第5話・ある国の事情
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窓から見えるのは、白い雪に覆われた、凍てついた街。
そこには、少しの自然の緑色すら垣間見えない。
見渡す限り、寒々しい荒涼とした景色が広がっている。
「ふう・・・」
それを眺めるのは、この国の国王様だった。
窓から離れ、室内へと視線を向ける彼。
室内の四隅には、赤々と燃える炎を見せる暖炉があり、冷たい外とは打って変わって、ここは暖かい。
だがその薪も、だいぶ備蓄は少なくなってきた。
薪が無くなれば、燃やすものの無い暖炉など、ただの置物でしかない。
この暖炉も、そろそろ使えなくなるときが来るだろう。
それを考えると、国王は身震いした。
冬が終らなくなって、一ヶ月以上が過ぎた。
ある日突然『季節の塔』から冬の女王様が出てこなくなり、季節が巡らなくなった。
以降、この国では冬が続いたままだ。
王都の食糧の備蓄もかなり少なくなって来ており、近々、本当の飢饉が訪れることが予想される。
そうなればこの寒さでは、多くの人間が死んでしまうことだろう。
自分とて、例外ではない。
もちろん『滅び』を指をくわえて、待っているつもりは無い。
余が自ら、女王様へ説得を試みて赴いた事もあった。
その際、たとえ護衛でも兵を引き連れて塔へいく事はできない。
女王様に、失礼に当たるからだ。
単身赴いて『季節をめぐらせるように』嘆願したが、女王様はかぶりを振るに止まり、それ以上は一言も話す事はなかった。
何が冬を終らせない原因になっているのか、季節が巡らない原因になっているのか。
その理由は聞かせてすら、もらえなかった。
だから街に、お触れを出したのだ。
出てこない理由を女王様から聞き出し、願わくばその原因を排除してもらうために。
・・・だが、名乗り出るものが一人も居ないまま、とうとう一ヶ月という期間が過ぎ去ってしまった。
「もはや、ダメなのか・・・?」
このままでは、この凍てついた国の氷に、その身を埋めることになる。
そうなる前に南の岩の大地へ、行かねばならないかもしれない。
岩場で作物が育つかは分からないが、雪に閉ざされた死の世界に居るよりは、幾分マシだろう。
そのとき、部屋をノックする音が聞こえた。
「誰じゃ?」
「国王陛下、私です! お時間をよろしいでしょうか?」
扉越しに聞こえてくる声から、どうやら声の主は宰相のようだ。
彼には主に、この国における内政を任せている。
今回、出した『お触れ』も彼が発布したものでだった。
「ああ、かまわぬ、入ってまいれ。」
時間ならば、いくらでも作れる。
冬はこの国は、閑散期でする仕事は、かなり少なくなるのだ。
国民も、国王も。
「失礼いたします国王陛下、至急お耳に入れたき事がございまして。」
「至急? 悪い知らせか??」
浮かない宰相の顔から、内容を推測する国王。
だが宰相はかぶりを振り、続けざまに報告をした。
「国王陛下、先ほどギルドから連絡がございまして、例の件の志願者が現われたとの事でございます。」
「なに! それはマコトか!??」
それはこの上ないほどの、朗報である。
これでうまくいけば、季節が巡り、この国は再び、豊かな国へと戻る。
それは宰相も、分かっている事だ。
だが続く言葉に、なぜ彼が浮かない顔をしているのか、すぐに分かった。
「志願したのは、本日ギルドにて登録を済ませた、田舎から出てきた青年一人のようです。」
「・・・・・そうか。」
応募をしてきたのは、いわゆる『駆け出し冒険者』のよう。
いや、今日登録したばかりなら、そこいらの一市民と、なんら変わらぬ。
期待した分だけ、落胆も大きかった。
「如何いたしましょう、次の志願者が現われるまで、待ちますか?」
「・・いや、とりあえずその者に会おう。 判断は、会った後にする。」
「承知しました。」
現在の状況は、まさに八方塞がり。
そこに現われた、淡い光。
不確定で危険かもしれないが、それを排除したとてこの先、志願者が現われてくれるとは限らない。
だめでモトモトである。
脳筋なバカや、褒美に目がくらんだだけの愚か者でなければ、託すのもいいかもしれない。
今は、一刻をも争う事態なのだから。
国王は期待を胸に、窓から外の景色を見るのだった。
そこには雪降りしきる、凍てついた王都の姿があった・・・・
◇◇◇
「ああ、あの俺はバルドって言うんだけ・・・いや、ですけど・・・・!!」
「「・・・・・・。」」
王宮へ来たのは、うら若い青年。
何度も噛みまくりながら、こちらへ挨拶をしてくる。
彼が、あの依頼を受けた者のようだ。
彼はここから少し離れた室内の床で、平伏の姿勢をとっている。
非公式な謁見なので、この3人以外に室内には、誰も居ない。
いつもは控えさせている兵士も、外に待たせて居る。
彼が持っていた武器は、荷物も含めてすべて、こちらで預からせてもらっているので、襲撃の危険性も無い。
まあ、会ってみてそんな大それた事をしでかすような人間でない事は、すぐに理解したが。
辺境の村出身だと言うので、すこしバカにしていたが、こうして相対してみるとどうやら、最低限の礼儀はわきまえているようだ。
この様なところに急に連れ込まれ、動揺しているのだろう。
「くるしゅうない、面を上げよ。」
「バルドよ、国王様から話がある。 近う寄れ。」
「ははは、はい・・!」
顔を上げた青年を、傍らの宰相がもっと、近くへ来るように促す。
顔色をうかがうと、汗でびっしょりだ。
宰相と共に、不安な感情が頭をよぎる国王様。
まあ、ここで我らの感情は関係ない。
問題なのは彼の意図を知り信用に足るか、女王様とひき会わせてしまって、危険がないかを見定める事だ。
「バルドと言ったな? なぜこの依頼を受けたのか、その真意を余に聞かせてはくれぬか? 君は褒美で何が欲しいと・・・」
ここまで言ったところで、彼は今までとは打って変わり、大きく声を張り上げた。
思わず、宰相と共に仰け反ってしまう国王様。
「そんな事じゃありません!! 俺はただ・・・」
「ただ・・・・?」
無礼などとは思わなかった。
むしろ、彼の思惑が聞きたくなった。
褒美がいらないなら、何が彼をここまで奮い立たせるのか?
余計に彼の『真意』が聞きたくなった。
人間とは、いつ如何なる状態であろうとも、強欲な生き物なのだから・・・
宰相とは、この国の大臣のような立ち位置の人です。
王様の下、主に国内の政治を取り仕切っている方です。




