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日本異世界始末記  作者: 能登守
2035年
295/304

呼ばわり山

 大陸中央部

 アウストラリス王国 

 王都ソフィア


 第19即応機動連隊が王都に駐屯し、歓迎のパーティーが行われた。

 そのパーティーも終わり、連隊長の飯島悟一等陸佐は帰りの挨拶をしながら歩いていた。


「そろそろ帰ろうか小代三佐」


 第18即応機動連隊本部管理中隊隊長だった小代三等陸佐は、そのまま第19即応機動連隊本部管理中隊隊長と自衛隊ソフィア駐屯地管理小隊隊長を兼任することになり、昇進を果たしていた。

 本人から言わせると以前の役職と仕事が追加で戻ってきただけど嘆いている。

 さすがに何年もソフィアに配属となっていると、家族も呼び寄せ、元男爵邸を借りきり息子や娘も日本人街の学校に通わせている。


「女房がちょっと奥様方に捕まってまして」


 飯島一佐を始めとした19即連の隊員は殆どが単身赴任で、家族、親族達は新たに建設されている植民都市の住民第一陣として居住している。

 それでも王都ソフィアには近世欧風な町並みの郊外に現代日本的な住宅街や商業街が立ち並ぶ日本人街が出来ており、自衛官以外にも三千人近くの日本人が住んでいた。

 これは王都人口の1%に及ぶ。

 その中で小代三佐の一家は王都在住だった。


「貴官が王都で妙に人気があるのは噂で知ってたが、本当なんだな」


 小代三佐の細君もまわりの貴族達の奥方に比べれば華美では無いが、上品なドレスで着飾り談笑に華を咲かせている。

 小代三佐は王都で国王や宰相、貴族から官僚までの日本からの連絡役として知己を得て、政府や総督府からの注文をオブラートに包んでくれたり、愚痴を聞いてあげたり、調整をしてあげたり、トラブルを解決したり、と信頼を積み重ねて来たことから有力者達から尊敬と友愛の目で見られていた。

 モルデール国王からは、小代三佐の留任を求める直筆の書簡が総督に届けられ、ヴィクトール宰相は叙爵を進めてきて、大貴族は中学生の娘や息子にお見合いを進めてくる。


「私の異動願いはどうなってるんですかね?」

「俺も大陸に来たばかりだからわからん」


 裏で握りつぶされてるであろうことは察しが付くが、口には出さないでおく。


「それより奥さん疲れ気味じゃないか?

 迎えに行った方がいいんじゃ」

「あと5分で時計のアラームが聞こえように鳴るんで、それを合図にピックアップすることになっています」


 算段が付いてるなら問題はないが、王都にいる以上は飯島一佐も他人事じゃないことに気がついた。


「昔から公的行事に伴侶を連れてくることが当たり前の時代があったが、ああいうのも伴侶側に手当てが支払われるべきだよな。

 タダだと思われるから招待する側も当たり前だと思えてしまう。

 まあ、それが好きな人もいるし、たまには表舞台に立ちたい人もいるだろうから余計なお世話かもしれんが」

「せめて衣装や化粧代くらいは請求出来ないですかね?

 週一のパーティーや月一の舞踏会に招待されるとバカにならない」

「く、車代くらいは出てるんだろ?」

「相手先から馬車の送迎ですから全く出ませんね」

「もう爵位や領地でも貰っとけよ。

 公務員の贈賄は問題だが、身分を制限する法は無いし、領地は身分を役職として付随する物として、苦しい法的解釈がされてだろ」


 近年では爵位や領地を賜る日本人も出てきて、日本政府も頭を悩ましていた。

 これが民間人なら問題はないが、政治家や公務員では爵位はともかく領地は間違いなく法に触れる。

 しかし、日本政府としても日本の影響力の強い地域を日本人自身が統治出来るのなら、それに越したことは無く、叙爵に関する特別法が成立していた。

 それでも一番無難なのは次代の息子に代わりに叙爵してもらうことだった。


「それじゃあ駄目なのか?

