第3章 第108話 人口五百人記念の有料十連プロット伝説のファラオ降臨!
異世界生活百一日目。
朝食の席で、神城皇牙は昨日の定期市で買った蜂蜜をパンに塗りながら、ある重大な決意を固めていた。
「……よし。決めたぞ」
「殿。どうかなさいましたか?」
向かいに座る巴が顔を上げる。
「人口五百人突破記念に、有料十連ガチャを引く!」
巴は少し考えてから、蜂蜜の瓶を皇牙の方へ押し戻した。
「その前に、クラリス殿へお金の確認をなさってくださいね」
「分かってるって! 今回はちゃんと個人の金から出すつもりだ!」
「それでしたら、私から申し上げることはありません」
「……なんか、最初から俺が無駄遣いすると思ってない?」
巴は答えず、にっこりと微笑んだ。
昨日、アストレアの人口は五百人を突破した。最初の四人から始まった国がここまで成長したのだから、記念の一回くらい派手に祝っても罰は当たらないだろう。
もっとも、有料十連には金貨千枚が必要だ。国の運営資金に手を付けるわけにはいかない。
皇牙は食事を終えると、早速クラリスのもとへ向かった。
◇
「……確かに、皇牙様個人の使用可能な資金から支出できます」
クラリスは帳簿を確かめ、金貨千枚を支出しても公的な予算へ影響しないことを説明した。
「よっしゃ! これで心置きなく引けるぜ!」
「ただし、今回の支出は記念の特別なものとして記録しておきます。次に引かれる際も、必ず残高をご確認ください」
「了解! いやあ、こういうときにちゃんと確認してくれる人がいると助かるな!」
皇牙が素直に礼を言うと、クラリスは少し意外そうな顔をした。
「……皇牙様も、以前より慎重になられましたね」 胸を張る皇牙に、隣の巴が吹き出した。
城館の広間へ戻ると、皇牙は《英霊召喚ガチャEX》を開いた。記念の十連を引く前に、まず今日の無料分を済ませるつもりだった。
【国家人口:501人】
【無料召喚:3/3回】
【SR以上排出率:5%】
「さあ、今日の運勢はどうかな!」
一回目はNの食器洗浄補助ルーカス。二回目はNの穀物運搬補助マルティン。そして三回目には青い光が広がり、宿泊施設の運営を得意とするRローレンが現れた。
「おっ、宿屋関係か! 商人も増えてるし、いい人材だな!」
三人には案内役を付け、生活と仕事について説明してもらうことにした。
【国家人口:504人】
【無料召喚:0/3回】
いよいよ本番だ。
皇牙は大きく息を吸い込み、有料十連の画面を開いた。
【有料十連召喚】
【必要金貨:1,000枚】
【SR以上1人確定】
「……頼むぞ。俺の記念すべき千枚!」
実行を選んだ瞬間、十個の召喚陣が広間に浮かび上がった。
最初に現れたのはNの清掃補助ミーナ。続いてNの荷物仕分け補助オスヴァルト。三人目はRの染色職人クラウスだった。
四人目はNの厨房補助エリーゼ、五人目はRの馬具整備士ベルトルト。
「おおっ! Rが二人か。なかなかいいぞ!」
皇牙が拳を握った、そのときだった。
六つ目の召喚陣が、ほかとは違う鮮やかな銀色に輝いた。
【SR フローレンス・ナイチンゲール】
【適性:医療・衛生・看護教育】
「……ナイチンゲール!?」
皇牙は目を丸くした。
光の中から姿を現した女性は、落ち着いた表情で周囲を見渡し、皇牙へ視線を向けた。
「あなたが、この国を治めている方ですね」
「お、おう! 神城皇牙だ! よろしく頼む!」
「フローレンス・ナイチンゲールと申します。私にできる仕事があるのでしたら、まず医療と衛生の状況を知りたいのですが」
「召喚されたばっかりなのに、もう仕事の話!?」
「病人は、私の都合に合わせて待ってはくれませんから」
あまりに真っ当な答えに、皇牙は言葉を失った。
巴が口元を押さえ、小さく笑っている。
「……よし。医療担当の人たちを紹介するから、まずは話を聞いてくれ!」
「ありがとうございます」
ナイチンゲールは丁寧に一礼した。
皇牙がその頼もしさに感心している間にも、召喚は続く。
七人目はNの織物補助ルイーザ。八人目はRの石材加工職人ゲオルク。そして九人目はNの倉庫補助ニコラスだった。
