4話 15年後、めざめのとき
「おはようございます」
目を開けると、知らない男が俺を見下ろしていた。
それも、やけに嬉しそうに。
俺より年上な…銀髪で妙に顔の整った男だ。
……誰だ、こいつ?
「俺のこと、見えてますか?」
「…見えてる……けど…………っ、ケホッ」
「ずっと眠ってましたもんね。今、水持ってきます」
銀色の髪の男は、慌てて部屋を出ていった。
ベッドから体を起こして、部屋を見回すと、ここがこの世界の俺の部屋だということがわかる…たぶん。
たぶんと言ったのは、様子がちょっと変わっているからだ。
ふとんは、なんかやけにふわふわになってるし、あと、そこら中に花が飾ってある。
まるで花畑にいるみたいだ。
自分の手首を見ると、見覚えのないキレイな腕輪がついている。
なんだ、これ…?
腕輪を見ていたら、銀髪の男が、トレイに水の入ったコップを乗せて戻ってきた。
「お水です。どうぞ」
水の入ったコップを手渡される。
一口飲んだら、体が水を求めていたのか、一気に飲み干していた。
「ありがとう」
コップを返したら、そのまま手を握られた。
…え?なんで?
次の瞬間、いきなり抱きつかれた。
それも力いっぱい。
「なにするん…」
「目覚めてよかった……っ、師匠」
ん?師匠…?
「待て待て待て!俺はアンタみたいな人の師匠になった覚えはない!
誰かと勘違いしてるんじゃ…?」
銀の髪の男は、俯いて苦しそうに言う
「ひどい……、それはあんまりです。ヨル師匠」
俺のこと”ヨル師匠”って言った?
そう呼ぶのは、ただひとりで――
バッ!と音がしそうなくらい、銀髪の男は一気に顔を上げると―…
ヨルに口づけた
驚いたヨルは、思わず口を開けてしまい、そのまま深いキスへと変わっていく。
「んっ、んん―――!?」
なんでこんなことに――――――!?
パシンッと乾いた音が響いて、唇が離れると、部屋に漂っていたあやしい雰囲気はあっという間に消えていた。
が、いきなりのキスに、思わず叩いてしまったことに焦り戸惑うヨル
「いったー…」
「ご…ごめん…でもっ、何するんだよ!アンタ誰!?」
ベッドの上で、端に逃げるヨルを見て、慌てて銀髪の男は…
「ヨル師匠!俺ですよ、俺!
オルフェです!」
「…………オルフェ?」
「そうです。ヨル師匠に助けられた、あの日から15年たったんですよ!」
ヨルに頬を打たれ、片方の頬を赤くしたオルフェは格好がつかないまま、微笑んだ。
起きたばかりの俺の体を気遣って、オルフェはスープを作ってくれた。
覚えてる、このやさしい味。あの頃から料理上手だったもんな、オルフェ。
この小さな家のリビングで、向かい合って食卓を囲んでると、子供のオルフェと一緒にいた頃を思い出すけど、今目の前にいるのは15年後――…つまり27歳のオルフェだ。
あれから15年たったと聞いても、未だに信じられない。
俺はジルバと戦って…でも負けるかもしれないと思った時、自分の知識を奪われないように、自分自身に封印魔法をかけた。具体的にどんな魔法をかけたかは覚えてない、もう、必死だったから…
そこで、俺の意識も途切れた…その後のことは全くわからない…
「俺は、ずっとここにいたの?」
「違いますよ。魔族の城に奪われたので、俺がヨル師匠を取り返しに行きました」
「え?」
オルフェは笑顔だけど、話してることはなかなかヘヴィーだよな?
「俺はヨル師匠の蘇生魔術で生き返ったんですよね?」
「…そうだ。あれからどうだ?変なところはないか?」
「とくにないですよ。元気です!…外見は、髪が銀色になってたけど、これはヨル師匠の魔力の影響だろうと、他の魔術師達が言っていました。
あともう一つ、ヨル師匠の魔力の影響で、魔力量と魔術師としての技量がすごく高くなりました」
そうだ、あの時は蘇生させて逃さないと!とその事で頭がいっぱいだったから、気にする余裕はなかった。
だから…髪色変化してたかも…?
