3話 それでは皆さんごきげんよぉぉぉぉですわぁぁぁ!!
「さぁ、まずはそのメイドから取り調べ室に連れて行きなさい!」
舞踏会会場に響く大公妃殿下の声。
そして衛兵たちが偽証したメイドを連行する光景を、真っ青になりながら見送るデント王子とクラリス。
わたくしはその様子を見ながら心の中で高笑いが止まりません。
――そう。いままでのすべての出来事が、このわたくし、アメリア・ファル・ディトリミレーデの計画通りなのですから。
わたくしが前世である日本人の記憶を思い出したのは元気にメイドをいびっていた数年前。
それは突然頭にひらめきましたわ。
この世界はWeb小説のよくある悪役令嬢ものであると。
わたくしはこのままでは断罪され、死に戻りして体を乗っ取られる運命。
このままだとわたくしは処刑まっしぐらなのです。
――ふふ。
危機を知ったわたくしは決意いたしましたの。
さらに悪行を重ねてやろうと!!!
だって記憶を思い出したときには悪行に悪行を重ねていてすでに修復不可能。
焼け石に水。ならば現状からできる逆転を考えるべき。
木を隠すなら森の中!!!
わたくしは毎日嫌がらせをして、常に悪評が飛び交うように計算しました。
そのおかげでわたくしが屋敷を抜け出して嫌がらせしても、「いつ・どこで・だれが・嫌がらせをされたか」なんて誰も確認しなくなっていたのです。
そう、今回、クラリスたちが私のアリバイを確認しなかったように。
すべては計算通り。
わたくし天才!優秀!悪役令嬢の鏡!
自分の知能指数の高さに脱帽ですわ。
自分の才能が恐ろしい。
ああ、笑いが止まりません。
今日この日のために趣味と実益を兼ねて嫌がらせをしてきた悪行……もとい努力の数々がいまこの場で実ったのですから。
クラリスと馬鹿王子がもめている中、偽証罪で連れていかれるメイド。
その二人を、冷ややかな目で見つめる貴族達。
久々に自分の出番だと張り切る正義厨の大公妃。。
その光景を見ながらわたくしは――
「それではお騒がせいたしました。皆々様。
今までご迷惑をおかけしたことを心より謝罪いたしますわ」
優雅にドレスの両端をつまみ、大公妃殿下に視線を向ける。
「そしてわたくしがご迷惑をおかけしていたにも関わらず、公正な判断と聡明な裁きをくだされた、大公妃殿下。自らの感情とは別に国全体の利益と、貴族たちを心から思うその裁きに、このアメリア、感服いたしました」
わたくしの言葉に大公妃の顔がわずかに紅潮する。
ええ、そうでしょうとも。この方は自らの美貌を褒められるよりこういうお世辞が好きですから。
「自らの非を詫び、デント王子との婚約解消を受け入れ、他国へと旅立つことにいたしますわ」
「アメリア、気持ちは受け入れましょう。ですがそこまでする必要もないでしょう。令嬢が一人で国外に出るなどできません」
「そのご心配には及びません、他国で暮らすすべも渡航許可証も用意しております」
「……アメリア。まさかこうなることがわかっていていままであんなことを?」
大公妃が半分あっているが、たぶん少し勘違いしている推理を口にする。
彼女の中ではわたくしは妹から身を守るために、わざと悪役を演じたかわいそうな少女ということになっているのでしょう。
あっまーーーーっ!!!
めちゃくちゃちょろいですわ。激甘ですわ。
笑いをこらえるの、マジで大変なのですけれど。
「何のことでしょう? それでは皆様ごきげんよう」
少し涙目になりながら、私は踵をかえしました。
これ以上顔を見ていたら吹き出してしまいそうですもの。
「そういえばアメリア嬢は家族の中でも一人だけ相手にしてもらえなかったとか」
「両親が妹ひいきだったのはよく言われていましたわね」
私の涙目に勘違いした貴族たちが、今になって私に同情しはじめます。
……。
………。
全員ちょっろっ!!!!
