6話 出来ないと言うのならば、ゴーイングウェイですわぁぁぁぁぁぁ!!
「で、どうなの。皇子の教育はうまく行っているかしら?」
皇城の一室で、銀髪の女性がシャルテに問う。
「はい。第二王妃殿下。
ウィル皇子の教育は順調です。昨日も癇癪をおこして暴れていました」
「あら、それはとても喜ばしい事だわ」
第二王妃は嬉しそうに笑うと、付き人に視線を移す。
「それで第一皇子が第三皇子のために用意したというメイドはどうなのかしら?」
「はい。癇癪をおこしている皇子の世話を任せましたので、きっと今頃ひんしゅくを買ってすぐに首になるでしょう」
アメリアをウィルに紹介したメイド長が頭を下げた。
「そう、もともと素行の悪い弱小国の令嬢という話だから、危険視するほどではないけれど――。
第一皇子がわざわざ手配したというのが気に食わないわ」
「首にいたしましょうか?」メイド長が問う
「いえ、他国の噂の悪い令嬢を第一皇子がつけたと、吹聴してあげなさい。
さぞかし面白い結果になるでしょう?」
指先ですっとティーカップのふちをなぞり、第二王妃は妖艶にほほ笑んだ。
第二王妃の言葉に教育係シャルテはほくそ笑んだ。
(ウィルをいびればいびるほど第二王妃の機嫌はよくなるわ)
私のやっていることは正当な行為。
第二王妃は王位継承者が正式に決まっていない現時点では帝国の実質NO2だ。
皇帝陛下の次に権力がある。
(我が家の繁栄のためにも、私の名誉のためにも、ウィル皇子をもっといびって第二王妃のご機嫌を損ねないようにしないと)
そう――そこに罪悪感などあるはずもない。
なぜならシャルテにとってこれは自らの家紋と自らの地位のための正当な行為なのだから――。
★★★
「で、どうでしたか」
わたくしがメイドに用意された個室に戻ると、そこにいたのはマーク伯爵。
新聞を読みながら、勝手に部屋の中で待っていたようです。
「胸糞悪いったらありゃしませんわ。二重の意味で」
お前が部屋にいるのも最悪だと、言葉に込めてあげますが、マーク伯爵は気にした様子がありません。
相変わらずいけすかない野郎ですわ。
「貴方でもムカつくことがあるのですね――」
伯爵はふむとうなずくと、
「シャルテ達のやっていることが貴方の妹があなたにやったことそのままだからでしょうか」
伯爵の言葉にわたくしは目を細める。
こうちょくちょくお前の事ちゃんと調べてる感をだしてくるのはめちゃくちゃムカつきますわ。
お互い利害関係で結ばれた関係とはいえ、手のひらで転がしていると思われるのは癪ですわね。
「あら、鋭い推理ですわね。
優秀な伯爵様にぜひ、貴方に頼みがありますわ」
「頼みですか。聞ける範囲なら従いますが」
「この資料持ってきてほしいの。貴方の立場なら出来ますわよね?」
わたくしのメモを受け取り伯爵はふむとうなずくと、「わかりました。明日に届けます」と、すまして言う。
けれど。
「明日ではダメです」
にっこりわたくしは笑った。
「……え?」
「今夜中にお願いいたします」
「は? ……ですが、到着が深夜になりますが」
「何事にもタイミングというものがありますわ。
明日でなければ効果が薄れてしまいますもの」
「……しかし」
「出来ないと言うのならば、ゴーイングウェイですわ!
こんな面倒な仕事ほっぽりだして逃避行の旅に出てもよろしいのですよ?」
と、頬杖をつきながら、伯爵が私を見つめる。
そう、確かに彼の出してきた情報は魅力的ではある――が、そこは好奇心を刺激されただけのこと。
必ずしも従う必要はないことをしっかりわかっていただかないと。
主導権はわたくし。これだけは譲れませんわ。
まぁ、あのシャルテとかいう胸糞教師にざまぁするため最善のタイミングであるのも嘘ではありませんが。
それはそれ。これはこれ。
上下関係は最初にしっかりとしておくべきですわ。
………。
………。
しばらく沈黙が続く。
「わかりました、すぐに持って来ます」
そして先に折れたのは伯爵です。まぁ当然。
わたくしを調べたのならわかっているはずですわ。
わたくしはわりと目の前の不快を優先して平気で前言を撤回する。
気分屋の中の気分屋。
気分のアップダウンの激しさでわたくしの横にでるものはいませんわ。
それを考慮にいれれば、従わざるを得ないでしょう。
「わたくしの事を綿密に調べたのがあだになりましたわね。伯爵様?」
厭味ったらしく言ってあげると、伯爵が一瞬目を見開いて――
「なるほど、先ほどの発言でご機嫌を損ねてしまわれたわけですか。以後気を付けます」
そう言って読んでいた新聞を置いて立ち上がった。
「この非礼は後日何かで埋め合わせいたしましょう」
伯爵の言葉に私はにんまりする。
彼が立ち上がったその時、私は彼の腕をつかんだ。
一瞬伯爵がびっくりして振り返る。
「そう言っていただけると思いましたわ。非礼はいま一緒に償っていただけると嬉しいですわ」
と、にっこり微笑んだ。




