しそうに頷いたものの、実際の製作には材料や職人が必要になることも忘れずに説明した。


「おう、そこは分かってる。今日来たばっかりなんだから、まずは街の工房を見て回ってくれよ。俺も格好いい家具とか好きだから、そのうち相談するかもしれねえけどな!」


 皇牙は三人を歓迎し、生活案内の担当者へ引き継いだ。新しい住民たちの仕事については、それぞれの経験や希望を確認したうえで、関係する責任者と相談して決めてもらうことになっている。召喚を終えたことで人口は六百八十二人となり、アストレアはまた少し賑やかになった。


 ガチャを済ませた皇牙は、巴を連れて北門近くの警備詰所へ向かった。道中では荷車を押す商人や仕事へ向かう職人たちとすれ違い、住宅の並ぶ通りからは子どもたちの声も聞こえてくる。最初は何もなかった荒野に、これだけ多くの人々が暮らしているのだから、不思議なものだった。


 北門へ近づくと、林へ続く道の入口に木札が立てられているのが見えた。魔物の調査が終わるまで立ち入りを控えるよう書かれており、警備担当者が通行人に事情を説明している。皇牙は木札を眺めながら、昨日の角狼が現れた場所を思い出した。


「……こうして見ると、結構街に近かったんだな。昨日は景色に夢中で、あんまり気にしてなかったぜ」


「そうでございますね。殿や私には大きな脅威でなくとも、住民の皆様にとっては危険な場所かもしれません」


「だよなあ。俺が遊びに行きたいからって、ほかの連中まで危ない目に遭わせるわけにはいかねえしな」


 皇牙は残念そうに肩をすくめたが、木札を撤去するよう命じることはなかった。そのまま詰所へ入ると、山本勘助が数人の警備担当者と地図を囲んでいるところだった。


 机の上には城下町の北側を描いた地図が広げられ、昨日角狼が現れた林の周辺にいくつかの印が付けられている。勘助は皇牙の姿を認めると一礼し、今朝までの調査結果を説明した。


「林の入口付近で角狼と思われる足跡が見つかっております。ただし、昨日討伐された三頭のものか、別の個体のものかは判断できておりませぬ。奥へ進めば手掛かりが得られるやもしれませぬが、まずは住民の利用する道を優先して調べております」


「なるほどな。じゃあ、あの丘へ行けるようになるのは、もう少し先か」


「左様にございます。危険がないと確認できれば通行を再開できますが、今の段階で時期を申し上げることはできませぬ」


 勘助は地図の上を指でなぞりながら、林の奥へ続く谷筋について説明した。地形を見る限り、獣が移動しやすい場所ではあるものの、角狼がそこに住み着いているとは限らない。昨日の三頭が偶然通りかかった可能性もあるため、足跡の向きや周囲の状況を確かめながら慎重に判断するという。


 皇牙は説明を聞きながら、昨日召喚された森林案内人エリアスのことを思い出した。彼はまだアストレア周辺を詳しく歩いたわけではないが、森の地形や獣道についての知識は持っているはずだ。


「そういや、エリアスにも相談してみたらどうだ? 昨日来たばっかりだから、この辺のことは知らねえだろうけど、森の歩き方には詳しいはずだぜ」


「すでに面談を手配しております。地図や足跡の記録を見てもらい、必要であれば調査にも協力していただくつもりにございます」


「おお、さすが勘助! 俺が言うまでもなかったな。ただし、無茶だけはさせるなよ」


 勘助が承知したと答えると、皇牙は満足そうに頷いた。魔物の調査は専門家に任せておけばよい。自分が無理に出しゃばるより、彼らが安全に仕事を進められるようにする方が大切だろう。


 もっとも、肝心の昼寝場所がなくなったことに変わりはない。皇牙は地図を覗き込みながら、昨日の丘と城下町の位置関係を眺めていた。林の近くを通らずに丘へ登れる道があればよいのだが、地図を見る限り、簡単には見つかりそうにない。


 そこで皇牙は、ふと別の考えに思い至った。


「……待てよ。そもそも、俺が気に入ったのって、あの丘そのものじゃなくて、そこから見える景色なんだよな」


「と、申されますと?」


「だったら、もっと街に近いところに展望台を造ればいいんじゃねえか? 高い場所から城下町を見渡せれば、わざわざ林の近くまで行く必要もねえだろ!」


 皇牙は勢いよく顔を上げた。自分には《国家創造EX》があるのだから、建物を造ること自体は難しくない。見晴らしのよい場所に展望台を建て、屋根付きの休憩所や椅子を用意すれば、魔物に邪魔されずに景色を楽しめるはずだ。


