第3章 第114話 天下人VS皇帝! 歴史の英雄たちによる軍略勝負
異世界生活百三十六日目。
「……なあ、巴。俺、今からすげえ楽しみなんだけど!」
朝食の席で、神城皇牙は落ち着きなく椅子に座っていた。
昨日、排出率〇・〇一パーセントのEX織田信長を召喚した興奮が、まだ冷めていないのである。
「ふふ。今日は信長殿と、ほかの皆さんの顔合わせがございますからね」
「そう! 信長とナポレオンが同じ部屋にいるんだぞ!? しかも関羽や勘助までいる! 歴史好きからしたら夢のような光景だろ!」
皇牙は拳を握った。
昨日のうちに信長は張良やコルベールと話し、国の商業制度について興味を示していた。しかし、軍事を担当する偉人たちとは、まだ本格的に顔を合わせていない。
今日はその機会を設けることになっている。
「……よし! 早く行こうぜ!」
「殿。まずは日課の無料ガチャをお忘れなく」
「……あっ!」
皇牙は慌てて《英霊召喚ガチャEX》を開いた。
【国家人口:628人】
【無料召喚:3/3回】
【SR以上排出率:5%】
「昨日はEXだったし、今日は普通にNNNかなあ」
そう言いながら引いた一回目は、Nの調理補助ベルタ。二回目はNの道路保守補助ヨーゼフ。そして三回目もNで、農具整備補助のルドルフが召喚された。
「……よし! 予想どおり!」
皇牙は苦笑しながらも、三人を歓迎して生活案内の担当者へ引き継いだ。
【国家人口:631人】
【無料召喚:0/3回】
「今日も三人増えたし、あとは偉人たちの顔合わせだな!」
皇牙は嬉しそうに立ち上がった。
◇
城館の中庭には、朝から歴史上の英雄たちが集まっていた。
ナポレオン、関羽、山本勘助、ラムセス二世。そして昨日召喚された織田信長。
それぞれの時代で名を残した人物たちが、アストレアの小さな中庭で顔を合わせている。
皇牙はその光景を眺め、思わず笑みをこぼした。
「……やっべえ。歴史の教科書がそのまま動いてるみたいだ」
最初に口を開いたのはナポレオンだった。
「君が織田信長か。遠い東方の国で、天下統一を目指した人物だと聞いている」
「いかにも。そなたがナポレオンよな。皇帝の名を持つ男と聞いておる」
信長は相手の顔を見つめ、不敵に笑った。
「ほう。なかなかよい目をしておる」
「君もな。軍を率いた者同士、話は合いそうだ」
二人は互いに値踏みするような視線を交わした。
続いて関羽が歩み寄る。
「関羽雲長と申す。織田殿の名は、皇牙殿より伺っている」
「関雲長か。そなたの武名も聞いておる。いずれ、戦場での兵の扱い方について語り合いたいものよ」
「望むところだ」
関羽は静かに頷いた。
山本勘助も一礼し、ラムセス二世が穏やかに挨拶を交わす。
皇牙はその様子を眺めながら、興奮を抑えきれなかった。
「……なあ、せっかくだし、みんなで軍略勝負とかしてみねえ?」
その一言に、全員の視線が集まった。
「軍略勝負?」
信長が片眉を上げる。
「そう! 実際に兵を動かすんじゃなくて、盤の上で作戦を考えるんだ! 歴史ゲームみたいな感じでさ!」
ナポレオンの目が輝いた。
「面白い。地形と兵力を決め、互いに作戦を競うわけだな」
「そういうこと!」
「ならば、条件を決めねばなるまい」
信長が口元を吊り上げた。
「兵数、地形、補給。何も決めずに戦っても、勝負にはならぬからな」
「……あっ、確かに!」
皇牙は思わず頭をかいた。
さすが本物の軍略家たちだ。ゲーム感覚で始めようとした自分とは、考えることが違う。
◇
広い会議室へ移動すると、皇牙は《国家創造EX》で簡単な演習用の盤を作った。
