17話 貴方達の企みなど、とっくにお見通しでしたわぁぁぁぁぁぁぁぁ
「し、真犯人?」
しばしの沈黙の後――やっと ウィルがアメリアの言葉に反応する。
その場にいた視線がアメリアに集まった。
「どういうことですか?」
マークが視線をアメリアに向けて問う。
「あら、意味がわからないというのでしたら、何度でも申し上げますわ。
ここまでが犯人の書いた筋書通りなのですわ」
そう言って第二皇子を捕らえてた兵士の手をおろせといわんばかりに掴む。
「どういうことでしょうか?自分の推理を否定するおつもりで?」
「お戯れを。そう推理するように仕向けたのはあなた方ですわよね?」
アメリアは第二皇子を解放したのを確認すると、その視線をマークに向けた。
「どういうことだい?」
第一皇子がきくとアメリアはに不機嫌そうに眼を細めた。
「白々しいにもほどがありますわ。
私をわざわざ他国にまで出向いて雇い入れたのは、すべてこの日のこのため。
お二人で仕組んだことなのでしょう?」
アメリアが第一皇子をジト目で睨む。
「ちょっと待てよ、話が見えない。
なんでマークと兄上が仕組んだことになるんだ?」
ウィルが問うと、アメリアはつかつかとマークの方に歩み寄りながら
「もちろん、この推理をさせるために決まってるではありませんか。
真犯人は今この場で事件を解く推理のコマが必要だっただけのこと。
それにわたくしを選んだ。ガチ気に食わねーですわ」
「ちょっと待ってください!
まるで犯人が別にいるかのようなセリフですが第二皇子が魔道具をもっていたじゃないですか」
第一皇子付の兵士が第二皇子を睨みながら言う。
「そこが犯人の狡猾なところですわ。
途中までの推理はあっていますの」
そう言ってアメリアはマークを睨みながら腕を組んでその場で止まる。
「第二皇子の言葉に嘘はございませんわ。エンブレムを入れ替えて、罠が作動する魔道具を回収した。そこまでは間違いありませんわね?」
第二皇子に問うと、第二皇子がこくこくとうなずく。
「問題はその先――誤ってボタンを押して作動してしまった。
これがフェイク推理。犯人がそう推理してくれたら嬉しいなというのを言ってあげただけのこと」
「君は何を言っているのかわかっているのかい?
誤作動でないなら……」
第一皇子が突っ込むと、アメリアはくるりと振り返った。
「だから言っているじゃありませんか。真犯人がいると」
「そもそも帝国の伯爵が辺境の国の令嬢をわざわざスカウトにきた。
ここからもうおかしいと思いませんこと?」
「第三皇子につける優秀な人材を探していただけです。何もおかしいところはないはずですが」
アメリアの後ろからマークが突っ込む。
「それくらいの人材なら帝国にはたくさんいますわ。
それこそ金を積めばすぐに集まった。
なんでわざわざ辺境の小国に?」
「………」
後ろにいるマークをアメリアがジト目で睨むとマークは黙る。
一歩一歩、歩み出て
「答えは簡単」
「--貴方が必要だったのは、この事件を推理できるレベルの優秀な人材が必要だった。
犯人を第二皇子にするためには、事件を今この場で解決する必要がありましたもの」
「なんだと?」
「さて、よく考えてみてください。わたくしがここで推理しなかったらこの件はどうなっていましたか?」
「それは……」
ウィルが息をのんだ。
「本土に戻って現場検証され、第二王妃派の邪魔が入らない状態でしたら、シャンデリアも綿密に調べられ、入れ替えも暴かれていたでしょう。
……ですが」
そう言ってマークが視線を第二皇子に向ける。
「そう、本土に戻り現場検証をしてシャンデリアトリックを暴いたとしたとしても、犯人は第二王妃止まり、証拠がなければゲオルグ皇子まで調査の手がおよぶのは難しかったでしょうね。
第二皇子を皇帝に祭り上げようとする勢力が必死に抵抗しますし、実際彼は設置などには反対でかかわっていないのですから。
私が今この時推理して解いたことによって、リモコンをもっていた第二皇子を犯人にできた」
「……つまり、推理する人がいて一番得をするのは……」
ウィルの言葉に、――視線が集まる。
「貴様不敬だぞ!!」
第一皇子の護衛がアメリアに吠えた。
――アメリアの言う通りなら、容疑者は第一皇子だ。
「いや、いい」
と、手をあげて制止した。
「なかなか面白い推理だけど、それは単なる君の憶測」
第一皇子はアメリアにやれやれとため息をついた。
「そういう可能性もあるというだけで、必ずそうとは言えない」
いちゃもんをつけられて困ったとでもいう態度の皇子。
――確かに、単なるいちゃもんでは?
