闇の眷属
日本国
神奈川県座間市
陸上自衛隊 座間駐屯地
相模原市から座間市に跨がる旧在日米軍キャンプ座間は、一部が陸上自衛隊座間駐屯地として返還されていた。
異世界転移後は全ての敷地が返還されて座間駐屯地と合併し
大隊規模に増員された特殊作戦群の駐屯地となったが、隊員達はその広さを持て余していた。
「ゴルフ場やらコンドミニアムとか、演習の場には事欠かないな」
特殊作戦群長の田代一等陸佐は、暇そうな口調を隠さない。
「ぶっちゃけ我々出番がありませんからね。
この間の河童の件も我々に出動を命じてくれればよかったのに」
第1中隊長の松山三等陸佐や第2中隊長の野沢三等陸佐も自嘲気味に呟く。
実際、先の皇国との戦争以来、特戦群に出番はなく、日本本国で起きた数々のモンスター退治や小競り合いでも出動を命じられなかった。
特戦群は陸上自衛隊のなかでも特殊な位置に属しており、大半の部隊が地元の地縁に縛られているなか、昇進希望者でフィジカルに優れた者の行き着く先となっている。
最も三等陸佐までなってしまうと、通常部隊に行き先がない。
奈良県以外はどの都道府県にも連隊規模の部隊が配備されているが、大半の隊員は地元の第一次産業従事者や有力者の娘を嫁にしている。
また、移民の対象から隊員とその家族が外れ、配給も優遇されていることから婚活の対象として人気が高く、独身者は少ない。
これは三自衛隊や警察、海保、国保の隊員も同様である。
「新しい大臣はこれを引き剥がそうとしてるな」
矢島忠夫防衛大臣は首都圏の直轄部隊や東部方面隊の配置に手を付け、横田駐屯地に第1教育連隊、横浜駐屯地に情報本部に移転させた。
富士教導旅団からは富士教導機甲旅団を分離独立させる等、精力的な動きを見せている。
「まあ、演習は新任の小隊長、分隊長、班長が慣れてからですね」
松山三佐も苦笑気味に隊員のリストを眺める。
「そうですね。
まさか全員が36普連に引き抜かれるとは思いませんでしたからね」
かつての特戦群は隊員の秘匿性を重視していたが、隊員の増員と新設部隊への引き抜きで有名無実化していた。
また、一般部隊が優秀な隊員を手離なくなった。
これには命令による選抜も行えたが、一般部隊が隊員の地縁を利用して政治的に妨害してくる有り様だ。
単身赴任扱いと出世をエサにして隊員を確保するしかない現状だから矢島大臣が隊員に政治から距離を取らせたがってるのもわからなくはなかった。
「俺達は引き抜かれんなあ。
市ケ谷の奴ら、うちの部隊をなんだと思ってるんだ?」
「まだ、56普連の分も残ってますよ」
第19即応機動連隊は、すでに大陸に旅立った。
樺太国境恵須取駐屯地の第36普通科連隊が次に旅立つ番だが、大陸への移民をしても昇進したい隊員と入れ換えが行われている。
そして勝田駐屯地で訓練中の新設の第56普通化連隊も同様で、特戦群の隊員達の異動ラッシュに三人は辟易していた。
「昇進前の腰掛け部隊扱いですね」
「今回をしのいでも、また次の53普連や新設の57普連もありますからね。
それが終われば暫くは落ち着きますが、水陸機動連隊との隊員争奪戦も始まりますよ」
防衛省は水陸機動連隊を含む水陸機動旅団を編成を決定した。
大陸自衛隊ならレンジャー資格を持つ者が多数いるが、本国自衛隊ではそうもいかない。
一般部隊も手離さないので、ますます確保が難しくなる。
今いる隊員達も新設される第57普通科連隊や再来年に大陸に向かう第53普通科連隊への異動を狙っており、幹部達の悩みは尽きなかった。
「しかし、海自まで出向して土台作りをしていた長沼二佐が怒りそうだな」
「あの人の鍛えた部隊は全部大陸じゃないですか。
政府もわかりやすく再編したかったんでしょう」
