↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/140

第3章 第129話 独占商売はお断り!? 天才軍師が考えた意外な交渉術

 異世界生活百五十一日目。


「なあ、巴。俺って昨日、余計なこと言ったかな?」


 朝食を終えた神城皇牙は、食堂の窓から城下町を眺めながら、何とも情けない声を漏らした。机の上には昨晩届いた張良からの書類が置かれている。内容は、アストレアの産品について、特定の商人に優先的な買い付け権を認めるかどうかというものだった。


 昨晩は話を聞くと決めたものの、一晩眠れば面倒な会議への意欲など跡形もなく消えていた。できることなら優秀な家臣たちだけで決めてほしい。そう思ってしまうのは、もはや皇牙の性分である。


「殿。ご自分でお話を伺うとお決めになったことは、悪いことではございませんよ」


「いや、そうなんだけどさ。張良とコルベールが揃った会議って、絶対長くなるだろ。二人とも仕事が大好きそうだし」


 向かいに座る巴御前は、楽しそうに微笑んだ。皇牙はその表情を見て、ふと妙案を思いつく。


「……そうだ。分身に行かせればよくね?」


「殿……?」


「俺と同じ記憶があるんだから、話くらい聞けるだろ。必要なことだけ後で教えてもらえば完璧じゃん!」


 皇牙は得意げに《分身EX》を発動した。淡い光とともに現れたもう一人の皇牙は、自分とまったく同じ顔で周囲を見回し、机の書類に目を留めた途端、露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


「……おい。まさか俺に会議へ行けって言うんじゃねえだろうな?」


「よく分かったな! さすが俺!」


「断る。何で本物が昼寝して、俺が面倒な話を聞かなきゃいけねえんだよ」


「そこを何とか!」


「嫌だね。どうせお前も同じ立場なら断るだろ?」


 正論だった。皇牙は返す言葉を失い、巴はとうとう声を上げて笑ってしまった。


「……くそっ! 俺が二人いても、仕事が半分になるどころか文句が倍になるだけじゃねえか!」


 皇牙は分身を解除すると、諦めたように椅子へ腰を下ろした。どうやら、今回ばかりは自分で会議へ出るしかないらしい。


 ならば、せめて楽しみを一つ済ませておこう。皇牙は《英霊召喚ガチャEX》を開き、いつもの無料召喚を始めた。


【国家人口:673人】

【無料召喚:3/3回】

【SR以上排出率:5%】


「今日こそ歴史の大物を引いて、嫌な気分を吹き飛ばしてやる!」


 威勢よく引いたものの、結果はNの果樹栽培補助マティアス、Nの織物補助エルザ、Nの倉庫整理補助ルドルフ。見事なN三連続だった。


「……おおう。現実って厳しいな」


 しかし、落胆していたのも一瞬だった。召喚された三人が不安そうに顔を見合わせているのを見て、皇牙は慌てて笑顔を作る。


「悪い悪い! お前らが来てくれたのは嬉しいんだぞ。ただ、ガチャ好きとしては派手な演出も見たかっただけだから!」


 その言葉に三人も安心したようだった。皇牙はそれぞれの経験を聞き、生活案内の担当者へ引き継ぐ。果樹園も織物工房も人手が欲しいところだし、倉庫整理に詳しい人材も今後ますます必要になるだろう。


【国家人口:676人】

【無料召喚:0/3回】


「よし、六百七十六人! これで今日の楽しみは終わりか……」


「殿。会議でも、何か面白いことが見つかるかもしれませんよ」


「商人の権利の話で面白いことなんかあるかねえ?」


 そうぼやきながらも、皇牙は巴とともに会議室へ向かった。


     ◇


 会議室では張良とジャン=バティスト・コルベールが待っていた。二人の前には商人から提出された提案書と、アストレアの生産状況をまとめた帳面が並んでいる。


 皇牙が席へ着くと、張良は穏やかに頭を下げた。


「皇牙様。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」


「礼はいいって。それより、一つだけお願いがある。俺が昼寝できる時間までに終わらせてくれ!」


 コルベールが苦笑する一方、張良は平然と頷いた。


「では、結論から申し上げましょう。私は、今回の申し出をそのまま受け入れるべきではないと考えております。ただし、相手との取引を断つ必要もございません」


「……おっ? いきなり結論が出たじゃん!」


「問題は、どこまでの権利を与えるかでございます」


 張良が差し出した提案書には、ある商人がアストレアの加工品を一定期間優先的に買い付けたいと希望していることが記されていた。継続的にまとまった数量を購入する代わりに、ほかの商人より先に商品を確保できるようにしてほしいという内容である。