 しかし、勘助はすぐには賛成せず、地図を眺めながら考え込んだ。


「面白いお考えにございます。ただし、場所は慎重に選ぶ必要がございましょう。門や城壁の近くへ高い建物を造れば、警備の妨げとなる可能性がございます。また、住民が利用するのであれば、安全に行き来できる場所でなければなりませぬ」


「……ああ、そうか。高けりゃいいってもんじゃねえな」


 皇牙は腕を組んだ。自分だけが使うなら多少不便な場所でも構わないが、せっかく造るのなら住民にも開放したい。子どもや年配の人が景色を楽しめる場所になれば、街の新しい名所になるかもしれなかった。


「だったら、まずは場所を探そうぜ。街の中で少し高くなってて、警備の邪魔にもならねえところ。そういう場所なら、わざわざ高い塔を造らなくてもいいだろ?」


「それであれば、いくつか候補がございます。実際に歩いて確かめてみるのがよろしいかと」


 勘助の案内で、皇牙たちは城下町の北西にある緩やかな高台を訪れた。途中でいくつかの場所も確認したが、警備担当者が頻繁に行き来する道に近すぎたり、住民が日常的に利用していたりして、展望台を造るには不向きだった。


 最後に訪れた高台は、住宅地から少し離れた場所にあり、まだ特別な用途には使われていなかった。草の生えた斜面を登ると、城館の屋根や市場へ続く道、遠くに広がる農地まで見渡すことができる。


「おおっ! ここ、結構いいじゃねえか!」


 皇牙は思わず声を上げた。昨日の丘ほど遠くまで見渡せるわけではないが、街の様子はこちらの方がよく分かる。荷車が行き交う街道や、工房から立ち上る煙まで見え、アストレアが一つの街として動いていることを実感できた。


 巴も隣に並び、眼下の景色を眺めた。


「こうして見ると、随分と建物が増えましたね。最初は城の周りにも、ほとんど何もございませんでしたのに」


「だよなあ。あの頃は家を造っても住む奴がいなかったし、道を造っても歩く奴がいなかったからな。今じゃこんなに賑やかになってるんだから、面白いもんだぜ」


 皇牙は懐かしそうに笑った。最初は自分を含めて四人しかいなかったアストレアが、今では六百人を超える人々の暮らす街になっている。建物を造るのは一瞬でも、そこに人々の生活が根づくまでには時間がかかる。そのことを、皇牙は少しずつ実感するようになっていた。


 ただし、勘助は景色のよさだけで建設を認めるつもりはなかった。周囲の道幅や住宅との距離を確認し、雨が降った際の水の流れについても調べる必要があるという。皇牙は早く建物を造りたい気持ちを抑え、まずは候補地として記録してもらうことにした。


「……くっ。俺の《国家創造EX》なら一瞬で造れるのに、場所を決めるだけでこんなに大変なのかよ」


「殿。建物を造ることと、安心して使い続けられることは別にございます」


「分かってるって。せっかく造るんだから、みんなが気持ちよく使える場所にしたいしな」


 皇牙がそう答えると、勘助は満足そうに頷いた。候補地の確認は彼らに任せ、皇牙は午後からレオナルド・ダ・ヴィンチの工房へ向かうことにした。


 工房ではダ・ヴィンチが作業台に向かい、何やら小さな機構の図面を描いていた。皇牙が展望台の話をすると、彼は興味深そうに顔を上げ、新しい紙を取り出した。


「なるほど。景色を楽しむための建物か。それは面白いね。ただ、君だけが使うのか、それとも住民にも開放するのかで、考えるべきことは変わってくるよ」


「もちろん、みんなが使っていいぞ。俺が昼寝してるときに騒がれなきゃ、それでいい!」


「ふふ。それなら、広い階段や手すりだけでなく、休憩できる場所も必要だろうね。高い塔にするより、もともとの地形を利用した方が使いやすいかもしれない」


 ダ・ヴィンチはそう言いながら、簡単な構想を紙に描き始めた。高台の斜面を利用して緩やかな通路を設け、見晴らしのよい場所には屋根付きの休憩所を造る。周囲には転落を防ぐ手すりを設置し、座って景色を眺められるように腰掛けも用意するという案だった。


「おお、いいじゃねえか! これなら昼寝にもぴったりだ!」


「君は本当に昼寝が好きなのだね。だが、実際に造る前に候補地を確認させてもらいたい。地形によっては、もっとよい形が考えられるかもしれないからね」


「おう、そこは任せるぜ! 俺は格好よくて快適な展望台が欲しいだけだからな!」


 皇牙が胸を張ると、ダ・ヴィンチは楽しそうに笑った。そこへ、今朝召喚された木工設計士のセシルが工房を訪ねてきた。街で使われている木材や道具について教えてもらうため、案内を受けていたらしい。


