陽のあたる場所 · A Place In the Sun
大陸中央部
アウストラリス王国
王都ソフィア
第19即応機動連隊が王都に駐屯し、歓迎のパーティーが行われた。
そのパーティーも終わり、連隊長の飯島悟一等陸佐は帰りの挨拶をしながら歩いていた。
「そろそろ帰ろうか小代三佐」
第18即応機動連隊本部管理中隊隊長だった小代三等陸佐は、そのまま第19即応機動連隊本部管理中隊隊長と自衛隊ソフィア駐屯地管理小隊隊長を兼任することになり、昇進を果たしていた。
本人から言わせると以前の役職と仕事が追加で戻ってきただけど嘆いている。
さすがに何年もソフィアに配属となっていると、家族も呼び寄せ、元男爵邸を借りきり息子や娘も日本人街の学校に通わせている。
「女房がちょっと奥様方に捕まってまして」
飯島一佐を始めとした19即連の隊員は殆どが単身赴任で、家族、親族達は新たに建設されている植民都市の住民第一陣として居住している。
それでも王都ソフィアには近世欧風な町並みの郊外に現代日本的な住宅街や商業街が立ち並ぶ日本人街が出来ており、自衛官以外にも三千人近くの日本人が住んでいた。
これは王都人口の1%に及ぶ。
その中で小代三佐の一家は王都在住だった。
「貴官が王都で妙に人気があるのは噂で知ってたが、本当なんだな」
小代三佐の細君もまわりの貴族達の奥方に比べれば華美では無いが、上品なドレスで着飾り談笑に華を咲かせている。
小代三佐は王都で国王や宰相、貴族から官僚までの日本からの連絡役として知己を得て、政府や総督府からの注文をオブラートに包んでくれたり、愚痴を聞いてあげたり、調整をしてあげたり、トラブルを解決したり、と信頼を積み重ねて来たことから有力者達から尊敬と友愛の目で見られていた。
モルデール国王からは、小代三佐の留任を求める直筆の書簡が総督に届けられ、ヴィクトール宰相は叙爵を進めてきて、大貴族は中学生の娘や息子にお見合いを進めてくる。
「私の異動願いはどうなってるんですかね?」
「俺も大陸に来たばかりだからわからん」
裏で握り潰されてるであろうことは察しが付くが、口には出さないでおく。
「それより奥さん疲れ気味じゃないか?
迎えに行った方がいいんじゃ」
「あと5分で時計のアラームが聞こえように鳴るんで、それを合図にピックアップすることになっています」
算段が付いてるなら問題はないが、王都にいる以上は飯島一佐も他人事じゃないことに気がついた。
「昔から公的行事に伴侶を連れてくることが当たり前の時代があったが、ああいうのも伴侶側に手当てが支払われるべきだよな。
タダだと思われるから招待する側も当たり前だと思えてしまう。
まあ、それが好きな人もいるし、たまには表舞台に立ちたい人もいるだろうから余計なお世話かもしれんが」
「せめて衣装や化粧代くらいは請求出来ないですかね?
