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日本異世界始末記  作者: 能登守
2035年
288/306

三代目総督

 大陸北部

 魔神占領下のドワーフ侯国某所


 円法寺円楽中僧正は息子、剛が春休みになるのを利用して、魔神に占領されたドワーフ侯国内を旅していた。


「いや、父さん。

 俺も来年中学入学で忙しいんだけど、もう帰らない?」

「準備なんて寺の方で勝手にやってくれるさ。

 推薦で私立中学入学なんてお前くらいだぞ、贅沢言うな。

 せめて修業でもして世の受験生に謝りなさい」


 息子に対して酷い言い草なのは、円楽自身は剛が門前町である杜都市の仏教系私立中学に推薦入学することには本心では反対だからだ。

 大日本仏教連合は産業の育成に手間取っていた杜都市に総本山を置いた。

 観光や仏壇仏具の生産を産業にしたのだが、意外なことだがこれが大当たりした。

 大陸に住む日本人達が移民にするにあたり、真っ先に手離した物の一つは何か?

 車や家財は財産となるが、仏壇は持ち込むのも負担がでかく、泣く泣く手離した家が多かった。

 しかし、移民してみれば与えられた屋敷は大きく、『力ある神』となった仏様は人々に信仰や畏れを思い出させるに十分だった。

 移民の余裕のある家ほど、自宅に仏壇や神棚、庭先に祠や石仏を置くのが流行となったのだ。

 ホクホク顔の大日本仏教連合は、新京市の魔術科学園とは別に杜都市に法力僧養成の学園を設立した。


「父さんああいうエリート養成校より、市井の学校に通って欲しかったんだ。

 第一、お前、あの学校で学ぶことあるのか?」

「う~ん、人脈作り?」


 最初の法力僧として認知される親子はほとんどの法術を円楽は息子の身体を通してだが使えるようになり、剛も使えるようになる。

 今さら学校で学ぶ法術は無いのだ。

 ならば普通の学校で片寄らない教育を受けて欲しかった。


「それより父さんまた来たよ」


 廃墟だらけの村の外れにトゲだらけの魔神が現れる。

 ドワーフの村人を一人一人そのトゲで殺していった残酷な魔神だ。


「さて、調伏の時間だ」

「悟りの道は遠そうだね」




 デルモントの第6先遣隊から派遣された上坂二等陸尉率いる普通科小隊は、危険なドワーフ侯国領に重要人物護衛のために進出していた。

 前にも外交団を護衛してエルフ大公国の迷いの森に突入したが、危険は段違いだ。


「2時、5時、9時方向に小型魔獣多数、残弾に配慮しつつ、これを蹴散らせ!!」


 大陸北部の自衛隊は北サハリン共和国から兵器を購入し、割り当てられている。

 供給元のヴェルフネウディンスク市が近いせいもあるが、近年魔神の力を付与されたと思われる新種のモンスターがドワーフ侯国とその近隣に姿を見せるようになったのだ。

 基本的に元の姿からかけ離れたおぞましい造形に識者達は、人工モンスター、魔獣としてカテゴリーした。

 その魔獣への対応に日本は北サハリン共和国から追加購入を行ったのだ。

 全地形対応軍用車両GAZ-2330 ティーグルから指揮を採る上坂二尉もリモコンを操作し、ルーフ上のRWS、アルバレット-DMからPK 7.62mm機関銃AGS-17 30mmグレネードランチャーを撃ちまくって殿軍を務めている。

