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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第一章

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第1章 第12話 城の警備は一人だけ

 神城皇牙は、中庭に並んだ十人の顔を見渡しながら、ある重大な事実に気づいてしまった。


「……なあ、うちって警備できる奴、巴しかいなくね?」


 その言葉に、ガルドが手を止めた。今朝召喚された運搬人のドランと一緒に、集めた枝や草を仕分けていたところだった。


「今さら何言ってんだ? 最初からそうだろ」


「いや、そうなんだけどさ。改めて考えたら、結構まずくね?」


 皇牙は黒々とした城壁を見上げた。


 城を建ててから三日。最初は四人だった仲間も、無料ガチャのおかげで十人に増えた。料理人も狩人も商人もいるし、少しずつ役割分担もできるようになっている。


 しかし、魔物と正面から戦える専門家となると、話は別だった。


 巴は文句なしに強い。今朝から二度も灰牙狼を倒しており、皇牙が近くにいると固有スキル《忠義の武者》まで発動する。頼もしいことこの上ないが、一人で城と農地の両方を守れるわけではない。


「……巴が畑に行ったら、城の方は誰が見てるんだ?」


「今は、決まった者がおりませぬ」


 巴は静かに答えた。


「城門を閉じれば簡単には入られませぬが、周囲に何かが近づいても、必ず気づけるとは限りません」


「だよなあ。で、巴は昨夜、どのくらい寝た?」


 突然質問を変えられ、巴は少しだけ視線を逸らした。


「……何度か周囲を確かめておりましたので、まとめて眠った時間は短うございました」


「やっぱりか!」


 皇牙は思わず頭を抱えた。


 昨夜はようやく草の寝具で気持ちよく眠れたというのに、その間も巴は城の安全を気にしていたらしい。主君として頼りになるのは嬉しいが、それでは自分だけ快適に暮らしているようなものだ。


「駄目だろ、それ。巴だって寝なきゃ身体がもたねえぞ」


「ですが、殿や皆をお守りするのが私の務めにございます」


「だったら、その務めを楽にする方法を考えようぜ。俺だって面倒な仕事は嫌いだからな。他人にだけ無理させるのも違うだろ」


 皇牙が肩をすくめると、巴は一瞬驚いたような顔をしたあと、穏やかに微笑んだ。


「……承知いたしました。では、私からも意見を申し上げます」


「おう、頼む!」


 皇牙は早速、全員を中庭の一角へ集めた。


 マルクとロイは農作業と採集、リーナとミアは厨房や生活の仕事、ガルドとドランは材料の整理を担当している。エドガーは必要な物資や作業の順番をまとめ、今朝加わったカイルも周辺の状況を聞いていた。


