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日本異世界始末記  作者: 能登守
2035年
302/302

聖者の行軍

 大陸北部


 神殿領アンルシアから『断罪と雷の教団』の聖騎士団が、神官戦士団総勢750名が出陣した。

 吸血鬼の本拠地で正式な貴族でもあるアシュトン侯爵家に向けて進軍を開始した。

 討伐軍は幾つもの領邦を行軍するのだが、当然こんな武装集団が領内を通るのを黙ってみているわけがない。

 隣接しているアルドナード男爵領は、領境内を通過することは出来た。

 普段からの付き合いやモンスターの討伐を手伝っていたからだが、男爵としても流石に軍勢の通過には眉をしかめたが、あんまり関り合いに成りたくないから通過を認めた。


「おお、御領主自ら見送りとは豪勢じゃの」

「どうせなら、あの軍勢にも参軍してほしいが」


 聖騎士や神官戦士達は勝手な解釈をして、手を振ってくるのでアルドナード男爵は苦虫を潰したような顔をしている。

 軍勢が領内に入ると、街道沿いに総動員された領邦軍や徴用された冒険者や傭兵、自警団が、余計なことをされないように監視にあたっていた。

 自ら監視の陣頭指揮にあたるアルドナード男爵は、指揮用の天幕内で騎士達に問い掛ける。


「街道を抜けるのは通常なら5日は掛かります」

「我が男爵領にあんな軍勢を泊めれる宿屋は無いはずだが、」


 普通の軍隊が来たなら領邦軍の駐屯地や砦、詰所などに来てもらい宿舎を提供するのだが、教団の軍勢からは要請もないし、提供する義務もない。

 彼等は領邦軍として扱われる神殿騎士と違い、普段は大陸各所を巡り、民を助け、モンスターや悪漢を倒し、功徳を神に捧げる信仰厚き者達だ。

 位階的には神殿騎士より高いのだが、旅慣れ、自らを冒険者や傭兵と同じくらいに考えていた。

 さすがに騎乗する聖騎士達は、馬を走らせ、領都に先行している。

 最初の宿場町には先触れの聖騎士達が、全て貸し切りの予約を取り付けてまわっていた。


「先頭集団の人数分、宿屋の定員目一杯ですね。

 宿場町の公会堂や神殿の宿坊まで押さえてます」

「普通の旅人もいたろう。

 彼等はどうしたのだ?」

「教団の経費で娼館に宿を差し替えられて、断わる者がいなかったと」

「自分達が利用しなければ良いということか」

「後続は先頭集団の荷物を受け取り、領都を目指しています」


 各領邦の主要街道には、人間が徒歩で辿り着ける距離を考慮して宿場町を造ることが初代皇帝の頃から義務付けられている。

 それでも人口が1万から5万人程度の男爵領の宿場町など小さな物だ。

 教団同士も聖職者には神殿の宿舎を提供する義務があるが、田舎の神殿の宿舎などは規模は知れている。

 軍勢の8割は最初の宿場町を通過した頃には、昼に差し掛掛かっていた。


「行軍が思いの外早いですな。

 疲労回復の奇跡を使うなどして、休息無しで進んでいます」


 疲労回復と言っても体力の有る者が無いものに奇跡の力を行使し、疲労を分け有っているものだ。

 地球時間で20時にあたる頃には、農村や漁村は寝静まり、宿場町ですら就寝の準備にあたる。

 そんな時間帯に奇跡の力で自ら光輝く軍勢が二番目の宿場町に到着した。

 宿場町の見張り達も膨大な光が街道一面に輝いているので、何事かと物見の櫓から警戒する不審ぶりだ。



「一部は近隣の村や街道の避難小屋を利用してます。

 領都の宿場町にも乗馬する聖騎士達が馬を走らせ先行しています。

 次の宿場町には馬車や荷車、徒歩の神官戦士達には到着は無理なはずでした。

 軍勢も伸びきり、軍隊の行軍とは思えません。

 それが夜間行軍で到着するのは予想外でした」

「なんだかんだと旅慣れた者達の集まりだからなあ。

 傭兵団の一種と考えれば、残りは野営をするのだろう」


 アルドナード男爵達が甘く見ていたのは、彼等は全員が奇跡という神聖魔法の使い手であったことだ。

