ひかりあれ
大陸北部
チェスタートン伯爵領
領都のど真ん中、酒場までが店仕舞いをしている深夜。
煌びやかな鎧甲冑を身に纏った断罪と雷の教団の聖騎士3人は、神官戦士9名を率いて吸血鬼ファルケンを取り囲んでいた。
「困るなあ、私はチェスタートン伯爵から正式に許可と依頼を受けてこちらに来ている。
約定に従い、道を開けてくれないかな?」
「約定の書は皇都が空襲を受けた際に焼失してなくなったわ!!
これで貴様等を討つのに邪魔だった約定も無くなった。
我が名は聖戦騎士隊長ハーヴェイ、覚悟するがいい!!」
聖騎士隊長ハーヴェイの言う約定の書とは、初代皇帝が異種族の者達と交わした主従の契り、皇国への帰属、本領安堵、異種族の保護、人間との関わり方を記した制約と契約の書の事だ。
皇帝と各種族の長が変わる度に協議が行われて、頁が増やされて書籍と化していたので、そう呼ばれていた。
しかし、米軍による皇都大空襲以後、灰塵と化した皇都と共に焼失したと考えられており、後継国家たる王国は、それを引き継げていない。
エルフ、ドワーフ、ケンタウルスが独立の動きを見せた根拠もそこにある。
また、狼人のビスクレッド子爵やリザードマンのセルン湖沼伯、ラミアのリュビア自治男爵、虎人のタイガーケイブ自治男爵も王国と距離を取り、周辺の貴族と紛争が起きた理由でもある。
ましてや吸血鬼の領邦は異種族の領邦としては珍しく、大陸北部にあり、エルフやドワーフと違い、旗色を鮮明にしていなかった。
「皇国の保護は無くなった貴様等など、今度こそ族滅してくれるわ」
「嫌われてるのはアンタ等も大して変わらんと思うが」
「黙れ!!
神罰執行!!」
三人の聖騎士が神への祈りを唱えると、その背後が光始めた。
闇の種族には堪える『浄化の後光』だ。
闇の種族は基本的に夜や暗い場所で活動しているので、昼間は太陽の光りに打ち消されるが、今の時間ならばファルケンを逃がさない檻となる。
直接、光を浴びないためにスーツを脱いで、頭から被りガードする。
「ブッ格好だな。
吸血鬼は高貴さを売りにする種族じゃなかったか?」
「最近はうちも貧乏でね。
なりふり構ってられないのさ」
ファルケンは伸ばした爪で、聖なる力を付与した槍で刺突してくる神官戦士達と斬り結ぶが、三方向から繰り出される9本の槍に傷付けられていった。
高い再生能力を保有する吸血鬼ではあるが、聖別された武具による傷は火傷を発生させて、ファルケンを傷つけていく。
「はっはは、アンルシアから召集が掛かって、この宿場に来てみれば思わぬ収穫!!
良いて手土産ができたわ」
アンルシアは断罪と雷の教団の神殿領と領都の名前である。
巡礼する聖騎士達が大陸中をまわり、素質のある子供達をスカウトして連れてきて基礎教育や戦闘訓練を行う。
信心深く、奇跡の力が発動できれば、教団に仕える騎士となり、教団領や信徒を守る神殿騎士や異端の魔術やモンスターを退治してまわる聖騎士に振り分けられる。
教団の騎士や神官戦士達はどの教団も組織としては大して変わらないが、断罪と雷の教団は取り立てて好戦的な部類にはいる。
「アンルシアへの召集?
それはまさか……」
「聖戦の発動だ」
聖騎士達の目も眩む『浄化の後光』の前にファルケンは、これ以上は情報を得るのは無理だなと悟るが、光の檻から抜け出れない。
だが『浄化の後光』を上回る複数の光が一斉に照射され、その光量が奇跡の光が打ち消されていく。
本来は目も眩む程の光量を発する『浄化の後光』だが、ハロゲン電球を利用した100〜180℃以上の高温の発生源となる投光器は、人間に浴びせれば滝のような汗をかかせるほどの熱量を発する。
「そちらの御人は我々の上官が滞在している屋敷のゲストでもありましてね。
事情はなんとなくわかりますが、今回は退いてもらえませんかね」
「何者だ!!」
「日本国陸上自衛隊第14先遣隊付き普通科小隊隊長の小田切雄二一等陸尉であります。
また、この行動は大陸総督府からの命令であり、クレーム、その他要望等は一切受け付けておりません」
「そ、それはそうと、お前等の光で吸血鬼が死にそうなのはいいのか?」
ハーヴェイの指摘に目を向けると、複数の熱量を帯びた光を浴びせれてファルケンは死に掛けて倒れていた。
「と、投光中止!!
