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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第117話 隣国との交易交渉! 商人たちが集まる国にしたい

 異世界生活百三十九日目。


 城館の食堂で朝食を取っていた神城皇牙は、焼きたてのパンに蜂蜜を塗りながら、昨日届いた書状のことを考えていた。


 ヴァルデン子爵領から申し入れられた正式な交易協議。相手の領主がわざわざ国としての話し合いを求めてきたというのだから、アストレアもそれなりに注目される存在になったらしい。


 それ自体は喜ばしい。交易が盛んになれば珍しい食材も増えるし、街で暮らす人々の仕事も増える。問題は、それに伴って自分の仕事まで増えそうなことだった。


「……なあ、巴。俺、今日の会議って最初だけ顔を出せばいいよな?」


「張良殿は、まず殿のご意向を確認したいとおっしゃっておりました。あとの細かな準備は皆さんで進められるそうですよ」


「よっしゃ! さすが張良! 話が分かる!」


 皇牙が嬉しそうに拳を握ると、巴は呆れたように笑った。


 もっとも、昨日は分身まで呼び出して仕事を押しつけ合い、結局は余計に時間を使ってしまった。今日は最初から自分の役目だけを済ませる方がよさそうだ。


「その前に、今日の無料ガチャだな!」


 皇牙は食べかけのパンを置き、《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


【国家人口:637人】

【無料召喚:3/3回】

【SR以上排出率:5%】


 一回目に現れたのは、Nの荷役補助ペーター。二回目は青い光が広がり、Rの商業事務員セリアが召喚された。そして最後は、Nの陶器製作補助オットーだった。


「おっ、今日はRが来た! しかも商業事務員か。ちょうど交易の話をしてるところだし、頼もしいな!」


 皇牙は三人を歓迎し、生活案内の担当者へ引き継いだ。経験があるからといって、すぐに希望も聞かず仕事を決めるつもりはない。セリアについても、本人の希望を確認したうえで商業関係の部署へ紹介してもらうことにした。


【国家人口:640人】

【無料召喚:0/3回】


「六百四十人か。最初は俺を入れて四人だったのに、ずいぶん賑やかになったよな」


「はい。市場を歩いていても、知らないお顔が増えましたね」


 巴の言葉に、皇牙は少し誇らしくなった。立派な建物を造れることには慣れてきたが、そこに人が住み、働き、笑い合う光景を見るのは今でも嬉しい。


「よし。今日の仕事をさっさと終わらせて、その賑やかな市場で何か美味いものでも食うか!」


 そう宣言して、皇牙は席を立った。


     ◇


 会議室では、張良、コルベール、イブン・バットゥータの三人が、すでに交易記録を確認していた。


 机にはヴァルデン子爵領からの書状のほか、西門を利用した商隊の記録や、最近の市場の取引状況が並んでいる。


「おう、おはよう! で、俺は何を決めればいいんだ?」


 席に着くなり皇牙が尋ねると、張良は穏やかに微笑んだ。


「まず、正式な協議へ応じるかどうかです。先方は使節の派遣を希望しておりますが、具体的な条件はまだ提示しておりません」


「だったら、応じていいだろ。話すだけなら損はしないしな」


「承知いたしました。では、その方向で返答を整えます」


 張良が頷くと、コルベールが一枚の記録を差し出した。


「ただし、協議へ入る前に整理しておきたいことがございます。先方は商隊の通行と荷物の保管、それから計量方法について話し合いたいようです」


「ああ、計量か。蜂蜜の樽で揉めたことがあったよな」


 以前、同じ五樽という約束でも、商人によって樽の大きさが違っていたことがあった。双方に悪意はなく、計量所で確かめたことで解決したが、あの一件から皇牙も取引の決まりには多少興味を持つようになっていた。