大陸北部
チェスタートン伯爵領
第14分屯地
「ふざけてんのか政府の奴ら」
国際連隊初代連隊長長沼貴司一等陸佐は、当然のごとく不満を隠そうともしなかった。
「俺がやってた時はろくに水陸両用車も揃えなかったくせに最近、AAV7を七両も追加を送ってきたから変だと思ってたぜ」
軍用の国産水陸両用車の生産は今だに成果をあげていない。
米軍も主戦力が第3海兵師団な為に水陸両用強襲輸送車7型ことAAV7の売却を渋るようになった。
それでも合計58両を購入し、大陸の水陸機動大隊には人員輸送型11両、指揮通信型1両回収型1両、国産試作型2両が割り当てられたことになる。
2個中隊がようやく戦力として数えられようになったが、肝心の自分が国際連隊にいることに長沼一佐は落ち込み始めた。
「いや、戻っても一等陸佐じゃ階級高くてダメでしょ」
第14先遣隊隊長の志村正弘三等陸佐がツッコミを入れてくる。
「せめて正規の大隊規模じゃないと」
「転移前ならいけたんだがな、ギリ連隊名乗れた」
「まずこっちの仕事をしましょう。
小田切一尉、話を続けてくれ」
第14先遣隊付き普通科小隊隊長の小田切雄二一等陸尉は、
「いいんですか?
では続けますが、『断罪と雷の教団』の神殿領アンルシアへの偵察の結果、大陸各地から聖騎士が、150名が集結、領邦軍にあたる神殿騎士200と神官戦士600が彼等の言うところの聖戦の準備を始めています」
「あの迷惑な聖騎士が150人も?
これで大陸各所の聖戦士達が加わってないとはいえ、悪夢ですな」
溜め息を吐くのはアシュトン侯爵家の分家の三男という微妙な立ち位置の吸血鬼ファルケンだった。
彼は自衛隊に保護されてから第14先遣隊の食客的立場になっている。
しれっと会議室にいるので、長沼一佐の反応が気になった志村三佐と小田切一尉だが、ケンタウルスからラミアまで隊員として抱える長沼一佐はあっさりと受け入れていた。
「現在、偵察班がドローンで偵察を続行しています。
結界やら警報にかんする奇跡があるそうですが、悪意の無い無機物には意味がないそうです。
おまけにその奇跡に絶対の自信があるらしく、警戒すらしてないそうです」
「今の『断罪と雷の教団』は軍勢の規模に達しており、アシュトン侯爵領までの進路上の領邦や天領に進軍の遣いを出してる。
一応は法に則ったモンスター退治の体裁を取り繕っている」
小田切一尉が偵察班からの報告を伝え、志村三佐が地域情勢を説明してくれる。
「まあ、侯爵領に近づけば付き合いのある貴族達や領民があの手この手で妨害してくれますけどね」
ファルケンの言うことは事実で、進軍ルートは不慮の事故や災害により、雨もないのに土砂崩れによる街道封鎖や安全で評判の大橋が突然の崩落、子供の膝くらいの深さ川が氾濫するかも知れないからと川止めの準備が行われている。
「きっと邪悪な吸血鬼による呪いの結果と解釈されるんだろうな」
長沼一佐の言葉にファルケンは腹も立てずに苦笑する。
「よく御存知で、実際この手で三回くらい討伐を頓挫させたと本家の老人達は語ってましたな」
「それはそれとしてアシュトン侯爵家の方の対応はどうなってるんだ?」
「あっちはデルモント男爵領の第11先遣隊が接触を試みるようですが、まだ連絡は無いですな」
志村三佐は改めて連絡が来てないか退室する。
「領邦軍に組み込まれている吸血種が防衛に参加しますが、基本夜にしか真価を発揮できず、神官達は天敵にあたりますな」
それを察したのか、ファルケンはボソッと呟く。
ちょっと聞き捨てならない発言だった。
「あんたら元々、こっち側じゃないか」
ファルケンの説明になんで自分達は闇の勢力側に与しているか、自衛官達は不安を覚えていた。