「というわけで、城の警備について相談したい。まず言っとくけど、みんなに魔物と戦わせるつもりはねえからな」


 皇牙が最初に断ると、ガルドが安心したように笑った。


「そりゃ助かる。俺は職人だからな。魔物に殴りかかるなら、せめてちゃんとした武器を作ってからにしてくれ」


「いや、作っても突っ込むなよ」


 思わず突っ込むと、周囲から小さな笑い声が上がった。


 そんな中、カイルが静かに手を上げた。


「皇牙様。警備といっても、必ずしも戦う必要はありません。危険を早く発見し、皆に知らせるだけでも、被害は減らせます」


「……おっ。なるほど」


「狩りでも、獲物の痕跡を見つける者と、実際に仕留める者の役割は違います。今は戦う人数を増やすより、異変を知らせる方法を整える方が早いでしょう」


 皇牙は感心して頷いた。


 確かに、魔物が近づいていることさえ分かれば、農地で働いている者を逃がしたり、巴が迎え撃つ準備をしたりできる。少なくとも、突然襲われる危険は減らせるはずだ。


「それでしたら、外へ出る人の行き先も把握しておきたいですね」


 エドガーが話に加わった。


「誰がどこにいるのか分からなければ、警報が鳴っても全員の安全を確認できません。まずは外出するときに行き先と帰る予定を伝える、それだけでも違います」


「いいねえ。難しい仕事を増やさずに済むのが最高だ」


「ただし、伝える相手まで全員ばらばらでは困りますので、当面は私が確認することにいたしましょう」


「頼んだ、エドガー!」


 皇牙は即座に仕事を任せた。


 話し合いが一段落すると、一行は城門の上へ移動した。高い城壁からは荒野が広く見渡せるが、カイルと巴が場所を変えながら確かめると、いくつか死角が見つかった。


 特に北側の岩場は城壁の角度によって隠れる場所があり、灰牙狼ほどの大きさでも近づくまで見えない可能性がある。


「……なるほど。見た目は完璧な城だと思ってたけど、こういうところは考えてなかったな」


 皇牙は少しだけ反省した。


 もっとも、落ち込んでいる時間は短かった。問題が分かったなら、あとは《国家創造EX》で解決すればいい。


「よし! 見張り塔を増設しよう!」


 皇牙が建設画面を開くと、そこには黒い石材と金色の装飾で彩られた巨大な尖塔が六つも並んだ。


「……くくく。どうだ、この威圧感! まさに難攻不落の魔王城だろ!」


「殿。その塔には、何人の見張りを置くおつもりでございますか?」


「……え?」


 巴の質問に、皇牙は画面を見つめた。


 六つの塔。それぞれに一人ずつ配置するとしても六人必要だ。しかも、一日中見張るなら交代する人間も必要になる。


 今の人口は十人。しかも、そのほとんどが別の仕事を持っている。


「……あー、完全に見た目だけで作ろうとしてたわ」


「立派な建物でございますが、まずは必要な場所だけでよろしいかと」


 巴が微笑み、カイルも頷いた。


 結局、城門の上と北側の城壁に、小さな見張り塔を一つずつ増設することにした。カイルが確認した死角を減らせる高さに調整し、雨風を避けられる屋根と、周囲を見渡せる開口部を設ける。


 建設を実行すると、黄金色の光が城壁を包み込み、二つの塔が完成した。


「おおっ! これはこれで格好いいな!」


 皇牙は満足そうに笑った。


 黒い石造りの塔は城壁とよく馴染み、派手な装飾を減らしたことで、かえって要塞らしい雰囲気になっている。


 カイルは早速北側の塔へ登り、岩場を確認した。


「これなら、先ほど見えなかった場所まで確認できますね。ただ、遠くの岩陰まですべて見えるわけではありません」


「まあ、そこは仕方ねえな。見張り塔があれば何でも分かるってわけじゃないし」


 皇牙も素直に頷いた。


 次に考えたのは、異変を発見したときの連絡方法だった。


 城門には、開閉すると鳴る鐘がすでに取り付けられている。しかし、あれは門を動かしたときに鳴るだけで、城の外に魔物が現れても知らせてくれない。


「……だったら、見張り塔にも鐘を付ければいいんじゃね?」


 皇牙は塔の壁に固定する警報用の鐘を設計した。城門のものとは違う、低く大きな音が鳴る構造にする。固定式の打ち棒を操作すると音が響く、単純な仕組みだ。


「城門の鐘は一回。警報用は三回鳴らす。これなら分かりやすいだろ?」


「はい。ただ、本当に聞こえるか確認した方がよろしいでしょう」


 エドガーの提案に、皇牙はすぐ頷いた。


「よし、試してみよう!」


 皇牙はエドガーとリーナを城内へ戻し、マルクとロイには農地の近くで待機してもらった。二人の安全のため、巴も同行させる。皇牙自身は見張り塔に残り、全員が所定の位置へ着いたことを確認してから鐘を鳴らした。


 ゴォン、ゴォン、ゴォン。


 低く重い音が、荒野に響き渡った。


 城の中庭からエドガーが手を振った。厨房にいたリーナも、すぐに外へ出てくる。


「おっ、城の中は大丈夫そうだな!」


 皇牙は満足そうに頷いたが、問題は農地だった。


 しばらくして戻ってきたマルクは、少し考えながら報告した。


「聞こえはしましたが、風の音が強くなると分かりにくいかもしれません」


「……やっぱりか」


「それに、農作業をしているときは、鐘が鳴ったことに気づくのが遅れる可能性もございます」


 皇牙は腕を組んだ。


 城内にいる者へ知らせるだけなら、今の鐘でも十分だ。しかし、農地で働く者が自分たちから異変を知らせる方法も必要だった。


「……よし。だったら畑にも鐘を付けよう!」


 皇牙は農地の防護壁に、小さな警報用の鐘を追加した。城の鐘と同じ仕組みだが、農地にいる者がすぐ操作できる高さに設置する。


 ただし、鐘を鳴らすために危険な場所へ近づかなければならないのでは意味がない。そこで、畑の内側と出入口付近の二か所から操作できるよう、壁に沿った単純な連動機構を設けた。