「……なるほど。要するに、うちの商品を優先して買わせてくれってことか」


「はい。先方には遠方の商人とのつながりがあるそうで、安定して品物を仕入れられれば、さらに広い地域へ売り込めると申しております」


 皇牙は少し考えた。遠くへ商品を運び、継続して買ってくれる相手がいるなら、作る側にとってもありがたい。売れ残りを心配せずに済むし、新しい土地でアストレアの名前を知ってもらえるかもしれない。


「……それって、結構いい話なんじゃね?」


「利点はございます。しかし、条件次第では危険も生じます」


 今度はコルベールが口を開いた。彼は机に二枚の紙を置き、一方には商品を作る職人、もう一方には買い付けを希望する商人の名前を書いた。


「仮に、ある工房が一年で百個の商品を作れるとしましょう。そのうち八十個を一人の商人が優先的に買える契約を結べば、ほかの商人や住民が購入できる数量は大きく減ります」


「……ああ。売る側が一人に偏るわけか」


「それだけではありません。もし、その商人が翌年から買い付け価格を下げるよう求めてきた場合、生産者は販売先を失うことを恐れて、不利な条件を受け入れてしまうかもしれません」


 皇牙は紙に描かれた数字を眺め、眉を寄せた。最初は安定して買ってもらえる良い話でも、取引相手が一人に偏れば、その相手の都合に振り回される可能性がある。


「……そりゃ困るな。うちの職人たちが頑張って作ったもんを、買い叩かれるのは嫌だぞ」


 皇牙の言葉にコルベールは頷いた。しかし、張良はそこで別の紙を取り出した。


「とはいえ、相手の申し出にも理由がございます。新しい地域へ商品を運ぶには、荷車や護衛を手配し、売れるかどうか分からない土地まで運ぶ負担を負わなければなりません」


「……まあ、売れなかったら丸損だもんな」


「はい。ある程度の品物を確保できる見込みがなければ、商人も遠方の販路を開こうとは思わないでしょう。そこで、相手に利益を与えつつ、アストレアの自由も守る方法を考えたいのです」


 皇牙は思わず笑った。コルベールは国内の商業制度を守ることを考え、張良は相手との関係を保ちながら利益を得る方法を考えている。二人とも優秀だが、同じ問題を見ていても着目する場所が違うらしい。


「……なるほどな。どっちも間違ってねえってことか」


 張良は微笑んだ。


「大切なのは、どちらか一方の利益だけを見ないことでございます」


     ◇


 話し合いが進むにつれ、皇牙にも少しずつ問題の輪郭が見えてきた。


 今回の商人は、アストレアの産品を遠方へ売るために、安定した仕入れを望んでいる。一方、アストレアとしては生産者の利益を守り、ほかの商人も自由に取引できる市場を維持したい。


 どちらにも譲れない事情があるのなら、無理に一つの答えを押しつける必要はない。


「……なあ、張良。だったら、最初から全部任せるんじゃなくて、少しだけ試してみるのはどうだ?」


 皇牙が口を開くと、二人の視線が集まった。


「例えば、新しく作る商品の一部だけを、一定期間優先して買えるようにするとかさ。ちゃんと約束どおり買ってくれるか、遠くまで売れるのかを確かめてから、次の話をすればいいんじゃね?」


 コルベールはすぐには答えず、帳面へ視線を落とした。対して張良は、楽しそうに目を細める。


「なるほど。最初から大きな権利を与えるのではなく、限られた範囲で相手の働きを見極めるということでございますね」


「おう! それなら、もし失敗しても被害は小さく済むだろ。商人だって、ちゃんと売れたら次の取引を期待できるわけだし」


 皇牙は肩をすくめた。


「俺、商売のことはよく分かんねえけどさ。最初から全部預けるのは怖いじゃん。ゲームでも、初めて会った奴に貴重なアイテム全部渡したりしねえだろ?」


 巴が思わず笑ったが、張良は真剣な表情で頷いた。


「実績を確認してから権利を広げる。確かに、双方にとって受け入れやすい案でございます」


「ただし、優先的に買い付けられる数量と期間は明確にする必要があります。また、国内で必要な分まで対象に含めるべきではありません」


 コルベールが指摘すると、皇牙は即座に頷いた。


「そこは絶対だな! うちの住民が欲しいもんを買えなくなるのは困るし、今まで取引してくれた商人たちも大事にしたい」


 皇牙がそう言うと、コルベールの表情が和らいだ。


「承知いたしました。では、現在の生産量と国内需要を確認し、無理のない範囲で試験的な取引を提案できるか検討いたします」


「うん、それで頼む! 正式に決める前には、ちゃんと内容を見せてくれよ」


 張良は静かに頭を下げた。


「かしこまりました。相手の商人にも、まずは条件を相談するところから始めましょう」


 こうして、優先買い付け権についての方針が決まった。全面的な独占は認めず、必要なら数量と期間を限った取引を検討する。ただし、具体的な契約はまだ何も成立していない。


 皇牙は大きく息を吐き、椅子の背へ身体を預けた。


「……よし! これで会議終了だな!」


「皇牙様。もう一点だけ、ヴァルデン子爵領との交易についてご相談がございます」


「……まだあるのかよ!」


 皇牙の情けない声に、巴は笑いをこらえるのに苦労していた。


     ◇


 ヴァルデン子爵領へは、数日前に正式な書簡を持った使者を派遣している。相手からの返答はまだ届いておらず、交易交渉が実現するかどうかも決まっていない。それでも張良は、話し合いの機会が訪れたときに備え、アストレア側の希望を整理しておきたいと考えていた。