週一のパーティーや月一の舞踏会に招待されるとバカにならない」
「く、車代くらいは出てるんだろ?」
「相手先から馬車の送迎ですから全く出ませんね」
「もう爵位や領地でも貰っとけよ。
公務員の贈賄は問題だが、身分を制限する法は無いし、領地は身分を役職として付随する物として、苦しい法的解釈がされてただろ」
近年では爵位や領地を賜る日本人も出てきて、日本政府も頭を悩ましていた。
これが民間人なら問題はないが、政治家や公務員では爵位はともかく領地は間違いなく法に触れる。
しかし、日本政府としても日本の影響力の強い地域を日本人自身が統治出来るのなら、それに越したことは無く、叙爵に関する特別法が成立していた。
それでも一番無難なのは次代の息子に代わりに叙爵してもらうことだった。
「それじゃあ駄目なのか?」
「提示された領法はどれも王都の近郊です。
車なら日帰りできてしまう」
そんな会話が4ヶ月も前に行われ、6月の初旬を迎えていた。
いまいち市名が決められてなかった植民都市名も吉田郡山市に決まり、大聖寺市の入植が完了次第、広島県福山市からの住民が移民を開始する。
福山市は尾道市、府中市、庄原市、三次市、三原市、竹原市、安芸高田市、廿日市市、神石群、世羅郡、山県群を合併し、面積だけなら広島市より広くなった。
すでにインフラ業者や官公庁の職員が移住し、準備を進めている。
自衛隊も第19師団司令部が直轄部隊と駐屯地を開庁しており、いずれ王都ソフィアから移転する第19即応機動連隊の隊員の住居も造られる。
小代三等陸佐も毎年のように届出した異動願いだが、無慈悲な返礼を返されて執務室の床に膝を落とす。
新たな辞令交付書が執務室に飛び交い、部下の橋本良子二等陸尉が拾い上げて、要約して読み上げてしまう。
「三等陸佐小代重俊三を二等陸佐に昇任させる。
また、現役職の第19即応機動連隊本部管理中隊隊長と自衛隊ソフィア駐屯地管理小隊隊長から中部混成団司令に任命する。
ああ、前から噂になってたのこれですか?」
「南部混成団と同じ、大陸中央の自衛隊を統括しろということだな」
大陸中央の自衛隊は第19即応機動連隊を除けば、マッキリー子爵領の第4先遣隊、天領トーヴェの第5先遣隊、天領マディノの第7先遣隊、レキサンドラ辺境伯領の第12先遣隊、王都ソフィアの自衛隊ソフィア駐屯地管理小隊隊の830名程だ。
このうちソフィア駐屯地管理小隊が、混成団司令部の隷下となり、1000名を越えることになる。
本国では駐屯地が手狭なこともあり、警備隊や駐屯地の業務隊や会計隊、地方協力本部、自警団への顧問は各連隊からの派遣になっていたが、大陸内地では独立部隊で、外地派遣部隊は混成団指揮下となる。
大陸西部や北部でも何れはと構想されている。
「た、隊長、昇進おめでとうございます?」
「隊長、お気を確かに!!」
部下達が些か疑問系なのは、小代二等陸佐の異動願いの希望を知っているからだ。
防衛省や総督府は毎年のように発行される異動願いに本人が職責や待遇に不満を持ってると解釈した。
実際に二等陸尉時代から階級に見合わない国王や宰相、貴族達との折衝を任されてたのは認識されていたので、昇進させる機会を狙っていたのもある。
また、王都の慰留を求める国王モルデール・ソフィア・アウストラリスやヴィクトール宰相から総督府に叙爵の推薦が行われていた事も配慮された
本人に取っては全くもって大きなお世話である。
お祝いを述べに来た飯島一佐も憔悴した小代二佐の顔色と隊員の気まずそうな空気にドアを一度閉じた程だ。
「ああ、二佐?
『断罪と雷の教団』だが、大陸中央からも聖騎士の位階にいる連中が北部に移動してるらしい」
「そいつは羨ましいですなあ、異動できて」
話題を変えたつもりが変なところで絡んでくるやりにくさに飯島一佐も閉口する。
「総監部から注意と監視を強化する訓令が来ているが」
「我々に出きることはありません。
不穏分子が北部に行くなら追い出しちゃいましょう」
「王城から我々二人に謁見するよう要請が来ているが」
「昇進と部隊拡大に付いてでしょうね。
絶対にあの二人も絡んでますから一言言ってらやらんと!!」
「穏便にな、穏便に」
まさか小代二佐も中央の貴族全て集められた叙勲式が行われるとは思わず、文句を言うどころか空気に飲まれて男爵位を叙勲し、領地まで賜ってしまった。
うっかり礼装で来たのも失敗だった気分である。
「今度からシゲトシ・コシロ・クリストル男爵と呼んだ方がいいか?」
「小代ニ佐か、小代団司令でお願いします」
小代重俊の出世街道はまだ始まったばかりだ。




