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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第130話 今日は絶対に休む! 巴と出かけたら魔物が現れた件

 異世界生活百五十二日目。


 神城皇牙は、朝食の席で一枚の紙を眺めながら、ひどく真剣な表情を浮かべていた。昨日までの商業関係の書類ではない。そこには大きな文字で、本日の予定がたった三つだけ書かれている。


 一つ、無料ガチャを引く。二つ、美味いものを食べる。三つ、昼寝をする。


 我ながら完璧な計画だと思う。ここ数日は市場の整備や防災訓練、商人との取引方針など、興味深いことが多かった反面、妙に忙しかった。優秀な家臣たちへ仕事を任せているはずなのに、なぜか自分まで会議へ呼ばれる。このままでは、悠々自適な暮らしを目指して建国した意味がなくなってしまう。


「……よし。今日は絶対に仕事しねえ!」


「ふふ。それはまた、ずいぶんと固いご決意でございますね」


 向かいに座る巴御前が、湯気の立つ茶を口元へ運びながら微笑んだ。朝日を受けた横顔は穏やかで、戦場で見せる勇ましい姿とは随分印象が違う。


「昨日だって結構働いたからな。商人の優先買い付けがどうとか、交易の条件がどうとか……。あんな難しい話、一週間分は聞いた気がするぜ」


「張良殿もコルベール殿も、殿のお考えを伺えて喜んでおられましたよ」


「そりゃよかった。だったら、次の一週間くらい俺を放っておいてくれてもいいよな!」


 皇牙が当然のように言うと、巴は声を立てて笑った。彼女の笑顔を見るのは嫌いではない。むしろ最近は、こうして何でもない話をしながら食事をする時間が、朝の楽しみになっていた。


 もっとも、仕事を休んでもガチャだけは欠かせない。皇牙は食事を終えると《英霊召喚ガチャEX》を開き、期待を込めて画面を見つめた。


【国家人口:676人】

【無料召喚:3/3回】

【SR以上排出率:5%】


「さあ来い! 今日こそ歴史の大物だ! 俺の休日を祝う最高の一枚を頼むぜ!」


 一回目に現れたのはNの薬草採集補助ミラ。二回目はNの炭焼き補助ゲルト。そして三回目、青い光とともに姿を現したのは、Rの森林案内人エリアスだった。


「おおっ、Rだ! 森林案内人って、山とか森の道に詳しいのか?」


 エリアスは二十代後半ほどの青年で、日に焼けた顔と落ち着いた目つきが印象的だった。話を聞くと、旅人や採集者の道案内をしており、獣の痕跡や季節によって変わる地形にも詳しいという。


「へえ、面白そうだな。アストレアの周りにはまだ調べきれてねえ場所もあるし、そういう知識は役に立ちそうだぜ」


 皇牙は三人を歓迎し、生活案内の担当者へ引き継いだ。エリアスには後日、周辺の探索を担う者たちと顔を合わせてもらえばよいだろう。薬草採集や炭焼きについても、既存の仕事との兼ね合いを考えて配属を決めてもらうつもりだった。


【国家人口:679人】

【無料召喚:0/3回】


「よし、六百七十九人! 今日も順調だな。……さて、あとは寝るだけだ!」


 そう言って立ち上がったところで、巴が何かを思い出したように窓の外へ視線を向けた。


「殿。先日、巡回の兵から城の北側に景色のよい丘があると伺いました。街からそれほど離れておらず、晴れた日には城下町がよく見えるそうでございます」


「……へえ。俺の城が外から見えるってことか?」


「はい。ちょうど、あちらの森の手前にある丘だそうです」


 巴が示した方角を眺め、皇牙の頭にある光景が浮かんだ。自分が造った城と街を見下ろし、青空の下で昼寝をする。城の庭園も気に入っているが、普段とは違う場所で過ごす休日も悪くない。