 疲労回復は祈りを持って和らげ、暗い夜道も自ら光って野営地を整備する。

 多少のモンスターの襲撃は彼等の糧に変わり果てる。


「通過してもらうだけなら金回りもいいし、街道も整備してくれるし、治安も維持してくれる悪くない連中だ」


 アルドナード男爵は最初の領邦だからトラブルは無かっただろうと安堵していた。

 軍勢のほとんどが隣領に移動した頃、最後尾にいた街道の避難所にいた神官戦士3人が死体で発見されて、五人が捜査のために駐留すると言われて卒倒しそうになっていた。

 全員が吊るされて血抜きをされていて、小屋の床も壁も血塗れでという惨状だった。


「吸血鬼どもの妨害工作と思われます」

「いや、先に進めよ!!

 お主ら大義とか、正義の執行とか有るんだろ?

 捜査とかは領邦軍でやっておくから!!」


 アルドナード男爵の抗議も正義執行の為の叱咤激励と解釈したか『断罪と雷の教団』側だが、この男爵領内にも神殿があるから手間は掛けさせないと奮起し、留まることを決めていた。


 「もういい。

 とにかく日本にでもお伺いを立てて判断を仰ごう。

 北サハリンの連中よりは吹っ掛けてこないだろう」


 トボトボと『断罪と雷の教団』の神殿を立ち去るアルドナード男爵と入れ代わるようにして、一人の男が神殿を舌なめずりするように眺めていた。








 アシュトン侯爵領


『断罪と雷の教団』の討伐対象とされた大陸の吸血鬼の本拠地、アシュトン侯爵領では、デルモン卜男爵領の第11先遣隊から派遣された偵察班が調査を開始していた。

 領都の郊外にそびえ立つ山から超望遠レンズのカメラやドローンを駆使して動きを探るが、アシュトン侯爵の居城からは人の出入りが全く確認できなかった。

 偵察班班長の勝丸陸曹長は悪魔城と感想を溢した居城を眺めながら呟く。


 「出入りが無さすぎだろ。

 侯爵一族が吸血鬼なのはわかるが、家臣とかは人間のはずだ。

 御用聞きの商人まで入ろうとしない」

 「代わりに無数の蝙蝠が城を出入りしてますが、あっちが本命じゃないですか?」


 小川二等陸曹の意見に偵察班の班員達もその可能性を否定できなくなっていた。


 「町に降りてみるか」

 「それしかないですかね?

 でも我々では一発でバレますよ」


 アシュトン城周辺の城下町は城の周囲を水堀で区分けし、円を描くように町が広がっている典型的な城下町だ。

 モンスターの備えに町の外郭に壁が建設されている為、出入りには四方の門を潜り、兵士達の検閲を受ける必要がある。

 問題は大陸において黒髪、黒目な日本人は、潜入任務に向かない人種であることだ。

 基本白人種がメインの大陸において、日本、華西、高麗などの極東アジア系は浮いてしまう存在だ。


 「業腹だが、ヴェルフネウディンスクの連中に要請するか」


 こういった任務は外部に委託、北部では北サハリン軍に要請するのが定番になっている。

 そして要請した翌日には要員が派遣されてきた。


 「第11分屯地に四人組の北サハリンの偵察隊が来たらしい。

 本格的な冒険者の装束で、独自に潜入するそうで我々には直接接触はしないが、無線のチャンネルは開いとけだそうだ」

 「早くないですか?

 前々から準備していたみたいだ」

 「我々の代わりに潜入してくれるんだから悪いようにはならんさ。

 最悪、見捨てて逃げればいい」


『断罪と雷の教団』の軍勢はアシュトン侯爵領まで10日の距離に迫っていた。

 特に動きの少ないアシュトン侯爵領の領邦軍も集まりつつあった。

 しかし、それは部隊で動いているというより、騎士や兵士の個々人がバラバラに出発していたことから偵察班も動きに気が付けなかった。

 彼等の共通点は肩に止まったり、周辺を飛ぶ人語を話す蝙蝠の姿だった。


『国境で狂信者を迎え撃て、危険手当は弾む。

各々、一層奮励せよ。

総員、生きて帰還せよ』














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