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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第105話 張良の外交術! 子爵家との新たな約束と皇牙の市場祭り

 異世界生活九十五日目。


 アストレアの城館では、ヴァルデン子爵家との正式な外交協議が続いていた。


 会議室の長机には、古い境界を示す二枚の地図と、双方が持ち寄った提案書が並んでいる。窓の外からは市場の賑わいが微かに聞こえていたが、室内の空気はそれとは対照的に張り詰めていた。


「……通行を認めるという点では、双方の意見は一致しておりますな」


 子爵家の外交官オスカー・ベルナーは、書面を読みながら口を開いた。


「しかし、この『緊急時にはアストレア側の判断で通行を停止できる』という部分は、少々気になります」


 向かいに座るナポレオンが顔を上げた。


「魔物の襲撃や橋の破損が起きた場合、いちいち子爵家の許可を待ってはいられん。現場の責任者に判断を任せるのは当然だろう」


「それは理解できます。しかし、緊急時という言葉の範囲が曖昧です。例えば、単に商隊が増えて混雑しただけでも、通行を止められるのでしょうか?」


 オスカーの指摘はもっともだった。


 アストレアが安全を理由に好きなだけ通行を制限できるなら、子爵家の商人にとっては不安が残る。反対に、すべての制限に相手の承認が必要なら、実際に危険が迫った際の対応が遅れてしまう。


 ナポレオンは腕を組み、しばらく考えた。


「……通常の混雑は、交通整理で対処すべきだな。通行そのものを止める理由にはならん」


「では、その違いを明文化していただきたい」


 オスカーがそう求めると、張良が静かに口を開いた。


「緊急の通行停止を認めるのは、人命や施設に差し迫った危険がある場合に限ってはいかがでしょう。魔物の襲撃、橋の損傷、火災などです」


 張良は机上の書面へ指を添えた。


「さらに、危険が収まれば速やかに通行を再開する。停止した理由と期間は、後から相手方へ知らせることにしましょう」


「……なるほど」


 オスカーの表情が少し和らいだ。


 ナポレオンも頷いた。


「よい落としどころだ。現場の判断を妨げず、恣意的な通行妨害も防げる」


 ただし、話はそれだけでは終わらなかった。


「もう一点ございます」


 オスカーは別の項目を示した。


「給水設備の利用についてですが、我が方の商隊だけに追加の負担を求められることは避けたいのです」


 コルベールは静かに頷いた。


「こちらも、子爵領の商人を特別に不利な条件で扱うつもりはございません。ただ、設備の維持には費用がかかります」


「であれば、どちらがどれだけ利用したかを確認する必要がありますな」


 張良はその言葉を受け、提案書の余白へ短い文を書き加えた。


「まずは既存の給水設備を使い、商隊ごとの利用状況を記録するのです。一定期間の結果を確認してから、今後の維持費について協議する。それまでは、現在の一般利用者と同じ扱いにするのはいかがでしょう」


