3話 あたたかい日常の終わり
「見つけたぞ、濡羽の魔術師」
不敵な笑みを浮かべ、見下されている。
ジルバとかいう、この魔族身長いくつだ?
俺175cmだけど、2m近いんじゃ?角合わせた総身長はもっと高い。体格もいいし…向き合ってるだけで怖い!
「俺に…なんの用があるんですか?」
「貴様、人間にとって不吉の象徴なんだろう?そして恐ろしい魔術を使うとか…
すこしは骨のある人間なんだろうな?」
言い終わる前に衝撃波が!
ドオン!という音と共に土煙が舞う。
「あぶね…っ!」
今の、そのままくらっていたら腕がもげていたんじゃないか!?
「今の攻撃を防いだか」
そう、俺は攻撃が来る!と思った瞬間、防御魔法を瞬時に想像していた。
エンタメ大好きオタクなめんなよ…!
防御魔法やそういった現象なんて、いろいろな作品で見てきた。だから、想像するくらい、簡単なんだよ!
その後も攻撃が続く。
防げているけど、防戦一方はまずい…!
それに、気になることがある…
「どうして、俺の居場所がわかったんだ!?」
さっきの高校生くらいの魔族がイラつきながら口を開く。
「おい!おまえ!ジルバ様になんて言い方を!」
「いい、ラドトア。説明してやれ」
「っ!はい!」
ジルバに指示をもらえたのがうれしいのか、明るい声が響く。
どうやら、この高校生くらいの魔族はラドトアといい、ジルバの部下らしい。
やたらと盲信しているようだけど。
「説明してやる。お前が、確実にここにいるとは思ってなかった。
人間のいるとこを襲ったけどいない。聞けば、濡羽の魔術師は人間に嫌われてるみたいだからな、人里ではないところを僕は探してたんだ。
そしたら――…」
おもむろに、オルフェを指差す。
「森の中に、そいつがひとりでいた」
ヒュッ、と息を吸い――、オルフェの顔の血の気が引いていく。
「人間の子供は、ひとりでこんな森の奥を歩かないからな。
近くに住んでる人間がいると思ったんだ。
アタリだったな」
カタカタと震え出すオルフェ…
「ご…ごめんなさいっ、ヨル師匠…っ!
ダメって言われたのに、薬草取りに行ったから…!
ぼく、ぼくのせいで…っ、ごめんなさい!」
ボタボタと涙をこぼしながら泣き崩れるオルフェを、ヨルは強く抱きしめた。
「俺を心配して行ってくれたんだよな。
大丈夫、大丈夫だからオルフェ」
オルフェを安心させるように背中を撫でてはいるけど…魔族はまだそこにいる。
俺がどうにかしないと…!
「人間は弱いくせに、うるさいな」
ラドトアは見下すようにオルフェを見て言う。
「オルフェ、家の中に戻って」
「…ヨル師匠……」
「俺は大丈夫だから」
心配そうな顔をしつつも、自分にできることはないと悟ったのか、オルフェは頷いて家に戻ろうとした…その瞬間!
オルフェはラドトアに掴まれていた。
速い!全く動きが見えなかった…!
愕然とするヨルに、さらに絶望が迫っていた。
「人間は、味方が攻撃されるのを見ると、本気を出すんだろ?」
楽しそうに言うラドトア
「ジルバ様、いいですよね?」
「ああ、構わん。好きにしろ」
「はい!」
オルフェを高く放り投げると、
ラドトアの魔力強化された大きな爪が、小さな体を引き裂いた。
赤い血が飛び散っていく――…
地面に叩きつけられそうになったオルフェを、ヨルは地面ギリギリで受け止めた。
「オルフェ!オルフェ!!オルフェ…ッ!!!」
流れ続ける血、引き裂かれた傷の様子から、もうオルフェは生きてはいないと、わかってしまったけど、名前を呼び続けるのを止められなかった。
まて、冷静になれ!
今の俺には魔法がある…!
ゲームで、何度も俺の旅を助けてくれた、あの魔法があるじゃないか!
『蘇生魔法』
オルフェを生き返らせたい!
死なせない!どうか戻ってきて!
カッ!とヨルとオルフェが光りだす。
ラドトアは、ザッとジルバの側まで後退し、様子を見る。
ジルバも訝しげにしていた。
「あいつは、何をしている?」
光の中では、オルフェの傷がみるみる治っていく。
その時、髪も銀色に変化していた。
ゆっくりと目を開くオルフェ。
「あれ…?ぼく………」
「オルフェ……よかった…」
「ヨル師匠、どうしてそんなに泣いてるんですか?
って痛い、ぎゅってしすぎです、苦しい…っ!」
生き返った喜びで、蘇生したばかりのオルフェを、力いっぱい抱きしめてしまうヨル。
それに対して小言を言うくらい、オルフェは回復していた。
「オルフェのことは、俺が絶対に守るから」
覚悟を決めろ、俺───!!
光が収まり、見えた光景に息を飲むジルバとラドトア。
そこには、ヨルと、その側に立つオルフェの姿があった。
「殺したはずの人間が、生き返っている?」
この世界には、『蘇生魔術』は存在していなかった――
「おもしろい!気に入った、濡羽の魔術師!
どうやって、その子供を生き返らせた!!
貴様の魔術をよこせ!」
ジルバが高らかに笑う。
「オルフェ、街についたら、もう二度と森に入ったらダメだよ」
ヨルはオルフェのおでこにひとつキスを送ると
「立派な大人になって」
「まって!どういうこと?ヨル師匠!!」
離れたくないと泣くオルフェの手を離し、人が多い街へと転移魔法で飛ばした。
「濡羽の魔術師は、そんな魔術も使えるのか…」
「…俺、そういう知識は結構あるんで…」
知識はあるけど、こんな魔族と戦えるかって言われたら、どこまで通用するか…
でも俺が捕まったりしたら、この世界で平和に暮らしてる人間に被害が及ぶのはわかる。
どうにかしないと…
いざとなったら、俺の知識がこいつらに取られないように――…
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「…………ヨル師匠」