「……それ、最高じゃねえか。よし、予定変更! 今日は丘で昼寝する!」


「ふふ。城から一歩も出ないご予定では?」


「休む場所が変わるだけだろ! 仕事じゃねえんだから問題なし!」


 皇牙の言い分に巴は笑い、二人は厨房で昼食を用意してもらってから出かけることにした。


     ◇


 北門を抜けると、街の賑わいが少しずつ遠ざかっていった。道路の両側には低い草地が広がり、開拓された畑の向こうには、まだ人の手が入っていない土地が続いている。乾いた荒野の名残はあるものの、ところどころに新しい草が生え、風に揺れていた。


 丘へ向かう道は、巡回の兵士たちも利用する小道だった。特別に整備された観光地ではないため、皇牙は巴と足元を確かめながら歩いた。警備担当者からも、最近その付近で大きな異常は報告されていないと聞いている。ただし、城壁の外である以上、魔物が絶対に現れないわけではない。


「……こういう道を歩いてると、最初にこの世界へ来た頃を思い出すな」


 皇牙が呟くと、巴が隣で頷いた。


「はい。あの頃は、殿と私たち三人だけでございました」


「城を造ったのはいいけど、食い物も道具も足りなくてさ。しかも、周りには魔物がいるってんだから、今思えば結構無茶な始まり方だったよな」


 当時のことを思い出すと、自然に笑みが浮かぶ。最初の農民と職人がいなければ生活は成り立たなかったし、巴がいなければ周辺の警戒さえままならなかった。自分には強力な魔法があるものの、何が危険なのかも分からない異世界で、巴の経験がどれだけ心強かったか分からない。


「……あのときは本当に助かったぜ。巴がいてくれてよかった」


 何気なく口にした言葉だったが、巴は少し驚いたように皇牙を見つめた。


「殿。そのように改めておっしゃられると、少々照れてしまいます」


「何だよ。普段から感謝してるって。俺が面倒なことばっか嫌がってる分、お前にも苦労かけてるだろうしな」


「いいえ。殿と過ごす日々を、私は苦労ばかりだと思ったことはございません」


 巴はそう答えてから、どこか恥ずかしそうに目を伏せた。皇牙も返す言葉を探したが、妙に胸の辺りが落ち着かず、結局は丘の方を指差して歩く速度を上げてしまった。


「……そ、そうか! ならよかった! ほら、もう少しで着くぞ!」


 後ろから小さな笑い声が聞こえた気がしたが、皇牙は振り返らなかった。


 やがて丘の斜面を登りきったところで、視界が一気に開けた。眼下には石造りの城館を中心とするアストレアの街並みが広がり、その周囲に住宅や工房、農地が整然と並んでいる。市場へ向かう荷車は小さな点のようで、風に運ばれてくる人々の声もここではかすかにしか聞こえなかった。


「……おおっ! すげえ! 俺の城、めちゃくちゃ格好いいじゃん!」


 皇牙は思わず歓声を上げた。街の中心にそびえる城館は、遠くから眺めても十分な存在感がある。自分の趣味を詰め込んだ塔や城壁まで見えるのだから、歴史と建築が好きな人間にはたまらない光景だった。


「ふっふっふ……。あの塔の配置、やっぱ正解だったな。もっと高くしてもよかったけど、街全体の見た目を考えたら今くらいが最高かもしれねえ!」


「殿は本当に、お城のお話をなさると楽しそうでございますね」


「当然だろ! こんなの、前世じゃゲームでしかできなかったんだぞ!」


 皇牙は上機嫌で《空間収納EX》から敷物と昼食の包みを取り出した。料理や水筒は厨房で用意してもらったもので、収納したまま運んできたため、重い荷物を背負う必要もない。


 丘の上を吹き抜ける風は涼しく、草の匂いが心地よかった。皇牙は敷物の上へ腰を下ろすと、城下町を眺めながら大きく伸びをする。


「……ああ、最高。これだよ、これ! 俺が欲しかったスローライフは!」


 巴も隣へ腰を下ろしたが、周囲への注意は怠っていなかった。彼女にとって皇牙の護衛は大切な務めであり、城壁の外ならなおさらである。それでも、主君が楽しそうに景色を眺める姿を見ているうちに、表情は自然と柔らかくなっていた。