 オスカーは内容を読み返し、やがて頷いた。


「それなら、我が方も受け入れられます」


 双方の書記が修正した文面を書き写す。張良はその様子を見ながら、穏やかに息を吐いた。


 相手の要求を退けるだけなら簡単だ。しかし、それでは次の争いの種を残すことになる。互いの不安を一つずつ取り除くことこそ、長く続く関係を築く近道だった。


     ◇


 最後に残ったのは、市街地への課税と住民の扱いだった。


 オスカーは慎重な表情で口を開いた。


「この問題については、子爵家が持つと主張してきた権利にも関わります。私の判断だけで、その権利を放棄することはできません」


「放棄していただく必要はありません」


 コルベールが答えた。


「六十五日目に取り決めた現状維持の約束は、現在も有効です。今回新たに決めたいのは、その約束を前提とした商隊の通行と給水の運用です」


 オスカーは少し驚いたように顔を上げた。


「……では、従来の取り決めを新しい協定へ置き換えるわけではないのですな」


「はい。領有権の判断は、共同調査の記録をさらに確認してから協議いたします」


 張良は二枚の文書を机に並べた。


 一枚は、現在の状態を変えないための既存の取り決め。もう一枚は、商人や旅人が安全に行き来するための新しい運用案だった。


「前者は争いを広げないための約束。後者は、争いが残っていても人々の生活を前へ進めるための約束です」


 その説明に、オスカーは深く頷いた。


「……なるほど。目的が異なるのですな」


 ナポレオンは完成間近の文書を手に取った。


「では、今日決められることは決めてしまおう。商隊が連絡する窓口、通行記録の交換方法、給水設備の利用記録だ。これらは、双方の実務担当者で確認できる範囲だろう」


「ええ。その程度であれば、私にも調整を任されております」


 オスカーが答える。


 双方はその場で、連絡窓口と記録方法について実務上の取り決めをまとめた。アストレア側は西門の管理担当者を窓口とし、子爵家側は商隊を取りまとめる担当者が連絡を受ける。


 通行人数や荷車の台数、給水設備の利用状況は、それぞれの管理記録に残すことになった。


 これは領有権を確定する条約ではない。正式な暫定協定も、子爵の承認を待つ必要がある。


 それでも、両者が協力して実際の運用を始めるための、最初の約束が成立したのである。


「……これなら、帰ってから子爵へ具体的な成果を報告できます」


 オスカーは満足そうに微笑んだ。


 張良とナポレオンも、静かに頷いた。


     ◇


 そのころ、皇牙は巴とともに市場の広場を歩いていた。


 香ばしい焼き菓子の匂いが漂い、通りには野菜や果物、職人の手作り道具が並んでいる。西門の整備が進んだおかげで、以前より荷車の出入りも円滑になり、商人たちの表情にも余裕が生まれていた。