「これで九人……ってことは、最後か!」
確定枠のSRはすでに出ている。皇牙は満足していたが、最後の召喚陣を見た瞬間、その表情が固まった。
陣の中心から、まばゆい金色の光が噴き上がったのである。
「……は?」
金色の光が天井へ伸び、床に幾何学模様を描き出す。
「お、おいおい! これ、まさか……!」
ゆっくりと現れたのは、金の装飾をまとった威厳ある男性だった。堂々とした姿勢で広間を見渡すその人物には、長く人々の上に立ってきた者だけが持つ風格があった。
【UR ラムセス2世】
【適性:統率・軍略・外交・都市建設】
「うおおおおおっ! URだああああっ!」
皇牙の絶叫が城館に響き渡った。
「しかもラムセス二世! 古代エジプトのファラオじゃねえか! なんだこの神引き!」
巴も驚いた表情で新たな人物を見つめている。
ラムセスは目の前で騒ぐ皇牙へ視線を向け、ゆっくりと口を開いた。
「……そなたが、我を召喚した者か」
「そうだ! 神城皇牙! この国を造った男だ!」
「ほう。これほどの建物を築いたというのか」
ラムセスは柱や天井の装飾を見上げた。
「悪くない。だが、これほどの宮殿を築くには、相応の年月と人手を要したであろう」
「いや、それがさ。俺の魔法なら一瞬で造れるんだよ!」
「……一瞬?」
ラムセスの眼差しが鋭くなった。
「それは、まことか?」
「本当だって! あとで見せてやるよ!」
皇牙が笑うと、ラムセスも興味深そうに口元を緩めた。
「ならば、その力をこの目で確かめたいものだ」
皇牙は嬉しそうに頷いた。
歴史上でも壮大な建造物を残したファラオと、自分の趣味に全力で城を造る男。二人の会話は、早くも建築の話へ向かい始めていた。
◇
召喚された十人を迎え入れたあと、皇牙は《国家管理EX》で人口を確かめた。
【国家人口:514人】
【SR以上排出率:5%】
無料召喚で三人、有料十連で十人。人数は計算どおりだった。
「……いやあ、五百人突破記念って最高だな!」
皇牙が満足そうに笑っていると、ラムセスが再び声をかけた。
「コウガよ。そなたは、この国をどこまで広げるつもりなのだ?」
「えっ? 別に世界征服とかする気はねえぞ。俺は美味いもん食って、好きな建物造って、のんびり暮らしたいだけだし」
「……国を治める者が、のんびり暮らしたいと?」
ラムセスは不思議そうに眉を上げた。
「そう! だから優秀な人材を集めて、仕事を任せるんだよ!」
皇牙が堂々と答えると、ナイチンゲールは静かに口を開いた。
「任せること自体は悪くありません。ただし、任された者が十分に働ける環境を整えることも必要でしょう」
「うっ……いきなり正論が飛んできた!」
「まずは医療に関わる施設と人員を確認させてください。それから改善案を考えます」
「分かった! そこは専門家として頼むぜ!」
皇牙が答えると、ナイチンゲールは満足そうに頷いた。
ラムセスはそのやり取りを眺めながら、楽しそうに笑った。
「なるほど。そなたは変わった統治者だな」
「だろ? 自分でもそう思う!」
◇
午後、城館の会議室では、ナポレオン、関羽、山本勘助、張良、コルベールらが、新たな偉人たちを迎えていた。
とりわけラムセスに対しては、ナポレオンが強い興味を示した。
「古代エジプトの王か。あなたほど長く国を治めた人物と話せるとは、実に面白い」
「そなたも軍を率いた者だな。立ち姿で分かる」
二人の視線が交わる。
そこには敵意ではなく、互いの力量を確かめようとする武人の好奇心があった。
関羽は静かに頷き、山本勘助も興味深そうにラムセスの言葉へ耳を傾けていた。
皇牙はその光景を眺め、ふと思いついた。
「……なあ、みんな。将来、この国がもっと大きくなったらさ。首都以外の街を、それぞれに任せるのもよくねえか?」
コルベールが顔を上げる。
「首都以外の街、ですか?」
「そう! 例えばナポレオンやラムセス、関羽や勘助みたいな奴らに、地方の領主をやってもらうんだよ!」
皇牙は机に広げられた地図を指した。
「俺は首都にいて、みんながそれぞれの街を発展させてくれれば楽できるだろ?」