と、場の空気が流されそうになる――が。
アメリアはふふっと笑う。
「ええ、そこがあなたの狡猾なところであり、憎たらしいところですわ。
シャンデリアを仕掛けたのは第二王妃、エンブレムを変えたのは第二皇子。
あなたは何一つかかわっていない。
つまり、貴方だと示す証拠が何一つない」
「その通りだ。
そうだったら面白いというだけの君の推理であって、事実ではないんだよ。
今なら謝ればなかったことにしてあげるけれど、どうする?」
「なかったことにする?
ちゃんちゃら笑わせてくれますわね。
わたくし勝ち目のない戦いは、相手をぶん殴って逃げられる時しかやりませんのよ」
「逃げられる時はやるのかよ!?」
にまぁと笑うアメリアにすかさずウィルが突っ込む。
「つまり、何か証拠があると?」
マークの問いにアメリアはふっと目を細めた。
「そう、第二皇子はリモコンのスイッチを押してないのは本当ですわ。
そもそもあのタイプの魔道具では部屋の外からスイッチを押したくらいでは、魔力が送れなくて、作動しませんわ」
そう言って、シャンデリアのガラスを手に取った。
「となると、なぜシャンデリアトラップは作動したか――」
「そうか!もう一つ、魔道具が存在するんだ!」
ウィルが言うと、アメリアが頷いた。
「その通りですわ。
そして、事件が起きた瞬間、マーク伯爵が通路を封鎖し、皆この場に集まったことを考えれば――」
「つまり―――
作動させたリモコンもまだ所持しているというわけですね」
マークの言葉で、室内が沈黙に包まれ――視線が第一皇子にあつまる。
誰もが第一皇子が慌てるかと、見守っていたが。
予想を裏切り、第一皇子は嬉しそうににっこり笑った。
「なかなか面白い推理だ。
だったら手荷物検査でもしてみるかい?
やってみるといい、僕は抵抗しないよ」
そう言って手を広げた。
「むしろそのほうがありがたいね。
ここで無実だと証明できるのだから」
と、あっけらかんと言う。
あまりの自信に、ウィルが慌てて大丈夫かとアメリアを見た。
(どうする気だ!?ここまでやったら間違いでしたじゃすまないぞ!?)
心配になって、手でやめろと合図を送るが
「ええ、貴方はとても狡猾ですわ」
その制止をアメリアは笑ってスルーした。
緊張が走る。
もし事実なら――一大スキャンダルで、例え第一皇子といえどもその罪は不問にできない。
が、もしその推理が間違っていたらアメリアもただではすまない。
おそらく投獄。
最悪――死刑もありえる。
緊張の走る中。
「無実?ありえませんわね」
その心配をまるで振り払うかのように、アメリアはつかつかとあゆみ出した。
「とても優秀な皇子様ですから、もちろん策は弄していますわ」
「どういう意味かな?」
真正面で歩みを止めたアメリアに第一皇子がにこりと笑って牽制する。
が、
「どうせリモコンとわかる形をしていないでしょう?」
アメリアもにっこり笑って、かえした。
その言葉に――第一皇子の眉がピクリと動く。
「図星みたいですわね。
そもそもおかしかったのですわ」
「おかしかった?」
アメリアのつぶやきにマークが問う。
「ええ、第一皇子ほど優秀な皇子様なら、ウィルにガラスを渡した時、自分でその重さを確かめようとなさるはず」
言われて、ウィルは思い出す。
確かにアメリアにガラスをもらった時、第一皇子はすぐ後ろにいたのにガラスをとろうとしなかった。
「それは――なぜか。
簡単な事ですわ。室内からでも遠隔操作できる強力なものを所持しているため、近づいたら反応してしまう可能性がある」
アメリアがガラスを手に持ちながら第一皇子を見つめた。
一瞬の沈黙。
そして――
「何が言いたいのか……」
と、第一皇子が言いかけたその時。
「言い訳とか知りませんわぁぁぁぁ!!!
