みんなの先生
昔、彼のお見舞いによく来た少女が、私のもとに来た。
この間フラれたばかりの私としては、心中複雑。
だけど私は、彼女の用件を聞いた。
少女と女性。
恋する二人。
「久し振りね、本当に。」
インスタントコーヒーを作りながら、私は少女に言った。
「そうですね、ゆーくん・・、西川くんのお見舞い以来ですかね。」
「・・・そうね、その時はあまり話したりしなかったのに、今日はどうしてきたの?」
「少し、此処に用があって。」
「・・・え?此処に?」
此処は、精神病院だ。
こんなところに、なんの用があるのかしら?
「・・・・先生。屋上の鍵、貸してくれませんか?」
「屋上?」
「鍵、掛かってますよね?」
「いや、どうして此処の屋上に?」
「此処じゃないと、駄目なんです。」
笑みを絶やさないまま、少女が言う。
「・・・何をするの?」
「とても、醜いことをします。」
「・・・・・・・自殺?」
少女はうつむき、小さな声で言う。
「・・・自殺じゃ、ないです。だって私は、死にたくないので。」
そうして少女は、顔を上げて私にお願いする。
「先生、お願いします。鍵、貸してください。」
「・・・・分かったわ、屋上の鍵ね。」
そうして私は、少女に鍵を渡した。
「・・ちゃんと返しなさいよ。」
「・・・・・。」
少女は何も言わなかった。
これから起こることは、何となく分かってた。
でも、彼女は彼を大切に思っているに違いないから、私は鍵を渡した。
「・・・自殺未遂、だっけ。彼女・・。」
「・・・・そう、です。」
今にも泣き出しそうな顔で、彼は言葉を発する。
「・・・・・意識、無いのよね?」
「・・・・・・生きてただけで、奇跡、らしいです。」
「・・・そう。」
彼女は、屋上から飛び降りた。
死んでもおかしくない状況下で、彼女は意識不明の重体らしい。
「・・・僕の、せいなんですよ。」
「・・・どうゆうこと?」
「僕が、追い詰めたから、・・・僕、まわりのことしか、見えてなくて・・っ、」
「・・・・違うわね。」
「・・・え?」
「私も、悪いわ。私が鍵を渡したもの。」
そうして私は、彼の手を握る。
「私には、このぐらいしか出来ないけど、・・・・まあ後は、あんたがなんとかしなさい。」
「・・・・僕、鈴花の所に行ってきます。」
「そう。まあ、うん。死なない程度に頑張んなさい。」
手を離す。
未練なんて無いくらいに、私から。
「・・先生、ありがと。」
「どーいたしまして。」
彼が部屋から出る。
「・・・よーし、なんか吹っ切れた!」
今日も仕事を頑張ろう。
そうして私は、次の患者を呼んだ。