「これなら、魔物が来ても門の方へ走らなくて済むだろ」


「ありがたいことでございます。ですが、鐘を鳴らすより逃げることを優先すべき場合もございます」


 巴の言葉に、皇牙は頷いた。


「もちろん。間に合わなそうなら鐘は放っておいて、まず城へ戻ってくれ」


 その後、農地の鐘も実際に鳴らしてみた。


 澄んだ高い音が響き、城門の上にいるカイルがすぐに反応する。中庭にいたドランにも聞こえたようで、大きく手を振っていた。


「おおっ、聞こえるじゃねえか!」


 皇牙は満足そうに笑った。


 ただし、建物の奥にいる者まで確実に届くとは限らない。そこで、農地の警報を聞いた見張り役は、城の鐘を三回鳴らして知らせ直すことにした。


 これなら、少なくとも誰かが異変に気づけば、城内へ知らせやすくなる。


「……よし、これで警報の仕組みは完成だな!」


 皇牙は上機嫌で胸を張った。


 しかし、エドガーはすぐに別の問題を指摘した。


「設備は整いましたが、肝心の見張り役がいなければ警報を鳴らせません。そこも決めておきましょう」


「……ああ、そうだった」


 皇牙は苦笑した。


 ここからは、今いる十人で何ができるかを考えることになった。


 カイルとロイは、採集や狩猟に出る際に周囲の足跡や魔物の痕跡を確認する。マルクは農地で作業している間、異変を見つけたらすぐ警報を鳴らす。


 城内では、ガルドとドランが中庭で作業する合間に城門付近を確認し、エドガーが外出者の行き先を把握する。リーナとミアは無理に見張りを担当せず、警報が鳴った際には城内の安全な場所へ移動する役割だ。


 もちろん、誰かを一日中見張り塔へ立たせるわけではない。


 午前と午後に短い時間だけ周囲を確認し、それ以外は各自の仕事を進める。見張り塔を使う者も、ほかの仕事に支障が出ない範囲で交代することになった。


「……まあ、完璧とは言えねえけど、今はこれが限界か」


「はい。常に誰かが見張ることはできませんが、以前より異変を発見しやすくなったと思います」


 エドガーは落ち着いた口調で答えた。


 皇牙も納得して頷いた。


 城を守るために食料確保が止まってしまっては本末転倒だ。今は少ない人数で無理なく続けられる方法を選ぶしかない。


「……で、夜はどうする?」


 皇牙が尋ねると、巴が答えた。


「夜間は城門を閉じ、全員が城内にいることを確認した上で休むのがよろしいでしょう。ただし、完全に安全とは言い切れませぬ」


「……だよな。魔物が壁を越えてきたら、鐘だけじゃ気づけねえもんな」


「はい。ですので、危険な気配があれば私が確認いたします。ただ、夜通し見張り続ける必要まではないかと存じます」


 皇牙は少し考えたあと、頷いた。


「じゃあ、夜は城門を閉じて、みんなちゃんと寝る。もし物音がしたら、無理に外へ出ずに俺か巴を呼ぶ。それでいこう」


「承知いたしました」


 巴が答えると、皇牙は改めて彼女へ向き直った。


「……あと、巴もちゃんと寝ろよ。朝まで起きて見張ってたら、昼間に動けなくなるだろ」


「お気遣い、ありがとうございます」


 巴は少し照れたように微笑んだ。


 皇牙はそんな彼女を見ながら、内心でほっとしていた。


 まだ警備の問題が完全に解決したわけではない。それでも、巴一人がすべてを背負う状況から、少しは前進できたはずだ。


 夕方になると、十人は中庭に集まり、警報の合図をもう一度確認した。


 城門の開閉鐘は通常の連絡。見張り塔と農地の鐘が三回鳴った場合は危険を知らせる合図。外にいる者は戦おうとせず、安全を確かめながら城へ戻る。城内にいる者は勝手に外へ出ず、皇牙か巴の指示を待つ。


 エドガーは全員が理解したことを確認し、翌日以降も同じ方法で運用することにした。


「……よし。これで今日の仕事は終わりだな!」


 皇牙が満足そうに伸びをすると、ガルドが呆れたように笑った。


「お前さん、まだ日が沈んでねえぞ」


「いいんだよ! 働きすぎは身体に悪いだろ! それに今日は朝から魔物騒ぎで大変だったんだからな!」


 皇牙が堂々と言い返すと、周囲から笑い声が上がった。


 巴も小さく微笑み、エドガーは明日の作業予定を確認している。マルクは農地の様子が気になるようだったが、今日はもう城の外へ出ず、翌朝に確認することにした。


 皇牙はそんな仲間たちを眺めながら、満足そうに頷いた。


 立派な城を造るだけでは、安心して暮らせる場所にはならない。人が増えれば仕事も増え、守らなければならない場所も増えていく。


 だが、それを一つずつ解決していくのも、案外悪くなかった。


「……まあ、俺はできるだけ楽したいんだけどな」


 皇牙は小さく呟いた。


 そのとき、ふと一つのスキルを思い出した。


《分身EX》。


 自分と同じ姿の分身を作れるという、あの妙な能力だ。


 まだ一度も試していないが、もし分身に雑用を任せられるなら、今よりさらに自由な時間が増えるかもしれない。


「……くくく。そういや、俺にはあのスキルがあったな」


 皇牙は悪そうな笑みを浮かべた。


 隣にいた巴が、不思議そうに首を傾げる。


「殿、何かお考えでございますか?」


「いや、ちょっと面白いことを思いついただけだ」


 皇牙は楽しそうに笑った。


 今日の無料ガチャはすでに三回引き終えている。次に引けるのは明日だが、その前に試してみたいことができてしまった。


「……よし。明日は分身でも作ってみるか!」


 皇牙は期待に胸を膨らませながら、夕暮れの城へ戻っていった。

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