そこへ山本勘助が地形を描き込み、川や丘陵、森、街道などを配置していく。
「今回は、こちらの地形を使いましょう」
勘助が示したのは、中央に小さな川が流れ、両側に丘陵地帯が広がる土地だった。
川には橋が二つあり、北側には森、南側には開けた平地がある。
「両軍とも兵力は五千。歩兵三千、騎兵千、弓兵千としましょう。補給は後方の拠点から行い、食料は十日分。勝利条件は、相手の本陣を占領することです」
「おおっ! めちゃくちゃ本格的じゃん!」
皇牙は目を輝かせた。
関羽が盤面を覗き込む。
「騎兵は平地で力を発揮するが、森や川を越えるには時間がかかる。橋の位置が重要になるな」
「うむ。ならば、橋を押さえる側が有利であろう」
ラムセス二世も頷いた。
「補給路も考える必要がある。橋が塞がれれば、食料の運搬にも影響する」
その言葉に、皇牙は感心した。
「……なるほど。戦争って、ただ兵をぶつければいいわけじゃないんだな」
「当然だ。兵が飢えれば、どれほど強くとも戦えぬ」
関羽が静かに答えた。
こうして条件が整い、信長とナポレオンによる模擬軍略が始まった。
◇
先に動いたのはナポレオンだった。
彼は中央の橋へ歩兵を進める一方、騎兵を南側の平地へ集めた。
「中央で敵の注意を引き、南から機動力を活かして攻める。単純だが、速度があれば効果的だ」
ナポレオンはそう言いながら、騎兵を表す木片を動かした。
信長は盤面を眺め、口元を吊り上げる。
「……ほう。ならば、わしは北の森へ兵を置こう」
信長は歩兵の一部を森へ移し、弓兵を丘の陰に配置した。
さらに、中央の橋を守る兵を少し後退させる。
「……ん? 信長、橋を守らなくていいのか?」
皇牙が首を傾げる。
「橋を渡らせるためよ」
信長は不敵に笑った。
「敵が橋を越え、こちらの土地へ踏み込んだところを狙う」
「なるほど。誘い込むわけか」
関羽が頷いた。
ナポレオンはその配置を見つめ、しばらく考えた。
「……君は、私が中央へ兵を進めると思っているようだな」
「さて、どうであろうな」
信長は笑うだけだった。
ナポレオンは騎兵の一部を南から北へ移し、中央の歩兵を少し後退させた。
「ならば、こちらも無理に橋を渡る必要はない。南側の平地から回り込み、補給路を脅かす」
「……ほう」
信長の目が鋭くなる。
皇牙は二人の木片の動きを追いながら、思わず身を乗り出していた。
「うおおっ! これ、めちゃくちゃ面白いじゃん!」
◇
勝負が進むにつれ、二人の考え方の違いがはっきりしてきた。
ナポレオンは兵力を集中させ、短い時間で有利な場所を奪おうとする。一方の信長は、相手の動きを見ながら有利な地形へ誘導し、戦う場所そのものを選ぼうとしていた。
だが、互いに相手の狙いを理解しているため、簡単には決定的な一手が生まれない。
「……なるほど。君は、こちらが焦れて動くのを待っているわけか」
ナポレオンが笑った。
「そなたこそ、わしの兵を動かして隙を作ろうとしておるな」
信長も笑い返す。
そのとき、山本勘助が静かに口を開いた。
「お二人とも、少々よろしいでしょうか」
勘助は盤面の北側にある森を指した。
「この森は道が狭く、騎兵がまとまって進むには向きません。ここを通る場合、速度はかなり落ちるでしょう」
「なるほど。ならば、北へ回す騎兵は少数にとどめるべきだな」
ナポレオンが頷く。
関羽も口を開いた。
「兵の疲労も考えねばなるまい。騎兵が長く動けば、馬も疲れる。無理に進めば、肝心なときに力を発揮できぬ」
「確かに。机上では忘れがちな部分だ」
ナポレオンは素直に認めた。