 皇牙が展望台の構想を説明すると、セシルは興味を示し、木製の手すりや腰掛けについて意見を述べた。まだアストレアの材料事情を十分に把握していないため、具体的な設計は後日になるが、ダ・ヴィンチも彼の知識に感心した様子だった。


「へえ、セシルもなかなか詳しいじゃねえか。今日来たばっかりなのに、早速役に立ちそうだな!」


「ありがとうございます。まずはこちらの工房を見学し、どのような材料が使えるのか確かめたいと思います」


「おう、無理せず頼むぜ。急いで完成させる必要はねえからな」


 皇牙は満足そうに頷いた。優秀な人材が増えるほど、自分が細かいことを考えなくても、専門家同士で話を進めてくれる。これこそ、皇牙が理想としていた国家運営の形だった。


 もっとも、ダ・ヴィンチからは完成形の確認だけは皇牙自身にしてほしいと言われ、少しだけ不満そうな顔をすることになった。


「……結局、俺の仕事が残るのかよ」


「君が使いたいと言い出した施設なのだから、最後にどんなものが欲しいか決めるくらいはしてもらわないとね」


「くっ……。正論で俺を働かせようとするんじゃねえ!」


 皇牙の大げさな反応に、工房では笑い声が上がった。


 夕方、城館へ戻った皇牙は、巴とともに庭園を歩いていた。展望台はまだ構想の段階で、建設場所も正式には決まっていない。北側の林についても、警備担当者による調査が続いているため、しばらくは立ち入りを控える必要がある。


 それでも、皇牙の気分は悪くなかった。お気に入りの丘へ行けなくなったのは残念だが、その代わりに新しい楽しみができたからだ。しかも、完成すれば自分だけでなく、住民たちも景色を楽しめる場所になるかもしれない。


「……なあ、巴。展望台ができたら、最初に一緒に行こうぜ」


 皇牙が何気なくそう言うと、巴は少し驚いたように顔を上げた。


「私も、ご一緒してよろしいのでございますか?」


「当たり前だろ。昨日だって一緒に丘へ行ったじゃん。今度こそ、魔物に邪魔されずに弁当を食おうぜ!」


 巴は嬉しそうに微笑んだ。皇牙はその表情を見て、何となく照れくさくなり、庭園の向こうへ視線を移した。最初は護衛として頼りにしていた彼女だが、今ではこうして何でもない時間を一緒に過ごすことも、すっかり当たり前になっている。


「はい。楽しみにしております、殿」


「おう! 俺も楽しみだ!」


 皇牙は笑いながら椅子に腰掛けた。今日は結局、昼寝をする時間がほとんどなかった。朝から勘助と話し、候補地を歩き回り、午後はダ・ヴィンチと展望台の構想を考えていたのだから当然である。


 そのことに気づいた皇牙は、しばらく黙り込んだあと、思わず天を仰いだ。


「……あれ? 俺、昼寝する場所を造るために、昼寝する時間を削ってねえか?」


 巴は一瞬きょとんとしたものの、すぐに口元を押さえて笑い始めた。


「ふふ。殿がそれほど熱心にお考えになるとは、私も思っておりませんでした」


「いや、待て待て! これじゃ本末転倒じゃねえか! 俺は楽をするために展望台を造りたいんだぞ!」


「では、完成するまでは、こちらの庭園でお休みになられてはいかがでしょう?」


 巴がそう言って隣の椅子を示すと、皇牙はしばらく考え込んだ。庭園には心地よい風が吹き、夕日に照らされた木々が静かに揺れている。遠くの景色こそ見えないものの、昼寝をするには十分すぎるほど快適な場所だった。


「……それもそうだな。よし、今日はここで休む!」


 皇牙は椅子に深く腰掛け、満足そうに目を閉じた。すると、隣に座った巴が静かに笑う気配がした。


 新しい展望台が完成すれば、きっと今より素晴らしい景色を楽しめるだろう。だが、それまでは今ある場所でのんびり過ごせばいい。無理に急ぐ必要など、どこにもないのだ。


 そう考えた皇牙だったが、目を閉じてから数分もしないうちに、また新しいことを思いついてしまった。


「……なあ、巴。展望台に露天風呂も付けたら、最高じゃねえか?」


「殿。まずは展望台を完成させてから、お考えになってはいかがでしょう?」


「……ですよね」


 巴のもっともな返答に、皇牙は苦笑した。


 どうやら理想のスローライフを実現するには、まだまだ時間がかかりそうだった。

お読みいただきありがとうございます。

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