4話 わたくし試されるのが嫌いです♡
「お初にお目にかかります、ディルトリィナ伯爵様。お会いできて大変光栄ですわ」
城をあとにし伯爵の豪華な馬車に入るなり、私がお前なんてしらねーよ、という意味を込めて皮肉たっぷりにほほ笑むと、ディルトリィナ伯爵が少しシニカルな笑みをうかべます。
「貴方ならきっと、私の意図をくみ取って乗ってくれると思いましたので」
伯爵はこちらの嫌味攻撃をかわし、お前のことはよく知ってるぞというカウンターパンチを繰り出してきます。
「あら、まるで私を知っているかの口ぶりですわ。このような辺境王国の一令嬢がまさか伯爵様に認識していただけたなんて光栄です」
扇子で口元を隠し、視線を向けた。
ガチでわかんねーですわ。何が狙いです?こいつ?
思惑がわからない相手が一番厄介でやりにくいですわ。
「おや、そうでしょうか?あなたの噂は帝国にまで届いています。まぁいろいろと」
彼が私を見つめて言います。
そりゃ嫌がらせしまくってますからね。心当たりはありますが。
「それを知っていて、あのようなふるまいを?
パートナーと誤解されてもおかしくありませんよ」
私がきくと、
「そうですね――。これをお渡しすれば通じますでしょうか」
と、彼の出してきたのは一冊の本。
表紙には豪華客船のイラストが描かれています。
その本を私は受け取りました。
これは私が婚約破棄後、家から追い出されても暮らしていけるようにと、匿名で始めた副業。
思い出した日本人の知識を駆使して、書いた推理小説を出版社に売り込んだものです。
すでに何冊か出して人気作家になり、いまから意気揚々と移住するつもりでしたが――問題はこの本はまだ出版されておらず、世の中には出回っていないことです。
私の本名は出版社の編集ですら知りませんでした。
彼が私の正体を知っているということは、かなり調べ上げたということでしょう。
「なるほど。私目当てにこの地に来た――それはわかりました。で、なぜ私だったのです?」
「今帝国には 皇子が三人いるのはご存じですよね?」
「当たり前ですわ。皇位継承で争っていると噂ですもの」
「いま、第三皇子の専属メイドを探しています」
「それが今回の行動とどんな関係が?」
「第三皇子はとても微妙な立場にあります。
第二皇子と第一皇子の近しい者たち両方から嫌がらせをされるため、人が定着しません。
そしてなにより――命を狙われていて、誰も専属メイドになりたがりません」
その言葉に私は察する。
なるほど度胸があるか見られたというわけですね。
気に入らねーですわ。
「貴方はあのイレギュラーな状況で、私の手をとり、敵対する者に精神的ダメージを与えることを選びました。それでいて「光栄です」と答え承認したかとも取れる、曖昧な返事をして逃げ道は確保していた」
「なるほど。機転がきくか試したということですの?」
「はい。端的に言えばそうなります。あなたの判断能力としたたかさはとても魅力的です」
「あら。光栄ですね
ですが――選択を間違いましたわね?」
そう言ってゆっくりと息を吸った。
足を組んで彼の前で、唇の端を上げてほほ笑むと
「わたくし試されるという行為が一番嫌いですわ」
彼の瞳をまっすぐと見据えた。
普通の人間ならば大体これで目をそらすのだけれど――
「はい。ですが――それ以上に知的探求心が勝るタイプでもある。そうではありませんか?」
見つめ返してくる。
「何がいいたいのかしら?」
私の言葉に――彼は一枚の帝国の新聞を私に差し出した。
その記事を読んで私は目を細める。それを確認した彼は
「必ずあなたなら引き受けてくださると信じています」
――と、目を細めた。