「……いやあ、やっぱ市場っていいよな!」


 皇牙は焼きたての菓子を買い、嬉しそうに頬張った。


「殿。お昼を召し上がったばかりではありませんか?」


「甘いものは別腹だって! 巴も食うか?」


 差し出された菓子を見て、巴は少し迷ったあと、小さく一口食べた。


「……美味しいですね」


「だろ! こういうのがもっと増えたら最高なんだけどな!」


 皇牙が周囲を見回していると、広場の端で店主同士が話している声が聞こえてきた。


 先日の食事会をまた開いてほしいという客が多いらしい。しかし、大きな食事会を毎回準備するのは難しく、食材や人手の確保にも限界があるという。


「……だったら、店ごとに好きな料理を出せばいいんじゃねえか?」


 皇牙は思わず呟いた。


 すべての料理を主催者が用意するのではなく、参加する店がそれぞれ商品を持ち寄る。食べたい人は好きなものを買い、職人も自分の品を並べる。


 前世の祭りや屋台を思い出した皇牙は、ぱっと顔を明るくした。


「……おおっ! それだ!」


「殿?」


「市場の祭りだよ! 広場に屋台を並べて、みんなで好きなものを売るんだ!」


 巴は驚いた顔をしたあと、楽しそうに微笑んだ。


「それなら、商人の皆さんも参加できそうですね」


「そうだろ! しかも、子爵領から来る商人も出店できたら、もっと賑やかになるじゃねえか!」


 皇牙は興奮した様子で広場を見渡した。


 ただ、出店者を無制限に増やせば、人が通れなくなるかもしれない。食べ物を扱うなら衛生にも注意が必要だ。


「……まあ、その辺はセシリアに相談だな!」


 皇牙がそう言って笑うと、巴は少し呆れたように肩をすくめた。


「殿。せめて、どんな催しにしたいのかはお伝えくださいね」


「もちろん! 俺だって、食べたい料理の種類くらいは考えるぞ!」


「ふふ。そこなのですね」


 二人は笑いながら、城館へ戻ることにした。


     ◇


 午後、セシリアは皇牙の話を聞き、興味深そうに頷いていた。


「……なるほど。大規模な食事会ではなく、商人や職人が参加する小さな定期市ですね」


「そうそう! 毎回こっちで全部用意しなくていいし、店の人たちも商売できるだろ?」


 皇牙は満面の笑みで答えた。


 セシリアは広場の見取り図を広げ、出店できそうな場所を確認した。


「開催するなら、最初は小規模にした方がよいと思います。出店者の募集や会場の管理に加え、食品を扱う場合は衛生面も確認する必要がありますので」


「そこは任せる! 俺は会場を造るくらいなら喜んでやるぞ!」


 その言葉に、巴が口を開いた。


「でしたら、会場の通路は広めに確保した方がよろしいかと。人が集まる場所では、万が一の際に安全に避難できることも大切です」


 セシリアは頷き、図面へ印を付けた。


「ありがとうございます。警備担当の方にも相談してみます」


 皇牙は二人のやり取りを眺め、満足そうに笑った。


 自分が思いついたことを、周囲の者たちが現実的な計画へ変えていく。


 それこそ皇牙が望んでいた国の姿だった。


「……よし! あとはよろしく頼んだぜ!」


「はい。まずは市場の店主の皆さんへ相談してみます」


 セシリアが頭を下げると、皇牙は嬉しそうに頷いた。


     ◇


 夕方、外交協議は終了した。


 双方の代表者は、商隊の通行と給水設備の利用について、正式な暫定協定の草案を完成させた。


 また、連絡窓口や記録方法については、実務担当者同士で運用を始めることが確認された。


 オスカーは書面を丁寧にまとめ、コルベールへ頭を下げた。


「本日はありがとうございました。正式な協定については、子爵の承認を得たうえで回答いたします」


「承知いたしました。よい返答をお待ちしております」


 会議室を出たオスカーは、廊下の窓からアストレアの街並みを見下ろした。


 石畳の道を商人たちが行き交い、遠くには西門の待機場所が見える。


 その光景を眺めていると、これからの子爵領にとって、アストレアとの交易が重要になることを実感させられた。


 オスカーは静かに呟いた。


「……争うより、協力した方が得られるものは大きいのかもしれませんな」


     ◇


 翌朝、異世界生活九十六日目。


 皇牙はいつもの広間で無料ガチャを引いていた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:486人】

【SR以上排出率:5%】


「今日は料理人でも商人でもいいぞ! とにかく面白い奴、来い!」


 一回目の召喚陣から現れたのは、庭園管理補助のNオットー。二回目は、調理器具の整備を得意とするNレナだった。


 そして三回目。


 召喚陣が青く輝き、明るい表情の女性が姿を現した。


【R エミリア】

【適性:商業催事・出店管理】


「……おおっ!」


 皇牙は思わず画面を二度見した。


「出店管理!? 昨日ちょうど市場の祭りをやろうって話してたんだよ!」


 エミリアは驚きながらも、丁寧に頭を下げた。


「エミリアと申します。商業催事の運営や、出店者の調整を得意としております」


「最高じゃねえか! セシリアって奴がいるから、そいつと一緒に祭りの準備をしてくれ!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。


 その日のうちにエミリアは生活案内を受け、市場の状況を確認することになった。会場全体の運営をセシリア、出店者の募集や配置をエミリアが担当する方向で相談を始める。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:489人】

【SR以上排出率:5%】


「四百八十九人! あと十一人で五百人か!」


 皇牙は満足そうに頷いた。


 そのころ、オスカーは暫定協定の草案を携え、アストレアの西門から出発していた。


 馬車が門を抜ける際、オスカーは新しく整備された待機場所へ視線を向けた。


 荷車は指定された場所に並び、門番と管理担当者が順番に通行を案内している。以前より混雑が減っただけでなく、商隊の記録も整理され始めていた。


 オスカーは、その光景をしばらく眺めていた。


「……なるほど。机の上の取り決めだけではないということですか」


 実際に街を動かす仕組みが、少しずつ整えられている。


 それは、子爵家が協力相手としてアストレアを評価するうえで、無視できない変化だった。


 馬車が街道を進み始めると、オスカーは膝の上に置いた書類へ目を落とした。


 正式な協定には、まだアルブレヒト子爵の承認が必要だ。


 しかし、今回の協議で交わした小さな約束は、すでに実務の中で動き始めていた。


 そしてアストレアでは、皇牙の何気ない思いつきから、街に新しい賑わいを生み出す計画が動き始めようとしていた。

お読みいただきありがとうございます。

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