それに、魔術関連にも影響って…
「ごめん…うまくできなくて…」
「謝らないでください。俺はヨル師匠が蘇生魔術してくれたから、今ここにいるんです。感謝しかありませんよ。
ありがとうございます、ヨル師匠」
俺より歳上の大人になったオルフェだけど、子供の時みたいな屈託ない、その笑顔に、俺も救われていた。
「元気にしてるならよかった。魔術師になったんだな?
俺より体格しっかりしてるし、剣士にでもなったのかと…」
「さすが!正解です!魔術騎士になりました!」
笑顔で答えるオルフェ。
まさかの、魔術師と騎士をダブルで…?
「す…すごいな」
「ヨル師匠を助けに行くのに、前衛の技術も欲しくて、剣士としても鍛えたんです!」
立ち上がって鍛えた体を見せるように、手を広げるオルフェ。
理由は……俺だったのか――…
「大変だったよな……迷惑かけて、ごめん」
立つオルフェの向かいにヨルも立ち、見上げて微笑んだ。
「魔術師と騎士、両方なんてすごいな!
歳も身長も追い越されちゃったから、こういうのもおかしいかもしれないけど…
オルフェは、俺の自慢の弟子だよ」
それを聞いて、感極まったオルフェは、今度はやさしくヨルを抱きしめ
「俺はもう27歳ですけど、ずっとヨル師匠の弟子です。
だから、ヨル師匠もずっと俺の師匠でいて…」
オルフェは、本当にやさしい子のままだ。
「わかった。あらためてよろしく、オルフェ」
そう言いながら…
つい、子供の頃にしていたように、頭を撫でていた。
今は俺より10cmくらい背の高くなったオルフェに。
撫でられたオルフェは、ジワジワと顔を真っ赤にすると、その場にうずくまった。
「ど…どうした?嫌だった?」
「嫌じゃないです!」
食い気味に否定をした。
「あ…そ、そう?よかった…」
オルフェは照れた様子で、顔を隠しながら、きっぱり言った。
「…俺、15年がまんしてたんで。覚悟してくださいね。ヨル師匠」
か、覚悟とは?と頭上に?を振りまくヨルだったが……
コンコンコンと窓を叩く音が響いた。
そこには鳥がいて、その足に、何かついている。
「これは…カダの魔術速鳥だ
チッ、ヨル師匠が目覚めたの、もう気づかれたか…」
チッ、と舌打ちが聞こえた気がする…俺の知らない間に、オルフェにもいろいろ人間関係が広がったようだ。
というか、この15年の間の話を詳しく聞きたいところだけど…オルフェは何だか難しい顔をしている。
「えっと、俺が起きたこと、どうやって気づいたんだ?ここは、俺とオルフェしかいないのに?」
「……実は、ヨル師匠につけられてるその腕輪ですが、生態監視魔術具なんです。
ヨル師匠の目覚めを感知するために付けられてて…
今は俺、魔族討伐の恩恵で自由にさせてもらってるんです、ヨル師匠が目覚めたら戻れとか、魔術騎士としての仕事だって…」
ゴニョゴニョと言い出すオルフェ。
なんだか気になることが多いが、一旦置いておこう…
「あーもうっ!俺はヨル師匠と二人っきりでいたいんですよ!
だから、こんな連絡はなかったことに…!」
「待て待て!俺はオルフェと一緒にいるから。そこにはなんて書いてあるんだ?」
ため息をつき、心底嫌そうにオルフェは言う。
「国王様が呼んでるから、ヨル師匠を連れて王都に来い。と」
国王様からの呼び出しって!状況はよくわからないけど…
「それは…行かなきゃダメだろ!」
ということで、目覚めたら15年後というだけで驚きの連続なのに、
黒髪黒目は不吉だと、俺を追い詰め監獄に閉じ込めた、この国の国王に会わないといけないことになった。
正直、不安で仕方がない…
「俺がいるから大丈夫ですよ、ヨル師匠」
可愛かった12歳のオルフェは、今や、銀髪の端正な顔立ちの長身な男前27歳だ。
「…頼りにしてる、オルフェ」
弟子に頼るのも格好つかないけど、それを聞いて、オルフェはうれしそうに返事をした。
「はい!」
これから、なにかがはじまる予感がした――…
5話から、「王都編」へ