「なあ、巴。またこういうところに来ようぜ。今度は少し遠くまで行ってみるのも面白そうだな」


「はい。殿がお望みでしたら、どこへでもお供いたします」


「へへっ、頼もしいな。……でも、護衛の仕事ばっかじゃなくて、お前にも楽しんでほしいんだけどな」


 巴は一瞬言葉を失い、それから小さく微笑んだ。


「私は今も、十分楽しませていただいておりますよ」


 真正面からそう言われ、皇牙は慌てて昼食の包みに手を伸ばした。何となく照れくさかったのだが、その理由を本人はうまく説明できなかった。


     ◇


 二人が昼食を広げようとしたとき、丘の下にある林から鳥の群れが飛び立った。


 巴が顔を上げる。少し遅れて、低い唸り声が風に乗って聞こえてきた。皇牙も手を止め、木々の間に動く灰色の影へ目を向ける。


「……ん? 魔物か?」


 《万能鑑定EX》を発動すると、視界に角狼という名が浮かんだ。額から短い角を生やした狼型の魔物で、群れで獲物を追う習性があるらしい。林から現れたのは三頭。丘の斜面に立つ皇牙たちを見つけ、唸り声を強めている。


「……せっかくの休日なのになあ」


 皇牙は苦笑した。魔物と戦うこと自体は怖くない。いざとなれば魔法で一瞬だろう。ただ、穏やかな昼食を邪魔されたことには、少しだけ文句を言いたかった。


 巴はすでに立ち上がり、刀へ手を添えていた。


「殿。私が対処いたします。どうか、そのままお下がりくださいませ」


「おう。でも、無理すんなよ。危なそうなら俺がやるからな」


「承知しております」


 巴が静かに刀を抜くと、先頭の角狼が地面を蹴った。斜面を駆け上がる勢いはかなりのものだったが、巴は慌てない。相手の動きを十分に引きつけてから半歩だけ身体をずらし、すれ違いざまに鋭い一太刀を放った。


 最初の一頭が崩れ落ちると、残る二頭は左右へ分かれた。一方が正面から注意を引き、もう一方が横へ回り込もうとしている。獣でありながら、群れで狩りをするだけの知恵はあるらしい。


 しかし、相手が悪かった。


 巴は横から迫る角狼の位置を確かめると、先に正面の一頭へ踏み込んだ。相手が飛びかかるより早く刃が閃き、続けざまに身を翻して最後の一頭を迎え撃つ。角狼が鋭い爪を振るうより先に、巴の刀がその動きを断ち切った。


 ほんの短い戦いだった。


「……うおおっ! やっぱすげえな、巴!」


 皇牙は思わず拍手した。彼の近くで戦う巴には《忠義の武者》による身体能力の上昇が働いているが、今の鮮やかな動きはそれだけでは説明できない。相手の足運びを読み、攻撃を最小限の動作でかわす技術は、長年培われた武芸そのものだった。


 巴は刀を確かめて鞘に納めると、すぐに皇牙の方へ戻ってきた。


「殿、お怪我はございませんか?」


「俺は大丈夫だって。それより、お前こそ平気か?」


「はい。問題ございません」


 安堵した皇牙は、改めて林の方へ目を向けた。三頭だけで行動していたのか、ほかにも仲間がいるのかは分からない。ここは城下町からそう遠くなく、採集や巡回で人が通ることもある場所だ。


「……この辺で魔物が出たってことは、警備の連中にも知らせた方がいいな」


「はい。ほかにも潜んでいる可能性がございますので、周辺を調べていただくのがよろしいかと」


 皇牙は頷いた。新しく召喚された森林案内人エリアスにも、いずれこうした地域の調査で力を借りられるかもしれない。ただし、まだ召喚されたばかりの彼を、何も知らないまま危険な場所へ送り込むつもりはなかった。


