第三話 消えた教室
講義室は、悪夢のような光景へと一変した。
悲鳴と、軋む梁の音、倒れる椅子の音が入り混じる。田中教授が立ち上がり、窓から離れろと叫んだが、その声は指示の途中で裏返った。
後方では、試験資料の配布を手伝いに来ていた若い助手の青木が、一年生二人の腕を掴み、唯一安全だと教わったはずの出入り口へと引きずっていた。
だがドアは言うことを聞かなかった。田中が半分まで開けていたが、何かに引っかかっている——倒れた椅子が枠に斜めに挟まり、三十センチ以上は開こうとしない。
青木は片膝をついてそれを引き剥がそうとしていたが、背後には人が押し寄せ、隙間は一人ずつしか通れない狭さだった。人の波は、隙間が捌ける速さより早く積み重なっていく。
ミズキの椅子は、揺れ始めたことに気づく前に、揺れを止めていた。代わりに彼女が気づいたのは、三席先で微動だにしないヤガミの姿だった。
教室の他の全員が、何らかの形で立ち上がり、パニックに陥っていた。
彼は揺れの間もずっと座ったまま、手を机の上に力なく置いていた。表情には、この教室の状況が届いている様子すらなかった。
その顔の中の何かが、この教室にそぐわない静けさで固まっていた——自分だけの最悪の予感が、たった今証明された者の顔だった。
決断が終わるより先に、体が動いていた。距離を詰め、彼の手首を掴む。
「ヤガミ! これ何! 何が起きてるの!?」
自分の声が、ひび割れて出た。五分前にシンジを黙らせたはずの落ち着きは、跡形もなくなっていた。
彼は彼女の顔より先に、手首を掴む手を見た。急ぐでもなく振りほどき、もう彼女の向こうへ視線を移していた。
「知るわけないだろ」
平坦だった。驚きすら通り越し、次の悪い知らせがもう知らせとして機能しなくなった場所まで、摩耗しきっていた。
彼女はドアの方へ視線を投げた——まだ詰まっていて、人だかりはほとんど進んでいない——本音では、あちらに行きたくて仕方なかった。それでもその場に留まった。彼の首がわずかに傾く。彼女がまだ気づいていない何かを、その静けさの中に捉えたようだった。
「まさか」
言いかけて止まる。続けるべきか、迷っているようだった。「まさか、誰かが召喚されてるとか。誰も読んでるって認めない、あの手の話みたいに」
「頭おかしくなったの」
彼の腕を掴み、急いて引っ張る。「今すぐ動かないと——」
彼はその場から動かなかった。引っ張られていることすら、ほとんど意識にないようだった。
「まだ笑うところじゃない」
それでも口の端が動いた。「あと少し待て」
そのとき、彼女は光を見た——手首の布地の下から、かすかな明るさが滲み出ている。ちょうど、彼女の手がまだ触れている場所だった。
何を見ているのか理解するより先に、冷たさが襲ってきた。掌に走る鋭い冷気に、反射的に手を引っ込める。代わりに視線を落とした。擦り切れた綿の下で、かすかな線が光っていた——偶然にしては、あまりに対称的だった。手の甲に、紋様がゆっくりと広がっていく。
「あなたの腕——」
思ったより小さな声しか出なかった。「そんな——これは——」
彼はそれをただ眺めていた。好奇心らしきものはあったが、まるで誰か他人の反応を借りているようで、自分自身のものには見えなかった。
「来たか」
静かにそう言った。
呼吸が変わっていた。短く、浅く。今その顔に浮かんでいるものは、恐怖よりも「やはり」に近かった。これが何であれ、彼はずっと前から予期していたのではないか——あの静けさは、ずっと理由を待っていただけだったのではないか。彼女の中で、そんな考えがよぎった。
「ずっと」
ほとんど独り言だった。「自分が壊れてるだけだと思ってた」
短い笑いが漏れた。薄く、息の抜けたような笑いだった。
「ただ、早かっただけみたいだ」
手のひらの付け根を目に押し当てた。色が見えるほど強く。効果はなかった。もう一度、今度は長く——さっきまではなかった刺々しさが、そこに混じり始めていた。
「ヤガミ、怖いんだけど——」
「上等だ」
手を下ろす。紋様は明るさを増し、指の関節の上で淡い緑色に光っていた。「怖がっとけ」
背後のドアは、相変わらず三十センチほどしか開いていない。青木は椅子を引き剥がすのを諦め、代わりに一人ずつ隙間から生徒を押し出していた。田中はまだ人数を数えようとしていたが、数え切れていない。他の全員の目はドアに向いていた。彼を見ているのは、彼女だけだった。
「答えて」
ミズキの声から、いつもの精密さが完全に失われていた。「それって——あれのこと?」