問答無用で証拠でてこいですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アメリアは容赦なく手に持っていたガラスを魔力で粉々に砕いて――投げつけた。
粉が宙を舞う。
一瞬何がおきたのかわからなくて時間がスローモーションに感じる。
そして――粉は煌めいた。
第一皇子の周りに舞った粉が光輝いたのだ。
その瞬間。誰もがアメリアが何をやりたかったのか理解する。
服にまとわりついた粉が胸ポケットで煌めき、そこに何があるのか。
はっきりと分かった。
「胸ポケットーー魔道具を隠しておいでですね。皇太子殿下」
マークの声が、無慈悲に犯人を確定した。
そう、床に散った粉が無反応。そして皇子の服についた粉だけは青く光り、ポケット付近の粉はその魔道具の形をはっきりとかたどっている。
「そんな、まさか皇太子殿下が……?」
兵士の一人が信じられないと視線を向けると――、第一皇子はふふっと笑いうつむいた。
そして、
「負けたよ」
と、項垂れる。
「それでは犯行を認めるのですね。皇太子殿下」
マークが問うと、第一皇子ははかなげにほほ笑むと
「ああ、僕がやった」
と、手で顔を覆う。
「なんでこんなことを」
「もちろん君を守るためさ――ウィル」
***
―――そう。
彼女らは勝ったつもりだったろう。
第一皇子は心の中で笑う。
まったくもって滑稽だ。彼女は僕を甘く見すぎていた。
マークが父の指示のもと動いている可能性はもちろん視野にいれていた。
だから逃げ道はちゃんと用意してある。
ウィルを守るためにやむなくやったこと――。
そう主張してしまえば、すでに第二王妃が死んだ後ならだれも僕に逆らえない。
第二王妃の後ろ盾がなくなった第二皇子では、ついていくのを躊躇する有力者が多いだろう。
何より、もともとウィルを殺す予定をたてていたのは第二王妃だ。
下手につつけば、第二王妃派では自分たちも疑惑の中に入ってしまう可能性もある。
潔白を証明するため、第一皇子をかばうしかないだろう。
現状、僕に――逆らえる勢力がない。
つまり、いくら事実を暴こうが、罪に問えるものがいない。
新聞社に入れてあるスパイに、指示し、記事を書かせればお涙頂戴になるだろう。
辛辣な第二王妃から守った美談として、広めてしまえば、マイナスどころかプラスになる。
(多少頭が切れるから僕のことを甘く見ていたのだろうが――。
そうなることも想定済みだったんだよ。アメリア嬢?
逆らったからにはきっちりと罪を問わないといけな――)
第一皇子が心の中で勝利を確信し視線を上げた。
逆らった者には容赦しない。
それが第一皇子の主義だ。
さぞかし悔しがっているだろうと、その顔を見つめれば――。
ぞくり。
そこにあったのは動揺ではなく――狂喜とも呼べる笑み。
何だ!?
まさか策があったのか
「『この僕に逆らったことを後悔させてやる』――くらいは思っていたのでしょう?」
皇子の心を代弁するかのように、アメリアが告げる。
「何を言って」
「ええ、貴方はとっても優秀ですわ。
この悲劇もきっと第二王妃から守った美談にかえて、自分の勢力を盤石にするつもりだったのでしょう?」
そう言って、頭を下げると――
「が、気にくわねぇですわ!」
上目づかいで思いっきりにらんでくる。
「ア、アメリア」
ウィルが制止するがアメリアは聞きはしない。
「人の小説のネタで人殺しをして作品を汚した上に、わたくしの推理力を利用する気満々でマーク伯爵を使って呼び寄せた。そのくせ、用なしになったらポイ捨て予定だった。万死に値しますわ」
「何のことを言ってるのかわからないな。それをどうやって証明するんだい?」
第一皇子はにっこり笑う。
――そう、彼女の推理は正しい。
正しい――が、だからどうしたというのだ?
どんなに正しいことを主張してもそれを裁くものがいなければ罪に問えない。
そしてアメリアは弱小国の貴族令嬢。
第一皇子を裁ける立場にない。
真実を主張したところで、それを周りが認めなければそれは真実ではなくなるのだ。
(おとなしく手ごまに収まっていてくれたら、厚遇してあげたのに。
馬鹿な女だ――)
第一皇子がアメリアを見つめると、その心を読んだかのように、アメリアが扇子をふぁさぁぁと広げ、
「証明する必要なんてございませんわ」
(――え?)
「殺人未遂でしょっぴくに決まっていますわあぁぁぁぁぁ!!!」
と、扇子を広げおーほっほっほと高笑いを浮かべた。
(――だから、捜査されたところで、裁くものが僕の手先なのだから、状況は変わらな――)
そこまで思って、第一皇子は眉をひそめた。
今なんと言った?
思わずアメリアの顔を見る。
そう彼女ははっきりといった 殺人未遂 ――と。
まさか。
まさか、まさか、まさか。
そんなことがあるはずが!!!!
ぎぎぎぎと、第一皇子が倒れている第二王妃に向ける。
――そこには。
マークに手を取られ立ち上がる第二王妃の姿があった。
「わたくしが気づかないと思いまして?
貴方達の企みなど、とっくにお見通しでしたわ♡」