背後にクラリスと馬鹿王子の悪口。そして私への同情を口にする貴族たちのヒソヒソになっていないヒソヒソ話を聞きながら会場を後にしようとしたその瞬間。
わたくしの目の前に隙のない立ち姿の見目麗しい、茶髪の中年男性が立ちふさがります。
着こなしのいい軍服を着て、胸にはじゃらじゃらと勲章をつけているいかにも身分が高そうな男性。
立ち止まるわたくし。
進路をふさいでるにも関わらず動く気配のない茶髪男。
しばし流れる沈黙。
「おい、あれ誰だ?」
「帝国の勲章をつけていますから、かなり位の高いお方にちがいありませんわ」
「なんで帝国の貴族がこんな弱小王国に?」
後ろの貴族たちが、彼の姿を見てざわめきだしました。
私も道をふさぐ彼をじっと見つめます。
「て、帝国のディルトリィナ伯爵様ではありませんか!?な、なぜこのような辺境国に?」
大公妃が慌てて、彼にかしこまりました。
「はい。お迎えにあがりました」
と、ディルトリィナ伯爵が私に視線を合わせます。
彼の緑色の鋭い眼光が私を見据え――
一歩、また一歩と距離を詰めてきて――
その場で――彼は跪いた。
帝国の伯爵が小国の令嬢に跪くというありえない状況に会場が凍る。
「婚約破棄、おめでとうございます。アメリア・ファル・ディトリミレーデ様。以前約束した通り、お迎えにあがりました。=ファルタリーナ=」
と、ディルトリィナ伯爵は私の手をとり、そっと手の甲にキスを落としました。
ざわわわぁぁぁぁぁぁ!!!
会場が一気に驚きに包まれます。
国王陛下は口をパクパクさせ、クラリスはわなわなと扇子を震わせ、デント王子も一歩たじろいで「そんな馬鹿な!」と聞こえるほどの声でわめいております。
大公妃もさすがに予想外の展開にぐうの音も出ていません。
「お、お姉さまが帝国の伯爵さまのお眼鏡にかなうなんて思えないのですが……」
震えた声で言うクラリス。顔にはいつもの仮面は剥がれ、はっきりと嫉妬の色が見て取れます。
そりゃそうですわ。
帝国ですよ、帝国の伯爵。
ある意味こんな弱小国の王族より地位と名誉は数段上ですわ。
馬鹿王子を奪いとったと思ったら、さらに最上位が出てきた感じですわね。
そりゃ悔しいでしょう?
この場にいる誰もがうらやむほどのシンデレラストーリーです。
そう、この展開こそ、私が計算していたクラリスと貴族たちをざまァするために仕組んだ計画―――
じゃねーですわ。
なんですの、この展開は。わたくしも知りません。
予定の『よ』の字にもありませんでしたわ。
普通なら、詐欺ですわぁぁぁ!!と叫ぶところですが、私はにっこり伯爵に微笑み返しました。
「光栄ですわ」
と、差し出された彼の手をとります。
ちらりと後ろを見ると、笑顔の仮面をかぶれないほど明らかに嫉妬に狂ったクラリスと、なにやらこんなはずじゃなかったとつぶやく王子。
もう、最高ぅぅぅぅぅ♡
極上のざまぁではありませんか!!
ゾクゾク走る背筋の快楽に私は思考をストップします。
怪しい?そんなこと些細なことではありませんか。
そう、嫌いな相手にマウントをとるためなら火中の栗を喜んで拾う女。
その場のドーパミンのためならのちの苦労などしったこっちゃないです。
大事なのは今この時、この瞬間!!!
「おーほっほっほそれでは皆様ごきげんようでございますわぁぁぁぁぁぁ!!」
皆の羨望の視線と、クラリスが歯をくいしばって涙目になってる姿を背に私は伯爵にエスコートされながら、わたくしは颯爽と会場を後にするのでした。




