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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第115話 天下人の初仕事! 西門で起きた予想外の騒動

 異世界生活百三十七日目。


 城館の廊下を歩いていた神城皇牙は、中庭から聞こえてきた声に足を止めた。


「そなたが門を離れたら、誰が残る?」


「はっ! もう一人の門番が対応いたします!」


「では、その者も別の用事で呼ばれたらどうする?」


「……それは」


「考えたことがないなら、今考えよ。間違えても構わぬ。黙っていては何も分からん」


 窓から覗くと、織田信長が数人の警備担当者を前に腕を組んでいた。その傍らには山本勘助がおり、地図を広げている。


 皇牙は思わず笑った。


「……あいつ、朝から全開だな」


「殿。お目覚めでしたか」


 背後から巴が声をかけてきた。すでに身支度を整え、いつものように腰には刀を帯びている。


「信長は昨日から警備のことが気になっていたみたいだな」


「はい。ただ、今朝は皆さんのお話を聞くことが中心のようです。信長殿ご自身も、まだこの街のことを知らないとおっしゃっておりました」


「へえ。意外と慎重なんだな」


 信長といえば、大胆な改革を行う天下人という印象が強い。だが、昨日の模擬軍略でも、むやみに兵を動かすことはなかった。


 皇牙は少し考えたあと、ぽんと手を打った。


「ま、とりあえずガチャだな! 仕事はそのあと!」


「ふふ。殿らしいですね」


 皇牙は《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


【国家人口:631人】

【無料召喚:3/3回】

【SR以上排出率:5%】


 一回目はNの薪管理補助エルマー。二回目はNの清掃補助マリーネ。そして三回目、青い光の中からRの馬車整備職人アルノルトが現れた。


「おっ、Rだ! しかも馬車の整備か。最近は商隊も増えてるし、ちょうどいいじゃん!」


 皇牙は三人を歓迎し、生活案内の担当者へ引き継いだ。アルノルトには、本人が希望すれば荷車や馬車を扱う工房を紹介するよう伝える。


【国家人口:634人】

【無料召喚:0/3回】


「よし、今日も三人増えた!」


 皇牙は満足そうに画面を閉じた。昨日のEX織田信長という大当たりには及ばないが、こうして国に必要な人材が増えていくのも悪くない。


 問題は、その優秀な信長が早速仕事を始めていることだった。


「……なあ、巴。俺は顔だけ出して帰ってもいいと思う?」


「信長殿にお聞きになってみてはいかがでしょう」


「それ、絶対帰してもらえないやつだろ!」


     ◇


 朝食を済ませて中庭へ向かうと、信長はすでに聞き取りを終えていた。


 机には西門周辺の地図が置かれ、門の配置や街道の様子が細かく書き込まれている。警備を担当する者たちに加え、物流管理のフェリクスも参加していた。


「おう、信長! どうだ、うちの警備は?」


「皇牙か。まだ何とも言えぬ」


「……えっ?」


「話を聞いただけで良し悪しを決められるものか。実際に動くところを見る必要がある」


 信長はそう言って地図を指した。


「荷車が門の前で故障したとする。そのとき誰が通行を止め、誰が荷車を動かし、誰が周囲の安全を確かめるのか。聞けば皆それぞれ答えられる。だが、同じことが同時に起きた場合まで考えておる者は少ない」