「今の段階で決めるべきことは、何を売りたいか、何を買いたいか。そして、どのような条件なら取引を続けられるかという点でございます」


 張良は机の上に交易品の候補を記した紙を広げた。そこには農産物や加工品、工芸品などが並んでいる。ただし、いずれも国内の需要と生産量を確かめてから取引する予定であり、今すぐ大量に輸出できるというわけではなかった。


「……まあ、売りすぎて自分たちの分がなくなったら困るもんな」


「そのとおりです。特に食料については、十分な余裕がなければ慎重に扱うべきでしょう」


 コルベールの説明に、皇牙は頷いた。


 アストレアには《国家創造EX》で作った立派な農地や工房がある。しかし、作物を育てるのも品物を製作するのも人間だ。建物があるからといって、商品が無限に湧いてくるわけではない。


「だったら、今ある分を無理に売るんじゃなくて、作れる量が増えてから少しずつ取引を広げりゃいいだろ。急いで国を大きくしたいわけじゃねえし」


 皇牙が何気なく言うと、張良は小さく微笑んだ。


「長く続く交易を築くためにも、無理のない発展が大切でございます」


「それとさ、向こうで売ってる珍しい食い物も調べてほしいんだけど」


 皇牙が付け加えると、コルベールが顔を上げた。


「食材でございますか?」


「おう! 変わった香辛料とか果物とか、そういうのがあったら買ってみたいんだよ。交易って、こっちが売るだけじゃなくて、向こうの商品も買えるんだろ?」


 その言葉を聞いた張良は、しばらく考えてから頷いた。


「承知いたしました。相手領の産品についても情報を集め、購入を検討できるよう準備いたします」


「よっしゃ! それなら交易が始まるのも楽しみだな!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。彼が真っ先に気にするのは、やはり美味しい食べ物である。しかし、その単純な好奇心が、新しい交易品を探すきっかけになることもあるのだ。


     ◇


 会議を終えて廊下へ出た頃には、昼を少し過ぎていた。


 皇牙は大きく背伸びをし、窓から城下町を見下ろした。市場には今日も商人たちの声が響き、荷車が石畳の道を行き交っている。建国したばかりの頃には想像もできなかった賑わいだった。


「……なあ、巴。俺、今日ちょっと頑張ったと思わねえ?」


「はい。殿がご自分のお考えをお示しになったことで、皆様も方針を決めやすくなったと思います」


「だろ! じゃあ、午後は休んでもいいよな!」


 あまりに迷いのない言い方に、巴は思わず笑った。


「ふふ。午後には、昨日お買い求めになった麦を使った試作料理ができるそうでございますよ」


「……マジで!?」


 皇牙の目が輝いた。昨日、市場で購入した珍しい麦は、行商人の故郷では肉や野菜と一緒に煮込んで食べるという。厨房の担当者へ少量を渡しておいたところ、さっそく試してくれたらしい。


「……最高じゃねえか! 会議を頑張ったご褒美だな!」


「殿。お料理のために会議へ出られたわけではございませんよ」


「いいんだよ! 結果的に美味いもんが食えるなら、全部いい方向に進んでるってことだろ!」


 皇牙は嬉しそうに笑い、巴とともに厨房へ向かった。


 アストレアの人口は六百七十六人。商人の優先買い付け権については、全面的な独占を認めず、必要に応じて数量と期間を限った取引を検討する方針となった。ヴァルデン子爵領との交渉準備も続いているが、相手からの正式な返答はまだ届いていない。


 国が発展するほど考えることは増えていく。それでも皇牙には、張良やコルベールをはじめ、自分よりずっと商売や政治に詳しい家臣たちがいた。


 彼らに仕事を任せ、自分は必要なときだけ判断する。それが理想のスローライフへ近づく一番の方法だと、皇牙は信じて疑わなかった。


 厨房から漂ってきた香ばしい匂いに、皇牙の腹が小さく鳴る。


「……よし! 午後は美味い飯を食って、昼寝して、完璧な一日にするぞ!」


 巴は笑いながら頷いた。


 もっとも、そんな主君の理想とは裏腹に、アストレアの仕事は明日もきっと増えていくのだろう。


 それでも皇牙は、今日のところは何も考えず、新しい料理を楽しむことにした。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。