目標を回収せよ」
本当は熱量の少ないLED電球の投光器を使用したかったが、そんな最新鋭機材が場末の部隊にまわってくる筈がない。
今回使用した投光器は、退役した74式戦車砲塔側面に取り付けられていた箱、『投光器』を取り外されて並べたものだ。
この投光器は数km先の目標を照らせる程で、その光量は凄まじく、すぐ近くで光を浴びると露出部の肌が火傷してしまう。
白色投光の実施中は絶対に投光部を直視しないよう厳重に指導されていた。
その凄まじい光量は繊細で敏感肌な吸血鬼では致死量に等しかった。
何をしたいか読めない自衛隊の行動に聖騎士達も若干引いている。
直ぐに防護スーツに身を包んだ隊員達が、ファルケンを隔離搬送カプセルに放り込み、後方に運び出していく。
小田切一尉は聖騎士達を一瞥し、隊員達にАК-74自動小銃を構えさせ、背後には08式歩兵戦闘車の99式 30mm機関砲が彼等に照準を合わせている。
「わかった、この場は退こう。
我々としても奴の討伐は行き掛けのついでだったからな」
何人かの神官戦士は不服そうな顔をしているが
「大事の前の小事だ」
と、聖騎士隊長ハーヴェイに諭されて共に近くの宿に戻っていった。
「そこは普通に宿泊してるのかよ」
「この町には我等の神殿が無いからな仕方がない。
貴様等があ奴等を保護して何をたくらんでるか知らんが、精々寝首を掻かれんことだな」
ハーヴェイの捨て台詞に小田切は後で思い返すことになるが、今は吸血鬼ファルケンを豪商ブラウン氏の屋敷に運び込ませるが、こんがり焼き上がったファルケンの姿に不安を覚える。
「一応、死んでは無いようですが」
「奴等に焼かれていたからな仕方がない」
半分は嘘ではない事を口に出し、小田切一尉は責任を『断罪と雷の教団』の聖騎士達に押し付けることにした。
「まあ、死んじまったら討伐の成果だと、連中が高らかに宣言してくれるだろう。
あ、向こうの責任者は聖騎士隊長のハーヴェイな。
報告書への記載を忘れるな」
ブラウン邸にこんがり焼かれた吸血鬼ファルケンが運び込まれて、ブラウン商会長も第14先遣隊隊長の志村三等陸佐も途方に暮れていた。
「急いで救出したのですが、僅かに間に合わず」
小田切一尉の弁明も彼等の耳に入っていない。
「吸血鬼なんだから血を与えれば復活するんじゃないですか?」
すぐそばにいた航空自衛隊大陸航空警戒管制団所属の井崎真梨子三等空尉が呑気に口にして、
「「「それだあ!!」」」
と、三人に納得させる。
急遽呼び出された衛生科の隊員はファルケンに対して輸血を指示されるが
「この方の血液型とかどうなってるんですかね?
衛生科としては、そのあたりはっきりしないと抵抗があるんですが」
「吸血の際に血液検査とか、アンケート取ってる訳じゃないだろうし、問題なくない?」
井崎三尉の身も蓋もない言葉に一同乗り気になるが、衛生科の隊員は尚も輸血に躊躇する。
「もうわかってないなあ」
井崎三尉が輸血パックを引ったくり、ファルケンに血液を直接ぶっかける。
「輸血じゃなきゃ、いいんでしょ」
カプセルに放り込まれた血液は自ら動き出すようにファルケンに吸収されていく。
傷が癒され身を起こしたファルケンはまわりを見渡し、状況を理解する。
「あっ、皆さんおはようございます」