「はい。共通の基準を設ければ、同じ行き違いを防ぎやすくなります」


 イブン・バットゥータが頷いた。


「ただ、相手にも長年使ってきた慣習があるでしょう。こちらの基準を押しつけるのではなく、双方で量を確認できる方法を考えるべきだと思います」


「なるほどな。じゃあ、そこは任せた!」


 皇牙が即答すると、コルベールは苦笑した。


「もう一つ、荷置き場についてもご相談があります」


「荷置き場? 西門にあるやつじゃ足りないのか?」


「普段は足りております。しかし、商隊が重なる日には、荷車の移動や荷物の整理に時間がかかることがございます」


 コルベールは西門周辺の見取り図を広げた。


「先方が希望しているのは、継続的に利用できる場所を設けることです。ただし、それをヴァルデンの商人専用にするかどうかまでは、まだ話し合われておりません」


「……専用ねえ」


 皇牙は図面を眺めた。


 土地なら余っている。建物を造るだけなら、一瞬だ。だが、わざわざ専用にする必要があるのだろうか。


「なあ、それって市場で商売してる連中はどう思うんだ?」


「そこは、まだ十分に確認できておりません」


 張良が答える。


 皇牙は少し考えたあと、椅子から立ち上がった。


「じゃあ、聞きに行こうぜ。実際に使う奴らに聞いた方が早いだろ!」


 三人は顔を見合わせ、やがて張良が微笑んだ。


「それがよろしいでしょう。では、私は返答の準備を進めますので、市場の確認はコルベールとイブン殿にお願いしましょう」


「おう! 俺もついてく!」


 せっかく街へ出るのだから、ついでに昼飯も探せる。


 皇牙はそんなことを考えながら、嬉しそうに会議室を出た。


     ◇


 西門の市場は、昼前から活気に満ちていた。


 荷車が石畳を軋ませながら進み、商人たちの威勢のよい声が通りに響いている。蜂蜜を売る露店の隣では焼き菓子が並び、別の店先には色とりどりの布が吊るされていた。


「……うおっ、あの菓子うまそう!」


「殿。まずはお話を伺ってからにいたしましょう」


 巴にたしなめられ、皇牙は名残惜しそうに菓子屋から視線を戻した。


 最初に話を聞いたのは、ヴァルデン方面から蜂蜜を運んでくる商人だった。


「荷物を置く場所、か。それは確かに助かりますな」


 商人は頷いた。


「最近は宿もできましたし、以前より長く滞在しやすくなりました。ただ、荷車を停める場所が混み合う日は、少々困ることもございます」


「じゃあ、あんたら専用の場所があれば便利か?」


「それはありがたいですが……」


 商人は少し考え、周囲の露店へ目を向けた。


「我々だけがよい場所を使うとなれば、ほかの商人の方々に申し訳ありませんな。この街は、初めて来た者でも商売がしやすいところが魅力ですから」


 皇牙は意外そうに目を瞬かせた。


 続いて地元の陶器商人に話を聞くと、今度は別の意見が返ってきた。


「場所が増えるのは大歓迎です。ただ、遠方の商人ばかり優先されるようになると、少し困りますね。うちも荷物が多い日がありますから」


「なるほどなあ……」


 同じ荷置き場の話でも、立場によって気になることは違うらしい。


 皇牙は腕を組み、市場を見渡した。


 商人同士が競い合うことは悪くない。むしろ、品物の種類が増えれば買い物も楽しくなる。だが、誰かだけが特別扱いされ、ほかの商人が入りにくくなるのは面白くなかった。


「……なあ、コルベール。専用にしなくても、みんなで使える場所を増やせばよくね?」


「それは可能です。ただし、荷物を取り違えないよう管理する仕組みが必要でしょう」


 コルベールが答えると、イブン・バットゥータも頷いた。


「商隊が到着する予定を知らせてもらえれば、混み合う日もある程度予測できます。利用者が増えてから調整する方法もあるでしょう」


「じゃあ、まずは共同で使える荷置き場を造って、様子を見ればいいんだな!」


 皇牙の顔が明るくなった。


 そのとき、すぐそばを通りかかった小柄な商人が、ふと足を止めた。


「あの……皇牙様。一つ、よろしいでしょうか」


「ん? どうした?」


「荷置き場が増えるのは助かりますが、利用料が高くなると、我々のような小さな商人には使えなくなってしまいます」


 皇牙は思わず口を閉じた。


 建物を無料で造れるからといって、運営まで無料になるわけではない。だが、必要以上に金を取れば、せっかくの施設が一部の商人しか使えない場所になってしまう。


「……分かった。そこも考えてもらうわ」


 皇牙は商人へ笑いかけた。


「教えてくれてありがとな。こういうの、使う人に聞かないと分かんねえからさ」


 商人は驚いたように目を丸くし、それから嬉しそうに頭を下げた。


     ◇


 昼食を挟んで城館へ戻ると、会議室には織田信長の姿もあった。


 張良に用があって立ち寄ったらしく、机に広げられた交易路の地図を興味深そうに眺めている。


「おう、信長! ちょうどいいところにいたな!」


「皇牙か。随分と機嫌がよいではないか」


「市場でうまい菓子を買ってきたからな!」


「……そなたは、本当に食い物が好きよな」


 信長が呆れたように笑う。


 皇牙は購入した菓子を机に置くと、市場で聞いた話を張良たちに伝えた。


 共同の荷置き場を増やすこと。特定の地域の商人だけを優先しないこと。そして、小さな商人でも利用しやすい料金にしたいこと。


 話を聞き終えたコルベールは、しばらく考え込んでいた。