 先頭には装輪式水陸両用装甲兵員輸送車であるBTR-90の2A42 30mm機関砲が唸りをあげて、魔獣達を蹴散らしている。

 装輪式装甲兵員輸送車、BPM-97 二両が後に続き、ルーフの銃架や窓から銃口を向けて、横から襲撃を加えるべく、回り込んできた魔獣を肉塊に変えていく。

 村の姿が見えると、厚い装甲を生かして魔獣を轢き飛ばしてスピードを上げる。

 問題の村に到着すると、各車両から隊員達が降車し、廃墟となった家屋を確認し、入ってきた魔獣に集中砲火を浴びせて駆逐していく。

 畑の溜池で隊員達が目撃したのが、池内に倒れ伏した魔神が円楽大僧正の三鈷剣で、胸を貫かれて息絶えるところだった。


「魔神を銃なしで、単体で倒せるのは何人いるかですね」

「いや、私のは息子の法力の加護で、金剛の護り、仁王の怪力、薬師の治癒、韋駄天の走りを付与されましたから一人ではとてもとても。

 はて、自衛隊の皆さんはこんな北の果てに何の御用で?」

「陸上自衛隊上坂創二等陸尉といいます。

 大陸総督佐々木洋介の名に置いて、円法寺円楽中僧正を三代目総督に御指名あそばせました。

 その命令にしたがい、あなた方親子を保護、輸送するのが我々の任務です」


 佐々木総督は勝手に円楽を総督代理、三代目総督に指名していながら、いまだに本人の確保ならびに意思確認が出来ていなかった。


「えっ?

 何それ聞いてない」

「まあ、詳しい話は葦原に着いてから、まずは車にお乗り下さい」


 さっきまで魔神相手に怪力乱神が如く、暴れまわっていた円楽だが、両脇を隊員達に抱えられ、装甲車両に放り込まれていく。


「あのボクも来月から中学入学に掛けて忙しいんですが」

「その件に関してはこちらを預かっているよ。

 佐々木美登理嬢からお手紙が」

「えっ、あっそう?

 そういや美登里ちゃんも葦原かあ。

 よし行こ、今すぐ、早く行こう」


 佐々木美登里嬢は剛少年の一つ上の佐々木総督の孫娘である。

 少年にとっては憧れの星らしく、眩しい少年の姿に上坂一尉はほっこりしている。

 その背後では隊員達が魔獣の対処に四苦八苦していた。


「ようし、ここにはもう用はない撤収だ」


 残った弾薬をばら撒き、車列は全速で村から離れていく。

 代わって航空自衛隊のF-1 CCV戦闘機が2機、上空に現れ、J/LAU-3ロケット弾ポッ卜から70mmロケット弾を発射し、追いすがる魔獣達を粉砕した。

 ドワーフ侯国を抜けて、ベルモントの第6分屯地まで戻ればヘリコプターが用意されている。

 上坂二尉が心が痛むのは、二人は行き先が葦原特別行政区だと思っていることだ。

 本当の行き先は王都ソフィアで、このまま王に謁見させてなし崩しに総督に就任してもらう手筈だ。

 すでに王都には大日本仏教連合が用意した大僧正の認定証と僧衣に着せられて、既成事実の謁見の間に連行される。

 栄えある総督就任がこんな騙し討ちでいいのかは、上坂二尉も疑問だが、偉い人達も色々考えた結果だろうと割りきることにした。





 大陸東部

 葦原特別行政区

 大陸総督府


「ま、まさかこんな形で総督の椅子を押し付けられるとは思いませんでした」

「まあ、私の時も唐突だったからね。

 これが伝統になるかしれないな」


 佐々木洋介前総督は円楽新総督に引き継ぎに必要な様々なレクチャーを行っていた。

 王都に連行された円楽、剛親子はそのまま国王モルデール・ソフィア・アウストラリスに謁見し、その場で大僧正と総督に就任したことを告げられた。

 今でこそ筋骨隆々な巨漢な円楽であるが、元は小心な田舎の世襲坊主だった。

 それがうっかり、この世界に仏の力を呼び込む『仏門』を開いたばかりに修行に目覚め、派閥争いに距離を置く聖職者として一目を置かれる立場になってしまった。


「四年ですよ。

 任期が終わったら今度こそ開山して引き籠ってやる」

 「まあ、今月は新総理や国会、皇居への参内もあるから忙しいよ。

 任期が終わるまでは上手く駆け抜けてくれ」


 佐々木と円楽は『青木ヶ原・オブ・ザ・デッド』事件以来からの友人だ。

 旅客船『いしかり』襲撃事件では共に戦い、神居市に佐々木が在住してた頃は、円楽は冒険者として度々訪れてくれていた。


「佐々木さんは勇退後はどうするんです?」

「神居市に帰っても名誉職が付いて回ってわずらわしいんだよね。

 暫くは秋月さんとこに世話になるかな」

 「国王陛下のお話では爵位と領地を賜りそうでしたが?」

 「貰える物は貰うさ。

 孫達への遺産の足しになればいい」

 「まあ、私もこの町に暫く住むなら剛の中学校はこちらにしますわ。

 つれ回してばかりで悪いとは思ってたし」


 かくて大陸総督府は三代目の主を向けて始動することになる。











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