ラムセス二世は後方の補給拠点へ視線を向けた。
「この位置では、南へ兵を進めるほど補給路が長くなる。長期戦になれば不利になろう」
信長はそれを聞き、ゆっくりと頷いた。
「……つまり、どちらも急ぎすぎれば足元をすくわれるということか」
「そういうことだ」
ナポレオンも笑った。
皇牙はその光景を見ながら、心の中で歓声を上げていた。
歴史上の英雄たちが、互いの考えをぶつけ合いながら一つの戦場を作り上げている。
前世の自分がどれほど望んでも、決して見られなかった光景だった。
◇
やがて勝負は、両軍が互いの弱点を突こうとする緊迫した状況になった。
ナポレオンは南側から騎兵を進め、信長の補給路を脅かす。一方、信長は北の森に潜ませた歩兵を動かし、ナポレオンの中央部隊の側面を狙った。
どちらも相手の本陣へ迫る可能性があるが、決定的な勝利には至らない。
そこで皇牙が口を開いた。
「……なあ、これって、どっちが勝ってるんだ?」
信長とナポレオンは顔を見合わせた。
やがて、ナポレオンが肩をすくめる。
「現時点では、どちらとも言えないな。実際の戦場なら、天候や兵の士気、指揮官の判断によって結果が変わるだろう」
「わしも同じ考えよ。盤の上では読み切れぬことも多い」
信長が頷いた。
「だが、そなたの軍の動かし方は面白い。速さを活かし、敵が整う前に勝負を決めるか」
「君の誘い方も見事だった。こちらが不用意に踏み込めば、危うかっただろう」
二人は互いを見つめ、楽しそうに笑った。
皇牙は満足そうに拳を握った。
「……最高だな! これ、またやろうぜ!」
「次は地形を変えても面白かろう」
信長が笑う。
「山岳地帯や城攻めなら、また違う結果になるはずだ」
「いいねえ! 俺、城攻めのマップとか作りたい!」
皇牙の目が輝いた。
巴が隣で微笑む。
「殿。今度は私も参加してよろしいでしょうか」
「もちろん! 巴なら、主君を守る側の作戦とか得意そうだしな!」
「はい。少人数で護衛する場合の動きについてなら、お役に立てると思います」
皇牙は嬉しそうに頷いた。
◇
夕方、英雄たちは城館の庭園で談笑していた。
信長とナポレオンは先ほどの模擬軍略について語り合い、関羽と山本勘助もそれぞれの経験をもとに意見を交わしている。
ラムセス二世は、軍を動かすためには街道や補給拠点の整備も重要だと話していた。
皇牙は少し離れた場所からその光景を眺め、満足そうに笑った。
「……いやあ、こういうのを見ると、もっと偉人を召喚したくなるなあ」
隣にいた巴が微笑む。
「ふふ。殿の夢が、また一つ広がりましたね」
「だろ? しかも、みんな仲よくやってくれそうだし!」
もっとも、実際には互いの意見が違うこともあるだろう。
信長もナポレオンも、自分の考えに自信を持っている。関羽や山本勘助も、それぞれの経験から譲れない部分があるはずだ。
だが、それでいいと皇牙は思った。
全員が同じ考えなら、そもそも多くの偉人を召喚する意味がない。
「……ま、難しいことはみんなで話し合って決めてくれればいいさ。俺は必要なときに手伝うだけで十分だ!」
皇牙が笑うと、巴も楽しそうに頷いた。
アストレアの人口は六百三十一人。
小さな国に集まった英雄たちは、それぞれの知識と経験を持ち寄り、新しい未来を描き始めていた。
そして、その中心にいる皇牙は、明日こそ昼寝をするつもりでいるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークや評価をいただけると励みになります。
よろしくお願いいたします。