 討伐した魔物の位置を確認し、警備担当者に知らせることを決めた皇牙は、敷物に残された昼食へ視線を戻した。


「……ところでさ。俺たちの飯、まだ食ってねえんだけど」


「ふふ。こちらは城壁の外でございますから、もう少し安全な場所へ移動いたしましょう」


「……だよなあ。せっかく景色は最高だったのに!」


 皇牙は名残惜しそうに城下町を眺めたが、巴の判断が正しいことは理解していた。昼寝の場所にこだわって、余計な危険を招くほど馬鹿ではない。


     ◇


 帰り道、二人は北門に近い見晴らしのよい休憩場所へ立ち寄った。街の警備担当者が近くを巡回していることも確認できたので、ようやく落ち着いて昼食を食べられそうだった。


 皇牙は包みを開き、用意してもらった肉と野菜の料理を頬張った。朝から楽しみにしていた昼食は少し遅くなったが、外で食べる料理はやはり格別だった。


「……うめえ! やっぱ外で食う飯は最高だな!」


「ふふ。先ほどは少々驚きましたが、こうして無事にいただけて何よりでございます」


 巴は穏やかに微笑んだ。戦闘の直後だというのに、彼女の所作には普段と変わらない落ち着きがある。皇牙はその横顔を眺めながら、少しだけ真面目な気持ちになった。


「……なあ、巴。今日は付き合ってくれてありがとな」


「殿?」


「いや、丘へ行こうって話に乗ってくれただろ。魔物まで出てきちまったし、結局のんびりできなかったなって」


 巴は驚いたように瞬きをし、それからゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。殿とご一緒に城下町を眺められたことが、私は嬉しかったのでございます。それに、殿をお守りするのは私の務めですから」


「……そっか。でも、次はちゃんと休めるところにしようぜ。お前も弁当食う前に刀抜く羽目になるのは嫌だろ?」


 皇牙が冗談めかして言うと、巴は小さく笑った。


「それは、できれば避けたいところでございますね」


「だろ! よし、次は温泉でも行くか! 近場で旅行気分を味わうのも悪くねえし!」


「ふふ。楽しみにしております」


 彼女の笑顔を見て、皇牙は自然と頬を緩めた。最初は強くて頼りになる家臣として巴を見ていたが、今ではこうして一緒に食事をし、くだらない話をする時間も大切に感じている。


 もちろん、皇牙自身はそれを深く考えていない。ただ、巴が楽しそうにしていると自分まで嬉しくなるのだから、不思議なものだった。


     ◇


 城館へ戻った皇牙は、北側の丘で角狼三頭を討伐したことを警備担当者へ報告した。魔物の位置や出現した場所を伝えると、担当者は巡回経路を確認し、必要な調査を行うと答えた。


 山本勘助にも情報を回すことになったが、皇牙がその場で巡回計画を決める必要はない。周辺の警戒については、現場を知る者たちに任せる方がよいだろう。


「……よし! これで仕事は終わりだな!」


 皇牙は満足そうに自室へ戻り、窓際の椅子へ腰を下ろした。外には夕日に染まった城下町が広がっている。朝の予定どおり昼寝はできなかったものの、今日は思いがけず楽しい一日になった。


 丘から見下ろした街の景色。巴の鮮やかな剣技。そして、二人で食べた少し遅い昼食。


 どれも、城の中で寝ているだけでは味わえなかったものだ。


「……なあ、巴。やっぱ旅行っていいよな」


「はい。殿のお好きな景色を、またご一緒に見られたら嬉しゅうございます」


「へへっ。じゃあ次はもっといい場所を探してみるか。温泉でも湖でも、面白そうなところがあったら教えてくれよ!」


 皇牙がそう言うと、巴は嬉しそうに頷いた。


 アストレアの人口は六百七十九人。北側の丘では角狼三頭が討伐され、警備担当者による周辺の安全確認が進められることになった。商業制度や交易交渉についても、それぞれの担当者が準備を続けている。


 国が大きくなれば、考えなければならないことも増えていくだろう。それでも皇牙には、仕事を安心して任せられる家臣たちがいる。


 そして、休日を一緒に楽しんでくれる大切な仲間もいる。


「……よし。次こそは、本当に何も起きない平和な休日にするぞ!」


 皇牙が力強く宣言すると、巴は楽しそうに笑った。


「殿。それは少し、難しいかもしれませんね」


「……何でだよ!」


 そんなやり取りを交わしながら、二人は夕焼けに染まる街を眺めていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も10話投稿します。

よろしくお願いいたします。

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