「その方針であれば、まずは既存の荷置き場の利用状況を調べ、必要な広さと管理にかかる費用を見積もるのがよいでしょう」


「建物は俺が造れるから、そこは金かかんねえぞ!」


「はい。ただし、記録を取る者や荷物の整理をする者には、相応の報酬が必要です」


「それはもちろんだろ。働いてる奴にただ働きさせるのは嫌だしな」


 皇牙が当然のように答えると、コルベールは満足そうに頷いた。


 そこで信長が口を開いた。


「……なるほど。誰でも商いに参加できる市場を目指すか」


「おう! せっかくいろんな商人が来てくれるんだから、変に締め出したくねえんだよ」


「よい考えよ。ただし、商いを自由にすることと、何の決まりも設けぬことは違うぞ」


 信長は地図から顔を上げた。


「人が集まれば、必ず揉め事も起こる。だからこそ、誰もが納得できる決まりを整えるのだ」


「そこはコルベールたちに任せる!」


「……はっはっは! 迷いのない男よ!」


 信長は豪快に笑った。


 張良も穏やかな表情で頷く。


「では、まず共同利用を基本とする案をまとめましょう。ヴァルデン側へは、使節の方々と具体的な条件を協議したいと返答いたします」


「おう、それで頼む!」


 皇牙は満足そうに笑った。


 この国の交易をどう発展させるかは、専門家に任せた方がいい。ただ、誰かが不当に困るような国にはしたくない。


 その方針だけは、自分ではっきり決めておきたかった。


     ◇


 午後、皇牙はコルベールとフェリクスを連れ、西門の外側にある空き地へ向かった。


 新しい荷置き場の候補地を確認するためだった。


 土地は十分にあるものの、荷車が出入りしやすいことや、既存の街道を塞がないことが重要になる。フェリクスが現場の動線を確認し、コルベールが利用者数の見込みを説明した。


「……なるほど。だったら、ここを少し広くしておけばよさそうだな」


 皇牙は地面へ視線を落とした。


 さっそく建物を造ろうとしたが、そこで一度手を止めた。


「……あ、待てよ。まだ管理の仕方が決まってねえんだよな?」


「はい。運用に必要な広さは、もう少し確認したいところです」


 コルベールが答える。


「じゃあ、今日は場所だけ決めとくか。あとで『入口が狭い』とか言われて造り直すのも面倒だし!」


 皇牙は笑った。


 以前なら、とりあえず立派な建物を造って満足していただろう。しかし、使う人々の仕事が決まっていなければ、建物だけあっても仕方がない。


「……よし。図面ができたら呼んでくれ。格好いい荷置き場を造ってやる!」


「荷置き場ですので、格好よさはほどほどでお願いいたします」


 コルベールの冷静な返答に、皇牙は不満そうに口を尖らせた。


「えーっ! せっかく造るなら、ちょっとくらい格好よくしたいじゃん!」


 巴が声を上げて笑う。


「ふふ。殿でしたら、きっと荷置き場にも立派な門を付けたくなってしまいますね」


「……悪いかよ!」


 三人の笑い声が、西門の外に広がる空き地へ響いた。


     ◇


 夕方、張良たちはヴァルデン子爵領へ返す書状をまとめていた。


 正式な協議には応じること。交易量の増加を歓迎すること。荷置き場や計量方法については、双方の商人が利用しやすい仕組みを目指して話し合いたいこと。


 具体的な条件は、使節が到着してから協議する方針である。


「……よし。それでいいんじゃねえか!」


 皇牙が頷くと、張良は微笑んだ。


「承知いたしました。では、この内容で返答の手配を進めます」


「おう、頼んだ!」


 皇牙は大きく伸びをした。


 朝から会議と市場の視察に付き合い、荷置き場の候補地まで見てきた。普段の自分なら途中で飽きていたかもしれないが、今日は意外と面白かった。


 市場で商人たちの話を聞いたことも、張良やコルベールの意見を知れたことも、無駄ではなかったと思う。


 窓の外では、夕暮れに染まる街道を数台の荷車が進んでいる。


 かつては商人が一人通りかかるだけでも珍しかった荒野に、今では市場ができ、宿が建ち、隣国の領主から交易の申し入れが届くようになった。


「……すげえなあ。俺、ただ楽したかっただけなんだけど」


 思わず漏れた言葉に、隣の巴が微笑んだ。


「ですが、殿のおかげで、皆さんが安心して暮らせる場所ができました」


「……まあ、建物を造ったのは俺だけど、街を動かしてるのはみんなだろ」


 皇牙は照れくさそうに笑った。


「だから、これからも頼りにさせてもらうさ。俺一人じゃ、絶対こんなことできねえし」


 巴は少しだけ目を細め、柔らかく頷いた。


「はい。これからも、皆でこの国を支えてまいりましょう」


 皇牙は窓の外に目を向けた。


 交易が増えれば、今まで見たこともない品物が届くかもしれない。新しい料理が食べられるかもしれないし、遠い土地の文化を知る機会も増えるだろう。


 歴史好きの自分にとって、それは少しばかり胸が躍る未来だった。


「……よし! 交易がもっと盛んになったら、世界中の美味いものを集めようぜ!」


「ふふ。それは楽しみでございますね」


「だろ!? それで、うまい飯を食って、昼寝して……最高の生活じゃねえか!」


 皇牙は満面の笑みを浮かべた。


 アストレアの人口は六百四十人。


 まだ小さな国ではあるが、その街道には今日も商人たちが行き交っている。


 皇牙の望む悠々自適な暮らしは、少しずつ形になり始めていた。

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