 退役後の隠居先としては最適だろう」

「提示された領法はどれも王都の近郊です。

 車なら日帰りできてしまうから意味がない」


 結局は付き合いからは逃げられない。

 会場の井戸端会議から細君を回収し、三人は車を停めてある広場に出てくる。


「ひゅー、懐かしの高機動車じゃないですか。

 久しぶりに見たなあ」

「今まで何に乗ってたんだよ?」

「米軍からのハンヴィー、北サハリンのティーグル、華南の猛士……」


 何れも各軍の高機動車と同系列の人員輸送用車両である。

 駐屯する連隊が変わるごとに兵装が変わるのは困り事であった。


「ウチを中核とする第19師団は当面は転移前の自衛隊装備を使い潰す。

 特科の連中が来る頃には新型装備に更新だ」

「やっと本国が国産装備をまわしてくれますか。

 あ~あ、こいつはどうしようかな?」


 小代三佐はそう言って腰のホルスターから華南民国の半自動式拳銃、92式手槍を抜く。


「外国製個人装備の回収はしないそうだ。

 記念に貰っておけ、他にも色々隠してるんだろ、廃棄の書類と9ミリを受領しろ」


 本国の自衛官が聞いたら仰天物だが、当たり前に民間人も武装してる大陸では気にも留められない。

「噂のSFP9ですか?」

「古式ゆかしきP220だよ。

 噂って採用されたの15年も前だぞ、あと四年待ちやがれ」





 日本国

 首都 東京 いちがや

 防衛省 統合司令部


「まだ前回の謝罪行脚や反省文が残っているんだが、まだ何かあるのか?」

「今回は我々がメインではなく、公安調査庁の実働部隊が動いてます。

 現在、八王子の今熊山に帰還派と呼ばれるテロリスト集団の存在を確認。

 米軍から奪取した次元跳躍機の試作機を使って、市川百鬼夜行事件や河童どもの具現化の原因となった事象が引き起こされる危険があります」


 矢島忠夫防衛大臣の苦情を統合司令行田忍一等海将は一蹴して状況の説明を始める。


「そもそも公安の実働部隊を説明してくれ。

 噂には聞いているが、実情は世間には知られてないんだから」


 公安の実働部隊は、警察や自衛隊をクビになった隊員を勧誘し、秘密の任務に着かせる部隊だ。

 素行の悪い隊員が多いが、訓練や教育を施した隊員を使い潰してくれるなら良いかと自衛隊は黙認していた。

 本国に大隊、大陸に連隊規模の隊員を送り、自衛隊の旧式装備を供与している。

 一通り矢島大臣に説明されると指揮所のモニターが現地の地図と敵味方、友軍の部隊配置が表示される。


「今熊山の別名は呼ばわり山で、山頂で遺失物や行方不明者の名前を大声で呼ばわれば元に戻るとの信仰があります」


 古くは第27代安閑天皇の后宮であった橘の仲皇女が浪花路で行方不明になったとき、天皇の夢枕に神人が立ち、『武蔵の国の今熊山の山頂に立って、3度名前を呼ぶと良い』と教えられ、無事に再会する事ができたという由来かがある。


「よく公安が作戦を教えてくれたな」

「連中はこちらに情報を提供していません。

 我々にも独自に耳や目がありますので、常時監視していたことから得られた結果です」


 きっとお互い様なんだろうなと矢島大臣は耳と目を背けたくなるが、自分が呼ばれたのは自衛隊が関わる気なんだなと思い直す。


「現地に投入出来る部隊は?」

「立川駐屯地の第1偵察中隊が東久留米の河童退治に動員していましたので、そのまま向かわせます。

 また、空自の府中基地警備隊からも後詰めをださせます。

 警察も独自に情報を掴んだのか、所轄の高尾警察署や府中の第7機動隊が出動準備に入りました」

「どいつもこいつも横の連絡は無しか、お役所仕事だな」




 八王子市は近隣自治体を合併しら大陸への移民が行われて住民は殆どいない。

 今熊山麓には今熊神社があり、熊野神社系の衛士達がいた。

 しかし、帰還派と公安調査庁の実働部隊の銃撃戦には神社内に震えて縮こまっていた。


 「神聖なら御山に罰当たりな」

 「神主様、山頂に光が」


 何らかの『呼ばわり』が行われたのかと神主が衛士を率いて山頂に向かうと、大陸の神殿使うような法衣を着た金髪の美しい少女がいた。


 「あの、ここは何処なんでしょう?

 私はイブリース王国にて聖女の任に就いているアグラトといいます。

 東方の国のようですが」


 互いに困惑していると麓から駐在が山頂に登ってきて、神主達の無事を確かめている。


 「いや、みんな無事で良かった。

 で、こちらのお嬢さんは?」


 アグラトと名乗る少女は警官の制服を見て驚愕していた。


 「お、お巡りさん!?

 ひょっとしてここは日本ですか?」

 「日本の八王子だが」

 「今はこんな見た目ですが、千葉の松戸の旧市川市役所で職員をしていた田中美香48歳です!!

 家族と連絡取りたいんです、助けて下さい!!」

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― 新着の感想 ―
転生者来ちゃったかぁ…… 憲法改正で華族制度復活させるわけにはいかないんですかね。
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