「……なるほど」


 皇牙が地図を覗き込むと、フェリクスが口を開いた。


「通常は私どもの担当者が荷車の通行を整理しております。ただ、混雑した際には門番の方にも手伝っていただくことがあります」


「それ自体は悪くない」


 信長は頷いた。


「助け合うのはよいことだ。だが、助けに行った結果、守るべき場所が空いては本末転倒であろう」


 そこへナポレオンがやって来た。昨夜、信長から今日の視察について話を聞いていたらしい。


「実地で確認するのか。私も加わろう」


「構わぬ。ただし、今日は戦の指揮を競う日ではないぞ」


「分かっている。昨日の続きがしたいわけではないさ」


 ナポレオンが笑うと、信長も口元を吊り上げた。


 皇牙は二人を見比べ、ひそかに感動していた。


 織田信長とナポレオンが、わずか六百人ほどの国の門番について真剣に話している。歴史好きの自分にとっては、それだけで信じられない光景だ。


「……俺、この国造って本当によかったわ」


「感心しておられるところ悪いが、そなたも来い」


「……やっぱり?」


     ◇


 西門は、朝から商人や荷車で賑わっていた。


 数か月前までは荒野に立つ小さな拠点でしかなかった場所も、今では旅人が立ち寄り、商人が品物を運び込む街になっている。


 門の近くには西門の宿が建ち、その隣の荷車置き場には数台の馬車が停められていた。


「……結構、人が増えたなあ」


 皇牙が呟くと、フェリクスが頷いた。


「はい。特にヴァルデン方面からの商隊が増えております。まだ大きな混雑はありませんが、荷車が重なる時間帯も出てきました」


「なるほどな」


 信長は門の周囲をゆっくりと歩き、警備担当者の立ち位置や、荷車が通る道を確かめた。


 そして、一人の門番へ声をかける。


「そなた、荷車が通路で動けなくなれば、どうする?」


「はい! 近くの者と協力し、通路から移動させます!」


「そのとき、門の確認は?」


「……別の者が行います」


「誰がその別の者に命じる?」


 門番は答えに詰まった。


 信長は責めるでもなく頷いた。


「分からぬことが分かった。それでよい」


 その言葉に、門番は少しだけ表情を和らげた。


「今日の訓練で確かめよう。実際に困る前に気づけたのなら、それだけでも意味がある」


 皇牙は思わず信長を見た。


 もっと厳しく叱るのかと思っていたが、信長は違った。現場を知らない自分が一方的に正解を押しつけるのではなく、何が足りないのかを一緒に確かめようとしている。


 その姿に、皇牙は少しだけ感心した。


     ◇


 訓練は昼過ぎ、商隊の往来が落ち着いてから始まった。


 使うのは門の脇にある広場で、実際の通行を妨げない場所だ。訓練用の荷車には空箱を積み、参加者全員に事前に内容を伝えている。


 信長は警備担当者たちを集め、簡単に説明した。


「今回は、荷車が通路を塞いだ場合を想定する。誰が何をするかは、そなたらで考えよ。わしはまず見ておる」


「……えっ、信長が指示するんじゃねえの?」


 皇牙が小声で尋ねると、信長は鼻を鳴らした。


「わしが答えをすべて教えて、何が分かる?」


「……ああ、なるほど!」


 皇牙は納得した。


 ナポレオンも頷く。


「指揮官がその場にいない場合でも動けるか。それを確かめるわけだな」


「うむ」


 合図とともに、訓練用の荷車が通路の中央で停まった。


「荷車が故障したぞ!」


 係の声が響く。


 警備担当者の一人が駆け寄り、別の者が通行を止める。フェリクスの部下も荷車へ向かい、車輪の状態を確認し始めた。


 最初の動きは悪くなかった。


 しかし、荷車を動かそうとする者が増えるにつれ、門の入口を見ている者が一人だけになってしまった。


 信長は腕を組んだまま、その様子を眺めている。


「……今、入口が手薄だな」


 皇牙が呟くと、ナポレオンが頷いた。


「そのとおりだ。目の前の問題に人が集まりすぎている」


 山本勘助は地図と実際の通路を見比べていた。


「それだけではありませんな。荷車の反対側へ人を通す案内も必要です。皆が同じ場所へ集まれば、かえって危険でしょう」


