5話 王都編① 嫌われ者の濡羽の魔術師と師匠溺愛弟子
俺は今、感動している。
馬車に乗り、ゲームで見たような西洋風な街並みの中を通っているからだ。
すごい!楽しい!
「めずらしい風景ですか?」
「あ、はしゃいでごめん。テーマパークに来たみたいで」
「でーまぱーく…?」
俺がこの世界に来た時、すぐに奇異の目で見られて追いかけ回されたから、風景なんて見る余裕もなかったから…こんなキレイな街だったんだな。
「それにしても…この服じゃなきゃダメなのか?」
今、俺が着ているのは、黒をメインに白いラインの入った、ゲームでよく見たローブみたいなものだ。その下も、着心地のいい生地でできた、動きやすい服だ。
普段の服というより、制服というか衣装というか…この世界正装みたいな服なのか?
「そう言わずに、着てあげてください。
その服は、ヨル先輩に似合う服を私が作ります!と、メーリィさんが、それはもう並々ならぬ気合を入れて仕立てたものなので」
「メーリィが!?」
「彼女も心配していたんですよ。俺がヨル師匠を連れ戻してから、何度も来てくれてました。
ヨル師匠にかかってる魔術が、クリスタルで封印と時間停止もしてる魔術で前例がなく、解除方法の相談ものってもらったりしてたんですよ」
俺が咄嗟にかけた魔法、そんなことになってたんだ…
「でも、どれだけ時間がたってもヨル師匠の姿は変わらないことがわかってから、メーリィさんは起きたら着飾りたいって言い出して、いろいろな服を作ってましたよ。
サイズも変わらないからやりやすいとか。
あと、ヨル師匠のこと、こんなに素材がいいのに、無頓着で気になってたって」
「へ…へえ…、ありがとう?」
「まあ、俺もヨル師匠を着飾りたかったので、賛成です」
そう言って、オルフェはヨルの髪をそっと耳にかける。
「でも、ヨル師匠の素顔がみんなに知られてしまうのは…ちょっと…いやかも…」
「じゃあ、このフードかぶればいいか
俺は不吉の象徴なんだし、そのほうがいいだろ?」
フードをかぶって笑うヨルに、ムッとするオルフェ。
「ヨル師匠は不吉の象徴なんかではないです。
俺にしあわせを教えてくれた、俺の唯一の愛…」
ガタガタガタッ!ヒヒーンッ
「すみません!これ以上進めそうにありません…!」
オルフェの言葉にかぶって、物音と外の御者の声が響き、何を言っていたか全く聞こえなかった。
「どうした?」
馬車のカーテンを開いたら、その先の城へ入る城門の前に市民が集まっていた。
「濡羽の魔術師を連れてくるな!」
「不吉を呼ぶんだろ!」
「帰れ!」
道を塞ぎ叫ぶ市民たち。
「オルフェ様、これ以上馬車で進むことは不可能です!」
以前メーリィから俺の噂を聞いてたから、こうなる可能性は理解していた。
「でも、ここでヨル師匠を降ろすのは…!」
「大丈夫だよオルフェ。降りよう。
ここまで連れてきてくれてありがとう。」
オルフェは不安そうな顔をしたけれど…俺の覚悟を悟ったようだった。
「俺が先に出ます」
「わかった」
フードを深く被り直して、オルフェに続いて馬車を降りた。
馬車から降りたオルフェに
「オルフェ様だ!」
「オルフェ様」
と市民の声が響いた。
オルフェが民に人気なのは、うれしいな。
でも、オルフェが俺を敬うような仕草をすると、批判の声が上がる。
「なんでそんなヤツを!」
「帰れ!疫病神だ!」
「オルフェ様のやさしさにつけ込んだんだ!」
「きっとそうだ!オルフェ様から離れろ!」
まあ、そうだろうな…
と思っていたら…
ぐっとオルフェの雰囲気が変わる。
冷え冷えとした圧が広がり…オルフェ、怒ってる――?
「濡羽の魔術師は、俺の大切な人だ。
――侮辱するな」
俺と話してる時よりも低い声で、オルフェが言った。
その言葉に、たじろぐ市民たち。
それでも、まだ批判の声が続き…
「まだ、ヨル師匠を貶めるようなことを言うなら――…」
その手に魔力を感じた俺は、
「スト―――ップ!!」
この喧騒を止めるために、雪吹雪の魔法を起こした。
「みんな冷静になってくれ!」
さっきまでの険悪な空気は少しずつ収まり、周囲では、雪!?寒い!など声が上がっている。
オルフェも目を丸くして、こちらを見ている。
どうやらみんな落ち着いたようだ。
そこで俺は雪吹雪の魔法から、雪を桜の花びらに変えた。
一気にあたたかくなり、まるで春のようだ。
ひらひら舞う桜の花びらに、みんな魅入っていた。
桜の花びらが舞ってるのって、キレイだよな、心落ち着くし。
「俺は国王様に呼ばれて来ただけです。
用が済んだら、すぐに帰りますから、どうか安心して」
フワリと、魔法で起きた風によってかぶっていたフードが落ちる――…
周囲が俺を凝視するように見ている。
こんなところで、急に魔法使ったから驚かせすぎた…?どうしよう!と思っていたら…
「濡羽の魔術師は、醜い老人じゃないのか?」
「若いぞ!?それに美しい…!」
「み、見た目は関係ないだろ!いい人ぶったって…っ!」
「そうだ、不吉の象徴の魔術師だぞ!?」
「だけど、こんなにイケメンだったなんて!聞いてないわ!」
「それに…花びら舞う中に立つ姿、なんて儚い…」
「…ッ!だからヨル師匠の素顔を見せたくなかったんですよ!
