9話 なかなか面白い子じゃないか?
「マーク。君が選んできたメイド、なかなか面白い子じゃないか」
第三皇子の部屋から帰る道すがら、第一皇子は目を細めて嬉しそうにマークに言った。
その言葉にマークは軽く頷いて返した。
「評判が悪い令嬢を選んできたから心配したけど、あの図太さがあるからこそ第三皇子を守れると見込んだのかな?」
「ご想像にお任せします」
「うん。そうするよ。君も第三王妃を慕っていたからね。
わざと無能な子を選んだのかと心配してたんだけどね。その心配はなさそうだ」
「……」
「怒ったかい?」
「いえ、警戒を怠らないのは、さすが第一皇子です」
「優秀な君に褒めてもらって嬉しいよマーク」
そう言ってにこやかに笑う第一皇子の笑顔は面白いものを見つけた時の子供のような笑顔だった。
***
「シャルテが、第三皇子の教育係からはずれた?」
第二王妃が苛立った様子で飲みかけたティーカップの手を止める。
「……はい。なんでもアルベルト皇太子殿下に教育方針の不備を指摘されたようで……。
すでに使っていない公式を教えていたと、先日解雇になりました」
……あの男!!
私の影響力を下げようと狙っていたけれど、こんな手でくるなんて!!
「そういえば、今年の狩猟会はアルベルト皇子主催でしたわね」
「……はい」
絶対ただではすませない。
ウィル皇子といいアルベルト皇子といい私の息子のゲオルグに立ちはだかる邪魔者はみんな排除しないと。
このままではすませないわ。狩猟祭での策を弄さないと。
「次の手を考えるわ。今すぐ兄上を呼びなさい」
「は」
「何を苛立ってるのですか。母上」
従者と入れ替わる形で第二王妃の息子――第二皇子ゲオルグが部屋に入ってくる。
「なんでもないわ。ゲオルグ。あなた勉学にはちゃんと励んでいるのでしょうね?」
「もちろんです。それにしてもまた叔父上を呼ぶつもりですか。
こう言ってはなんですが叔父上は評判がよくない。
口うるさいしあまりかかわらないほうがいいと思うのですが」
「何を言っているの、貴方の大事な後見人よ。あなたが帝位を手に入れるための大事な…ね」
そのためには次の狩猟祭でなんとしても、アルベルトを失墜させるためにウィルを亡き者にしないと。
第二王妃が、がしゃんとティーカップをおいた。
☆☆☆
「というわけで、私が教えることになりましたわ!」
第三皇子の部屋で、アメリアが家庭教師姿でにっこり微笑んだ。
「なんでお前なんだよ?」
憮然とした表情でウィルが突っ込む。
どうせ、誰も引き受けてくれなかったと、予測はつくが、何もこいつでなくてもと、ウィルは腕を組んだ。
「選定まで時間がかかりますからね。
その間に暇なので、みんなには内緒でわたくしがみっちり仕込んでおこうかと」
と、アメリア。
しばらくの沈黙。
……内緒って。
「まさかの非公認!?」
こいつ勝手にやってるのか!?とウィルが突っ込むと
「公認はしましたわ。このわたくしが!わたくしが公認したのだからお墨付きも当然!」
胸を張るアメリア。
「お前な、そんなことばかり言ってると、不敬罪になるぞ」
「ふ。甘いですわね。誰も周りにいないのは確認済みです!
このアメリア・ファル・ディトリミレーデ!目の前の気に入らない相手をぶちのめす時以外には、抜かりはありません」
「抜かりはあるのかよ!?」
「ウィル皇子、わたくしの評判はご存じでしょう?」
「そりゃ祖国で嫌がらせしまくってたって……」
「その通りハキーノ王国にて嫌がらせをしたら右にでるものはいないと、わたくし自負しておりまわぁぁぁぁぁ!!!その場の快楽優先ですわぁぁぁ!!」
「どういう自負!?」
「そもそも嫌われる=悪いことという概念は誰が決めたのです?」
「え、だって不利だろ、困ったとき誰も手伝ってくれないじゃないか」
「ええ、ですが物は考えようですわ。逆に誰も頼ってこないので面倒なことを頼まれません!」
「いや、そうだけど」
「ですが、ただ嫌われるだけではダメですわ。
嫌われつつ、それでいて相手より優位に立つには知識があり、それを利用することが絶対条件!」
くいっと伊達メガネをアメリアはなおし、
「いくら貴族であろうと弱小国の貴族。法律を無視してしまえば貴族でも裁かれます。ですから、法律で裁けない、家紋として対立するほどでもない、それでいて本人たちは最大級の屈辱を感じるすっれすれの嫌がらせをするために各国の法律知識を死ぬ気で勉強しましたわぁぁぁ!!!」
と、手を広げた。
「やってる事は偉いのに動機が恐ろしいくらい不純っつ!!」
「というわけですので、法律で嫌がらせに役立ちそうなところだけピックアップしてきましたの!レッツトライ!」
「今の流れでなんで俺が授業うけることになってるんだよ!?」
言いながらも、ウィルが資料を手にとると、突っ込みどころだらけの教材だった。
(……でも、突っ込むからするする頭にはいってくるんだよな)
読みながら、そっと読み終わるまでお茶をしていますわぁぁぁぁ!!とお茶を飲んでいるアメリアに視線をうつした。
……俺もこいつくらい割り切れれば、楽になれるのかな?
ウィルはそう思いながらアメリアの用意した教材に目を落とすのだった。