彼はすぐには言葉で答えなかった。ただ紋様の浮いた手を持ち上げ、線が一度、二度と脈打つのを見せた。人間の脈拍とは違うリズムだった。
また笑いが戻ってきたが、今度は先に顎に力が入った——何かをこらえる半秒があって、それから崩れた。押さえ込んでいたものが、そこで解けた。
「お前はいつも——」
喉が動く。もう一度、今度は低く。「お前はいつも答えを持ってた。だろ。どんな試験も。どんな問題も」
彼女は動かなかった。
「何にでも規則がある」
その後に続いたものは、もう笑い声には聞こえなかった。「引用の準備はいつも万全だ。だろ?」
「ヤガミ——」
「じゃあ」
思ったより荒い声が出た。途中で言葉が詰まる。「これに答えてみろ」
何も出てこなかった。口は開いたが、そのまま空だった。
「引用なし」
一音ずつ、わざと引き延ばすように言った。「前例もなし——縋るものが何もない」荒い息。「お前の人生で初めて、何も知らない」
一拍の間。彼の肩が落ちた。
「ようこそ、どん底へ」
今度は静かに、刺々しさは消えていた。「俺はずっとここに住んでた」
「全部だ」
さらに静かに、それは彼女にではなく——教室の誰にでもなく、誰にも聞こえなかった問いに答えるように言った。「そういう取引なんだろ。いいさ。全部くれてやる」
彼女には、その意味がわからなかった。それでも、その言葉はずっと後——彼がなぜそう言ったのか理解するよりもずっと後まで、記憶に残り続けることになる。
そして揺れが止まった。一斉に、まるで建物の下で何かのスイッチが切られたかのように。
耳鳴りのような静寂。荒い息遣いと、後方の壁際で誰かが静かに啜り泣く声だけが、それを破っていた。
天井から光が溢れ出す。淡い金色で、影を持たない光が、触れるものすべての輪郭を溶かしていく。
埃と紙の匂いが、もっと鋭い何かに取って代わられていく。その下には、ここにあるはずのない甘さが潜んでいた。
一瞬、誰も動かなかった。それから、まだ半分ドアの方を向いていた田中が、言葉にならない低い声を喉から漏らした。
彼の両手が、光り始めていた。
最初はかすかに——ヤガミの腕の紋様と同じ、緑がかった金色が、指先から関節を伝い、手首まで這い上がっていく。まるで何かが彼をも所有すると決めたかのようだった。田中は手をひっくり返し、指を曲げ伸ばしして、まだ自分の意思に従うかどうかを確かめていた。
「教授——」
青木が言いかけて、止まった。同じ光が彼女にも届いていた。ドアの枠を掴んだままの手から、光が糸のように這い上がってくる。
それは一箇所に留まらなかった。学生が次々と——ドアの近くで倒れた椅子を乗り越えようとしていた者も、突き倒されてようやく立ち上がったばかりの少年も——光に見つかっていく。蔦が絡みつく場所を見つけるように、肌を這い上っていく。
悲鳴を上げる者もいた。ただ目を見開いたまま、何も言わずに見つめる者もいた。
ヤガミはまだ笑っていた。さっきより静かに——それが教室中に広がっていくのを見つめながら、結末はもうわかりきっているというように。
「本物だ」
声が、届くはずのない距離まで届いた。「くだらないおとぎ話が」
空気が歪んでいた教室中央の光が、ゆっくりと広がっていく——半開きだった扉が、ようやく最後まで開いていくように。ミズキは、重力が自分を忘れたかのように、足が床から離れていくのを感じた。
「この世界は、俺に何一つくれなかったものを、そのまま持っていけばいい」
ヤガミが言った。今度は、確かな重みがそこにあった。「もう何も頼まない」
最初に、彼が消えた。
ただ、そこにいなくなっていた——彼が立っていた場所には何も残らず、机も椅子もそのままで、まるで一度もそこに座ったことがなかったかのようだった。
続いて、他の者たちも消えていった。
田中は叫びの途中で、最後の言葉を口から出す前に飲み込まれた。
ドア枠を支えていた青木の姿も消え、蝶番だけが、支えを失ったドアを緩く揺らしていた。
倒れた椅子のそばにいた少年。壁際で泣いていた少女。
一人ずつ、やがて塊のように、光がそれぞれを飲み込んでいく。水が石を飲み込むように——一瞬の波紋、そして、何もなくなる。
光が最後に手を伸ばしたのはミズキだった。その半瞬前、彼女はヤガミが座っていた場所へ目を向けた——心のどこかで、まだそこに彼がいると思っているかのように。
そして光は、自らの内側へと畳み込まれ、消えた。
講義室204は、静寂の中に取り残された。倒れた椅子。誰もいない廊下へと開いたままの、詰まったドア。文の途中で放り出されたノートが、床のあちこちに散らばっていた。
そこには、誰一人残っていなかった。