 やがて訓練が終わると、信長は担当者たちを集めた。


「どうであった?」


 最初に口を開いたのは、荷車へ駆け寄った門番だった。


「……自分たちが荷車を気にしすぎて、入口の確認が手薄になっておりました」


「うむ。それに気づけたなら十分よ」


 信長は満足そうに頷いた。


「では、次はどうする?」


 門番は少し考え、顔を上げた。


「荷車の対応は物流担当者に任せ、警備担当は門を離れないようにします。ただし、人が危険な場合には救助を優先します」


「よい。だが、その判断を誰がするかも決めておけ」


 ナポレオンが続ける。


「指揮する者が明確なら、動きも速くなる。全員が同じ命令を待つ必要もなくなる」


 フェリクスは頷き、担当者たちと役割分担を確認し始めた。


 皇牙はそれを眺めながら、満足そうに笑った。


「……いいじゃん。なんか、ちゃんと改善できそうだな!」


     ◇


 訓練が一段落した頃だった。


 広場の外から、突然、乾いた木の割れる音が響いた。


「……ん?」


 皇牙が振り返る。


 門の近くを通っていた小さな荷車が、石畳の継ぎ目に車輪を取られていた。車軸が傾き、積まれた木箱が大きく揺れている。


 荷車を引いていた少年が、慌てて取っ手を押さえようとした。


「危ない!」


 巴が真っ先に駆け出した。


 少年の腕をつかみ、荷車から離れさせる。ほぼ同時に、木箱が一つ滑り落ちた。


 だが、その先には、買い物帰りの女性が立っていた。


「……っ!」


 皇牙は迷わなかった。


「《風魔法》!」


 突風が木箱を下から受け止め、落下の勢いを殺す。箱は地面へ叩きつけられることなく、ゆっくりと石畳の上へ下ろされた。


 周囲から安堵の声が上がる。


「……ふう。危ねえ危ねえ」


 皇牙は息を吐いた。


 巴は少年の身体を支えながら、怪我がないか確かめている。


「大丈夫ですか? どこか痛むところはありませんか?」


「だ、大丈夫です……!」


 少年は青ざめていたが、怪我はなさそうだった。


 皇牙も近づき、肩を軽く叩いた。


「よかったな。でも、危ないときは荷物なんか放って逃げろよ。物はまた作れるけど、怪我したら大変だからな」


「……はい。ありがとうございます!」


 少年は何度も頭を下げた。


 その様子を見ていた信長が、静かに口を開いた。


「……なるほど。そなたが、あの女武者を信頼する理由が分かった」


「ん?」


「迷いなく人を救いに走った。見事な働きよ」


 信長の視線を受け、巴は少し照れくさそうに一礼した。


「恐れ入ります。ですが、殿が魔法で荷物を止めてくださらなければ、別の方が危険でした」


「いや、巴が最初に動いてくれたから、俺もすぐ気づけたんだよ」


 皇牙は笑った。


 信長は二人のやり取りを眺め、愉快そうに口元を吊り上げた。


「……ふむ。よい主従よな」


     ◇


 騒ぎが収まったあと、フェリクスは手押し車の状態を確認していた。


 車軸に傷みがあり、石畳の継ぎ目に引っかかった衝撃で大きく傾いたらしい。幸い、壊れた荷車以外に被害はなかった。


「……これ、道の方も直した方がいいかな?」


 皇牙が尋ねると、山本勘助は周囲を見回した。


「石畳の継ぎ目は、通常なら問題ない程度でしょう。ただ、小さな車輪の荷車には引っかかりやすい場所があるようです」


「なるほどな」


 皇牙はしゃがみ込み、継ぎ目を確かめた。


 自分が《国家創造EX》で整備した道は頑丈だが、すべての荷車に都合のよい形になっているとは限らない。


「……よし。ここは少し直しておくか」


 皇牙は周囲に人がいないことを確かめ、石畳の一部を魔法で滑らかな形へ整えた。


 わずかな時間で、車輪が引っかかりにくい通路が完成する。


「これでどうだ?」


 フェリクスが小さな手押し車を通し、問題なく動くことを確かめた。


「ありがとうございます、皇牙様。ほかにも同じような場所がないか、確認いたします」


「おう、頼んだ!」


 皇牙は満足そうに頷いた。


 そこで信長が、ふと口を開いた。


「皇牙。そなたの力は、まことに便利よな」


「だろ?」


