第二話 拒絶の代償
講義棟204、開始二分前。学部長からの通達で、全員着席するようにとのことだった。
教室はいつもの授業前の空気だった——半分はノートの詰め込み、残り半分は昨夜の話で盛り上がっている。
ヤガミはそのどれとも関わらずに歩を進め、窓際の後方席へ向かった。ガラス越しに、どこか別の場所を見ていられる唯一の席だった。
椅子の背もたれの冷たい金属に指が触れた瞬間、声に呼び止められた。
「ヤガミ?」
静かな声だった。声を張り上げるでもなく、それでいて騒がしさを切り裂くほど明瞭だった。名前を思い出すより先に、その声だとわかった——世界にまだ色がついていた頃の、遠い記憶から来る声だった。
ミズキ・アッカーマン。学級委員、学年首席——キャンパスの誰もが、説明されるまでもなく知っている家柄の出身だった。
振り返った。自分が望むより、ゆっくりと。
通路を数メートル先に、彼女は立っていた。背筋はまっすぐ、肩の高さも揃っていた。
淡い色の髪を後ろで束ね、数本だけがほつれて、精密に作られたような顔の輪郭にかかっている——柔らかさの欠片もない造形だった。瞳は淡く、ほとんど色を持たない——だが今この瞬間だけ、窓からの光の帯が瞳を横切り、一瞬だけ温かく見えた。
「空いてるけど」
前列、自分の隣の空席に顎をしゃくった。天気の話でもするような口調だった。
教室のざわめきが一瞬止まった。何人もの顔がこちらを向く。誰もが息を潜め、どちらが先に動くかを待っていた。
ヤガミは彼女を見た。顎に力が入り、目が細くなる。
なぜだ。これで何を得ようとしている。
代わりに、後方の席へ腰を下ろした。説明の要らない、それだけで終わりを示す動作だった。
静寂は、ほとんど間を置かずにささやき声へと崩れた。
「今、本気でミズキを無視したのか?」
シンジが呟いた。三列先まで聞こえる声量だった。
「悲劇のひとりぼっち気取りでしょ」
女子の一人が、声を潜めることもせずに言った。
「せっかく優しくしてやってるのに、あいつ——」
別の誰かが言いかけて、続きを飲み込んだ。
教室はもう、この先の展開を決めてしまっていた——ミズキが寛大に、傷つけられた側として、失礼な転入生を黙らせる。何度も視線が彼に戻ってくる。彼女がそうするのを、みんな待っていた。
だが彼女は、その沈黙をそのままにした。
彼女の視線が自分に留まっているのを感じた——必要以上に長く。それから彼女は教室の方を向いた。その前に、読み取れない何かが表情に浮かんで、消えた。
「何の問題もないけど」
教室が身を乗り出して聞き取るほど、静かな声だった。「誘った。断られた。それだけ」
「何の問題もない?」シンジは引かなかった。「あいつはいつもこうだ。自分が俺たちより上だとでも思ってるんだろ」
彼女は彼を、欠陥のある証明でも見るような目で見た。
「あなたは今、彼の頭の中を勝手に決めつけた」彼女は言った。「その根拠は何もない。彼がなぜ一人で座るのか、あなたは知らない。ただ推測しているだけ——それも、自分にとって一番都合のいい推測を選んで。『傲慢』は楽な物語。『わからない』が誠実な答え。たいていの人間は、後者を選ぼうとしない」
シンジは口を開いたが、そこに入れる言葉が見つからず、また閉じた。顔に赤みが差していく。
彼女はもう一拍、沈黙を保った。
「続けましょう」
彼女は座り直し、両手を机の上に平らに置いた。立ち上がる前とは、表情に何か違うものが宿っていた。そのまま、まだ現れない学部長を待った。
後方の席で、ヤガミはクラスの視線にはもう気づかなくなっていた。代わりに気づいていたのは、彼女の視線だった——半分背を向けてもなお、こちらに留まっている。どんなささやき声よりも、その重さが応えた。
彼女は本当に、彼を見た。ちゃんと。それは嘲笑われるよりも堪えた——理由は、自分でもわからなかった。
その奥で、静かに、以前と同じ音が鳴った。そしてその向こうから、自分のものではない声が——
《切断を確認。初期化を準備中。残る問いは一つ——ヤガミ、これのために何を差し出す?》