いかにも皇牙らしい理由だったが、その考えには一理あった。
張良が穏やかに口を開く。
「将来、複数の都市を統治するようになれば、地方の責任者は必要になるでしょうね。ただし、それぞれが独立してしまわない仕組みも考えなければなりません」
「領主へ任せる権限と、中央で決めることを分ける必要がありますな」
コルベールも頷いた。
ナポレオンは腕を組み、地図を見下ろした。
「地方の防衛と行政を任せるなら、能力に応じて配置するのがよいだろう。だが、今すぐ領地を分ける必要はない」
「現在の人口では、街をいくつにも分けるほどの人手がありませんからな」
山本勘助の言葉に、皇牙は苦笑した。
「そりゃそうか。まだ五百人ちょっとだもんな!」
ラムセスは黙って話を聞いていたが、やがて静かに頷いた。
「国が広がれば、遠い土地まで一人の王が目を届かせることは難しくなる。任せるべき者に任せ、責任を明確にするのは賢明であろう」
「おおっ! やっぱ分かってくれるか!」
「だが、コウガよ。国を治める者には、最後に決断する責任が残る」
「……そこは逃げられねえってことか」
「当然であろう」
ラムセスが堂々と答えると、皇牙は大げさに肩を落とした。
「くそっ! 楽するための計画なのに、最後は仕事が残るのかよ!」
会議室に笑い声が広がった。
◇
その後、ナイチンゲールは医療担当者たちの案内で、街の施設を見て回った。
治療に使う部屋はあるものの、患者の休養場所や清潔な水の確保、寝具の管理など、改善できる部分は少なくなかった。
「建物があるだけでは、医療は成り立ちませんね」
彼女は静かに呟いた。
「必要なのは、清潔な環境と、適切に働ける人員です」
案内役が頷くと、ナイチンゲールは小さな帳面を取り出し、気づいた点を書き留め始めた。
一方、ラムセスは皇牙に案内され、城館の外へ出ていた。
「……なるほど。これが、そなたの造った街か」
「どうだ? なかなかいいだろ!」
ラムセスは城壁や道路を眺め、興味深そうに頷く。
「確かに見事だ。だが、さらに大きな都市を目指すなら、人の流れと建物の配置を考えなければならぬ」
「おおっ! そういう話、大好きだぜ!」
皇牙は目を輝かせた。
「じゃあさ、将来ラムセスが領主になったら、どんな街を造りたい?」
ラムセスはしばらく考え、堂々と答えた。
「人々が豊かに暮らし、訪れる者がその威容に驚くような都市だ」
「いいねえ! 俺もそういうの好き!」
二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
だが、その直後、背後からコルベールの声が聞こえた。
「皇牙様。まだ新しい都市を建設する段階ではございませんよ」
「……分かってるって!」
皇牙は慌てて振り返った。
ラムセスはその様子を見て、声を上げて笑った。
◇
夕方、皇牙は巴とともに城館の庭園で休んでいた。
「……いやあ、今日はすごい日だったな!」
「はい。ナイチンゲール殿もラムセス殿も、頼もしい方々ですね」
「だろ! しかも、十連でSRとURが同時に出るとか、最高すぎる!」
皇牙は嬉しそうに笑った。
新しい偉人が加わり、アストレアの未来はさらに広がった。
医療や衛生を整えるナイチンゲール。軍事や統治、都市建設に詳しいラムセス。そして、すでに国を支えている数多くの仲間たち。
いつか国が大きくなり、首都以外にも街が生まれたなら、彼らに領主として地方を任せることもできるだろう。
「……まあ、そのためには、もっと人を増やさないとな」
「はい。焦らず、一つずつ進めてまいりましょう」
巴が微笑むと、皇牙も頷いた。
「よし! 明日は久しぶりに何もしない日にするか!」
「殿。宿泊施設についてのご相談も届いておりますが」
「……えっ?」
皇牙は固まった。
そして、しばらくして大きなため息をつく。
「……やっぱ、スローライフへの道は遠いなあ!」
巴の楽しそうな笑い声が、夕暮れの庭園に響いた。
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