「だが、すべての道をそなたが歩いて確かめるわけにはいくまい」


「……そりゃそうだな」


「ならば、気づいた者が報告できる仕組みを作れ。そなたは必要なところを直せばよい」


 皇牙は一瞬考え、それから笑った。


「……それ、めちゃくちゃ俺向きじゃねえか!」


 ナポレオンも頷いた。


「現場の者が問題を見つけ、報告し、担当者が対処する。軍でも街でも、基本は同じだな」


 信長は満足そうに笑った。


「そういうことよ」


     ◇


 夕方、警備担当者たちと物流担当者は、西門の詰所で今日の訓練を振り返っていた。


 信長は最初から最後まで話を聞き、必要なところだけ口を挟んでいる。


 門の安全確認を優先する者、通行を整理する者、荷車の故障に対応する者。基本的な役割を明確にし、混雑時には誰が全体を見て判断するのかを決めることになった。


 さらに、今日の事故を受けて、通路や荷車の状態を定期的に確かめることも話し合われた。


 皇牙はその様子を眺めながら、少しだけ感心していた。


 信長がすべてを決めてしまうのかと思っていたが、実際には現場の人々が自分たちで改善策を考えている。


 それを信長やナポレオンたちが支えているのだ。


「……なあ、信長」


「何だ?」


「お前、最初から全部決めるんじゃないんだな」


 信長は片眉を上げた。


「わしがこの街のことを、誰よりも知っておるわけではないからな」


「……へえ」


「知らぬことは聞く。試せることは試す。そのうえで必要なら変える。それだけよ」


 信長は笑った。


「そなたは人に仕事を任せるのが得意であろう? ならば、わしも使える者は使うまでだ」


「……なんか、その言い方すげえ信長っぽい!」


 皇牙が笑うと、信長は呆れたように鼻を鳴らした。


     ◇


 日が沈み始めた頃、皇牙は城館の自室で椅子にもたれていた。


 結局、今日も昼寝はできなかった。


 だが、思っていた以上に面白い一日だった。信長が現場で何を見て、どのように人を動かすのかを知ることができたし、巴の見事な働きも見られた。


「……はあ。やっぱ偉人ってすげえな」


 皇牙は満足そうに呟いた。


 そのとき、扉が叩かれた。


「殿。少々よろしいでしょうか」


 巴の声だった。


「おう、どうした?」


 扉を開けると、巴は小さな包みを持って立っていた。


「先ほど、荷車を引いていた少年のお母様が、お礼にと焼き菓子を届けてくださいました」


「……えっ、マジで?」


 皇牙が包みを開くと、素朴な焼き菓子がいくつか入っていた。


 まだ温かく、甘い香りが漂ってくる。


「……おおっ! めちゃくちゃうまそう!」


 皇牙は一つ手に取り、口へ運んだ。


 外はさくっとしていて、中はほんのり甘い。豪華な料理ではないが、不思議と心が温かくなる味だった。


「……うまっ!」


 皇牙は思わず笑った。


「巴も食べろよ! 今日はお前が一番頑張ってたんだからさ!」


「ありがとうございます、殿」


 巴は嬉しそうに微笑み、菓子を一つ受け取った。


 皇牙は窓の外へ目を向けた。


 城下町には夕暮れの灯りがともり、遠くから人々の声が聞こえてくる。


 自分が造った国で、人々が暮らし、働き、笑っている。


 その光景を見るたびに、最初は自分が楽をするためだけに始めた建国が、少しずつ違う意味を持ち始めているように感じられた。


「……なあ、巴」


「はい、殿」


「俺、やっぱこの国造ってよかったわ」


 巴は柔らかく微笑んだ。


「私も、殿のお側にいられて幸せです」


 皇牙は少しだけ照れくさくなり、慌てて残りの菓子へ手を伸ばした。


「……よし! 明日こそ昼寝するぞ!」


「ふふ。明日はどのような一日になるのでしょうね」


 皇牙は笑った。


 アストレアの人口は六百三十四人。


 新たに加わった天下人は、着実にこの小さな国へ変化をもたらし始めていた。


 だが、皇牙の理想とするスローライフは、まだ少し先になりそうだった。

お読みいただきありがとうございます。

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