こうなると思ったから!」
魔法を使った時に脱げたローブのフードを、オルフェはまた被せ…
いきなりお姫様抱っこをした。
「ちょっと、待て!何だいきなり!?歩いていくから、降ろして!」
「長引きそうなので、さっさと行きますよ」
「ええっ!?」
俺を抱っこしたままオルフェは走り出し、魔法を使ったのか飛ぶように人混みを飛び越え、市民は入れない城門も飛び越え城へ向かった。
待って!恥ずかしすぎるんだよ!!!
城の入口に、城の警備の傭兵と共に、騎士と魔術師が待っていた。
「あはははは!目立つ登場だな!オルフェ!」
「うるさい、タギリス。もっと静かに来たかったのに、どうして市民に、ヨル師匠が来ることが知られているんだ」
明るく迎えたのは、騎士のタギリス。オルフェと競い合って剣技を高めあった実力者。
明るいムードメーカーだが、戦闘では容赦がない、頼れる赤騎士団長だ。
「濡羽の魔術師が来ることは極秘でしたが、どこかで聞いた者が広めたようです。
機密事項漏洩で、この件は後に私が対処します」
「アンタがいながら機密事項漏洩なんて…違うだろ、こうなることがわかってて、わざと見逃したんだ。
濡羽の魔術師を嫌っていたもんな、カダ」
俺を姫抱っこしたまま険悪な話をしないでほしい。いたたまれない…
「オルフェ、降ろして…」
「はい!すみません!」
魔術師からしたら、黒髪黒目は不吉だと濡羽の魔術師なんて異様な名を付けられた魔術師のことを、好意的には見れないだろう。
それに、何だかこの人、俺のバイト先のチーフと雰囲気が似てるんだよな。苦労背負った中間管理職みたいなところとか。
年格好も近そうだし、30歳くらいかな?
そんなことを考えながら、ヨルはカダと呼ばれた魔術師の前に立つ。
「……なにか?
私は貴殿のことは認めていませんから」
気に入らない相手にも、正しく礼儀を重んじるところ、俺は好感持てますけどね。と思いながら
「いろいろ噂はあるようですが、俺はただの魔術師です。
そんなに気にせず、他の人達と同じように扱ってください。
俺は森の中で静かに暮らしたいだけの人です。敵意はありませんから」
安心させるために、微笑んだ。
こんな時、コミュニケーションを円滑に進めるには、とりあえず笑顔が大事と、バイトで学んだんですよ。
カダは、ヨルの黒い瞳に見つめられた瞬間、毒気を抜かれたようにたじろいだ。
噂の不吉で悍ましい魔術師の面影などどこにもない。
そこには、夜の静寂を溶かしたような、凛とした美しい青年が立っていたからだ。
「わ…わかりました。
とりあえず、今回は貴殿を信じましょう…」
言い終わるやいなや、踵を返し
「お部屋を用意してあります。こちらへどうぞ」
と言って行ってしまう。
「ありがとうございます。オルフェ、行こう」
ふぅ、とりあえず乗り切ったか…と、オルフェの方を向けば…
こっちは、なんかジト目で俺を見ている…なんでだ…
「ヨル師匠は、俺だけを見ていてください」
真剣な顔で言われた。いや、ちょっと怖い。
「早く行かないとカダ怒るぞー!気が短いんだから。
濡羽の魔術師さん、俺は赤騎士団の団長タギリス。よろしく」
そう言って、俺の右手にキスをした。
え?と、思うのもつかの間、オルフェの魔法がタギリスに向かって放たれた。
「あっぶね~!じゃあまた後でな~!」
そう言って、タギリスは走っていってしまった。
オルフェの不意打ち魔法も難なくかわしてるあたり、タギリスの実力は本物なんだろう。
「変わった人が多いんだな、王都って」
「ヨル師匠、頼むからもっと自覚を持ってください」
「……それは、濡羽の魔術として、嫌われ者としての…?」
「違います」
「えー…?」
オルフェはどういう意味で言ってるんだ?
「オルフェに濡羽の魔術師!遅い!早く来たまえ!
このあと、国王様との謁見ですよ。」
「はいっ」
まずい怒らせてしまった。
焦るヨルを見て、ヨルの腰を引き寄せ密着してくるオルフェ。
「行きましょう、ヨル師匠」
「あ…ああ、そうだな」
オルフェ近い、近い!もしかして俺、すごく不安そうにしてると思われてる?
安心させようとしてくれてるのか?
確かに不安ではあるけど…弟子に心配かける師匠なんてかっこわるい…!
そう思ってるヨルだったが、一方オルフェは…
ヨル師匠は俺のだって、しっかり見せつけないとな。
誰にも渡す気はない。絶対に。
心のなかでヨル師匠愛の炎が燃えていた――
「星見で、こんがらがった2人が城に来るって見えたけど…」
「さわがしくなりそーだな」
物陰から小さな影と、小さな霊獣が、
ヨルとオルフェを見ていた。




